〜組織再生のマネジメント〜

「人生の勝負は、第二章から」

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第11回 組織再生のマネジメント
第10話後半 「また会う日まで! それぞれの旅立ち」
(1) あらすじ

 成長した面川に会った妻祐子は、家に戻って欲しいと願い、面川はホテルマンとしての人生を諦め、妻のいる東京へ戻ることにした。最後の客を見送り、従業員も地元の関と五十嵐を残し、ホテルを後にする。そして、面川と従業員たちは新宿でそれぞれの新しい人生を歩むために別れる。
 1年後、面川はYMCAホテル専門学校で講師をし、若い人たちを育てていたが、八ヶ岳高原ホテルへの想いを断ち切れずにいた。八ヶ岳ユナイトホテルへリニューアル・オープンしたものの、面川が経営していた頃に比較して稼働率は半分になり、苦戦していた。
 そんなある日、関から八ヶ岳の野菜が届いた。関からの写真を見て、面川の息子が八ヶ岳へ行きたいと言い出した。家族で八ヶ岳ユナイトホテルへ行くと、ホテルの看板はなく、人気がなかった・・・

(2) ドラマのポイント

a なぜ、本間を始めとして若い従業員はこのホテルで働けたことを感謝しているのか。

面川の誘いだけで未知のホテルへやって来た従業員達は、それぞれの自己実現の追求を目的として持っていた。最後は解雇され完全とは言えないものの、自己実現ができたから、その機会を与えてくれて、自己実現に手を貸してくれた面川達に感謝している。

b ホテルを後にする従業員と面川の胸中を考えよう。

自分たちが再建に成功させたホテルを去らなくてはならず、悔しい気持ちが強い。

c ホテル専門学校(東京のYMCAか?)で働く面川は、八ヶ岳高原ホテルのことをどう考えていただろうか。

自分の理想としているホテルを具現化したので、自分が採用した従業員と一緒に理想のホテルを追求できない他のホテルでは働きたくなかったが、ホテル業界に未練があったため、専門学校で勤務したのであろう。

d 若月に真相を聞いた面川はどんな胸中であったであろうか?

自分の知らないところで自分たちの運命が決められたことに対して、腹立たしかった。また、そんな計画を知らなかった自分に悔しかった。

e 中原はなぜ自分のキャリアの嘘を告白したのであろうか?

中原の理想の自分がホテルで活躍する中原だったのであろう。その理想の自分になりたい願望が、いつの間にか自分の過去にすり替え、周囲に話をしたのであろう。

f 再び面川たちの手で開業した八ヶ岳高原ホテルはどうなるであろうか?

成功体験だけでなく、売却、解雇という苦い経験も積んだ。そして、以前よりも強く、ホテルで働きたいという思いになっているであろう。それらがより良いホテルへのサービスに対する原動力になろう。
2. 組織再生のプロセス
(1) 組織再生の意味

a 組織再生とは、環境に適応できず組織目的達成が困難になっていく状態を、組織を変革し、活性化することで、再び組織目的の達成を目指そうとする経営戦略。

b 組織を再生することは、経営手法の革新、経営資源、特に組織メンバーの意識改革による活性化、産出される価値をも革新していく。

c 組織再生は通常、組織が行う事業の再生を通じて行っていく。

(2) 組織再生のプロセス


Step1 危機意識の醸成

a 組織の業績が悪化しても、その落ち込みが緩やかであれば、業績悪化への危機意識はなかなか生まれにくい。

b 危機意識は、業績悪化を防ごうという動機づけになるため、危機意識が組織メンバーの中で醸成されないと、組織再生が開始されない。


c 組織再生の第一歩は組織メンバーに現状に対する危機意識を共有させることから始める。

d 危機意識を醸成する方法は、賃金カット、人員削減など具体的な痛みを組織全体へ与えることで、組織の危機が身近なものと組織メンバーに認識させる。

Step2 新たなビジョンを示すことで危機意識を変革のバネにする

a 危機意識が組織メンバーで醸成されたら、次はその危機意識を組織再生への意識へ転換し、組織を再生しようという意欲へつなげる。

b 危機感を持ち、それへの対応が明確でないと混乱状況にとどまる。そこで組織のリーダーやそれに代わる人が新しいビジョンを示し、変革を実行すれば明るい未来が開けることを信じさせる。

c ビジョンは結果として組織メンバーの利益にもつながることを含めておく方がよい。

d 最初は、痛みを伴う変革を動機づけられた組織メンバーは少数である。そこで、組織再生を主導するリーダーはコミュニケーションを十分取り、賛同者を組織の中に増やす。また、組織外部、特に利害関係者へ明言していく

e 組織変革に賛同しないメンバーがいても、それに対して変革への協力をするように地道に働きかけ、組織の大勢が変革へ向かえば消極的ながら協力することになる。しかし、それでも意固地に組織変革へ協力しない場合、組織変革へ水を差す懸念があるため、何らかの脅しやペナルティを与えて意識改革を迫る必要もある。

Step3 変革の道筋の提示

a 組織を再生する道筋を表したロードマップを提示する。ロードマップは組織再生の最終目的と、そこに至る中間地点に下位目標を提示する。

b 組織再生の目標だけでなく、具体的な実行案を提示しておく。

c 実行案に対する実行責任と権限を組織変革賛同者へ与える。

Step4 変革をし続ける

a 変革は小さなことから始め、組織メンバーへ初期の段階に成功を体験させる。成功を体験させるために、組織全体で支援する。成功体験は次の変革の実行の動機づけになる。

b 変革の活動がうまく行き始めたら、少しずつ難度の高い変革へ挑戦させていく。

Step5 変革の制度化

組織変革の成功が少しずつ積み重なっていったら、それを制度化、システム化していく。それによって変革の動きを逆戻りにさせないようにする。

Step6 組織再生の成功と新たな変革の取り組み

a 組織再生の当初の目標が達成できたら、その成果を検証し、再生によって得られた利益を組織メンバーへ分配する。

b 組織再生が成功した時点で、既に組織の陳腐化が始まっている。そこで、新たな変革の種を探し、組織メンバーを巻き込んでいく。
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3. ターンアラウンド・マネジメントのポイント
(1) ターンアラウンド・マネジメントとは?

