〜経営者の役割〜

第3回 経営者と経営コンサルタント

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「行ってみたいところがある。それはぬくもりと安らぎ。そして、夢のある場所。」
第3話 「初めてのお使い」
(1) あらすじ
倫子は勅使河原史子の経営指南を受けることになる。勅使河原は旅館の問題点を指摘し、OJTで教育すると決めた。OJTの場として旅行代理店の人間を招待し、旅館を売り込むことも同時に行う。
?勅使河原は倫子を連れて、東京の旅行代理店の営業へ行く。勅使河原のネームバリューで、旅行代理店の人は会ってはくれるものの、手応えは今一歩。そんな中、青空観光の大久保を始め、何人かの旅行代理店の人間が花壱へやってくる。その大久保が露天風呂で倒れる。大久保を密かに病院へ運ぶようにと指示する勅使河原に対して、倫子は世間体は悪いものの救急車で運ぶことを主張し

(2) ドラマのポイント
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a なぜ、勅使河原は経営指導を引き受けたのか?
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「私もゲームに参加させて」という勅使河原の言葉からわかるように、仕事好きの勅使河原が、旅館でおとなしくしているのも飽きていたのであろう。そんなときに旅館再建というおもしろいゲームが目の前に現れたので、前職を解雇された屈辱を晴らしたい、という気持ちもあって旅館再建を自分の手でやって、キャリアに華を添えようとしたのであろう。

b 「私一人が動いたところでどうにもならないわよ。」(勅使河原の一言)
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経営再建は経営コンサルタント(勅使河原)に依存しているだけでは、うまくいかない。経営者(女将)と従業員が主体的に再建に取り組まなければ成功はしないであろう。

c 史子はなぜ、旅館の清掃を命令したのか?

永野日本電産社長は、経営再建を引き受けると、引き受けた先の経営陣に対してトイレ掃除をさせるという。骨身を惜しまず仕事することと、仕事をする場をきれいにすることで意識改革を図るそうだ。このドラマでは、旅館で掃除をしっかりするというのは商売のイロハであるので当然といえば当然であるが、それ以外に従業員が掃除をすることで、旅館の持っている資産(建物、部屋、庭、調度品、風呂)の問題点や価値を認識してもらおうという意図があると思われる。
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d 勅使河原の考える理想の花壱はどんなものなのか?
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花壱の持つ落ち着きのある空間、心配りのあるサービス、美味しい料理を売りにして、高級旅館として再生しようと考えた。そこで、必要なのは花壱のブランドの確立。篠田が板長として働いていた高級料亭「北川」の名前もフルに利用しようとした。

e 大久保の処置に対して、勅使河原の判断、なにもわからない素人の倫子の判断、どちらが経営者として正しいと考えるか?
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まず、怪我人が出たら、その症状を確認して対応策を考えるべきなのに、大久保の状態がわからずに、対応を考えているのはちょっと・・・ドラマだからしかたがないのだが。

この問いの答えは人それぞれであろう。旅館をどうしたいのか、その経営理念によって選択が変わってくる。筆者は倫子の考えに同意した。

旅館を客を宿泊させるだけのビジネスとして考えると、旅館から病人やけが人がでたことを宣伝することになりかねない救急車による搬送は避けるべきであり、旅館の対面を守るため、こっそりとタクシーで搬送するという勅使河原の指示は正しい。しかし、勅使河原の考えは、旅館側の都合を一方的に重視したものであり、顧客の立場を軽視しすぎである。短期的には旅館のイメージが守れても、勅使河原のような考えで旅館を経営していると、いつかは顧客に見透かされ、顧客満足は得られない可能性もあろう。旅館を顧客に素晴らしい時間と空間を提供する、おもてなしのビジネスとして捉えれば、倫子の判断、すなわち一刻も早く病院へ運ぶため、救急車を使うということの方が、短期的には評判を落としても、顧客を大切にする旅館というイメージを形成できると考えられる。ただ、第三の選択肢、例えば、加賀谷に運転させ、病院へ直行できるようにナビゲーターとして金子あたりを同乗させることも、深く検討すべきだったかもしれない。加賀谷に運転させることは、彼の役割を花壱で作ってやることにもなるからである。

ビジネスにはリスクがつきもので、宿泊客が倒れるというのは旅館業では容易に想定されているリスクである。そのリスクに対してどう対応するかという指針がないことは、雪印食品のように花壱もリスクマネジメント不在と言わざるを得ない。今回、倫子がお客様のことを第一に考え、対応するという意思決定をしたことは、倫子は意識をしていないかもしれないが、リスクマネジメントのみならず経営全般に対する理念を明示したことになり、意思決定基準がうまれたといえよう。

f 倫子はなぜ、殿山をクビにしなかったのか?なぜ、加賀谷にバスを運転させたのか?
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人間誰しも人には嫌われたくないから、経営者も従業員を解雇するという嫌われ役は避けたがる。倫子も当初そうした気持ちだったが、勅使河原から言われ、殿山の解雇を考えた。しかし、殿山が旅館のために一生懸命露天風呂を磨いていたことを知って、殿山には過失がないと殿山を信用したこと、そして、殿山は花壱に貢献できる資質があることを感じとったのではないか。また、加賀谷に関しては、倫子はなんとか彼の花壱における役割を見出そうとして、バスの運転をさせた。普通の人間は、組織の中で自分の役割がないと、やる気もなくなるし、不安になる。そうしたことに配慮しつつ、経営者として加賀谷に仕事をさせる厳しさを見せた倫子の意思決定は経営者らしいといえる。この2人は倫子に恩義を感じ、貢献をしてくれるだろう。

g 前職を解雇された理由を、勅使河原はどう考えたか?

