〜経営者の役割〜

第9回 ホスピタリティマネジメントと組織

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「行ってみたいところがある。それはぬくもりと安らぎ。そして、夢のある場所。」
第9話 「恋愛トンマな女」
(1) あらすじ

?少しずつお客が増えてきた花壱に、ある日、イタリア語で電話がかかってきた。イタリアの高級ホテル・グループのカルパッチョ社長が花壱へ宿泊しに来る。勅使河原のかってのアトランティックホテル時代の同僚である室井が、提携交渉のためにカルパッチョに同行してくる。
?アトランティックホテルは勅使河原の企画したネットワーク・プロジェクトを、カルパッチョ・グループと提携して行おうとしているのである。勅使河原はかっての仕事のペースに戻り、カルパッチョがイメージする日本を演出し、自分の企画したプランが成功するように室井を支援をする。ところがカルパッチョののりが悪く、交渉はスムーズに進まない。倫子は篠田から「女将なら客に気を配れ」と言われ、考えた倫子は・・・
(2) ドラマのポイント
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?a ホテル業界の提携(アライアンス戦略)とは何?

提携とは複数の企業が経営資源、経営統治で協力し合うことである。勅使河原が考えた「ネットワーク・プロジェクト」は、カルパッチョ・グループとアトランティック・ホテルが互いに出資しあう資本提携、予約コールセンターの一本化、食材等の共同購入、アメニティグッズ(石鹸やタオル等)の統一などである。それ以外に行われている現実の提携としては、ホテルブランドの共有、人材の相互交流、顧客情報の共有などが行われている。

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 なぜ、勅使河原は室井の商談に熱心なのか?「これは私のプロジェクトなの」とはりきる勅使河原をどう思うか?

勅使河原が考えたプロジェクト計画で、時期尚早として見送られたものである。これを成功させることは彼女の考えが正しいことを証明することになる。解雇されたアトランティック・ホテルを見返し、これを手土産にホテル業界へ復帰する目論見から、自分の考えた計画を実現させたいと意気込んでいるのである。

c 勅使河原のカルパッチョのもてなし方は適切であるか?

カルパッチョの気持ちを考えずに、勅使河原の視点によるサービス提供で、不適切である。これはもてなしとは言えない。真のもてなしとは、顧客を楽しませ、寛がせ、安楽にさせることである。そのため、相手のニーズを的確に把握して、もっともふさわしいサービスを提供しなくてはならない。倫子がロビーのソファで寝ていたカルパッチョを「私だったら起こされたくない」といい、そのまま寝かしておいた。相手の気持ちに立って、もてなしを考えることが重要であり、倫子はそれができたが、勅使河原は目の前の交渉成功という目的からできなかった。

d 倫子にアドバイスを受けた勅使河原が「素人は口を出さないで」と拒否したことをどう思うか?

優秀というプライドを持った人が陥りやすい罠。少しずつ倫子の女将としての手腕を認めていた勅使河原だったが、自分の利害に関わる状況で本音が出た。本当に優秀な人は他人の意見も聞き、真実を見つけ、柔軟に行動を変えていける人である。

e 和食にこだわっていた勅使河原はなぜイタリアの家庭料理をカルパッチョに出そうと篠田へ提案したのか?

勅使河原は、カルパッチョの様子から倫子の意見が正しいと判断し、カルパッチョを寛がせるためには何をすべきか、という原点に戻って考え直した。

f カルパッチョに誉められた勅使河原はなぜ旅館のみんなで考えたアイディアと言ったのか?

勅使河原の欠点、何でも自分一人で仕事をやり、その成果は自分一人で成し遂げた、という意識が強く、それが結果としてアトランティックホテルを解雇された原因になっていた。今回の一件で、彼女は組織のメンバーと協力し合って、それが成果を生み出すことに気がついたのであろう。実際に、今回のアイディアは倫子がヒントを与え、篠田と里子が創りあげた。倫子は勅使河原の気持ちを知っていたから、勅使河原の手柄にしようとしていたが、勅使河原も何でも一人でできる、という過ちに気がつき、みんなで考えたと答えたのであろう。

g 勅使河原が犯しそうになった間違えとは?

勅使河原は顧客をもてなすことより前に、交渉を成功させるという自分たちの目標を優先しようとし、自分一人で解決しようとして誤った回答を出そうとしていた。旅館のようなホスピタリティ・ビジネスは顧客を優先すべきであるし、また、組織なのだから互いに協力し合って顧客満足を高めることが重要である。

h 勅使河原は今回の一件でどう変わったか?

