〜生活産業ベンチャー論〜

「浪速の夫婦サクセスストーリー」

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第2回 起業のアイディア
第2話 「ピンチこそチャンスだ!!」
(1) あらすじ

バニーガールの格好で上原運輸の派手なPRをした上原真喜を見て、一緒に働きたいと久美子と愛子が上原運輸にやってくる。久美子は引越し業のヒントを与えられた人物だけに、真喜は大歓迎する。白いつなぎを用意し、新しい靴下に履き替え、名刺を作り、真喜は仕事を成功させるために次々とアイディアを出す。

ある日、真喜と賢太郎に「おばあちゃんを運んで欲しい」という引越の依頼が舞い込んできた。静岡の老人ホームまでトラックで運んで欲しいと言う嫁の依頼に真喜は納得できないが引き受ける。孫たちに別れを言いたいという老婦人の願いも聞かない鬼嫁に、思わず真喜は…。


(2) ドラマのポイント

a なぜ、上原運輸は取引先から値引きを要求されるのか?

2者間の取引では、取引で提供する財・サービスの価値が、市場からの調達性、希少性、代替性、などで非対称的になると、取引に力関係が生まれる。取引先にとっては上原運輸は他の運送業者と比較して、独自性も付加価値なく、他の競争相手の運送業者もいるから、値引きを要求し、断られれば他の業者と取引すれば良いだけである。

b 真喜と賢太郎の考え方を比較してみよう。どちらが経営者としての適性があるだろうか?

真喜は賢太郎と比べて長期的視点、深い洞察、細かい気づきと想像力、確固たる商売に対する理念がある。そして、実行力もある。こうした資質は経営者としてより適性があると考えられる。

c 新品の靴下履き替え、ユニフォームの採用など、どうしてこのようなアイディアを考え出したのか?

引越業はサービス業であり、人生を運ぶ大切な商売という真喜の理念が原点となり、顧客が喜ぶサービスを提供しようとしている。靴下の悪臭や汚れただらしない服装は顧客にとって不快や不信を与えるだろうと想像し、そうした顧客の悪感情を抱かれないためにはどうしたら良いか、というロジックで生み出された。また、身綺麗な外見は女性が好む清潔感、顧客に対する気配りのある業者、プロらしい集団といった良いイメージを形成する。引越という料金に直接表れない部分で、こうした配慮があるのは期待していない顧客にある種の感激を与える。新しい靴下やユニフォームは対顧客だけでなく、働いている仲間の一体感や連帯感、そして、清潔な外観という精神的な健全性を与える。創業間もない業者が未知の分野である引越業で顧客を獲得しようとすれば、既存の運送業者が行っていないサービスや料金体系を打ち出せれば、自社の優位性、独自性を示せる。こうしたことを考えると、新しい靴下やユニフォームへの投資は十分効果があり、それを踏まえた真喜の決断は経営者として優れている。

d 本業の運送業があまり儲からなくない時、まったく未知の引越業に力を入れる真喜をどう思うか?

本業が儲からないからといって、すぐに他分野へ目移りするのは良いことではない。隣の芝生が良く見えるのと一緒で、儲からない本業からの逃避といった安易な発想が、新分野へ進出した後も変わらにまた失敗する懸念もある。本業が儲からない理由を精査し、自社の力では儲けられないと判断した後、しっかりした経営理念とビジョンの下、新分野の事業調査をし、よく考えて新分野へ進出するのであれば、良い。

e 「目標をもたなけりゃ成長もせん」 by 真喜

会社だけでなく、人間も明確な目標がなければ、そこに向かって成長する意欲も起きないし、目標を達成する方法論(戦略)も考えられない。真喜は目標の重要性を理解している。

f 真喜はなぜ、電気の契約の手続き代行、火鉢、餅、懐中電灯の用意、などを頼んだのか?

引っ越し先の受け入れ準備が整っていない状態で、顧客にとって何が必要かと考えたとき、電気の確保、暖房、食事の用意を迅速すべきと判断し、それらを効率よく持ってきてもらうために、火鉢、餅、懐中電灯を頼んだ。

g 真心が大事だが、客のプライベートに立ち入りすぎるなと言う真喜の父親日高の言葉をどう思うか?

商売は顧客の抱えるニーズや問題を限定的に解決して対価を得る。引っ越し屋は、引越を家族では行えないという問題を解決するために生まれた商売である。本妻と愛人のトラブルを解決するのが専門でもなく、商売ではない。人のプライベートな問題を解決することで付加価値が得られるのであれば良いが、そうでなければそういった分野に手を出しても商売にならないし、かえって客に迷惑をかけることを日高は言いたかったのであろう。

h 老婆を静岡へ運んで欲しいと言われたときの真喜の態度をどう思うか?

