〜経営者の役割〜

第6回 組織と個人

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「行ってみたいところがある。それはぬくもりと安らぎ。そして、夢のある場所。」
第6話 「料理が出せない」
(1) あらすじ

? 篠田が原価の多少高い金目鯛を使いたいといい、倫子はそれを認めるがコスト削減を図らなくてはならず、クリーニング代や酒代を交渉して値引いてもらう。そんな中、篠田の後輩の三浦が花壱を訪ねて来る。三浦は乃木坂に出店する新しい料亭「奈可田」の花板として、篠田を迎えたいと誘う。渋る篠田を三浦は仮オープンの1週間だけでもいいから花板をやって欲しいといい、篠田も了承する。
 篠田は休暇ということで1週間の休みを取るが、スナックの絵美から篠田が引き抜かれることを倫子は聞いてしまう。そんな時に限って、食事を楽しみにする客が花壱へ来る。倫子も手伝い、里子も頑張るが、客の評判は悪い。落ち込む里子。さらに女子大のグルメ同好会から10名の予約が入る。倫子、勅使河原、なぎさは篠田のもとへ向かうが、そこで生き生きと働く篠田を目にしてその場を立ち去る。
(2) ドラマのポイント
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?a 篠田が金目鯛を使いたい、と言ったとき、経営状況が厳しい中、なぜ倫子は了承したのか?
花壱の売りが篠田の料理であり、旅館の経営事情を考えた上で篠田も提案してくれているので、倫子は了承した。倫子は旅館の経営が悪いため、篠田の腕を活かせるような食材を使えないことをすまないと思う気持ちもあったのだろう。

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 篠田が三浦の誘いで乃木坂の料亭「奈可田」へ行った心境を考えよう。
料理人としては、自分の使いたい食材と部下の料理人を使って思う存分料理を作りたいというのが本音であろう。料理人にとって最高の環境を与えてくれる、という三浦からの申し出だったので、心が動いたものの花壱も気になるから1週間という期間のを限定したのであろう。その1週間で奈可田を気に入り、花壱では里子が料理を作れれば、転職しようと考えていたに違いない。

c なぜ、勅使河原は倫子の気持ちを篠田へ伝えに言ったのか?
勅使河原は篠田が去れば、旅館のセールスポイントがなくなり、確実に潰れると懸念していたのであろう。また、倫子が倫子なりに必死になって篠田の料理を大切にし、旅館を再建しようとしているので、倫子を支援したかったのであろう。

d 倫子は無理だとわかっていながら、なぜ、10名の予約客の料理を里子に任せたのか?
「やりもしないで、あきらめちゃっていいの?できると思えば、なんだってできる」(倫子)
倫子は非常に楽天的であり、今の花壱には失うものがないため、思い切って里子へ任せようとした。また、このまま里子が料理人としての試練から逃げようとばかりしていると、いつまでたっても料理人として成長しないと考え、あえて試練に立ち向かわせようとしたのであろう。ただ、里子に試練を与えるだけでなく、従業員には里子をできる限りサポートしてくれ、と命令し、里子へのフォローと失敗のリスクを減じようとした。

e 料亭のオーナーは、なぜ、美味しい金目鯛を客へ出せないと言ったのか?
「うちに来るお客さんは舌はもちろんだが、気持ちを満足させに来ている」(奈可田の中田オーナー)
奈可田は高級料亭ゆえに、それなりの料金を取る。美味しいことは当たり前で、その辺の料亭や和食屋で食べられる食材を使った料理では、ぼったくりになる。また、高級料亭としての格式を守るため、高級食材を使う必要がある。そのため、オーナーは料金に見合った食材を使い、最高の味を引き出すことを篠田へ求めた。顧客も高級料亭で食事する、という気持ちをもってやってくるので、高級食材を使った高い料理を喜んで食べるのだ。

f 篠田はなぜ、花壱へ帰ってきたのか?
「俺は俺じゃなくては勤まらない場所。俺の腕を必要としている場所で働きたいんです。」(篠田)
篠田は職人ゆえに、料亭の格式とかにとらわれず、自分が美味しいと思う料理を作って、客に喜んでもらいたいと考えている。ところが、奈可田ではオーナーが自由にメニューを決めて良いといったにもかかわらず、高級食材を使って欲しい、というような要求をされ、篠田の欲求が満たされないと感じた。また、オーナーが篠田個人の腕よりも、奈可田のブランドで集客する意向を持っている。オーナーは篠田を個人の職人としてではなく、奈可田の厨房スタッフとして働ける料理人が欲しい、と思っている。オーナーのそうした考えを篠田は感じ、料理人として生きがいを持って働けるのは、自分を必要としている花壱だとして、花壱へ戻った。花壱ならば、倫子ができる限り篠田の料理を尊重し、支援してくれる。篠田のような料理人にとって、理想の職場環境というのは料理に関しては全権を与えられる職場なのだろう。また、勅使河原に対する好意も、篠田の気持ちを変えることの一助になったかもしれない。

