〜経営者の役割〜

第10回 組織の成長と組織文化

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「行ってみたいところがある。それはぬくもりと安らぎ。そして、夢のある場所。」
第10話 「ダメ女の恋」
(1) あらすじ

? 倫子の女将ぶりが板につき、客から誉められるようになった。そんな倫子を見ているなぎさは、倫子に取り残されたような気がする。倫子は友人のなぎさが千葉に恋していることを気づき、その恋を成就させようとして、社員旅行を提案する。幹事をなぎさと千葉に任せ、2人の仲を進展させようというのだ。
? しかし、千葉には別の人が好きだという。倫子の鈍感ぶりに業を煮やした千葉は思わず倫子に「好きだ」と告白する。それを見ていたなぎさは花壱を飛び出してしまう・・・
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(2) ドラマのポイント
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?a 倫子へ劣等感を抱くなぎさの心理を分析しよう?

コンパニオンモデルをしていた時代から、男に関しては倫子がおいしいところを取っていたため、なぎさは倫子に対して劣等感を持っていたのではないかと考える。しかし、なぎさも他の友人の女の子よりはもてていたので、その劣等感を解消することができた。しかし、花壱へやってきて、倫子もなぎさも旅館に関して素人という同じスタートラインに立ったものの、倫子は立派な女将で、自分はみなからも仕事ができない仲居見習い。劣等感は深まる一方である。その劣等感を解消しようにも、優越感を感じられるような他の女の子もいないし、男の子と遊んで紛らわすことができない。そのため、彼女の心の中は閉塞的になっているのであろう。

?b 小さな組織で恋愛関係が生じると、組織へどのような影響を与えるだろうか?

2人の恋愛がうまく行っているときは、職場でいちゃいちゃしているというやっかみの声が出てくる。また、2人の恋愛がうまくいかなくなったとき、2人の関係悪化が周囲に悪い雰囲気を与えてしまう。職場の男女を社内結婚させて、男性社員の会社忠誠心や仕事への動機づけを高めようとしていた企業もかっては多かったが、今は個人のプライバシーへ立ち入らないという会社の方針転換や、セクハラ問題の温床になりかねないこともあって、社内恋愛を会社はあまり奨励していない。
?c なぜ、なぎさは花壱へ戻ってきたのか?

なぎさは以前から東京へ帰ろう、帰ろう、と言ってきたが、実際に東京へ帰ってきて、かって感じた楽しさが感じられない。忙しくて、退屈だったけれど、暖かい仲間と一緒に楽しく働いていた花壱の良さを、東京で思い返していたのだろう。なぎさの心が揺れていたときに、倫子と千葉がやって来て、なぎさが花壱にとってなくてはならないメンバーであることを説得し、彼女が感じていた花壱での孤立感も解消し、花壱へ戻る気になった。特に好きだった千葉が来たのは、彼女の気持ちを動かしたと思われる。
?d なぎさは花壱にとってどういう存在なのか?

なぎさは対した仕事をしていないように見えるが、花壱のメンバーの潤滑油的存在を果たしている。また、友人ということで、倫子の心の支えにもなってきた。経営的に厳しいが、こうしたメンバーは組織の雰囲気を良くするから、1人は欲しいものである。

?e なぎさのような気持ちを抱かせないようにするため、女将としてどのような配慮が必要か?
動機づけ理論でいうと、なぎさは衛生要因が満たされていたが、尊厳欲求という動機づけ要因が十分満たされておらず、また、千葉との関係という社会的欲求も満たされず、それが彼女の孤立感を深めることになっていた。そこで、千葉との人間関係に着目した倫子の考えは悪くはないが、恋愛はきわめてプライベートなことなのでおせっかいになりやすい。それよりもいろいろな従業員との人間関係を良くする方向で考えることが重要である。千葉との恋愛を成就するために社内旅行を企画し、なぎさを幹事にするのではなく、花壱の従業員の交流を媒介としてなぎさを幹事に起用してあげる。それによって、彼女の孤立感は多少は解消する。また、尊厳欲求は、仕事でミスが多いなぎさでは、なかなか難しい。そこで、仲居以外の仕事、例えば、今回の幹事役でいい仕事をさせてあげる。そして、それをみんなに認めてもらうように、倫子がなぎさを旅行が終わった時点でみんなで誉めることで、彼女の尊厳欲求を満たすなどが良いであろう。旅館本来の仕事では、彼女の能力や性格を考え、仲居以外の仕事に挑戦させ、自己実現欲求を刺激してあげるのも良いであろう。
2. 組織の成長と危機
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??1) 組織のライフサイクル論

?a事業・製品のライフサイクル

製品や事業に寿命(ライフサイクル)があり、単一や少数の製品や事業に依存した組織は、それらの寿命が尽きると、組織の寿命も尽きてしまう。

?b組織メンバーの成熟と入れ替わり
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組織のメンバーが入れ替わらないとメンバーの年齢が高くなり、成熟する。新メンバーを入れないと、メンバーの年齢進行と共に組織も成熟し、停滞する懸念が出てくる。