ターンアラウンド・マネジメント(Turnaround Management)とは、組織再生や事業再生を行う経営手法である。

(2) 事業再生の方法


a 事業再生を既存のメンバーを中心に行う。過去の負債を負っての再生であるから、負債を資産に変えるプロセスがあるため大変である。「王様のレストラン」、「私を旅館に連れてって」、「コーチ」、「スーパーも女」がこの例に当たる。

b 事業再生を新しいメンバーで行う。既存のメンバーが持つ過去の負債がない分、事業再生に適した人物を新たに集められれば、aよりは楽になる。「高原へいらっしゃい」は親会社が買収したホテルの再建で、厳密に言えば事業再生ではないが、親会社から見れば、このタイプで事業の再生になる。

c aとbの折衷型として、経営陣は新しいメンバーで、従業員レベルは既存のメンバーで行われる方法もある。

(3) ターンアラウンド・マネジメント(Turnaround Management)のポイント

a 組織メンバーの意識改革を慎重に、かつ大胆に行う。

b リーダーはなるべく多くの人とコミュニケーションを取り、事業再生の重要性を行う。

c 組織の価値を産出している現場を重視する。

d 事業再生へ賛同した組織メンバーに対して、必ず達成責任と権限を与える。

e 変革の成功体験を組織メンバーへなるべく早い時期に与える。

f 事業再生の成果を再生へ貢献したメンバーへ分配する。

4. 八ヶ岳高原ホテル再生の分析
(1) 再生のための枠組み

a 事業再生に与えられた資金は3,000万円で、夏の避暑のシーズン前にオープンし、夏と秋で黒字化することがノルマである。最近、頻繁に耳にする再生ファンドによる再生プランも予算枠と、再生の目標を与えられる。

b 組織再生に新規投資する場合は、投資に対する利益(現在価値に置き換える)の割合を計算し、満足できる基準を目標値に設定する。

(2) 事業再生のメンバー集め

a 事業再生に当たっては、前述したように既存のメンバーを中心に行う方法と、新規のメンバーを集める方法、その組み合わせがある。八ヶ岳高原ホテルのように新規メンバーを集める方法であれば、通常、それを成功させるために最適なメンバーを集める。通常は、経営者、弁護士、会計士、事業に必要な専門家がチームを組む。

b 八ヶ岳高原ホテルは面川が既存のホテルになり魅力を持ったホテルを創りたいということで、あえてホテル経験者は中原を除いて雇用しなかった。面川のホスピタリティや理念を具現化できる資質を持った人材を集めたが、人材集めに意識が集中し、面川の理念が集まったメンバーに良く理解されておらず、それが開業当初の面川と従業員のコンフリクトに結びついた。

c 八ヶ岳高原ホテルの再生方法は、面川が人材の教育と管理、そして全般的な経営という仕事をしなくてはならず、面川の負担が重くなる。その場合、若月のポジションが教育や管理面で補佐をしなくてはならない。若月は当初、従業員の信望を得られなかったため、うまく機能せず、料理長の小池が代わりに行った。

(3) 八ヶ岳高原ホテルのターンアラウンド・マネジメント

a 八ヶ岳高原ホテルの再生には、偶然性が多く貢献している。採用した小池が非常に優れたシェフであったこと。評論家の神崎が山村の特殊なサービスに気に入ったこと、など、偶然が良い方向へ転がった。通常のターンアラウンド・マネジメントでは偶然に依存をしない計画を立てなければならない。

b 評論家の神崎に賞賛されたという開業前の成功体験が事業再生の大きな弾みになっている。

c 面川以外はホテル業の未経験者の素人集団であるが、仕事に対するプロ意識に欠けた行動をした場合、それを若月は厳しい叱責をし、面川がフォローする役割を分担し、信頼関係が形成されていない組織の統合化を図った。

d 面川のリーダーシップは強力なトップダウンという訳ではなく、相手の言い分を聞き、それで面川の意思決定が変わることがある。いわばタイプとしては民主的リーダーシップ(若月は専制的リーダーシップ)であるが、短期間に事業再生をする場合は、合意の形成や行動までのプロセスが長い民主的リーダーシップはあまり良いやり方ではない。

e 小池の存在は、面川のリーダーシップで不足する部分を補完しており、ホテルにとって重要な役割を果たした。しかし、小池の存在が大きくなりすぎ、小池が面川と対立した場合、組織が分裂する懸念がある。小池が自分の役目を自覚している限り、面川、若月、小池のリーダー・チームはうまく機能するであろう。

(4) 成功のポイント

a 組織の求心力

面川が従業員を仲間として扱って大切にしたこと、仕事のやりがいと顧客からの高い評価が組織にとって重要な求心力を与えた。再び従業員を八ヶ岳高原ホテルへ再結集させた大きな理由である。

b 人の再生

八ヶ岳高原ホテルのメンバーは、若月を除いては過去に失敗の経験がある。ホテルの再生のプロセスで、そうした傷を負った人材をも再生し、自己実現をさせたことが、サービス業にとってもっとも重要な人的パワーを産み出した理由であろう。