(1) 古典的リーダーシップ論(1920年代)
a テイラーに代表される科学的管理法では、最も優れた労働者の生産性を基準にして、その基準以上の成果をあげた労働者へ報酬を、基準以下の成果の労働者には懲罰を与えるリーダーシップを取った。経済的報酬による動機づけがリーダーシップの源泉になると考えられていたのである。テイラーは労働者の業績だけに着目したリーダーシップである。
b ファヨールは管理原則の中で、上司が統制できる部下の範囲を言及した。
(2) 人間関係論のリーダーシップ論(1920年代)
a 人間を機械のように扱い、経済的なアメとムチで労働者を管理するやり方に対して反発が生まれた。
b 生産性と作業環境の関係を検証したホーソン実験の結果、マグレガーらはリーダーシップの有効性を良好な人間関係による動機づけに求めた。いわば、リーダーシップを人間関係に求めたものである。
(3) リーダーシップのタイプ論(1930年代)
a 社会心理学者のレヴィンは、リーダーが行使するリーダーシップのスタイルを民主型、専制型、放任型の3類型に分け、どのようなスタイルが有効かを明らかにした。
b 民主型リーダーシップ…メンバーの意見を尊重しながら意思決定をし、目標達成のためにメンバーを引っ張っていく。リーダーとしてトップダウンのリーダーシップと、メンバーからのボトムアップを使い分ける。
c 専制型リーダーシップ…リーダーの意思決定をメンバーへ徹底し、目標達成のためにメンバーをトップダウンで引っ張っていくスタイル。
d 放任型リーダーシップ…リーダーは権限を部下へ委譲し、ボトムアップを中心にして意思決定を行い、メンバーが自律的に行動をして、組織目標を達成していくスタイル。
e レヴィンはグループダイナミックスの実験で民主型リーダーシップが3類型の中で有効であると結論づけた。
f 最近、インタービジョンというコンサルティング会社ではパーソナリティの因子を分析し、その因子を元にタイプ別に分けている。パーソナリティの因子を凝縮性(自分の価値観を大切にして頑固な指導を行う)、受容性(外部の環境に敏感に、柔軟に、寛容に対応していく)、弁別的(論理的、分析的に考える)、拡散性(新しいことを求める)、保全性(現状を維持したい)に分け、その因子の多少により、マネジメント型、タグボート型、アンカー型、リーダーシップ型の4種類に分ける。マネジメント型は日本人のもっとも多いタイプのリーダーで、現場重視でじっくり地味に経営する。タグボート型は次に多いタイプで、挑戦志向で新規事業向き。もっとも少ないのはリーダーシップ型とアンカー型。リーダーシップ型は1つのパターンで推し進めていく、成長時に向いている。アンカー型は厳しい守りの経営に向く。
?(4) マネジリアル・グリッド理論(1950〜1960年代)
a リーダーの関心を仕事の成果と人間関係へ類型化し、どのようなリーダーシップスタイルが有効かを研究した。ブレイクとムートンは、チーム型のリーダーシップが理想とした。
b リーダーシップの基本型
c 「無関心型」(1.1型)…このタイプの上司は部下に対して放任であり無関心。仕事に対して責任を回避したり、自己防衛的な振る舞いが多い。その結果、職場の中で上司の存在感が薄く、職場も統制が取れず、成果は低い。
d 「社交クラブ型」(1.9型)…このタイプの上司は部下や同僚との人間関係を重視するが、目標に対する業績には関心をあまり持たず、結果として職場を仲良しグループのような雰囲気にする。業績や成果を求められる職場では望ましくない。
e 「鬼軍曹型」(9.9型)…業績遂行に最大の関心を持ち、部下を目標達成の手段として考え、強力なトップダウン統制で成果を挙げようとする。業績や成果はそこそこあがるものの、コミュニケーションや配慮のなさ、部下を育成する姿勢が上司にないことから部下が離れてしまう。ドラマでは若月がこのタイプのリーダーシップかもしれない。
f 「バランス型」(5.5型)…業績と部下に対する関心がほどほどにあるタイプで、コミュニケーションを重視する。あまり無理しないで、適度な成果をあげていく。このドラマで言うと初期の面川がこのタイプかもしれない。
g 「チーム型」(9.9型)…上司が部下に対して関心を持ち、上司と部下が密接なコミュニケーションを行い、相互信頼の関係にある。一方、上司と部下の間で目標が共有され、部下が目標達成に対して努力をし、上司が献身的に部下を支援し、育てていく。仕事と人の運命共同体的なチームで理想的な形であるが、なかなかこのタイプにまで到達しないのが現実。
(5) PM理論(1960年代)
a 社会心理学者の三隅が唱えた理論で、部下が認識する上司のリーダーシップを調査し、構築したリーダーシップの行動モデルである。マネジリアルグリッド理論のように2軸で考えるが、その尺度を目標達成機能(P)と組織維持機能(M)におき、これらの機能に影響を与えるメンバーの行動をリーダーシップと定義した。
b PM式指導類型

c 部下が上司の目標達成機能(P)と集団維持機能(M)がより強いと認識する組織ほど、生産性、欠勤率や転職率、職場の雰囲気、部下の職場に対する満足度、生産性向上欲求が高くなる結果になった。
d 目標達成機能と集団維持機能の比較であれば、上司の集団維持機能への強い認知が目標達成機能より良好な結果が得られる。
e 面川はpM型とPM型の中間くらいで、若月はPm型のリーダーシップであろう。ホテルの業績が向上すれば、若月は集団維持機能(P)を強めて行かなければ、ホテルの中で浮いてしまう懸念がある。一方、面川は社長からのノルマ達成が厳しくなってくれば、目標達成機能(P)を強めざるを得ない。
(6) 条件適合理論(1960年代)
