〜組織再生のマネジメント〜

「人生の勝負は、第二章から」

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第5回 やる気にさせるマネジメント
第5話 「心のホテルって何ですか」
(1) あらすじ

 面川が本音で従業員を説得したことで、辞めようとしていた従業員は一緒にやっていくことになった。しかし、予約のキャンセルが相次いだため、従業員は不安になる。近隣の大型ホテル、八ヶ岳ニューブライトンホテルが、3万円の料金を2万へ値下げするキャンペーンをしたため、1泊23,000円の八ヶ岳高原ホテルの客がそちらへ流れたのである。「小さなホテルのきめ細かいサービスを好む人もいる」という面川の説明に、「ホテルは夢と綺麗事だけでは経営できない」と若月は怒る。そこで、面川は東京へ営業活動に出かける。3ヶ月間、客室稼働率7割を維持しないと獲得できない利益水準がノルマで、それを達成できないと面川は更迭される。
 従業員たちは暇を持て余し、自分たちの努力でどうにかしようという意識も出てくるが、山村が厳しい現状を指摘し意気消沈する。そんなとき、近くでペンションを経営する貫井が宿泊予約のダブルブッキングのミスをする。貫井の話を関麻美が聞き、面川と若月がいない場で紹介し、従業員たちが独断で貫井へ会いに行く。しかし、貫井はホテルとペンションの間では貸し借りはしない、とその場で断られる。不思議に思った若い従業員達に対して、ホテルの料金と貫井のペンションの差額を、貫井が負担しなくてはならない、と若月は怒る。
 ところが、中原や石塚が費用を切りつめるのでやらせて欲しい、と言い出した。そんな従業員の熱意を見て、面川は貫井のペンションと同じ1泊15,000円でやることを決めた。従業員の士気は上がる。小池は費用のかかる夕食をバイキング形式にし、周囲の農家や取引先の協力で食材費を切りつめた。従業員がアイディアを出し合って、15,000円で赤字にならないようにコストを抑える努力をしたのである。貫井は差額を負担せずに客を引き受けてもらえて喜び、従業員たちは自分たちの努力で20名のお客を獲得できたことを喜んだ。
 ホテルにやって来た甲府中央大学のバスケットボールのチームは、ホテルのサービスに満足して帰っていった。また、キャンセルをした客に対して面川が丁寧な案内状を送ったことで、また、客の予約が戻ってきた。今回の件で恩義を感じた貫井が観光協会へ口利きをしてくれたことで、新たな地元顧客も獲得できた。面川は心の底から従業員へ感謝し、自分が孤独な経営者ではないと感じた。

(2) ドラマのポイント

a 従業員はなぜ自分たちの力でなんとかしようという気持ちになったのか?

面川が本音でホテルへの想いを話してくれたので、若い従業員の気持ちに変化が生まれた。特に客に暴力を振るった中原は、それを許し、一緒に働いて欲しいと言ってくれた面川に感謝し、信頼し始めたかもしれない。また、プレオープンで神崎を、失敗したが最初の客を迎えて、ホテルマンとしての仕事に楽しさを感じ、この仕事を失いたくないという気持ちも次第に芽生えてきたかもしれない。そうした時に、八ヶ岳ニューブライトンホテルという外部の共通の敵が予約客を奪い、面川を始め従業員の間で危機感を共有したことが、従業員が自発的に事態の打開を考える引き金になった。

b 従業員たちが何とかしようと言う機運になったっとき山村の言動はどう影響を与えたか?この場合、山村をどう説得したら良いか?

組織のメンバーが一致団結したとき、それに対して客観的であたったり冷ややかな態度を取るメンバーが出てくることは良くあること。こうした異なる意見は、自分たちの考えが果たして正しいのか、再考する材料になり、大切にしなくてはならない。しかし、否定的なメンバーがいると、組織の勢いが失われることも確かである。そこで、山村を説得し、自分たちの動きに協力してもらう必要がある。そこで、山村にホテルという新しい仕事を体験させてくれる、このホテルの存続が重要であることを再認識させる。いわば、誘因とその行動の結果もたらされる報酬を山村自らに認識してもらうのである。その上で、現状を打破するための解決策を山村自身にも考えてもらい、その解決策を実行するにあたってどのような貢献ができるか考えてもらう。山村が当事者となり、これまでと違った能力を発揮できる機会に恵まれれば、山村自身の自己実現欲求に火をつけることになるからである。また、山村と若い従業員間のぎくしゃくした感じが、こうした協働で解消されれば、彼女の社会的欲求が満たされ、よりホテルへ貢献しようという気持ちになろう。

c あなただったら、若月のように赤字を嫌い貫井のペンションの客を断るか。それとも面川のように8,000円の赤字をなるべく圧縮して貫井の客を引き受けるか?

