〜組織再生のマネジメント〜

「人生の勝負は第ニ章から」


1話  2話  3話  4話  5話  6話  7話  8話  9話  10話  11話

第1回 組織の成立
第1話 「荒野の7人」
(1) あらすじ

 バブル経済と共に建設され、バブル経済の崩壊と共に閉館された八ヶ岳高原にあるホテル。面川は債権者の地主から、2,000万円の資金と朽ち果てたホテルを与えられ、再建を任された。面川はかってホテルの支配人を務めたが、倒産させた過去がある。それがきっかけで、荒んだ生活をし、妻と子供と別居する羽目になった。面川は一緒にホテルを開業するスタッフを集める。アメリカのホテルで働いていた英語ペラペラの中原、バーでバーテンダーとして働いていた客あしらいのうまい石塚、居酒屋で知り合った電気技師の資格を持つ山村久美、ファミレスで働く接客技術の優れた本間さおり、地元の関峰子をスカウトしたが、ホテルの売りになるはずの料理長は松永から断られて、面川は途方にくれる。加えて、面川を信用しない矢野社長からお目付け役として出向してきた副支配人の若月からは、ホテルの運営や従業員の管理に対して小言を言われる。
 面川は東京へ松永を説得しに行くものの逃げら、知り合いのシェフを当たるが面川の過去を知る人は断る。ホテルに残った従業員は価値観が異なり不協和音。副支配人の若月は上司風を吹かせ、従業員から反発され、つい料理長予定者から断られたことを漏らしてしまう。動揺した中原、石塚、山村、本間らが出て行こうとする。「君たちは失敗したことがないのか。一度失敗した人間はやりなおしちゃいけないのか。立ち直るチャンスを与えてもらえないのか?力を貸してくれ、君たちが必要なんだ。頼む。」と土下座する面川を見て、辞めようとする従業員たちはとどまってくれることになった。面川が東京へシェフを探しに行こうとしたとき、コックを名乗る男がホテルへやってきた。

(2) ドラマのポイント

a 面川がスタッフをスカウトする方法をどう思うか。

面川は自分なりの採用基準、前に失敗したホテルとは違った暖かみがあるサービスをできる人材、を持っており、それに加えてホテルの各職能に適合する人材を探していた。しかしながら、人探しと採用は場当たり的なスカウトの仕方である。そのため、その人の資質を十分見極めず、ばらつきは生じる懸念がある。個別に当たるという方法は、人から紹介されたり、既に実績があって業界でも評判の人間なら分かる。現実ならば、もっと多くの求職者に会って、ある程度選別した上で、候補者の働く場を見に行く方法が取られる。

b 2,000万円の資金は多いか、少ないか?

ホテルの再開業までに必要な準備と半年程度の運営費を考えると少ない。

c 現地を見た集められたスタッフの心理を考え、彼らをやる気にさせる説得を考えよう。

ホテルの魅力的な将来像を説明する。そのホテルにおいて、各スタッフがどのような役割と能力を期待され、採用されたのか、を次に説明する。そして、新しい魅力あるホテルを一緒に創りあげるため、従業員の意見を積極的に聞く姿勢を伝え、参画意識を高める。

d 接客マニュアルを従業員に見せ、アイディアを募る面川のやり方をどう考えるか?

従業員の参画意識を高めること、ホテル業界人の面川とは異なった視点でサービスを考えてくれるなどのメリットがある。その一方で、自分の都合に合わせた意見が主流を占めないように、面川は適切なアドバイスをしていく必要がある。

e 「仲間意識より監督意識を持ってください」という若月の言葉をどう考えるか?

その中で各従業員が自己管理できるようにするためには、互いに監督し合うのではなく、仲間意識を持って、仲間と共有している目標を達成する、という考えが、各従業員の動機づけと協働の有効性の面から望ましい。

f 若月が若いスタッフに対しての接し方、命令の仕方をどう思うか?

軍隊のように命令指揮系統がしっかり決まった組織や信頼関係が上司と部下の間で構築されているのでさるならば、頭ごなしの命令でも良い。しかし、今のホテルの組織は作られて間もないので、指揮命令系統もしっかりしていないし、信頼関係もまだない。また、そうした状況で、若月のように高圧的な命令の仕方をすれば反発され、受け入れられない懸念が多い。

g なぜ、中原、石塚、久美は出て行こうとしたのか?

彼らはホテルの将来と、そこで働く自分の将来が不安なのである。給料をもらえるのか、自分が求めていた仕事をできるのか。それに加えて、ホテルに来た後に生じた労働環境や条件等への不満から、職場を離れたくなったのであろう。

i なぜ、出て行こうとしたスタッフは考え直したのか?

