〜組織再生のマネジメント〜

「人生の勝負は第ニ章から」


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第2回 組織をまとめるマネジメント
第2話 「突然の敵」
(1) あらすじ

 小池は本間さおりと旧知の仲である。「私じゃダメですか」と売り込む小池に対して、シンガポールのオリエントホテルの料理長という肩書きで若月はすぐ採用しようというが、面川は慎重になる。そこで、夕食を作り、小池の腕を試すことになった。若月からは「理想ばかり追っていると、また失敗しますよ」と苦言を呈される。小池の作った料理は、チキンライス。みんながっかりするが、非常に美味しいので、若月はすぐに採用すべきと主張するが、面川は仮採用とする。若月は面川に経費節減を迫り、いち早く開業して利益をあげるよう主張する。
 プレオープンまで1週間、面川は予算がないので、従業員に指導をしながら、ホテルの外装と内装を修繕する。関峰子出戻ってきた娘の関麻美を連れてきて、手伝わせる。しかし、麻美はミスばかり。一方、山村久美は川原でサボる。
 面川にホテル再建を任せた矢野社長から呼ばれて東京へ行き、戻った若月は、プレオープン時の招待客は神崎三千男であると告げる。有名なホテル評論家の神崎は以前、面川が支配人を務めたホテルを酷評し、その結果、面川のホテルの客足は遠のいた。面川は神崎の好みを知っており、最高級の食材とワインを小池に指示する。小池は乗り気ではない。それどころか、神崎の好みであるフランスの高級ワインをキャンセルし、地元の食材とワインで美味しい料理を作りたいと主張する。
 若月に指示する一方で、裏で矢野はホテルを3週間後にオープンし、夏の間だけ営業して秋には売る計画を、親和銀行へ打診する。素人の従業員が内装を修繕するから不備が多く、慣れない仕事をさせられる従業員はストレスがたまり、喧嘩が始まる。面川はスタッフ一同を集め、「今はやるしかないんだ。みんな任された仕事に対して責任を持って欲しい」と言うが、面川の個人的理由でこき使われているのはたまらない、と中原と山村が面川を批判する。面川は「お客様のためにしっかりやりたい」と主張し、小池が面川へ理解を示したことで、一同仕事へ戻った。高級肉をキャンセルした小池に対して面川が文句を言おうとしたとき、神崎が1日早くやってきてしまった。

(2) ドラマのポイント

a 比較的楽観的な面川にしては、なぜ、小池の採用には慎重にだったのか?

ホテル業界で名が知られた小池が、なぜ、まだオープンもしていない小さな高原のホテルへやって来たのか、という疑問があった。たぶん、小池は既に料理の世界から引退しており、また、最近の小池の料理を食べていなかったので、シェフとしての力がわからなかった。小池が面川のホテルのビジョンに共感してくれ、協力するかも疑問があった。

b 小池を仮採用にし、海とも山ともつかない従業員を採用した理由は?

既存の常識に囚われて失敗した前のホテルと異なったことをやるため、ホテル業界経験者よりもホテルマンとして、新しいサービスをできる個性的な人を選んだのであろう。

c 「前とはちがうことやっても、成功するとはかぎりませんよ。」

若月の言葉だが、その通り。前の失敗をよく分析し、それを改めた結果、違ったやり方になるのなら良いが、面川がそこまで熟考したように若月には思えなかったのであろう。

d 麻美をなし崩し的に採用したのをどう考えるか?

自分の目で確かめてスタッフを採用した、といった事と明らかに矛盾している。関の好意はありがたく受け取るべきであるが、採用は慎重に考えるべきであろう。

e オーナーである矢野社長は、なぜプレオープンの招待客に神崎を選んだのか?

顧客にもホテルのサービスに甘い人と厳しい人がいる。全ての顧客を満足させるためには、プレオープン時に厳しい評論家から厳しい意見をもらい、それを本格オープンの時までに改善した方がよい。

f なぜスタッフ間でいざこざが生じるのか?

彼らは知り合ってからまだまもなく、互いをよく理解していない人がいつも顔をつきあわせて暮らしている。そして、慣れない仕事を緊急にやらなくてはならない厳しい状況である。人里離れた山のホテルに隔離され、で生活し、不満を解消する方法もほとんどないため、ちょっとした不満が爆発し、いざこざが起こりやすい状況である。

g なぜ、出て行こうとしたスタッフは考え直したのか?