g 今回の事件で組織はどう変わるだろうか?
篠田は他の店や旅館へ移る、ということは当分考えず、花壱への貢献を今まで以上にするであろう。一方、倫子は篠田の重要性をいっそう認識したため、篠田を尊重し、支援するだろう。また、里子も一人で厨房を仕切ったことから、料理人としての自覚も高まり、金目鯛の煮付けも高評価を得て、成長した。里子は花壱にとって、大きな戦力になる。また、倫子は女将としての能力を勅使河原や篠田に認められ、倫子を中心としたチームワークがうまく機能していく可能性が高い。

h もし、あなたが女将で、篠田が辞めていたらどう対応していたか?
料理を売り物にする戦略をあきらめ、低コスト低価格路線へ戦略転換するのが1つの方向性であろう。一方、現在のコンセプトで行こうとすれば、優秀な板前をどこかから獲得するか、里子を優秀な板前に育てるかである。後者ならば里子が一人前になる前に、花壱が潰れる可能性は高い。
2. なぜ組織へ所属するのか?
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??1) 組織帰属の誘因

a組織目的と個人目的の近似性
人間誰しも自分の目的を達成することへは、強く動機づけされる。そのため、組織の持つ目的が、組織へ参加する個人の目的が近いと、個人の目的を達成するため頑張った結果、それが組織の目的達成へ貢献することになる。そして、組織の目的達成から誘因としての対価を獲得し、それが組織へ帰属することを動機づけする。このドラマでの篠田の個人目的はわからないが、料理人として高い食材を使えないなど制約された条件下で、最高の料理を作ることに喜びを持っているのであるとしたら、赤坂の料亭へ転職するより花壱にとどまる動機づけがされるであろう。

b欲求を満足させる
個人の求める欲求が満足できる程度に満たされる組織へ帰属し続ける。例えば、なぎさは借金取りから逃れて花壱で働いている。今は借金取りに追われることがないため、不満はないものの、贅沢な暮らしをしたいと思い始めたら、給料が安い花壱に不満を持ち、再びモデルの仕事へ戻るのではないか。

c組織からの誘因≧組織への貢献
?自分が組織へ貢献するよりも、組織から誘因、人によっては給与であったり自己実現欲求の追及機会、が多い場合、組織へ所属し続ける、という経営学者バーナードの組織内部均衡の理論。この式と反対に、一生懸命働いて組織へ貢献したいるのに、給料が安い場合、転職を考えることになるかもしれない。

2) 帰属意識の高いメンバーからなる組織
a メリット
帰属意識が高く、メンバーが組織へ所属し続けるメリットは、個人の学習結果が組織に蓄積されやすいということである。サービス業などでは、古くからの顧客を安心させることにもなる。また、組織への帰属意識の高いメンバーが多いほど、組織維持のための動機づけが強くなり、組織目的の達成意欲が高まる。その結果、組織成果が高くなる。

b デメリット
デメリットとして、組織目的と個人目的が連動していない場合、組織の成果が停滞する可能性がある。例えば、仕事が楽で給料が高い職場から転職者が少ないものの、その職場は楽して稼ごうという人々が多くなり、結果として組織の成果はあがらなくなる。また、新しい情報が組織にもたらされないと、革新が生じにくく、組織が停滞する。

(3) 帰属意識を高めるマネジメント
a小集団化
人数が少ない組織ゆえに、組織の活動へ参画しやすく、組織への一体感を情勢できる。

b組織目的への合意促進
組織目的を受け入れられていればいるほど、メンバーの組織へ帰属と貢献が図られる。

c組織からの経済的・精神的報酬を高める
バーナードの公式の左辺、誘因を高めることで、組織メンバーの組織へ所属する満足感を高める。

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組織からの離脱コストを高める
組織を辞めて、他の組織へ移る時のコストを高い状態にする。例えば、他の組織が支払えないような高い給与を支払うことで、経済的に他の組織へ移動する気持ちをなくさせる。プロ野球でジャイアンツを自らの意思で辞める選手が少ないのは、ジャイアンツを辞めることで失うもの(離脱コスト)が多いからであろう。ところで、中高年の場合、会社を辞めても転職や再就職が困難なため、今勤めている会社へ残ろうとする気持ちが強い。そのため、会社が中高年者を辞めさせようとすると、割り増し退職金を与えるなど、誘因を多くする施策を取る。いわば、組織からの離脱コストを低めるのである。
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e他組織と競争する
組織外に戦う相手がいると、組織へのコミットメントが強くなり、組織への帰属意識も強くなる。国家レベルの話では、戦争が起こると国内が安定するが、それが組織レベルでも生じる。