サービス業に携わる人材として、人間として、アトランティックホテルでの苦い経験に対して、心の決着をつけ、一回り成長したと思う。また、これまでつけていた鎧を脱いで、旅館のメンバーとも付き合えるだろう。また、旅館の従業員にしても、勅使河原の女としての側面を知り、親しみが沸いたのではないか。そのことから、勅使河原は花壱の本当の仲間になったといえる。

i 女将としての倫子はどう変わったか?

勅使河原のような優秀な人を、正しい方向に導く、リーダーとしての能力が高まってきている。

2. ホスピタリティマネジメントとは?
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?(1) hospitality(ホスピタリティ)

a 心をこめてもてなすこと・もてなす精神。歓待すること。もともとはhospital=病院が語源で、精神的に癒すためのもてなしの精神といえる。


サービス=基本サービス(あいさつやマナー)+職務サービス(その職務固有のサービス)+情報サービス(会話や情報提供)+ホスピタリティ

b ?サービス自体が価値を持つビジネスで重要で、人、施設、雰囲気などで顧客へサービスする。

c 人に喜んでもらいたい、癒してあげたいという気持ちが原点
で、ディテールにこだわった心遣いが重要である。

?(2) 顧客の視点によるもてなし

a 顧客ニーズとの適合・・・顧客が望むもてなしでないと、単なるサービス者側の思い込みによる押し付けになり、顧客の精神的負担や煩わしさになってしまう。そのため、顧客が何を望んでいるかを見極める高度なスキルが女将や仲居に求められる。カルパッチョは外人から見た日本的雰囲気を望んでいたのだろうか? 勅使河原はホスピタリティに関して、その本質がわかっていなかった。

b 顧客満足が評価基準・・・その結果は、顧客満足で図られる。サービス者側がどんなに努力をしても、顧客に評価されなければ意味がない。相手の気持ちになってサービスをできるかが重要である。

(3) ホスピタリティ・マネジメント

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ホスピタリティの教育・訓練・・・サービス業では顧客に直接に接する部門の従業員を中心に、教育をする。それは基本的な接客技術に加え、相手の心理を読み取る力、それを具体的なサービスとして提供できる力と言った高度な能力を教育するサービス業者もある。

b従業員のホスピタリティを持続的に引き出すリーダーシップ
・・・ホスピタリティの源泉の中心は人によるサービスである。それゆえに、サービスを提供する側の気分や体調によってサービスやホスピタリティにばらつきが出てくる。それを事前に読み、サポートするのが、サービスリーダーとしての女将である。例えば、仲居が気分的にいらいらしているときは、その原因を除去するか、もしくはその仲居をサービスの一線から外すなどのリーダーシップが必要。

?cホスピタリティをサービス化し顧客満足へつなげる・・・もてなし精神だけでは付加価値はない。それがサービスとして具体化され、顧客に提供されなくては、顧客満足にはつながらないであろう。そこで、ホスピタリティに基づくサービスの創造と商品化にも、リーダーである女将は取り組まなくてはならない。

?d顧客満足を組織の成果へつなげる・・・顧客満足の結果、例えば、口コミや高評価で客が増える、料金を高くする、従業員がやる気になるあど、組織の成果へ結びつける戦略も重要になる。

?(4) ホスピタリティ・マネジメントの目指すべき成果
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a 高い顧客満足と組織成果・・・
顧客満足は中位目標で、組織の高位目標は組織の繁栄や成長である。そのため、顧客満足を向上させることも、それを組織成果へつなげていくパターンを確立するのが経営者の重要な仕事。

b 高い従業員満足・・・
人に喜んでもらうことがうれしくない人はあまりいないだろう。顧客満足に対して支払う従業員の努力が大きくても、それが報われることで努力の報酬となる。そこで、経営者は顧客からの感謝の声を従業員に伝える、顧客満足につながるサービスを実行した従業員を評価するなど、従業員の動機づけに注力すること。

3. サービス業の組織設計
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(1) サービス組織の基本

a 従業員が顧客を満足させることにコミットする・・・顧客を満足させることが従業員が成し遂げなくてはならない責任である。その責任を明確にし、達成に関して努力する義務を持たせ、実行に関わる権限を委譲する。例えば、米国のFour Season Hotelsは顧客を満足させるための費用支出権限は現場のボーイレベルにまで委譲され、ボーイが最適な顧客サービスを行うことができるようになっている。

b 顧客を満足させようという従業員を支援し、動機づける環境作り
・・・具体的には顧客満足をたかめるための行動に関する権限の委譲、顧客満足向上の実現に対する報酬、顧客満足を重視する組織文化形成、顧客満足を高めるための小集団活動などが行われる。