今まで不信を持っていた面川が本心を語ってくれ、面川の想いを受け止め、やっていこうという気になったから。

k 神崎に満足してもらうもの、イコール、高級なものという面川の考えをどう思うか?

神崎がどのような料理やサービスを望んでいるか、これまでの経験と推測から面川は思いこんでいる。そのため、あらゆる可能性を考えず、小池の言葉も聞く耳を持たない。経営者として広い視野を持ち、考えることが必要。

l なぜ、矢野社長は夏だけ再オープンし、売却しようとしているのだろうか?

面川とは異なり、矢野はホテルを投資としか考えていない。そのため、安く買ったホテルを開業し、成功させて高く売却するのは、投資家として当たり前の行動である。
2. 人と組織
(1) 組織を構成する経営資源

a 人材・・・組織を構成する経営資源でもっとも重要なのは、人。組織や事業を考え、それを実行していくのは人である。特にホテルのように、サービスを行うのが機械ではなく人である場合、より重要になる。

b 物的資産・・・事業で産出する価値を創造する施設、機械工具、土地、車両、機器などである。ホテルの場合、土地、建物、施設、日々使う食材や食器、アメニティグッズ、送迎バスなどが物的資産としてあげられる。八ヶ岳高原ホテルは、一度閉鎖された物的資産は痛んでいるので修繕したり、0から揃えなくてはならない。

c 資金・・・資金がなくては従業員を雇用できないし、必要な物的資産を購入できない。

d 知識と情報・・・経営に関するノウハウ、顧客や市場に関する情報、ブランド情報は、第四の経営資源ながら最近、非常に重要視されてきている。それは知識や情報といった無形資産は経営に革新を起こし、その結果として持続的競争力の源泉となるからである。

(2) 人が組織へ参加する誘因(動機)

a 個人目標を実現できる

例えば、仕事が欲しい、自分を活かせる仕事ができそう、自分の所属先が欲しい、などの個人的理由から、組織へ所属する。八ヶ岳高原ホテルへ集まった人材、面川はもうホテルを成功させることで過去の失敗を取り戻したい、中原は再びホテルで働きたい、山村は失恋を癒すために新しい職場で働きたい、など様々な個人的理由をもってホテルへ集まってきた。

b 強制的に組織に所属させられる

法律や命令によって、組織へ強制的に所属させられる。例えば、特定地域に住んでいる子供は一定の年齢になったら、公立の小学校や中学校へ入学し、そこに所属しなければならない。若月は社長の矢野に命令され、若月自身は望んでいなくても八ヶ岳高原ホテルの副支配人として赴任しなくてはならなかった。

(3) 組織の内部均衡

組織からの誘因≧組織への貢献

この不等号式が満たされているとき、人は組織へ参加し続けるという。組織から与えられる働き甲斐、経済的満足、成長の機会などの誘因が与えられ、その代わりに組織へ参加し、組織が社会の中で生き残るために産出する価値の創造へ貢献することが求められる。八ヶ岳高原ホテルへ所属することで与えられる誘因が少ないのに、面川から様々な仕事への貢献を要求され、不等号が逆向きになっているように感じられ、中原たちはホテルを辞めようとしたのであろう。

(4) 人と組織の両想いのマネジメント

a 組織は与えた誘因に対する十分な貢献を求めて当然である。そのため、組織へ参加する個人はその要求に応えられるプロ意識と能力を持たなくてはならない。

b 組織はプロの人材が参加し続けたくなるような場と誘因を提供し続けられなくてはならない。そのため、各自の組織参加の目的、誘因に対する感度、パーソナリティを理解した上で、仕事を提供し、動機づけしなくてはならない。

