〜組織再生のマネジメント〜

「人生の勝負は、第二章から」

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第6回 組織構造と形態
第6話 「新婦の涙にかすむウエディング」
(1) あらすじ

 ホテルには順調に顧客が来るようにるが、社長からノルマの達成を厳命されている若月の表情は冴えない。そんなとき、近隣のペンションオーナーである貫井の友人が八ヶ岳高原ホテルで披露宴をしたい、と言ってくる。従業員は初めてのおめでたいセレモニーなので、やる気満々。人を楽しませることが好きな石塚は特に大張り切り。ところが、新婦の清美は石塚のかって振られた恋人だったので、石塚は複雑な気分だった。新郎新婦がホテルへ下見にやってくるが、披露宴のやり方で喧嘩になる。そんな二人の様子を見て、石塚は気分が乗らない。面川は石塚の態度を不審に思い、問いただすが、石塚は答えない。石塚から事情を打ち明けられた若い従業員たちは、石塚に同情し、石塚を介助係から外して欲しいと面川に頼む。
 そして、披露宴の当日が来る。介助係として清美の近くにいる石塚は辛そうな表情で見つける。山村からそそのかされた石塚は、ウェディングケーキ入刀の瞬間、「ちょっと待ってください」と声を張り上げる・・・

(2) ドラマのポイント

a 披露宴を盛り上げようと頑張る従業員に対する面川のリーダーシップぶりをどう思うか?

結婚式という幸せな気分になれる楽しい仕事ゆえに従業員は自発性を出している。その自発性に対し、面川は若い従業員に任せつつも、締めるところは締めている。

b 中原、本間、山村が石塚を介助係から外して欲しいと言いに来たとき、なぜ、面川は「石塚君を信じてあげよう」と断ったのか?

組織というのは協働システムゆえに、他のメンバーを信じて協働するのが基本。また、部下は上司が信じることから育つ。ここで面川が。石塚を降板させていたら、この結婚披露宴の失敗の確率は減るであろうが、石塚の貢献意欲は低下し、長期的にマイナスになる。

c 面川と若月、部下や仕事に対する2人の姿勢を考えてみよう?

マグレガーの理論で言えば、面川はY理論での部下への対応し、若月はX理論での部下への対応である。どちらが望ましいかというと、現実にはY理論の管理だけでは業務がしいかり遂行できないし、X理論の管理だけでは部下がやる気を出さないし育たない。使い分けが重要である。

d 謝りに来た石塚に対しての面川の言葉は、リーダーとして適切だろうか。

石塚の取った言動を、顧客のためにという精神があったので肯定し、落ち込む石塚を励まし、ホテルマンとしてのやる気を出させた。

e 石塚は今回の件でどう変わるだろうか?

仕事と私的感情を切り離すことは難しい。今回、私的感情を抑え、ホテルマンとしての仕事を優先して、顧客のために行動できた石塚は一回り成長したと考える。

f 若い従業員のチームワークはどう変化してきたか、なぜ、変化してきたのか、考えてみよう。

自発的に仕事をしながら、互いに触発し合い、自己抑制しながら働けるようになった。その結果、従業員の働く満足感も高まっているであろう。こうした変化の背景には、数度の危機を協力して乗り切ったことから生まれた連帯意識と、従業員間の相互理解や相互尊重の深まりもあると考える。
2. 組織構造

(1) 経営資源の組織化

a 一人だけで事業を行うときには組織は必要でない。複数の人間が働くとなると、そこに命令・指揮系統、分業などの枠組みが必要になる。それが組織である。

b 事業を行うために経営資源が調達されると、その経営資源を組織という枠組みに当てはめ、事業を効率的に行えるようにする。

(2) 組織構造

a 組織の中で変化しにくいものを組織構造と呼ぶ。

b 組織構造には、組織形態、各種のシステムとプロセス、組織文化などが含まれる。

(3) 公式組織とインフォーマル・グループ

a 公式組織は、正式に認知されている命令・指揮系統をベースに、経営資源が割り当てられた組織である。

b インフォーマル・グループ…公式組織とは別に発生する、性sきな命令・指揮系統をベースにしない、規範と統制が緩やかな集団。会社の中の派閥や仲良しグループが代表的な例になる。八ヶ岳高原ホテルでは若い従業員のグループ、地元従業員のグループ、経営者グループというインフォーマル・グループがあると思われる。

(4) 機械的組織と有機的組織

a 機械的組織…職務が明確に分業され、分業しているメンバー同士が権限の行使と受容以外で相互作用をせず、また、意思決定や仕事の進める手順が固定的な組織の特性を機械的組織と呼ぶ。組織の環境が安定的で、単純な構造の場合、職務が定型的な特性であれば、機械的組織の方が効率は良い。機械的組織の代表は官僚制組織。

b 有機的組織…異なる職務を担当するメンバー同士の権限の行使と受容以外にも相互作用を行い、意思決定や仕事の手続きが柔軟に行われる組織を有機的組織と呼ぶ。組織の環境の変化が激しく多様である場合、職務が非定型的な特性である、経営資源が限られていて分業だけではうまくいかないならば、有機的組織の方がうまく行く可能性が高い。

(5) 経営戦略と組織構造の関係

a 組織の経営資源を組織環境に合わせて活用し、環境の中で組織を生き延びさせるための考えや方法を経営戦略と呼ぶ。

b 組織構造は経営戦略を作り、その経営戦略を有効に具体化し、成果をあげるために組織構造を作る、と主張する経営研究者がいる。一方で、組織構造の中でも戦略を立案する際の意思決定へ影響を与える組織文化やシステムが経営戦略へ影響を与えるという、いわゆるプロセス型経営戦略論者もいる。結論的に言えば、どちらが上位概念と言うことではなく、相互作用を与え合う関係といえる。