面川が正直にホテルのこと、自分のことを話してくれたこと。そして、人は他人から期待されれば、それに応えようとするものであるがホテルの将来は各従業員の力なしにはありえない、と従業員へ大きな期待をしていることが理解できたからである。

2. 日本のホテル業界
(1) 旅館軒数は減少気味。ホテルは増加傾向。

これは日本人の生活が西洋化し、西洋スタイルのホテルが好まれるようになったのであろう。また、家業で旅館をやっている中小旅館は、後継者不足で廃業するケースも多くなっている。最近はバブル期の投資が、その後の不況で回収できず、経営破綻するホテルもある。舞台として使用されているホテルは八ヶ岳高原ヒュッテで、夏だけ営業している。




(2) 東京商工リサーチの調査によれば、1998年度の主要ホテル経営会社35社の業績は、前年度比7%減少(95年度3%減少、96年度4%増加、97年度5%減少)となり、35社のうち経常赤字会社は20社(94年度14社、95年度16社、96年度13社、97年度20社)と厳しい状況である。上場されているホテル経営会社の多くは、シティホテルの業態で、業績悪化によるリストラのため法人需要が減少し、一部の地域では地価の下落による新規参入者から客室の供給過剰になっている。ここ札幌でも撤退や業態転換を図るホテルも多い。

(3) 一方、リゾート地のホテルに関しては、売却や閉鎖などの話を聞く限り、情況は良くない。個人旅行者が支払う宿泊料、パック料、宿泊日数は伸びているものの、旅行者の数自体が減少し、景気低迷で市場全体のパイが低迷しているようである。そのため、バブル期に行った投資が回収できず、経営は厳しいところが多いようである。また、デフレ経済の進行から、パックツアー価格が下がり、それがホテルの客室の卸売り価格の下げ圧力になっていると考えられる。北海道のニセコ地域のペンションでは、1泊3,500円(2食付)という話もきいたことがある。

(4) ホテルを選好する人55%、旅館は45%。年齢が低くなると、ホテル旅館を選好する比率が多くなる。ペンションブームに青春時代を過ごした現在の50歳前後の世代が、依然として洋風のホテルを選好するか、それとも和風の旅館へ嗜好が変わるかが、ホテル市場へインパクトを与えよう。

(5) 最近の顧客ニーズは、料金割引、個性ある料理、観光案内サービス、イベント、ゆったりした雰囲気などである。地元の新鮮な食材を使ったスローフードを目玉にするホテルも増えている。

(6) ホテル経営の成功の鍵(Key Factor for Success)は、設備(客室、温泉、雰囲気)、料理、サービス、近隣の観光資源と考える。

(7) ホテル業界の5要因分析

a 供給業者との力関係・・・大規模なホテルはバイイングパワーによって、食材、アメニティグッズ、クリーニングなどの供給業者に対して優位に立つ。ホテルで働きたいという若者のニーズも高く、労働集約的な業態ではあるが、人材派遣や季節パートなども活用できる。

b 需要者との力関係・・・需要者は旅行代理店などを対象とする卸売市場と、最終消費者へ直売する小売市場がある。消費不況、デフレ経済、ネット情報による価格比較の容易化などで、どちらの市場もネガティブ。

c 代替業態の脅威・・・ホテルにとって、代替業態となるのが旅館。昨今のリゾート地における温泉ブームは旅館業界への追い風になっており、リゾートホテル業界にはネガティブ。ただし、都市部ではホテル業界の独壇場。また、40歳台より下の世代における欧米流ライフスタイルの浸透は、ホテル業界へポジティブ。

d 新規参入の脅威・・・ホテル業界は不況であるにもかかわらず、地価の下落、地域の再開発といった要因から、新規参入が続き、客室は供給過剰にあると見られる。また、初期投資が少なくてもすむホテル建設工法の開発、外資系ホテルの日本市場への参入などの要因も、新規参入の脅威を強くしている。

e ホテル業界内の競争状況・・・ホテル事業からの撤退コストが高いため、経営が悪化してもホテル事業からなかなか撤退せず、逆に低価格戦略で売上を確保しようとするため、競争が激化する。


3. 組織とは?
(1) 個人の事業活動と組織の事業活動の相違

個人という一人の力ではできることが限られる。複数の人間が集まって、協力し合えば、一人で事業をするときとは違った大きな事業もできる。組織は協働システムと言われる由縁である。それが組織のメリットだが、組織の中の人をまとめ、力を発揮することは難しく、そこに組織のリーダーとしての経営者の力量が問われる。「高原へいらっしゃい」でも、支配人の面川が従業員たちに注意し、土下座して頼み、というシーンが出てくるが、個人の価値観が多様化した今の時代では上に立つ人間は非常に大変だと思う。