(2) 組織の2種類のメンバー

a 対顧客サービス・・・旅館でいうと仲居のように、直接顧客と言葉を交わし、サービスを提供する人々。こういう人たちは外見、コミュニケーション力、立ち振る舞い、顧客の心を読み取る能力、サービスの技量、機転、パーソナリティなど高度でバランスの取れた人材である必要がある。この分野のメンバーには教育・訓練は力を入れるべき。

b 対従業員サービス・・・日頃から接する組織内部の人たちへのサービスを行う人たちなので、aのように高度でバランスの取れた人材でなくてもいい。しかし、自分たちの働きが最終的に顧客満足へ影響するという自覚を持たせなくてはならない。

c 全員が顧客を中心に考える・・・顧客を大切にする、ということを起点にし、組織やビジネスを組み立てる。組織のメンバーの意思決定と行動を行う、組織メンバーは価値観を共有しなくてはならない。

(3) 現場へ権限を与える

a ホスピタリティ・サービスは多様・スピード・主観的・・・そのため、意思決定は現場で行うことが望ましい。そこから、現場への権限委譲が行われる。

b 顧客にサービスをする従業員を柔軟に支援する
・・・多様で主観的ゆえに、固定的な組織の規則、手続き、制度などでは対応しきれない。組織もメンバー同様、柔軟な意思決定と行動をしやすいように組織化する必要がある。

(4) サービスに合った組織構造の設計

a 野球型組織よりサッカー型組織・・・攻守の切り替わりが速く、瞬時の意思決定と行動が求められるサッカーは、サービス業の組織づくりに参考になる。役割(ポジション)は決められているが、自分、仲間、敵の意図や動きで役割を修正しながら、相手をゴールを目指す。サービス業でも顧客というボールを中心に、ボールに絡む従業員は当然のこと、厨房や雑用をする顧客に直接絡まないフィールドプレイヤーもボールを意識して行動する。しかし、ある瞬間、突然、自分が主役になって顧客と接する事もあるわけで、常にボール(顧客)を意識しなくてはならない。

b 有機的連携
顧客満足向上という目標に向かって、チームワークで目標を達成することが重要。そのため、女将、仲居、板場といった役割を超えた協働もできるようにしなくてはならない。
(5) サービス業の組織設計

a 顧客を最上位にして、経営者は従業員を支える土台として考える→欧米のホテル

b 顧客を中心に女将、仲居、板場、帳場が互いに対等に協力し合って、顧客を満足させる→花壱
今回、朝食をイタリア家庭料理にしようと提案したり、カッペリーニョがないのを里子が冷麦で代用しようと提案したように、顧客のために従業員同士が対等に協力し合う、そうした組織は望ましい。


4. ホスピタリティビジネス組織の特徴
?1)欧米ホテル型

aピラミッド型

b専門化と固定的職務領域
・・・フロント、ベルボーイ、ベットメイカーなど専門職に分かれ、各職務での職務内容は明確にされ、他の仕事には基本的に手を出さない。

cサービス・プロセスの細分化・・・職務内容を明確にするため、サービスプロセスを分解し、各職務に分担させる。

2)日本旅館型

aピラミッド型とフラット組織の両立・・・女将を頂点としたピラミッド型でありながら、女将が直接顧客に対応したり、フラット的でもある。そのため、上図のような顧客を中心としたネットワーク的な組織のようになるのではないかと思う。

b専門化と緩やかな職務領域
・・・役割はあるものの、場合によってはその役割分担を超えて、仕事を手伝う。

c仲居によるone to one marketing・・・基本的には客室担当になる仲居が顧客サービスの窓口になり、仲居本人が行うか、他の職務の人に取り次ぐかする。

3)ホスピタリティビジネス組織の未来と課題

aサービス業化する社会における雛形・・・経済の成熟化にともない、サービス業が経済の中心になりつつある。

b人材の確保の難しさ・・・サービス業はEQ(心の知能指数)が高くなくては、最良のサービスを行えない。また、相手をもてない喜ばせたいという奉仕精神と顧客を理解するコミュニケーション力がないとならない。そうした領域において、日本人が少しずつ不得手になってきているように思え、サービス業の人材育成は今後、重要な課題になろう。

cサービス品質維持の難しさ
・・・人が創造するサービスの場合、人によるサービスのばらつき、1人の人でも時間によるサービスのばらつきが課題である。そこで、そうしたばらつきを解消する管理と、ばらつきを前提とした独自性のあるサービス提供の両面で考える必要があろう。

d労働集約的サービスとコストの両立の困難さ
・・・サービス業は労働集約的ゆえに、人件費の削減が難しい。最近では、サービス業の人材派遣によって両立させる試みもある。また、ウィンザーホテル洞爺のように、ホテル学校を併設し、若い人をインターンシップで活用してコストを削減し、次世代を担う人材を育成する試みも見られる。