c 人と組織は両想い、この組織で働きたい、この人に働いてもらいたい、という関係を形成することが、重要である。

3. パーソナリティと仕事
(1) 個人のパーソナリティへの理解

a 行動の一貫したパターンを説明する人間の特性、パーソナリティは仕事の成果と関連性があると言われる。

b パーソナリティは年齢、文化、性別、教育、経験、社会的地位などがパーソナリティ形成へ影響する。

(2) パーソナリティの五大要因と仕事

a 感情安定性・・・感情安定性は自分自身と、他人や状況に対する安定性である。自分自身の感情を安定させられるか。ホテルのような人と接する仕事では、感情の安定性が重要である。そうなると技術者として優秀だが、山村久美のパーソナリティは、サービス業には向かないかもしれない。また、他者への感情安定性が高いというのは、他者の感情に左右されないということで、これは人と接する仕事では、マイナスになる。むしろ、他人や状況に感受性が鋭いほうが良いが、それが本人の感情安定性を阻害することもある。本間は相手の気持ちを読み取り、サービスをしようとするのは、彼女の感受性が強いのであろうが、彼女自身傷つきやすいから他者の感情を考えるのかもしれない。

b 外向性・・・人は組織に所属したいという意識と、組織に縛られず離れたいという矛盾した意識を持つ。外向的な人は組織の外の広い世界と関係を形成したいと考える。仕事では営業や接客が向く。面川は仕事上、外向的でなくてはならない支配人であるが、以前の失敗で内向的なパーソナリティが強くなっているようである。それが、ホテル経営へ影響を与える懸念がある。バーテンの石塚はまさに外向的な性格で、客のあしらい方もうまい。

c 開放性・・・創造力にとんだ衝動につき動かされたり、自由な態度や嗜好をどの程度持つか。料理長の小池や山村は開放性に富んだパーソナリティである。一方、若月や関のおばちゃんは解放性が低く、保守的なパーソナリティを持つ人である。個人のパーソナリティの相違が組織の中で葛藤を生じさせる。

d 適合性・・・人間は社会的調和の利益を享受するため、誠意と信頼のある関係を形成しなくてはならない。その一方で、自分の財産や地位を守るため、争うことも必要がある。調和と競争のバランスをうまく取れるかどうかが、適合性のパーソナリティである。本間は調和を好むパーソナリティで、チームワークでサービスを提供していくホテルには向いている。一方、山村は競争的な適合性を持つが、彼女が施設の保守管理の仕事であれば、問題ない。競争的な適合性を活かした動機づけを行うことができるであろう。

e 誠実性・・・目標に対して誠実に達成しようというパーソナリティである。本間がそうしたタイプのパーソナリティを持ち、上司からすれば使いやすいタイプの部下である。一方、気まぐれでさぼったりする、山村や石塚は誠実性が低く、組織の成果を阻害する懸念がある。


(3) パーソナリティに合った仕事を与える

a 職務ごとに望ましいパーソナリティを考える

b そのパーソナリティに合った人材を仕事につける

c 職務にとって望ましいパーソナリティと、その仕事をする人材のパーソナリティの適合が低いと、組織の目標を阻害する。例えば、パーソナリティの感情安定性や適合性が低い人が接客に当たると、顧客といざこざを起こす懸念がある。

(4) 状況適応型の仕事の与え方

a パーソナリティと仕事との適合を考えるだけでなく、参加するメンバーの個人目標を理解した上で仕事をさせる。また、仕事への意欲も重視する。

b 仕事の要求する能力の要件と適合する人材を選ぶ。ただし、多少、仕事の能力要件よりも低い人に難しい仕事をさせ、動機づけし、育成することも重要である。反対に、仕事が要求する能力より高い能力を持った人に仕事をさせると、その人のやる気がそがれる懸念あり。

c 仕事を行う環境に応じて、仕事を与える人を選ぶ。緊急を要する状況で仕事をさせる場合、そうした状況で能力を発揮できる人を選ぶ。

4. 仕事とコンピテンシー
(1)コンピテンシーとは?