客を引き受ければ赤字の可能性もあるが、客を引き受けなくても従業員の給与、最低限の光熱費等の固定費は発生し、結局は赤字になる。それであれば、安くても客を引き受け、固定費分だけでも回収した方が良い。第二に客商売で客がいないというのは従業員のやる気を非常に削ぐ。時間を持て余し、余計な葛藤を生みかねない。夏のシーズンに客が一人もいないというのが、他の業者などに分かれば、ホテルの悪い評判を立て兼ねられない。第三に、前回のドラマで見たように、従業員はホテルの業務に十分な能力を持っているとは言えない。そこで、より多くの経験を積む必要がある。以上の3つの理由から、貫井の客を引き受けた方がよいと考える。

d 近くのライバルホテルが値下げしたら、あなたが面川ならどう対抗するか?

価格競争になれば、経営の体力(特に資金面)がある方が強い。また、一度、料金を下げてしまうと、再び料金を戻そうとするのは非常に苦労する。そこで、八ヶ岳高原ホテルのように小さなホテルは料金を変えず、他の付加価値のあるサービスを提供する、差別化が望ましい。例えば、散策に従業員がつきあう、ディナーでシェフお薦めのワインを無料で出す、など、料金の差があっても選んでもらえるような独自サービスを提供する。

2. 動機づけのメカニズム

(1) なぜ仕事をするのか

a 受動的・・・命令によって行わされる仕事。

b 主体的(誘因に反応)・・・人間の動機づける様々な誘因(動機づけ要因)に反応して仕事を主体的にしていく。


(2) 動機づけとは何か

人間のある特定の言動を引き起こすよう、促すための働きかけを動機づけと呼ぶ。何によって行動を促進できるかは、個人的特性(価値観、目標、性格)、置かれた状況によって変わってくる。

?(3) 「人間関係論」byメイヨー

1920年代に行われたGEホーソン工場で行われた実験から生まれた理論で、良好な人間関係がやる気を引き出すという結論が導き出された。
しかし、人間関係は動機づけの一要因に過ぎない、という批判がなされた。

(4)「欲求階層説」byマズロー

マズローは人間の欲求が下図のように階層的になっており、下位の欲求が満たされると上位の欲求へ関心が移るとしている。非常にわかりやすい理論で、説得力も感じられるが、人間の欲求は整然と階層になって欲求の高次化していく、というのは現実的ではないという批判がなされた。例えば、若い従業員達は、彼らが望む快適な生活を得ていないが、仕事にやる気を見せ、積極的に参加している。こうしたアトランダムな欲求に関しての説明を、マズローのモデルでは説明できない。

「マズローの欲求階層説」


(5) 「X理論Y理論」byマグレガー

a X理論・・・従来の組織における性悪説に基づく人間観で、従業員は主体的に働きたがらないし、責任も持ちたがらないから、飴とムチで管理しろという管理手法が望ましい。若月はX理論の人間観で従業員に接しているようである。

b Y理論・・・人間は仕事の内容によっては進んでやるし、責任も持ちたがる、という人間観。そこからの管理は職務の内容を多様化する職務拡大と、権限を委譲するなどの職務充実などが提案される。面川はX理論の人間観より、Y理論の人間観を持っているようである。

(6) 「マクレランドの理論」byマクレランド

欲求を達成欲求、権力欲求、親和欲求に分類し

a 達成欲求の強さは職務業績と強く相関するが優秀な管理をするかどうかはわからない

b 親和欲求と権力欲求の強さは管理能力の高さに相関する

c 権力欲求が強く、親和欲求が弱い管理者がもっとも高い業績をあげた

という結論が導き出された。
さて、面川はホテルを成功させたいという達成欲求は強いが、権力欲求や親和欲求はさほど強くない。若月は親和欲求は弱く、達成欲求と権力欲求が強い。マクレランドの理論からすると、若月は業績達成も管理もうまくできるはずであるが

