第6回 「交渉の戦略」
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1.第6話
(1) あらすじ
シンデレラの試作品を製作依頼した工場の林田社長は、かってライテックスから仕事を打ち切られたことで恨みがあるようで、ハンパ課を潰そうと画策している橋本常務を呼んでこいと無理難題をつきつける。
橋本は林田と会うことを当初渋っていたが、ハンパ課にとどめを刺すため、林田と会うという。北野は橋本と林田との会談を成功させるべく、接待の準備を行う。北野は林田の工場の事情を知り…

(2) ドラマのポイント
A 北野が橋本常務を説得した仕方は適切か?
給料をもらっているなら仕事をしてくれ、という言い方は上司に対する説得方法としては不適切。林田と会うことが橋本、会社、ハンパ課にとってどのようなメリットがあるかを中心に説得するのが正攻法。ただし、ハンパ課を潰そうとしている橋本を説得するためには、橋本へのメリットを強調しなければならない。

B 二階堂は北野の行動をどう思ったのか?
ライテックスやハンパ課の利益を考え、上司のご機嫌を損なわないように仕事を進めていこうとする二階堂にとっては、北野のやり方はビジネスの常識を無視し、無鉄砲な仕事の進め方のように映っていたと思われる。

C 企業の接待は自分の利益のためにやる。
二階堂の言葉だが、接待は取引相手を喜ばせるためにやるが、最終的な目的は取引相手を喜ばせることで取引相手から引き出せる利得を最大化しようとする行為であると言いたいのだ。

D 北野はなぜ経験のない接待を成功させたのか?
北野は何をしたら林田を喜ぶかを純粋に考え接待した結果、林田は心から満足した。自分のことを考えてくれる北野と北野の属するハンパ課ならば一緒に仕事をしても後悔しない、と林田は考え、試作品生産を引き受けたのだろう。人間、誰しも自分のことを真剣に考えてくれる人には、その気持ちに応えたいと思うようになる。

E ビジネス交渉のプロセスに沿って今回のドラマを説明せよ。
Step1 シンデレラのシューズの試作品を作って欲しい。費用はライテックスが持ち、秘密保持が契約に加わる。
Step2 期限が迫っているが他の工場が見つからずここしかない。(二階堂)
借金取りに追われているくらい経営が厳しいがライテックスとは感情的なしこりがあって仕事をしたくない。
Step3 シューズの試作品を工場に一生懸命作ってもらい、工場もそれで経営を再建できる。
Step4 ライテックスとの過去が最大の問題点。当事者である橋本常務は林田社長に謝罪する気はなく、逆にこれを機に二階堂の計画にとどめを刺したい。
Step5 過去のしこりを流すために橋本常務と林田社長の接待の場を設ける。
Step6 双方とも接待は了解。
Step7 橋本常務は謝りそうもない。過去を洗い流すことは無理。橋本の態度にかかわらず、試作品を作るというように林田の気持ちを変える。

2.ビジネスにおける交渉
(1) 交渉=話し合いにより合意点に達する
a 双方向型コミュニケーションが基本
b 交渉の目的は問題解決
c 問題解決で利害関係の調整が必要

・交渉は互いの利害の違いから合理的に意思決定できない、葛藤という状況で行う行動。話し合いをしながら一定のルールの下に、信頼関係を築きながら合意点を見つけるゲームである。
・異なる目的や価値観を持った人々がコミュニケーションを取りながら合意点を見つける。力関係が変化し、それにあった交渉力の行使をしていく。
・互いの求める水準を落として妥協を見出したり、部分的な妥協点を見出したり、相手に有利になる他の条件を加えるなどの方法を、話し合いによって見出す。
・利害関係が複雑なほど、トレードオフが大きいほど、解決するのが難しい。

(2) 交渉の成功のポイント
a 限られた資源を活用→交渉力につながる
b ルールを守る
c 心理的駆け引き
d 互いに満足できる解決策が成功のポイント

・自分の持っている資源(カード)が相手の持っている資源よりどの程度強いか、その強さをなるべく長期間維持しなければならない。そのために、自分の資源が最大限活かされる条件を作っていかなければならない。
・心理的駆け引きは自分の交渉力を強化し、維持しようとする行動。そのため、冷静に、感情的なしこりにならないようにする。
・どちらかが不満を持つのは仕方がないが、互いの満足が高ければ高いほど、交渉は早くまとまる。

(3) 交渉のプロセス
Step1 解決すべき問題とルールの明確化
Step2 相手の状況と自分の状況を理解
Step3 双方にとっての解決策の望ましい水準を予測
Step4 対立点を明確化
Step5 もっとも望ましい解決策の提案
Step6 相手の出方を見る
Step7 妥協点を見出し協力関係に変える
3.交渉の戦略
(1) 交渉の種類
a ゼロサム型
分け前が一定、どちらかが得をすれば相手は損する。それが相手の不満を呼ぶことになるため、プラスサムの状況に変えてやる。謝る、謝らない、試作品を作る、作らないというのでは、どちからの望みを叶えられなかった方が不満を持つ。そこで、他の解決策、林田が試作品を作りたいという気にさせる、プラスサムに変えることが重要になる。
b プラスサム型
互いに協力しあい、パイを増やす努力をする。二階堂達にとってはシューズを作って貰えれば満足だし、作ってもらえなければ満足はない。そこで、林田が試作品を作る気持ちにさせる心理的動機づけを高めることが解決策となる。橋本常務の謝罪、娘の頑張る姿を見てもらうという解決の代替案を用意し、結果として林田が作りたい気になってパイは大きくなった。

(2) 交渉力の優位性の変化
a 相手の交渉力不変モデル
行政相手の許認可のようなケース。それを認めても認めなくても行政のメリットはない。そうなると行政の交渉力が優位になり、それが普遍的になる。
b 相手と自己の交渉力変化モデル
石油価格の交渉。供給が需要より多い場合、買い手が有利。逆の場合は売り手が優位になる。
c 自己の交渉力不変モデル
今回の二階堂達の立場。試作品を作ってもらえなければ、自分たちは解散になるということから常に弱い交渉力。

(3) 交渉の戦略
a 協調戦略=交渉の成果と関係の維持が求められている場合の選択。相手と協調して成果を獲得する。一緒に試作品を作り、それが林田の工場を再建することになり、二階堂のプロジェクトが成功することにつながる。
b 譲歩戦略=成果よりも相手との関係を重視して、長期でメリットを与える。最初の二階堂の林田に対する交渉がそれ。林田の感情的しこりの解消を考えず、試作品を作って欲しいというように交渉するやり方。長期的には林田の仕事の拡大につながるから林田にとって譲歩は合理的なのだが…
c 競合戦略=相手との関係より成果が求められる場合。政治的な圧力を林田の取引先銀行へかけ、強引にやらせる。
d 現状維持戦略=林田に断られた時に交渉をしなくなる。これは意味がない。

(4) 戦略の選択
自分にとっての交渉の重要度と、交渉する相手との相互関係の重要度でどのような戦略を選択したら良いか、決まってくる。シンデレラの試作品を作ってもらうことはハンパ課にとって重要である。相互関係の重要度も、試作品を作ってくれそうな唯一の工場なので、高い。そうなると、協調戦略がシンデレラの試作品に関して採用されることになる。林田にとってはハンパ課の仕事を引き受ける、引き受けないはそれほど重要でない。当初は北野との関係が重要でないので、林田にとっては現状維持(試作品を生産しない)で良かった。しかし、北野との関係が大切なものになったとき、生産するという譲歩の選択肢が浮かび上がってくるのである。





〜信頼と誠実の経営〜