3. 組織の指揮系統と形態
1)命令指揮系統



ライン組織は命令の一元性に優れ、トップの意思決定が下位者へ伝わりやすい。反面、組織内部の縦割りが強く、専門性を活かした内部交流が生じにくい、経営資源が有効に活用されないという問題がある。



ライン組織の欠点である専門性の視点に立った経営資源の活用が弱い、という弱点を解消するために考えられた命令指揮系統。部下は複数の上司を持ち、専門的な命令を受ける。命令の一元性が考慮されていないため、部下が命令の優先順位などで混乱する問題があった。



ライン組織とファンクショナル組織の欠点を解消するために生まれた組織。実線が命令関係、破線が助言関係。命令の一元性に優れたライン組織を基本にしつつ、専門性を活かすために助言関係を持ち込んだ。現代の組織構造の基本となっている。

「高原のホテルの組織」



八ヶ岳高原ホテルは面川支配人→若月副支配人→各従業員という赤の破線で描かれた命令系統を持つライン型組織である。しかしながら、若月がオーナーの矢野社長が派遣したお目付役であること、小池の存在感が大きいことから、黒の実線で描かれたライン&スタッフ型組織の方が実態に近いかもしれない。また、小さな組織ゆえに各業務間の相互作用は多く、手の空いているスタッフは忙しいスタッフを手伝うという有機的組織になっている。

(2) 組織設計のポイント

a ?命令の一元性・・・命令系統に関して、部下は一人の上司からしか命令されないという原則。命令の一元性が確保された組織は規律が正しく、上位者の意思決定が迅速な下位者の行動へ移せる。

b統制の範囲・・・1人の上司が担当できる部下の数。仕事の内容や状況によっても異なるが、経験則で15人前後と言われている。組織が大きくなり、メンバーが増えると、組織は上司(管理者)を増やして水平的分化をさせるか、部長、課長、平社員というように、組織を階層化(垂直的分化)して統制の範囲を逸脱しないようにする。

c 階層化・・・社長と平社員ならば2層構造であるが、社長が統制する部下の数が増えると、社長の下に部長という管理者を置き、社長は部長を管理し、部長は平社員を管理するという形にして、階層化することで統制の範囲を狭める。階層化した場合、階層を跳び越してのコミュニケーション、社長が平社員へ直接命令する、ということは命令の一元性を乱すので原則的に行われない。また、階層化すると、伝言ゲームではないが、社長の意思決定が直接平社員へ命令されるのではないので、組織の行動にスピードがかけたり、誤った伝達がなされる、平社員のモチベーションが下がるという欠点もある。

3)組織形態

組織の保有する経営資源が多くなると、組織を分化させ、経営資源の管理を容易にしようとする。組織の分化の基準によって、職能部門制組織、事業部制組織、マトリックス組織などに分類できる。分化の基準が職能であると専門性が活かされ、経営資源の有効活用がなされる。権限は集中しやすい。一方、事業部制組織は、各部門で重複した経営資源を保有され、一見非効率であるが、異なる環境に適応しやすいという長所がある。権限は各事業部門へ移された分権的組織で、権限を持つ一方、収益責任を負わされる。本社は事業部門間の調整と、組織全体の戦略を考えること、事業部門では行えない共通する業務を行う、といったことで業務を限定する。

a 分化の基準…職能、事業、地域、顧客

b 権限の集中度…職能部門制組織は集権的であり、事業部制組織は分権的である。

c 職能部門制組織…会社の中の仕事内容で、部門化した組織。単数か少数の事業を持つ企業が採用する。ある仕事に関しては特定部門に権限が集中しており、トップマネジメントのコントロールがしやすく、集権的組織といえる。そのため、環境変化の幅が大きいときは、こうした組織構造が採用されやすい。経営資源の重複も少なく、規模の経済性を追求するには効率の良い組織である。ただし、製品や事業が多様化していくと、有効なコントロールがしにくい。


d 製品別事業部制組織…製品事業部制組織は、製品や事業が多様化したときに、権限委譲による多様化した環境への適応を目的に採用される。事業部制組織は、大きく2つの階層構造に分かれる。会社全体をコントロールする本社機構と、担当する事業における責任を持ち、その事業に関して独立採算を取る事業部である。本社機構は各事業部の売り上げの一部を徴収し、その収入を基にして会社全体のビジョン・使命・経営戦略の策定、各事業部門間の調整、各部門共通に必要な経営資源とサービスの提供、会社の新規事業創出を行う。各事業部にはその事業に必要な経営機能を持ち、独立しても事業が成り立つ。会社全体からすると、各部門の分化が進みすぎると、各事業が保有する経営資源の重複、セクショナリズム(縦割り主義)、新規事業の経営資源調達の問題に直面する。



e 地域別事業部制組織…総合スーパーなどの広域的に事業活動を行う企業が、地域特性の多様性へ適応するために採用する。本社機構と各地域ごとの事業部の構造に分かれる。



f マトリックス組織…部門化の基準を2つ持ち、その部門化の基準を1つの単位組織へ適用する組織構造を持つ。図の例は製品別と地域別の2つの基準で構成されたマトリックス組織である。そのちため、単位組織は地域別事業部と製品別事業部の両方の命令・指揮系統に属する。マトリックス組織は多様化する環境に対して、限られた経営資源で適応しようと考えられたものであるが、実際にマトリックス組織を採用すると、命令の一元性がないために単位組織が混乱する、という短所が出てしまい、あまり採用されていない。そのため、部門からの命令・指揮権限に優先順位を決め、マトリックス組織のエッセンスを取り入れた形の組織も出てきている。