(2) 組織の定義

a 社会的存在・・・社会からその正当性を認められないと、存在し得ない。提供する価値の正当性が認められなければ、顧客を獲得できず、組織存続のための売上を得られず、倒産する。組織の活動が社会へ悪影響を与えるようなものであると、活動の規制や撤退の圧力をかけられる。

b 目標によって動いていく・・・目標のない組織はありえない。企業の場合、顧客の獲得(売上の確保)が目標になる。

c 意図的に調整された活動のシステム・・・メンバーがばらばらな活動をしないように、限られた経営資源を活用するために、リーダーがある意図の下に調整していく。

d 組織の外部との相互作用の中で活動していく(オープンシステム)高原のホテルという比較的隔離された空間であっても、取引業者との取引、ホテルへ来る顧客といった外部環境との相互作用は発生する。

(3) 組織の重要性

a 人材、食材、建物、資金といった経営資源を集め、サービスという価値を生み出す変換プロセスへ投入し、ホテルを黒字にするという目標を達成するための経済的価値を産み出すシステムになる。

b 個人ではできない価値を、協働することで産出する。支配人の面川だけではホテルを運営できないから、従業員を集めたわけである。

(4) 組織が成立する要件


a 共通の目的
組織のメンバーがばらばらの方向に向かって仕事をしても、組織としての良い結果は生まれない。そこで、組織の目的をメンバーへ与え、その方向に向かって働いてもらう必要がある。ホテルを再オープンし、黒字化するという目標が従業員に浸透しないと、各従業員は面川の指示に従って一生懸命働こうとしない。

b 組織メンバーの共通目的に対する貢献意欲
共通目的があっても、それに対してメンバーが貢献しようと言う気持ちがなければ、共通目的を達成できない。そのため、メンバーが共通目的にコミット(責任をもって仕事を成し遂げる)し、貢献をしたくなるように、動機づけが必要である。現段階ではホテルのために積極的に貢献しようという従業員が少なく、それが事業のスムーズな進行を妨げている。例えば、山村久美は不平を言い、仕事もサボる。こうした従業員をやる気にさせ、面川の掲げた目標へ貢献させる動機づけが重要である。

c 組織メンバー間のコミュニケーション
組織というのは、協働システムなので、経営者・管理者・従業員間の意志疎通が重要である。自分の意思を相手に伝え、それで行動してもらうためには、相手の考えを知っておかなければならない。第1話では従業員は互いに知らず、コミュニケーションが十分取れていない。そのため、協力して仕事をするのもスムーズに行かないし、ちょっとした一言が大きな問題に発展してしまう。

(5) ホテルにとっての支配人の役割

支配人は組織の目標を達成するため、従業員を組織目標に対して貢献させ、経営資源を有効に活用し、顧客を獲得するようにしていかなければならない。

(6) 八ヶ岳高原ホテルは組織として有効に機能しているか?

仕事のやり方、仕事への姿勢がなっていない。それは組織としての共通目標がメンバーに理解されておらず、各自がなれない仕事を各自の思惑で行い、質も悪く、組織としてのチームワークも見えない。コミュニケーションも十分でないため、協力し合う姿勢も見えない。
4. 組織立ち上げ期の成功の鍵

新たに組織を作る時は、組織を機能させるために必要なシステムを整えなくてはならない。今回、その準備ができていなかったため、八ヶ岳高原ホテルは従業員の中でトラブルが生じた。

(1)組織の使命、将来像(ビジョン)、目標を明確にする

組織はなぜ作られたのか、何をする組織なのかを明確にする。そして、その使命を達成するとどのような組織になるのかをイメージさせる。ビジョンを達成するためには、その過程でどのような目標があるかを示す。例えば、八ヶ岳高原ホテルの組織は、廃業したホテルを再開するために作られ、開業の準備と運営を担う。将来は小さいながらも、暖かい顧客に応じたサービスができる、独自の魅力を持ったホテルにする。そのためには、開業までは心地よい空間を作るための作業、開業後1ヶ月はサービスの安定化、開業後半年は単月での黒字化と徹底した顧客への認知、といった目標を明確にする。

(2)メンバー間のコミュニケーション

知らない人間が集まるわけであるから、コミュニケーションを有効に取れるよう、互いに知り、理解できるような機会を設ける。新入社員が入ると歓迎会を開くのも意味がある。

(3)各メンバーの役割と位置づけの明確化

組織の中で、誰がどのような役割を持つかを明確化しておく。そして、その役割に従って、組織の中ではどのような関係、上司と部下の関係、仕事上の協力関係、を示しておく必要がある。今回のドラマでは、中原や山村はペンキ塗りなどをさせられ、不満を述べていた。これは面川が彼らの役割、細分化された仕事をこなすだけでなく、ホテル立ち上げ全部に関わることを最初に明確化しておかなかったミスである。また、関や若月の注意が受け入れられなかったのは、彼らの言動もあるが、組織の中での役割や位置づけが明確にされておらず、どのような権利を持って自分に命令するのか理解できないため、山村らは反発したのである。