大久保の対処の仕方に関して、業界の常識で判断し顧客を軽視した勅使河原。素人ゆえにか業界の常識を無視し、人間として顧客にもっとも良い方法を選んだ倫子。結果として、倫子の意思決定で問題がなく、大久保から感謝された。こうした一連の騒動から、勅使河原はホテルウーマンとしてビジネスを優先しすぎ、ホテルの本質であるホスピタリティ(もてなしの精神)を忘れていた自分に気がついたと思われる。それが解雇の理由であり、自分の未熟さゆえの解雇だから納得がいき、踏ん切りもついたと思われる。

2. 経営コンサルティングの仕事
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(1) 経営コンサルティングとは?
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経営全般の経営指導(経営コンサルティング)と、各業務分野の業務指導(ITコンサルティング、財務コンサルティング、税務コンサルティング、生産コンサルティング、販売コンサルティング、マーケティングコンサルティング、人事コンサルティング、法務コンサルティング等)がある。組織の外部の人間による経営指導ゆえに限界はあるが、第三者ゆえの縛りがないメリットもある。

(2) 問題の明確化・・・「最悪の旅館です。」(勅使河原)

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解決すべき問題を明確にしなければ、適切な解決策を考えられない。また、問題を明確にすることで、危機意識を従業員に持たせ、改革への動機づけを図る。

a 計数による分析
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経営に関わる数字から経営を考えていくことを計数分析という。具体的には財務諸表や資金繰り表から分析していく。数字からどの分野が経営業績の足を引っ張っているかがわかるが、本質的な問題は他の分析で補わないと理解しにくい。

b 観察による分析・・・サービス業の場合、実際に客の視点で観察してみると、表側の見える部分の問題点が理解できる。

「仲居の接客はダメ、従業員はロビーにたむろ、風呂の蛇口の半分は壊れている、番頭は電球の交換もしないし、従業員はゴミも拾わない。
従業員は人をもてなす心も、向上心も、プライドもない。」
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c コミュニケーションによる分析・・・経営者や従業員とコミュニケーションを図り、彼らの能力や資質、抱えている問題点、経営改革へのアイディアなどを理解する。そして、経営改革の必要性を浸透させていく。また、コミュニケーションを図ることは、経営改革に対する従業員の不満を緩和し、動機づけにもつながる。サービス業においては、人が価値を産み出すため、コミュニケーションによる働く人の分析が不可欠であり、勅使河原はそれがないため、勅使河原の改革の必要性が従業員に理解されず、逆に反発を買ってしまった。


(3) 明確な解決策の提示
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a OJT
による従業員教育
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訓練方法は仕事をしながら教育をしていくOJT(On the Job Trainning)と、職場とは離れて訓練するOff JT(Off the Job Trainning)がある。両者にはそれぞれ長所短所があるので、その特性をうまく利用すること。例えば、Off JTで基本的なことを学び、最低限のスキルを得たら、OJTへ切り替える方法が一般的。また、実際の職場でロールプレイングで仮想OJTをやることもできる。

b 旅館の差別化プラン
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多くの業界で戦略の基本形は差別化か低コストの追及である。花壱は高級旅館として生き残っていくので、高い料金を取れるだけの付加価値と、数ある旅館から花壱を選んでくれる差別化のセールスポイントが必要となる。勅使河原は篠田の料理を差別化のポイントにしようと考えた。今の花壱で評価できるものは篠田の料理しかないという事情もあるが。

c 旅館の価値の提示
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花壱の現状ではどのような価値が評価できるか、どのような価値を今後高められるか、高めるべきかを提示する。勅使河原は篠田の料理、静かな雰囲気、素晴らしい中庭、露天風呂、高級感のある調度品、といったものの価値を高められると考えているようだ。

d 集客方法

客をどう集めてくるかが、一番の悩み。癒される空間、サービスの充実、割引など様々な集客方法をあるが、それを最終消費者である顧客に伝えなくてはならない。そのためには、広告やPR、顧客との間に立ち花壱を売り込んでくれる旅行代理店への売込みが重要になる。現在、花壱は資金がないため、資金のかかる広告ではなく、旅行代理店の人たちを招待し、花壱への理解の浸透から始めることにした。

