〜起業の戦略〜

第1話          10 11 12
1.日本的経営と女性
@ あらすじ(55分)
太田夏子(鶴田真由)は大鹿鳥建設リフォーム課に勤める営業職のOLだ。男性中心の女性が補助職の職場で、男性に混じって働く彼女は課長や同僚女性社員からの風当たりが強い。仕事は好きだが、そんな男社会の職場に嫌気を感じていたとき、野島ことり(松下由樹)から会社を辞めて、一緒に会社を興そうと迫られる。ことりのやり方に反発しつつもなぜか気になる。

A 登場人物
太田夏子(鶴田真由)…入社4年目26歳の大鹿鳥建設勤務の営業職のOL。
野島ことり(松下由樹)…ハーバード大学院でMBAを取った大鹿鳥建設の国際事業開発部に勤務する幹部候補。
鴨下ミキ(雛形あきこ)…大鹿鳥建設の受付美人OL。かってバイトでホステスをしていたのか、中年の金持ちの知り合いが多い。
永瀬真一郎(井ノ原快彦)…太田の大学山岳部の後輩で中央銀行に勤務している。
大木課長(伊武雅刀)…夏子の上司。過去の遺物になりつつある猛烈サラリーマン。

B ドラマのポイント
a. なぜ太田は課長、同僚の女性、取引先から風当たりが強いのか?
大木課長は男性が仕事を中心的に行い、女性は補助という役割分担を価値観として持っている。そのため、男女雇用機会均等法で自分の配下に太田が配属され、しかも自分の流儀とは異なるやり方で実績を挙げているのが気にくわないのである。また、ワンマン的な性格なので、部下の太田が正論を述べていることにも腹を立てている。取引先も大木課長と似た価値観を持っている。男性の仕事の補助をすると思っている女性社員が謝罪しにきたことで、大鹿鳥建設は自分たちの会社を軽んじていると感じて怒り、男性社員を寄こせと言ったのだ。こういう古い価値観の男性に対しての接し方は、面と向かって彼らの価値観を批判するような言動を慎む。また、周囲の男性社員を経由して間接的に自分の意向を伝えたり、相手を動かす配慮が必要。こんなことを女性だからと言ってやらなくてはならないのは、女性にとっても会社にとってもマイナスだが、上司や取引先に睨まれれば女性本人の得にはならない。
男性社員間では実績に応じての差別はあるが、身分による差別はない。ところが、女性社員の中に総合職(営業)と一般職(営業補助)という初めから決められた身分の差別があり、多数派の一般職女性はいい知れない嫉妬を持っているのであろう。中には自分も総合職として働きたいと思っていても、採用時が一般職であるため不可能だとか、自信がない、などから、屈折した感情を持ち、ついいじわるをしたくなるのであろう。男性社員間でも多少の嫉妬があるから、女性社員間の嫉妬もなくなりはしないが、総合職と一般職の選択を女性自身にさせることでこの問題は和らぐであろう。

b. なぜ野島は大鹿鳥建設を辞めて会社を起業したいのか?
「本当にやりたいことがあったら大組織の歯車になるのではなく、自分で会社を興すこと。」「女性が大きな会社の中で出世していくのは大変。役員に慣れたとしても定年間際のおばさん。そんなの私はイヤ。」by野島ことり
彼女は元来、親のやっていた食器ビジネスが好きだったのであろう。そして、ビジネススクールで、優秀な人間は起業する、というアメリカ流の価値観に感化された。ビジネススクールでは起業のスキルを身につけて自信を持ち、自分ならば起業できるという気持ちになったのだ。それに加えて現在の男性中心の会社には愛想がつき、ますます起業へ心が傾いているのであろう。


c. なぜ野島は太田を誘っているのか?
起業は一人でも行えるが、会社を成長させようとする時、自分を補完し、右腕になって働いてくれるパートナーが必要になる。例えば、本田技研の本田と藤沢、ソニーの井深と盛田というように、成功した企業は創業者をサポートできる有能な補佐役がいるのである。ことりはパートナーの重要性をビジネススクールで学び、統率力、行動力、協調性、自発性、価値観の共有可能性、そして何よりも現状に不満を持って辞める可能性のある夏子に白羽の矢を立てたのであろう。

d. ハッピを着て現場に出る、それも仕事!?
ハッピを着て営業に出ても、リフォームの決定権を握る主婦には受けないのでセンスの良いカタログを送付するという、太田の言っていることは合理的ではある。しかしながら、日本の猛烈な営業マンの中には労力を使うことが、仕事を成功させる秘訣という価値観を持っている人が多い。また、目立って動いていれば、上司に頑張っています、というアピールもできる。大木課長の場合は管理職として、新しいカタログを作成することでコストが増えることを嫌っているのかもしれない。少なくともハッピを着て営業に出るのならば、目に見えるコストは出ないからである。大木課長の中ではバーナードがいう有効性は軽視され、能率だけを重視していると言える。

e. 野島は多分大鹿鳥建設では出世できない、なぜか?