コンピテンシーとは行動特性のことである。高業績をあげる人間の行動特性を分析し、その行動特性に似た人間を同じ業務に就かせることで組織の成果を高める経営手法。

(2)高業績者の特性で以下のものが重要になる

a 行動を起こそうとする意志の有無

b 意志を受けて実行に移す意志の有無

c 目標に執着し、行動し続ける意志の有無

(3)代表的なコンピテンシーの要素



(4)コンピテンシーによる人のマネジメント

STEP1 高業績者の行動特性の認知
どんな行動特性を持った人が良い成果を挙げているか、各業務に関して分析をする。

STEP2 組織メンバーのコンピテンシー診断
メンバーのコンピテンシーを診断し、どの業務で高業績をあげられるか、分析する。

STEP3 各メンバーの自己認知
各メンバーが自分のコンピテンシーを認識し、自分が高業績をあげられる職務と、自分のやりたい職務における高業績の挙げ方を知る。

STEP4 安定的行動の創出
自分のコンピテンシー、仕事で高業績をあげられるコンピテンシーを理解し、安定した成果を挙げられるようにする。

(5)業務のコンピテンシーと組織のコンピタンス(能力)の関係



組織の外部環境が、組織の業務環境と組織が生存していく能力(コンピタンス)へ影響を与える。業務環境と業務の特性はその業務で高業績をあげるためのコンピテンシーへ影響する。そのコンピテンシーの要素の一部分としてパーソナリティ特性がある。業務特性は組織の活動特性の影響を受ける。業務後との集合が組織のコンピタンスになる一方、一度確立した組織のコンピタンスは各業務や個人のコンピテンシーへ影響を及ぼす。組織のコンピタンスは組織の勝つ道徳性からも影響を受ける。
5. 組織の中の対立と解決
(1)メンバー間の対立

今回のドラマでは、山村久美と関親子との対立が生じた。問題の根元は、山村が仕事をさぼり、その穴埋めを不慣れな関麻美が行い、不備が生じた。また、仕事に慣れなていない関麻美が失敗を繰り返し、仕事が忙しい山村をイライラさせ、山村が怒りを爆発した。

(2)対立の短期的解決方法

STEP1 初期対応
山村と関親子が喧嘩した時、まず、第三者が割って入って二人を離し、より感情的になり、対立が激化するのを防ぐ。そして、当事者二人を落ち着かせる。

STEP2 当事者の話を聞く
上司である面川が個別に二人の話を聞く。反論や説教は必要なく、山村と関の話を聞くことに徹する。人間は不満を表明することで、不満の多くは解消できる。

STEP3 対立の原因と解決策の議論
ホテルのメンバー全員を集め、今回の出来事を客観的に話す。当事者への非難に繋がらないように一般論化して、問題の本質と解決策を議論する。

STEP4 解決の実行
議論を踏まえた解決策を面川が提示してメンバーの理解を促す


(3)対立の長期的解決方法

今回、なぜ、山村と関が対立したのか?

a 山村がパーソナリティか?→彼女の感情が不安定なところ、自己中心的なところを配慮した仕事の与え方、動機づけ、チームの組ませ方をする。

b 関が仕事に不慣れなのか?→1週間後にプレオープンという時期に、人手が足りないのは分かるが不慣れな人間を入れて良いのか?不慣れな人間を入れるのであれば、仕事を教える人間が必要。また、仕事も彼女が得意なものを与える。

c それとも労働条件なのか?→例えば、給与や労働時間を変えるのは難しい。しかし、今の時点で変わるのは難しいので、プレオープンが成功したらボーナスを与えるなど、誘因を与える。

d メンバー間のコミュニケーションが取れているか?→メンバー間がよく理解し合っていないので、飲み会などを行い、仕事を離れて楽しく、コミュニケーションを取れる機会を設ける。

e 面川や若月の管理に問題はなかったか?→命令の仕方も、何の目的で、どうやったら良いか、を教えながらやっても良い。また、山村の場合、仕事の目的と、達成すべき目標を与え、自己管理で行わせることも良いかもしれない。

f 目的が共有できているか?→面川がホテルのビジョンや理念をしっかり話しておくべきである。それがなくて、目標を共有させるのは難しい。


(4)対立の源泉

組織の中におけるメンバー間の対立は、個人のパーソナリティの相性、業務特性、環境特性によって引き起こされる。

(5)対立のメリットとデメリット

a 対立のない組織は、メンバーが仲が良く、チームワークも良い。

b 対立のない組織は、不満を隠して働いている懸念があり、その不満が大爆発する危険性もある。また、対立を解決する過程で、メンバーと組織が進化するので、きっかけになる対立がないとその機会が失われる。