〜組織再生のマネジメント〜

「人生の勝負は、第二章から」

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第8回 組織のビジョン
第8話 「心に秘めた30年間の約束」
(1) あらすじ

 9月には20名の慰安旅行客の予約が入り、いよいよ満室になるときが来ることになり、従業員の意気が上がる。そんな時、一人の老婦人、水島絹江(八千草薫)が予約なしでやって来る。水島はかって小池や本間の父が働いていたニューマリーンホテルのオーナーの娘で、現在はオーナーである。
 水島は小池を散歩に誘い、「今、あなたを必要としている。」と小池を引き抜こうとした。ニューマリーンホテルの近くに新しいホテルができ、経営が悪化。大手ホテルから買収の誘いもある。そこで、小池を調理長として招き、巻き返そうというのである。本間から水島の意向を聞いた面川は悩む。若月は矢野社長から「ユナイトホテルグループから買収の話が来ており、10月に八ヶ岳高原ホテルを売却するので、9月で営業を終了するように」と命令される。水島は小池と二人きりで話をしたい、と言われ、面川はしかたなく了承する。そして、水島は翌日早朝、一通の手紙を置いてホテルをチェックアウトする…

(2) ドラマのポイント

a 八ヶ岳高原ホテルにとって小池はどのような存在か?

小池はシンガポールのオリエンタルホテルを矢野に売却され、職を失った苦い経験があり、それを防ぐために八ヶ岳高原ホテルへやってきた。

b あなたが面川ならば、小池の引き抜き話にどう対応するか?

転職するのは個人の自由であるが、組織の中核的人材であれば、その従業員が辞めれば組織の成果に大きなダメージがある。そこで、従業員が辞めないように説得する必要がある。説得のためには、従業員が辞める原因を把握し、その原因を軽減したり除去することが前提になる。辞める原因を軽減化、除去できない場合、他の誘因、例えば報酬の上昇や昇進などを説得の材料にしてみる。

c 水島に対する面川と若月の態度の差を考えよう。

面川は水島を一人の客として接したのに対して、若月は水島をビジネスの取引相手として接した。そのため、水島が小池を引き抜きに来たと知ったとき、面川は憂慮しながらも普段通り接したのに対し、若月は水島に帰ってもらおうとまで言った。ホテルマンとしては、客がどのような目的で宿泊していようとも客であり、犯罪目的や反社会的行動のために宿泊しているのでなければ、普通に接するべきである。

d なぜ水島は小池を引き抜くのを止めたのか?

最大の理由は小池が断ったからであろう。その結果、水島は料理だけに特筆したホテルではなく、料理を含めた従業員一人一人が優れたサービスをする自分の理想とするホテルを築く決意をした。

e 水島は自分のホテルをどのようにビジョンや理念で再建しようとしているのか?

高級な雰囲気と良質な料理でホテルを再建しようと考えていたが、八ヶ岳高原ホテルに来て、顧客一人一人に合わせたきめ細かいサービスを行える、暖かみのあるホテルにしようと考えた。また、従業員が顧客へサービスすることを喜びに感じられるような職場環境の整備や教育をしっかりし、従業員を育てることでホテルを再建しようと考えた。

f シェフは料理を作るが、美味しいと言わせるのはスタッフである。

小池の言葉であるが、ホテルの価値が一人の力で決まるのではなく、従業員一人一人の力の総体として決まることを言いたかったのであろう。

2. 組織のビジョン
(1) 組織のビジョンとは

a 組織のビジョン=組織が理想とする将来像

何を使命に持ち、どのような事業を行い、どのような成果をあげる組織になるか。例えば、「社会の要請に的確に対応し、社員が活き活きとして働ける会社。業界の中で競争優位を持続し、確実に成長し続ける。」

b 経営使命や経営理念を実現した際の将来像

例えば、「安全な食材を使って、お客様の食生活を豊かにするイタリアンレストランチェーンとして、全国に100店舗を展開し、売上高500億円を達成、株式を上場する。」

(2) ビジョンの役割

a ビジョンから組織の進むべき方向、目標、経営戦略が導かれる
?
ビジョンは組織が向かう目的地における組織の姿をイメージ化するものであり、そのイメージを実現するためには、今、どちらの方向へ向かうのか、そのための達成すべき目標を明確化し、目標達成のための戦略も導かれる。また、目的地へ向かうおおよそのスケジュールも理解できる。

b ビジョンが意思決定や行動をガイドする

ビジョンがはっきりしていると、ビジョンを達成することが重要なので、ビジョン達成のための意思決定や行動の基準になったり、影響を与える。

c ビジョンの位置づけ



(3) 良いビジョン

a 組織を成功へ導く
ビジョンは組織が正しい方向へ向かえるようなものでなくてはならない。これがもっとも重要。すなわち、成功のイメージを持つ必要があろう。

b 将来像イメージが伝わりやすい

組織メンバーの意思決定や行動の基準にならなくてはならないため、ビジョンがメンバーに理解しやすいほうが良い。

c 組織メンバーを動機づける

ビジョンを達成するために貢献意欲を持てるようなビジョンが良い。そのため、組織のビジョンを達成すると、メンバーにもメリットがある、というところまでの将来像を持つべきであろう。

(4) ビジョンの創造

a 経営者の価値観やパーソナリティから創造される。例えば、面川が前に潰したホテルがトラウマになっており、それ以来、職を転々とし、ホテルの経営をしたい、と熱望してきた。そのホテルとは異なった、個性を生かして顧客満足を高めるホテルに八ヶ岳高原ホテルにしたい、というビジョンが密引き出されている。

b 組織のメンバーの価値観や組織文化から創造される。

c 理想とすべき組織を手本にする。ビジョンレベルで、他組織を手本にし、そのまま組織の経営資源との適合を考えず導入すると、失敗する。しかし、手本にすべき組織のビジョンを、自らの組織の現状に合わせた形へ修正すれば、失敗をしないかもしれない。