(4) 問題を解決するためのプロセスを提示する

問題とその解決策が提案されても、解決策が実行されなければ意味がない。課題解決を実行させ、成果をあげて優れた経営コンサルタントといえる。そのため、課題解決の実行案とその支援もする必要がある。


3. 花壱の収益構造
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(1) ドラマから分かった事実
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a 月間損益分岐点売上高=
1,170万円
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損益分岐点売上高とは、その売上高であれば利益も損失もでない。そのため、損益分岐点売上高を超えるような売り上げ確保のマーケティングを考えなくてはならない。

b 人件費=
170万円(倫子を含め従業員9人で170万円だと平均19万円程度の給料。安すぎない?)、借入金返済=100万円

借入金は高邑の前のオーナーが黒沼旅館に借りたお金。人件費は比較的低いものの、まだ、無駄な従業員がいるので削減できる。
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c 客室15室、最大50名、売上高2,250万円(稼働率100%
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稼働率とは、宿泊客の数÷最大収容人員50名×100、で計算できる。損益分岐点売上高から1日当たりの損益分岐点宿泊客数を算出し、損益分岐点宿泊客数÷最大収容人員数×100で、損益分岐点稼働率をさらに算出して、稼働率の目安とする。花壱は52%で、客室が半分以上埋まらないと利益が出ない。

(2) 推定

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a 客平均単価
15,000
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10,000円以下ならば民宿や大衆ホテルレベル、それ以上は一応高級旅館であるが、本当の高級旅館は1泊3万円程度の料金を提示するところもある。花壱は高級旅館を目指しているものの、客が少ないので料金を下げているのかもしれない。

b 損益分岐点売上高の変動費
900万円
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c 固定費比率=23%、変動費比率=77%
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変動費率が高く、固定費もそこそこ使っているので、よほど高級食材や酒を使っているのかもしれない。

(3) 経営のアドバイス

解決策の方向性は2つ。宿泊客を増やすことと、コストを下げて損益分岐点売上高を低くするようにする。宿泊客の絶対数が少なすぎるので、当面は集客を増やすことが重要である。宿泊客を増やすためには、手っ取り早いのは、旅行代理店のパックツアーに組み込んでもらうことや団体旅行の獲得が考えられる。しかし、長期的に見ると、花壱の高級旅館を目指すという路線から、顧客の口コミとリピート、旅行代理店における個人客への推奨など、個人客の増加が望まれる。コストの削減は、余剰人員の削減、車両や調度品の売却、などが考えられる。
花壱の損益分岐点売上高分析
4. 経営コンサルタントの活用法
?(1) 経営者とコンサルタントの差
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意思決定
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コンサルタントは提案するが決定はしない。そこが大きな違いである。しかし、優秀な経営コンサルタントは、経営者に適切な提案を受け入れさせ、実行させ、成果を出すことができる。ただし、このドラマのように経営者が経営能力がほとんどなければ、経営者の代理を務めることもある。

b 人を動かす
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会社の中では外部の人間ゆえに、第三者的立場ゆえに、提案をしても従業員が動かないこともある。そのため、経営コンサルタントは従業員とチームを組んで、提案を実行できる体制も作る必要がある。

c 結果責任
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結果責任はそれなりにあるものの、経営者に比較するとコンサルタントの責任は軽く、それゆえに自由な提案ができるが、反面、責任が重い経営者の決断を引き出せないことも多い。

d 組織統治
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提案すれど、統治せず。最終的に会社を動かすのは経営者で、統治すべきなのは株主と株主から委任された経営者である。

(2) 経営コンサルタントの活用法
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a 組織統治は内部のリーダーシップで
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経営コンサルタントにすべてを任せるのではなく、あくまでも経営者の主導的リーダーシップが不可欠である。倫子のようになんでも勅使河原の言いなりだと、まずい。

b 各分野の専門コンサルタントを使う
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経営コンサルタントの指導する分野には得意不得意があり、1人のコンサルタントに任せないで、複数のコンサルタントを各人の得意分野で使う。

c 最終的な意思決定は経営者が自ら行う

経営コンサルタントは結果責任は負わない。結果責任はあくまでも経営者が取るため、意思決定を行うのは経営者であり、それに対して責任をとらなくてはならない。このドラマにおいては、大久保の搬送方法という旅館の経営方針に対して重大な意思決定を迫られ、倫子が反対を押し切って下したことは意思決定の内容はともかく正しい。

d 外部のより客観的な分析を提供してもらう

組織内部にいると見えないものも、外部の人間からは見えることもある。優秀な経営コンサルタントは他社の優れたやり方や問題点も理解しているので、自社の問題点も客観的に見てくれる。また、しがらみがない分、言いたいことも言える。

e お墨付きをもらう

経営者の意向を実現するためや、経営者の意思決定に正しいというお墨付きを得るため、権威あるコンサルタントの力を借りることもある。ただし、この場合、経営コンサルタントの提案は、あらかじめ経営者の意向を汲んだものにしておく必要がある。