2) スタートアップ期
?成長・・・事業創造による成長。倫子が女将になったことで第二の事業創造の時期へ入ったと考えられる。
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危機・・・外的脆弱性、組織の統合。具体的には顧客の獲得がスタートアップ期の問題になる。また、創業リーダーとその仲間でやっている間は良いが、新しいメンバーが参加したとき、組織統合の問題がでて来る。
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3) 成長期
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成長・・・組織目標の明確化。花壱でも倫子が新たな花壱のビジョンを描き出し、変革を進め、成果をあげている。
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危機・・・急激な成長にともなって経営資源調達がついていかれず不足状態になる。また、経営資源を統合するシステムが不在だったり、メンバーの中で成長する人と成長しない人がでてきてしまい、組織の成長と不適合になる人の意欲低下や足手まといの問題が生じる。今回のなぎさの成長が、花壱の他メンバーの成長に追いつかず、意欲が低下している状態である。
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4) 安定期
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成長・・・成長期の混乱から新たな制度や手続きを導入、組織化することで成長する
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危機・・・手続きや文章化といった官僚化が進み、組織硬直の危機が生じる。また、組織の分化が起こり、組織の再統合の必要性を生じさせる
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5) 成熟期
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成長・・・チームワーク、ルーティン化
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危機・・・組織の慣性による新しい革新がおきにくく、組織の陳腐化が生じる。革新への動機づけを行い、組織革新を行うか、環境に適応することで組織を維持するか、陳腐化から衰退してしまうか。新たな組織のライフサイクルの軌道へ乗せられるかどうかが一番の課題になる。



3. 組織の成長機会と危機
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??1)成長機会

?a市場の創造

新しい製品や事業を生み出すことで組織は成長できる。
?b経営資源の有効活用

経営資源に余剰が生まれ、その余剰の有効活用が、組織の新たな成長を生み出す。

?c組織メンバーの成長
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組織メンバーが成長し、個人の成長が組織の底上げにつながり、組織も成長していく。

2)危機

?a外部環境からの圧力・・・外部環境との競争や情報の流入が組織の生存領域の縮小や、組織内部の変質による統合困難をもたらし、それが組織へ危機をもたらす。後の話で出てくるが、神崎開発の再開発という圧力が花壱を閉館させることになった。
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外部環境への不適応・・・不景気という環境変化によって旅館業界自体が不況になり、加えて花壱の経営努力が不足していたことから修善寺の旅館の中における競争で、閑古鳥が鳴く旅館になってしまった。
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c組織の経営資源の統制困難・・・いろいろな経営資源が組織が取り込み、それを統合できず、危機を招く。倫子は他の高級旅館をまねて失敗した例はこれにあたる。


d組織メンバーの不適応・・・組織メンバーが環境変化や組織の成長に追いつけず、意欲を失って組織を離れたりする危機がある。なぎさが花壱から去った事例がこれにあたる。
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3)危機を乗り越える

?a危機の予測・・・事前に危機を予測し、危機への対応準備をしておく。
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新しい環境に適合する新しい経営手法の導入・・・経営戦略を修正したり、組織構造やシステムを改革する。
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c危機に強い組織文化の創造・・・組織の価値観が危機に冷静に対応し、変化を恐れないようなものであれば、危機に対して迅速に対応し、変革していく方向に進んでいく。
4. 組織の陳腐化と革新
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?1) 組織陳腐化
?a組織の産み出している価値の陳腐化
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組織の経営資源や組織文化の陳腐化
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c経営手法の陳腐化
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2) 失敗の理由
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a成功からの油断と過信・・・過去の環境が異なる時期の成功が、今でも通用するだろうという油断と過信が失敗や陳腐化を生む。
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b過剰適応・・・環境にきめ細かく適応とすることで、結果として組織が環境に翻弄され、だめになってしまう。例えば、第5話の調査員に対する従業員の対応は過剰適応による失敗事例である。
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c成功が革新の種を摘むジレンマ・・・成功体験が、その成功体験をベースにしてしか考えられないようして、結果として革新と呼べる新規性のある創造ができなくなる。
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dライバルの追い上げ・・・組織が環境適応を努力しても、他のライバルがそれ以上の成果を出せば、競争に敗れ失敗する。
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3) 組織を再生する4R
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Reframing・・・使命、目標、理念を環境に合わせて再設定する。花壱のサービスの理念を、ボン・ボヤージュの調査の事件やカルパッチョの来訪の件を通じて、倫子が高邑の理念をベースに彼女なりに考えて創りあげていった。

?Restructuring・・・組織構造や制度を改革し、柔軟に、スピーディーに行動できる体制にする。花壱では大きなリストラクチャリングをしておらず、従業員の意識改革だけで改革を進めてきた。

?Revitalization・・・新しい成長軌道に乗せる。より良い旅館になりつつある花壱が、新たな顧客を獲得し、修善寺の中で独自の競争ポジションを得ていく。

?Renewal・・・社員1人1人新しい理念と目標を浸透させ、新しいスキルを身につけさせる。花壱の従業員は新しい理念や目標を意識して仕事をするようになっている。今後は、それに見合った高度な職務能力(スキル)を身につけさせることを女将はしなくてはならない。