現在会社を支配している男性に正面切って向かうと反感を買い、足を引っ張られる。もし、ことりが大鹿鳥建設で出世したい気持ちを持っているのならば、男性社員の反感を買うような言動をしない。例えば、大木課長に常務の面前で恥をかかせれば、大木課長はことりうらみ、今後足を引っ張るであろう。逆に言えば、会社を辞めることを考えているので、気にしないで発言しているのかもしれない。

f. アメリカの価値観に弱い日本人
いわゆる戦中派の人たちは、戦争でアメリカに負けて、戦後アメリカの優位性を目の当たりにして大きなコンプレックスを持っている人が多い。日本の外交がアメリカに対して弱腰なのも、そんなところに原因があるのかもしれない。

C 用語の解説
a. MBA(Master of Business Administration)…経営管理の専門大学院であるビジネススクールを修了すると得られる経営管理修士の学位。専門的な経営の知識、経営分析法、経営手法を学び、経営幹部としての能力を身につけるため、欧米では経営幹部のパスポートと言われている。

b. グローバルな時代…企業の活動が1国の中だけでなく、地球規模で行われる時代。例えば、日産がルノーの傘下に入ったのは典型的な例。
2.男性中心の日本的経営
@ 男性の視点と価値観からの経営
原始時代、男は狩猟、女は住居を守るという役割分担があった。そのため、生活の糧を得る仕事は男性、生活に関わる仕事は女性という役割分担が根付いた。これは女性は出産し、育児をすることで次世代を育成するという機能を持っているため、ある程度合理性はあると言える。こうした役割分担が、組織の中で働く労働者が大部分になった現代でも残っているのである。加えて女性は出産や育児などで辞めるから補助的仕事をしてもらう、見方がこうした傾向を助長している。日本企業においてはこうした価値観が温存されており、「男女雇用機会均等法」などで少しずつ変化しているが、大きな変化は見られない。

A 同質的な会社社会
日本企業は男性を中心とした同質的な社会を形成している。そのため、男性にとって適合した社内システムを作り上げた。
a. 年功序列:男性は一家の主として長期的にカネを稼がなくてはならないため、勤務歴が長くなると給料も上がる。
b. 終身雇用:男性は一家の主として長期的にカネを稼がなくてはならないため、60歳程度の定年までの雇用を保証する。結婚、出産、育児など途中でキャリアを中断する可能性のある女性は事実上恩恵はない。
c. 共同型意思決定:男性という同質的かつ長期間勤務する社員からなる会社故に、共同型意思決定でもまとまりやすい。同質的組織は能率は高いものの、環境適応と組織の進化の観点からは望ましいとはいえない。

B ラインが偉いという価値観
会社の中には直接的に利益をもたらすラインと、ラインをサポートするスタッフがある。本来は職務内容が異なるためどちらが偉いとかはないものの、直接的な利益獲得につながるラインの方が優位にあることが多い。どちらかというと男性はライン、女性はスタッフという傾向がある。これも男性は生活の糧を得る、という発想から来ているのかもしれない。
3.女性と日本的経営
@ 職制
日本では人事システムと結びつけ、職制が分かれている。その職制の中で給与や職務内容が決定されていく。
総合職:経営幹部候補。会社全般の業務、得にライン業務を知るために、異動が多い。
一般職:会社の中の補助的業務を行う。総合職と異なり異動がすくない。総合職よりは給与が安く、昇進は限定的。
専門職:主にスタッフ部門で、特定業務を専門に行うため、異動はあまりない。給与は総合職と変わらないものの、昇進は限界あり。

A 顧客の立場に立つか会社の立場に立つか
男性は会社人間にならないと昇進できないため、顧客の視点よりも会社の視点が強く押し出される。その点、女性は男性と比較して会社へのしがらみが薄く、またOLでありながら、生活者としての視点を持ち続けられるため、顧客の立場に立ちやすい。

B 女性の活用が企業の競争力に大きく影響する
Aで述べたように、女性は顧客の視点を持ちやすい。そのため、個人消費財を生産する会社や販売する会社にとっては女性の視点というのは必要不可欠である。また、一部の職種においては女性の柔らかさが大きなメリットになる。今後は男性とは異なる価値観を持った女性を活用することが、企業の競争優位につながろう。

C 優秀な女性の活躍が能力のない男性を追いやる時代
日本は労働者の技能、知性が平均的に優れていたが、それももはや過去になろうとしている。これからは優秀な人材を奪い合いになる。そのため、男性だけに拘っていたのでは、優秀な人材を確保できない。優秀な人材が減っていく上に、激しい競争から実績主義の企業社会になれば、性別に関係なく優秀な人材を活用しなくてはならず、男性だから出世していたような時代ではなくなろう。