3. ビジョンの優れた組織
(1) 優れたビジョンを持つ組織が繁栄する

この節はJ・コリンズの「ビジョナリー・カンパニー」の議論をベースにしている。コリンズは好調な経営業績を長期間持続している企業は、優れたビジョンを持ち、維持していると指摘した。

(2) 組織志向

a 1
人の優れたカリスマ的リーダーはいらない

1人の優れたリーダーが長期間の繁栄を作り上げることは難しい。優れたリーダーは長期の反映の基盤になるビジョンや遺伝子(組織文化)を創ることが重要。最近、GEの名CEO(最高経営責任者)と言われたJ・ウェルチの経営も批判されている。カリスマリーダーによる経営は短期的に評価されても、長期的に疑問をつけられることも少なくない。そこで、

b 優れたビジョンを持ち発展していく組織を作る重要性

ビジョンは組織の将来像ゆえにビジョン自体の優秀さと、そのビジョンを掲げ、達成しようとする組織のドライビングフォースになるようにすることが重要である。

(3) 
Visionary Companyの議論

a 現実的な理想主義

高尚な理想を掲げる一方、それがいつかは実現できるものでなくてはならない。

b 基本理念を維持し、進歩を促す

基本理念を崩さす、しかし、理念自体も進化させ、組織もそれに応じて進化していく関係を創造する。

c カルトのような組織文化

ビジョン、理念、使命への強い求心力を生み出し、メンバーの高い貢献意欲を引き出し、メンバー間のスムーズなコミュニケーションが得られる組織文化。ただし、組織は外部環境との相互作用が生存において重要な要因ゆえに、外向きの組織文化である必要がある。

d 多産多死の仕組み

優れたビジョンを生み出すため、多くのビジョンが変異的に生まれ、優れたビジョンだけが生き残るように淘汰が行われ、優れたビジョンだけが保持される。

e 遺伝子を受け継ぐ

優れたビジョンと優れたビジョンの創造が遺伝子のように引き継がれる。

f 基本的価値観を組織内部から見つける

この項目に関しては、Visionary Companyの作者であるColinsの考えとは多少異なる。組織内部から優れた基本価値を見つける姿勢は重要であるが、組織生き残りのための多様性を確保するため、外部の優れた基本価値を取り込むことでビジョンの進化を促すことも重要であると考える。

4. 経営資源と組織のビジョン
(1) 経営資源が組織を規定する

a
 経営資源からの制約

経営資源の質と量が組織を決める。

b 経営資源と上位概念とのミスマッチ

経営戦略やビジョンが組織の経営資源とミスマッチであると、その戦略の実行やビジョンの達成は難しい。そのため、戦略やビジョンは経営資源が規定するといっても良い。その一方で、ビジョンを達成するために経営資源とのギャップを埋めることを考えるのが戦略の役割でもある。

(2) 経営資源の束=組織

a
 組織構造→経営資源の有効処理のシステム

経営資源が有効に活用されるよう組織構造を設計する。ホテルの多様だが少数のスタッフ、八ヶ岳の自然と食材、特別な施設もない小さなホテル、乏しい資金。そうした長所を活かし、短所を目立たないような組織構造を作り上げる。具体的にはフラットでシンプルな組織形態、互いに仕事を助け合う有機的な組織構造、仕事を楽しみながら顧客満足を大切にする組織文化などである。

b 経営戦略→経営資源の効率的調達と有効活用をするための設計図

経営戦略は経営資源を調達、組織化、最適なアウトプットを産出する、生産と販売に関する設計図になる。具体的には、自然を生かした癒しの空間を作る、地元の食材を活かしたフランス料理を提供する、観光客だけではなく地元の顧客もターゲットにするマーケティング、などである。ただし、経営戦略は経営資源の影響を逆に受ける。特に従業員の価値観は、経営戦略の意思決定に影響を与える。

(3) 経営資源と経営の課題

a ビジョンと経営資源の適合性

理想としてのビジョンは大切にすべきであるが、現状保有の経営資源とのギャップ、そのギャップの解消方法を考える。ただし、ギャップが大きすぎるとビジョンが有効に機能しなくなる。

b
 ミスマッチを解消するための経営戦略

ビジョンと経営資源のギャップを解消する方法を示すのが経営戦略論である。そのため、ギャップの内容、質、量を明確にし、ビジョンと外部環境を考慮しながら、ギャップの解消方法を立案する。

c トップダウンとボトムアップのアプローチ

経営資源のビジョンのミスマッチの解消方法としては、リーダーによるトップダウン型の改革で、経営資源自体を短期間で変え、リーダーのの考えるビジョンに近づける方法がある。大胆な変化も期待できるが、不適合の問題が生じる懸念がある。反対に、従業員のボトムアップでビジョンを創造し、ビジョンを実現する方法は、現実的なビジョンになるため実現性は高いものの、ビジョン自体が旧来の延長で有効になりえない懸念がある。そのため、トップダウンとボトムアップをうまく両立させることも重要である。

(4) 経営資源としての歴史、ブランド、組織文化

歴史、ブランド、良い組織文化を創りあげるのは難しく、時間もかかる。こうした経営資源は組織の競争優位の源泉になるため、優れた歴史、ブランド、組織文化を創る努力を欠かさないこと。優れた歴史、ブランド、組織文化を創ることもビジョンに組み込む。そして、優れた歴史、ブランド、組織文化を確立したら、それを大切にしたビジョンや戦略を採用する。