f 組織を孤立させる
その組織に帰属する以外の選択肢がなければ、その組織へ帰属するしかない。また、孤立していると、組織内でのコミュニケーションが活発化し、また、自分たちは他の組織の人たちとは違うという意識をメンバーに与え、結束させる効果もある。例えば、カルト宗教が人里離れた場所に信者を集めて集団生活を行うことが多いのは、この理由。

4) 公式組織と非公式組織への帰属
組織には正式に認められた権限関係を基盤にした公式組織と、そうでない、非公式組織がある。非公式組織の代表例としては、政党(会社)の中の派閥がある。非公式組織への帰属意識が強いと、公式組織と非公式組織の利害対立があった場合、公式組織の目的を阻害することもありえる。例えば、自民党は派閥の力が強く、その結果、派閥の意向が自民党政治を疎外することも出てくる。

3. 公式組織の構造
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?1)命令指揮系統



ライン組織は命令の一元性に優れ、トップの意思決定が下位者へ伝わりやすい。反面、組織内部の縦割りが強く、専門性を活かした内部交流が生じにくい、経営資源が有効に活用されないという問題がある。旧来型の旅館はこうした命令指揮系統を採るところが多い。



ライン組織の欠点である専門性の視点に立った経営資源の活用が弱い、という弱点を解消するために考えられた命令指揮系統。部下は複数の上司を持ち、専門的な命令を受ける。命令の一元性が考慮されていないため、部下が命令の優先順位などで混乱する問題があった。



ライン組織とファンクショナル組織の欠点を解消するために生まれた組織。実線が命令関係、破線が助言関係。命令の一元性に優れたライン組織を基本にしつつ、専門性を活かすために助言関係を持ち込んだ。現代の組織構造の基本となっている。女将の倫子と勅使河原の関係を組み込んだ花壱の命令指揮系統はライン&スタッフ組織といって良い。専門家である勅使河原が参謀役のスタッフとして、女将の倫子へ助言する。



(2) 組織設計のポイント

a ?命令の一元性・・・命令系統に関して、部下は一人の上司からしか命令されないという原則。命令の一元性が確保された組織は規律が正しく、上位者の意思決定が迅速な下位者の行動へ移せる。

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統制の範囲・・・1人の上司が担当できる部下の数。仕事の内容や状況によっても異なるが、経験則で15人前後と言われている。組織が大きくなり、メンバーが増えると、組織は上司(管理者)を増やして水平的分化をさせるか、部長、課長、平社員というように、組織を階層化(垂直的分化)して統制の範囲を逸脱しないようにする。

c 階層化・・・社長と平社員ならば2層構造であるが、社長が統制する部下の数が増えると、社長の下に部長という管理者を置き、社長は部長を管理し、部長は平社員を管理するという形にして、階層化することで統制の範囲を狭める。階層化した場合、階層を跳び越してのコミュニケーション、社長が平社員へ直接命令する、ということは命令の一元性を乱すので原則的に行われない。また、階層化すると、伝言ゲームではないが、社長の意思決定が直接平社員へ命令されるのではないので、組織の行動にスピードがかけたり、誤った伝達がなされる、平社員のモチベーションが下がるという欠点もある。

3)組織形態
組織の保有する経営資源が多くなると、組織を分化させ、経営資源の管理を容易にしようとする。組織の分化の基準によって、職能部門制組織、事業部制組織、マトリックス組織などに分類できる。分化の基準が職能であると専門性が活かされ、経営資源の有効活用がなされる。権限は集中しやすい。一方、事業部制組織は、各部門で重複した経営資源を保有され、一見非効率であるが、異なる環境に適応しやすいという長所がある。権限は各事業部門へ移された分権的組織で、権限を持つ一方、収益責任を負わされる。本社は事業部門間の調整と、組織全体の戦略を考えること、事業部門では行えない共通する業務を行う、といったことで業務を限定する。

a 分化の基準→職能、事業、地域、顧客

b 権限の集中度