人間としては普通の態度であるが、顧客に対する態度とは言いかねる。自分が人間として相手に対応するのか、商売人として対応するのか。そこを明確にしないと商売にならない。
2. 起業の実態
(1) 起業・創業と廃業の関係

a 日米の比較であると米国の起業状況が多産多死なのに対し、日本は少産少死で、日本の産業界のダイナミズムが弱い。

b 米国は開業率が廃業率を上回っているものの、日本は反対に廃業率が開業率が下回っている。

c 日本は起業・創業を増やすために、経済産業省が中心になって株式会社の出資制限を撤廃しようとしたり、各種支援や助成を充実させている。



(2) 創業1年で3割は淘汰される

a 経済産業省の調査によれば、起業・創業した1年目に3割が清算や撤退に追い込まれる。経営基盤が脆弱なので、ちょっとした見込み違いから経営が破綻する。

b 1年目で4割が黒字転換を果たしている

c 起業、創業後15ヶ月(1年3ヶ月)で5割弱が黒字基調。

d 5年目には6割が淘汰される。起業・創業直後の厳しい時期は乗り切れるが、顧客を拡大できずじり貧になって経営が破綻する。

e 10年目までどのような形でも生存しているのは25%だけである。

(3) 起業・創業者のプロフィール(国民生活金融公庫総合研究所調査)

a 平均年齢41歳、45歳以上の中高年者が37%を占める。

b 性別は86%が男性、14%が女性。

c 開業直前の職業は常勤者が88%、男女別では男性が93%が常勤者であるのに対して、女性は56%が常勤者。女性はパート17%や専業主婦10%から起業する人もいる。

(4) 起業の動機

a シーズ(種)志向・・・ 自分の持っている能力、技術、知識、資格、経験、などseedsを活かして起業する。

b ニーズ(必要性)志向・・・ 顧客から求められて起業する。・勤務会社の倒産、失業など自己のニーズで起業しなくてはならなくなる。また、成功して大金を得たい、生きがいを得たいなど自己実現のために起業する人もいる。顧客がニーズを持ちながらもニーズを満たす商品・サービスが供給されていなかったり、不十分な供給しかないことに気づき、起業する。

c 社会起業家・・・近年、社会的課題を解決するために起業する人も登場し、社会起業家と呼ぶ。社会起業家は個人事業、商法法人(株式会社や有限会社)、だけでなくNPO法人で起業することも多い。

(5) 起業の資金

a 開業費用の平均額1,538万円。そのうち不動産を購入した企業は平均3,308万円、不動産を購入しなかった企業は平均1,235万円である。

b 1,000万円程度の資金が必要であるならば、自己資金以外に親、兄弟、親戚といった身内から借りるのが3割くらいである。不動産を購入するなどで起業資金が高額になるに従って、民間金融機関からの借り入れが多くなる。

3. 起業のアイディア
(1) アイディア発見法1



a 事業軸

・導入合体=異なる特性の事業、製品、サービスを組み合わせる。
・分離分割=1つの事業プロセス、製品・サービス機能、を分解し、事業化する。
・蘇生復活=旧態化した事業、製品、サービスを新たな視点で蘇らせる。
・変更転用=既存の製品・サービスを本来の用途とは異なる用途で使用したりする。
・輸入輸出=日本になくて外国にあるものを輸入したり、逆に輸出する。

b 自分軸

・不便困惑=日常の生活や仕事で困っていることの解決を解決する。
・感動感激=嬉しかったことや感激したことで事業化する。
・趣味嗜好=自分の好きなことを事業化する。
・経験専門=今までの能力、経験、知識を事業にする。
・持物資産=自分が持っている不動産や資産を活用して事業化する。

(2) アイディア発見法2

a パソコンの普及→修理、操作のニーズ→ITスキルを持った人が続出

b パソコンの普及←インターネットの発明←情報化社会

(3) アイディアの革新とリスク



a 低い販売方法の革新性と低い製品・サービスの革新性=リスクは少ないものの、競争優位の源泉が効率やブランド力になり、競争が激しくなる。

b 高い販売方法の革新性と低い製品・サービスの革新性=新しい販売方法はビジネスの仕組み自体を変化させ、既存の販売チャネルとの競争が生じ、リスクが高まる。新しい販売方法の利便性と製品・サービスとの適合性を顧客に訴え、受け入れられなくてはならない。

c 低い販売方法の革新性と高い製品・サービスの革新性=製品・サービスが顧客のニーズに適合しているかどうか未知であり、リスクは増える。受け入れられれば大きな利得を得られる。

d 高い販売方法の革新性と高い製品・サービスの革新性=リスクは最も高いが、成功すれば市場を創出し、高い利得と競争優位性を構築できる。