(4)組織の制度やルールの明示


組織が持つ目標を有効に達成するためには、制度やルールは必要である。それを組織のメンバーに明示し、周知することが大切である。できあがったばかりの組織ではメンバー間の信頼関係やチームワークも期待できない。そこで、組織メンバーの行動基準が各メンバーに任され、それが組織目標の達成を阻害することが懸念される。自分では常識と思っていることが、他人には理解できないこともある。今回のドラマでは、休憩の取り方が明示されていなかったため、山村は勝手に休憩し、煙草を吸おうとし、若月らが山村の行動や考えが非常識と非難した。こうしたことが起きないよう、制度やルールが必要である。ただし、想定されるあらゆる状況に対応できるすべての制度やルールが作られていることはない。そこで、新たな問題が生じたとき、どう解決するかの方法と、それを制度化やルール化するプロセスを作っておく。

(5)命令・指揮系統の整備

コミュニケーションは非公式なものと公式なものがある。組織にとって公式なコミュニケーションの一つとして、組織の目標を有効かつ効率的に達成するため、命令や指揮がある。命令・指揮系統を構築しておく必要がある。しかし、小さな組織だから、あまり固定的にして柔軟性を損なうのは避けるべき。

(5)協働の定着

組織が目標達成の成果は、適切な目標を設定することと(本項の(1))、協働がどれだけ有効かつ効率的に行えるかにかかってくる。そのため、協働を行うための整備、本項の(2)〜(4)、を行うと共に、実際に協働を行い、成功体験を得るなどして動機づけを行い、組織へ協働する価値観と実際の仕組みを定着させることも必要である。協働が成功すると、メンバー間の信頼関係が生まれ、それが次の協働の成功をもたらす。
 
5. 人材を集める
(1) 人材募集の方法
a 張り紙・・・ある特定地域で少数の人を集める場合、店や電柱に求人募集の紙を貼ったり、看板を設置しておく。

b 折り込み広告や地域誌・・・ある特定地域で多数の人を募集する場合、新聞の折り込み広告、地域のフリーペーパーやローカル新聞の求人広告をだす。

c アルバイト雑誌やネット・・・ある特定地域の若い人を中心に募集する場合、こうした方法がとられる。

d ハローワークや人材紹介会社・・・ある特定の技能を持つ人を少数集める場合、公共の労働者斡旋機関であるハローワークや民間の人材紹介会社へ求人を出し、紹介してもらう。

e 学校・・・新卒者を採用したい場合、高校や大学へ求人を出す。

f コネやスカウト・・・知り合いに声をかけたり、業界で優秀な人をスカウトする。ドラマでは面川が自分で歩いて人をスカウトしていたが、料理長やマネジャークラスならありえるが、一般の従業員をこうした形で集めることは普通はしない。

g 人材募集会・・・ある会場で複数の企業が集まり、就職フェアを開催し、人材採用のきっかけにする。

(2) 採用の考え方

a 人ありき志向・・・人材の採用枠や個人のキャリアを優先する採用の仕方で、採用基準は潜在能力や組織文化への適合性になる。新卒一括採用はこうした志向の代表例。

b 職務適合性志向・・・職務要件と人材要件に合わせて採用する。経験者の中途採用がこの志向の代表例になり、八ヶ岳高原ホテルの従業員は、こちらの志向で集められた人材。

(3) 採用のポイント

a 組織にとって必要な人材の数、求められる職務能力、人材の条件(性別や年齢、容姿や性格)、雇用条件を明確にする。

b 経営戦略との整合性を考える。本業の既存事業の拡大や新規事業への参入など、必要とする労働力が増える要因があるのであれば、増やさざるを得ない。また、社内の情報化を進めるために、ITスキルを持つ人材を採用するなど、事業の展開によっては特定能力に秀でた人材を採用する必要がある。組織の年齢構成への配慮も必要かもしれない。まず、経営戦略を考え、そこから必要な人材を採用する。

c 余剰に人を採用しない。人件費は業種によっては固定的で、占める割合が大きく、利益を圧迫する要因になる。そこで、必要な人材しか採用しない、という慎重な姿勢が必要である。バブル経済期には人手不足という状況に流され、必要以上に新卒者を採用し、バブル経済崩壊以降に、その人たちの人件費の増加や処遇に困っている。

c 採用した人が、組織の中で能力を十分発揮できるかどうかの適合性を、採用試験では見ていく。十分能力を発揮できないリスクを考え、試用期間やアルバイト採用を設ける慎重さも重要。