(7) 「動機づけ-衛生理論」
byハーズバーグ

a動機づけを衛生要因と動機づけ要因に分類し、衛生要因は不満の予防につながり、動機づけ要因は仕事のやりがいにつながる、という結論をくだした。

b 衛生要因=賃金、労働環境、人間関係、仕事以外の外発的要因

c 動機づけ要因=仕事の達成感、他者の評価、仕事の内発的要因



若い従業員にとっては相部屋であったり、給料も出るかどうか分からず、不満も多い。しかし、自分がやりたい仕事がホテルの中でできる、という自己実現欲求を追求できるため、満足感を得られる。

3. プロセスに注目した動機づけ理論
(1) 「公平説」byグッドマン&フリードマン

職務に対する労力とそこから得られる報酬を天秤にかけ、その
バランスが他者や経験上公平と評価されていることが動機づけになる。

(2) 「強化説」byルーサンス、ハムナーら

人間の学習効果により。適度な報酬は動機づけになるが、報酬がなかったり罰せられた
りするとその行動は控えられてしまう。

(3) 「期待説」
byポーター&ローラー

人間行動は努力が報酬につながる期待と、報酬の魅力によっ
て決まるという、動機が形成される過程を論理立てて説明したモデル。与えられた目的に対して、過去の経験や与えられた情報から達成すると満足するという期待の下で努力をする。努力に本人の能力と資質、自分はその仕事で成果をあげなくてはならないという役割の知覚が加わり、業績があがる。業績は努力によってもたらされるという期待が、次の努力を生む。業績の結果、経済的、精神的報酬を得、満足する。それが、思っていた報酬どおりであれば、次の努力に結びつく。



例えば、第3話でプレオープンの客、神崎を喜ばせなければ、批評記事で悪く書かれるという誘意性とうまくやればホテルを評価してくれるという期待がある。そこで、面川を始めとして神崎のために努力をする結果、従業員達の持ち前のホスピタリティと目的意識も加わり、神崎を喜ばせることができた。厳しい評論家である神崎から感謝された、という精神的な報酬が期待に反するのものだったため、いっそう面川らは満足感を高めた。その結果、顧客に感謝される喜びは、ホテルの仕事に対してやる気が生じる。また、神崎から誉められた事は、努力すれば誉められるという期待を生み、努力をいっそうするようになる。

(4) 「目標設定モデル」

人間は自己成長の欲求があるため、より困難な目標のほうが動機づけが強くなる。

4. 今時の若者をやる気にさせる
(1) 組織は自己実現の場

マズローの欲求階層説は、いろいろ批判もあるが、人間にとって自己実現が重要で、組織が自己実現の機会を与えることで人をやる気にさせる、という重要な示唆を与えてくれた。その後、マグレガーは人が自己実現につながると理解した仕事に対して自ら積極的に責任を持って仕事をするというY理論の視点を提示した。経済的に豊かになった日本では、マズローの言う生理的欲求や安全欲求は満足させられる状況にある。自己実現欲求、尊厳欲求、社会的欲求といったハーズバーグの名づけた動機づけ要因を満足させられない職場では、反対に衛生要因に目が向きやすくなる。あまり仕事をやりたがらない、ととかく批判される今時の若者であるが、彼らは関心を持てば他の世代と変わらないコミットメントをする。

(2) 若者を使うのではなく、動かせ!

若者は上司に使われているという意識を持てば、支持されたことしかしないし、仕事に責任も感じない。自分が主体的に動いていると思えば、責任を感じ、懸命に働く。そのため、若者が自ら動こうとするように動機づけることが大切である。今回の話では、若い従業員達が貫井の客を引き受けようと自発的に言い出し、責任を持って仕事を遂行した。これは面川の従業員に対する動機づけが効果を発揮したとも言える。