a フィドラーによって提唱された、当時、マクロの組織論で台頭していたコンティンジェンシー(条件適合)理論を、リーダーシップ論へ適用した理論。この理論では、リーダーシップが集団の業績に与える影響は、リーダーが部下に接する際のスタイル(人間関係志向か仕事志向か)と、リーダーがその状況下で与えられる支配力および影響力の大きさとが、適合しているかにかかっているとした。フィドラーはあるリーダーが仕事志向か人間関係志向かを測定するための手段としてLeast
Prefered Coworker、LPCを作った。
b フィドラーモデル
・好ましい状況とはリーダーが強力な支配力を持つ状況。もっとも好ましい状況では、上司と部下の関係、仕事の構造、職位の権限の各要因が良好だったり、強い。
・上司と部下の関係は、部下が上司に対して信頼を持っているのか、いないのかの程度。
・仕事の構造は部下の仕事範囲が明確に定義されているかの程度。
・職位の権限は雇用、昇進、昇級、解雇に対してどの程度の影響力を持つかの程度。
c フィドラーモデルでは、好ましい状況と好ましくない状況では仕事志向のリーダーシップスタイルの方が業績は良い。普通の状況では人間関係志向のリーダーシップの方が良い。
d リーダーシップの改善方法は1つは状況にもっとも合ったリーダーを選ぶことである。もしくはリーダーに合わせて状況を変えることである。
(7) パス・ゴール理論(1970年代)
a 従業員の目標達成を支援するのはリーダーの職務であり、目標達成に必要な方向性や支援を与えることは組織の全体的目標にかなう。
b パス・ゴール理論のモデル
・結果へ影響を与える要因は、リーダーの行動、組織構造やシステム、部下の特性であり、各要因が適合していないとリーダーシップは有効に結果を出せない。
・リーダーシップが環境に欠落している要素、部下に欠けている要素を補う場合には、部下の業績と満足度は高まる事が多い。
c 理論から導き出されたいくつかの仮説
・指示型リーダーシップは環境要因があいまいで、部下のストレスが多いとき、満足度を高くする。
・支援型リーダーシップは、部下が明確なタスク(仕事)をしているときに、好業績と高い満足度をもたらす。
・公式の権限関係が明確かつ官僚的であるほど、リーダーは指示的行動を減らし、支援的行動を取る。
・行動統制の所在が自分にあると思っている部下は、参加型リーダーシップに満足する。反対に統制の所在が外部にあると思っている部下は指示型リーダーシップに満足をする。
・達成志向型リーダーシップは、タスク構造が曖昧な場合、努力すれば好業績へ結びつくという期待を部下に与える。
・高い経験と能力を持つ部下にとって、指示型リーダーシップは不評である。
(8) 状況適応理論(1980年代)
a ハーシーとブランチャードの理論が基本になっているモデル、部下の能力や意欲によってリーダーシップのスタイルを変えるべきである、と提案した。
b ハーシーとブランチャードのモデル
c 「管理型」…部下の能力も意欲も低い場合、あれこれ指示を与え、仕事をしっかり管理しないと目標の達成は難しい。業績達成に重点が置かれるため、部下を育てようという支援的行動は少ない。
d 「コーチ型」…部下の能力は低いものの、やる気はあるので、仕事を教える支援的行動を増やし、業務遂行能力を高めるコーチ的役割がリーダーにとって重要になる。一方、部下の意欲はあるので、あまり指示的行動をすると逆効果になるため、指示的行動を少なくする。
e 「チアリーダー型」…部下の能力は高いものの、仕事への意欲があまりない。その場合、リーダーは部下のやる気を出させるために支援的行動を多くし、動機づける。意欲が弱いため、指示的行動はますますやる気をなくさせる懸念があるため、あまりしない。
f 「委任型」…部下は能力も意欲も高いため、支援的行動と支持的行動が少なくても、目標さえ共有できていれば成果をあげてくれる。部下を信頼して、仕事とその管理を任せてしまうリーダーシップが合っている。
(9) 修正状況適応理論
a リーダーシップのスタイルは部下の能力や意欲といった成熟度だけでなく、リーダーシップを行使する時の周囲(環境)からの圧力も大きな影響を与える。例えば、迅速な成果やきわめて高いせいかを求められる厳しい環境と、そうでない環境では、リーダーシップのスタイルは違うであろう。そこで、ハーシー&ブランチャードのモデルを修正したモデルを提案しておく。
b リーダーシップ・マトリックス
c 「参画型」…部下の成熟度(能力と意欲)は高いものの、厳しい環境下で目標達成を要求される場合、リーダーが先頭に立って部下と一緒に迅速かつ確実なな意思決定と行動を行い、目標達成をする必要がある。
d 「管理型」…環境の圧力が厳しい状況で、成熟度の低い部下へリーダーシップを行使する場合、指示を確実に実行させたトップダウンによる管理型のスタイルが望ましい。
e 「委任型」…環境圧力が弱い状況であれば、比較的余裕のある部下へのリーダーシップが可能である。成熟度の高い部下であれば、動機づけを考え、権限を委譲し、部下へ自律的な行動を容認する。
f 「コーチ型」…部下の成熟度が低い場合、環境の圧力が弱ければ、余裕のある活動が可能である。そこで、部下を育てるという視点でコーチ型のリーダーシップが望ましい。
(10) 変革型リーダーシップ(1980〜1990年代)
a マネジャーが業務管理的な指導力を要求されるのに対し、変化の激しい環境ではリーダーは先導的指導力を発揮すべきという議論が生じている。
b 変革型リーダーシップでは、変革の必要性の認識、新たなビジョンの創造、変化の実行、変革の定着化というプロセスを繰り返し行う能力が必要とされる。面川に要求されているリーダーシップは変革型である。