(3) 若者を動機づける要因


a 自分の関心や趣味に近い仕事へは動機づけられる。
そのため、仕事と彼らの関心を結びつける仕掛けを用意する。例えば、ファッションに関心がある石塚が面川へ制服を提案していたが、若い従業員に制服のデザインとサービスをセットにして企画させることで、ホテルのサービスや仕事に関して考えさせるのである。

b トップダウン方式のリーダーシップだけではだめ。
自ら動かない従業員へはトップダウン方式で強制的に仕事をさせることも重要だが、民主的教育の中で育ってきた彼らの意見も尊重し、取り入れることも重要である。ただ、このドラマの中であったように、若い従業員が上司に無断で貫井の客を引く受けようとした時、報告や相談無しの行動がどのような問題を生じさせるかを説明し、若い従業員の自発性を尊重しつつも、組織としての統制を図った面川のリーダーシップは見習うべきである。

c 仕事を任せる
若い人の中でも、特定の前提が満たされればやる気を起こす人も多い。仕事にやる気を示したときに、すかさず、その仕事を任せてみる勇気も大切である。もちろん、任され放しだと若い従業員は不安になり、尻込みする。また、仕事を任せた上司も不安であろう。そこで、緊密なコミュニケーションを取り、適宜アドバイスしていくことが必要である。

d 仕事の成果を迅速に報酬で報いる。
若い人たちは比較的、気が短い事が多い。自分があげた仕事の成果が、短期間でフィードバックされることを好む。報酬は経済的なものだけでなく、誉めたりすることでの精神的報酬でも良い。

e プライドを満足させる。
少子化の中で育ってきた彼らは、比較的プライドが高い。他者の目を意識し、その他者に認められたり、優越感を得たいという気持ちが強いのであろう。そのため、人前で誉めることや、仕事自体にステータスを持たせることで、彼らのプライドを満たすとやる気を出す。他人に認められたいのである。また、他者との違いや個性を引き出すような仕事のさせ方をすると、やる気が増すようである。

f 自己実現を満足させる。
最近の若者の間で職人が人気だそうだ。何かをつきつめ、他者より秀でた能力と地位を得ることに欲求を持つため、職人の人気が高いようである。しかし、そこまで到達する時間が長すぎ、多大な努力を要することは好まない。

g 職場環境が良い。
人間関係や職場が小ぎれいというのも重要である。こうしたことへの耐性が弱くなっているようである。

h 会社のやり方を過度に押しつけず、本人が納得した上で行動するようにする。若月のような注意の仕方をしていると、それが正論であっても「むかつく」というように反発されたり、切れられてしまう。

(4) 八ヶ岳高原ホテルの従業員別動機づけ方法

a 本間さおり・・・面川へ不信感があるものの、優等生。彼女には頼りにしている、ということを常に伝えて尊厳欲求を刺激する。そうすると、期待に応えようという意識から頑張る。ただし、期待の重さに潰されないよう、支援を怠らないようにする。このドラマでは、父と面川の確執がさおりの誘因を下げる要因になるので、早めにそのことについて話し合うべきであろう。

b 石塚章一・・・彼は若者らしい軽さとともに、苦労人でもある。彼はお世辞とも取れるくらいオーバーに誉めることで、成長するタイプである。また、ホテルのバーテンダーに憧れていたという発言があったが、バーの経営に関してある程度知識もあるので、権限を委譲すると良いであろう。

c 山村久美・・・仕事をサボるし、上司の言うことには反論する。それは彼女がボイラー工や電気工としての能力に自信があるからであろう。彼女のようないわば職人気質の従業員は、プライドが高いので細かいことを注意したり、プロセスの管理をせず、目標管理し、その達成度のみを評価する方がよい。シェフの小池も山村に近い動機づけが良いであろう。

d 中原友也・・・かってアメリカのホテルで5年間働いた経験があり、合理性を重視し、自立した人間。そのため、仕事を命令する場合、なぜ、この仕事を中原に任せたたかの理由を明確にし、納得させる。自立したホテルマンゆえに、自己実現できる場を提供し、専門制に富んだキャリアパスを提示してあげる。

e 関麻美・・・離婚した子持ちの女性ゆえに、仕事を得られたという安堵感が強い。彼女を戦力化するためには、彼女の適性に合ったホテルの特定職務を見つけ、専門性を高めることで動機づけするのが良いであろう。

(5) 危機感の効果

今回のドラマでは八ヶ岳ニューブライトンホテルという外部の敵が現れた。組織の内部固めには、こうした外部の敵を使うのは効果的である。外部の敵が自分たちの存立基盤を揺るがす危機と認識をメンバーで共有できれば、メンバーは目先の利害や感情を忘れ、大きな敵に向かって一致団結する。