〜生活産業ベンチャー論〜

「浪速の夫婦サクセスストーリー」


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第5回 経営者の役割
第5話 「浮気発覚!?」
(1) あらすじ

土日・祝日に限って行っていた上原運輸の引っ越し業務は好調だった。
この波に乗り、上原運輸は引っ越し専門業者となる事を決め、賢太郎は真喜を社長にした。真喜は引っ越し先で会社の電話番号の重要性を知り、また、電話帳の一番最初に会社を載せたいので会社名を替える事を提案し、アーム引越センターと変えるなど、次々商売繁盛のアイディアを出していった。

賢太郎は引っ越し作業の最中に初恋の人であるまり子と再会する。かつて秀才といわれみんなの憧れの的だったまり子は、今は小料理屋のおかみになっていた。まり子は男と別れるために夜逃げをしたいと、賢太郎に相談を持ちかける。賢太郎がまり子とこっそり会っていた事を知った真喜はショックを受け、家を飛び出す。


(2) ドラマのポイント

a 会社の電話番号や社名がなぜ重要なのか?

社名は会社を他社と区別するアイデンティティであるから、覚えやすく、会社のビジョン、理念、事業内容かがわかりやすく示されていることが望ましい。電話番号は客が会社へ連絡するための大切なチャンネルゆえに覚えやすいことが望ましい。

b なぜ賢太郎は真喜に社長を譲ったのか? それは上原運輸にとって適切な判断だったか?

経営者としての資質と能力、ビジョンを創造し、意思決定し、人をまとめていく能力は、真喜の方が優れていること。引越業に賭ける情熱は真喜の方が強くこと。引越の仕事が生活産業であるため、女性の方が優れたアイディアを出せそうなこと。今回、社名、電話番号を一新して、新たな創業といえるかもしれないので、経営者も変える方が人心が一新される。

2. 会社が進むべき方向を示す
(1) 会社の使命の創造

a 会社の使命(Mission)とは会社がなすべき責務である。企業の存在意義につながる。

b 会社の使命を明確にすることは、会社の下位目標、社員の目標を設定しやすくする。意思決定や行動の判断基準になる。

(2) 会社のビジョンの創造

a 会社のビジョン(Vision)は会社の将来像をイメージするものである。

b ビジョンを示すことで、イメージがわき、社員の動機づけにつながる。

(3) 企業理念や企業文化を創造する

a 企業理念は企業の使命やビジョンを達成するときの哲学である。企業の精神的なバックボーンを作ることで、企業の組織的強さを生み出す。

b 企業文化は企業理念が具体的な価値観として社員に共有されるものである。企業文化は社員の行動特性を統合する役割を果たす。企業文化は経営者が積極的に社員へ理念の共有を働きかけていかないと定着されない。ダスキンの販売会社である株式会社武蔵野では社長が社員へ街の清掃を課している。勤務時間内なので人事考課へも反映される。その結果、社会貢献へ関心がなかった社員も強要され、その結果、武蔵野には社会貢献という企業文化が醸成された。

c 良い企業文化は良い業績を生み出す、という説が有力である。逆に悪い企業文化は悪い業績を生み出す。三菱自動車は失敗を隠蔽するというのが企業文化となり、リコール隠しがもとで壊滅的な打撃を受けた。

3. 決断を下す
(1) 意思決定

a 組織自体が情報を処理し、意思決定していくシステムである、という視点がある。

b 組織の中で決定を行うことを意思決定という呼び方をする。意志ではなく意思という言葉を使用するのが経営学での特徴。企業の意思決定には段階があり、経営者が行う意思決定は戦略的意思決定と呼ばれる。管理者が行う意思決定は管理的意思決定。一般社員の意思決定は業務的意思決定と呼ぶ。

c 意思決定の階層



(2) 経営者の意思決定(戦略的意思決定)の特徴

a 例外的事項における意思決定・・・人間の意思決定には日常的意思決定と例外的(非日常的)意思決定がある。後者の例外的意思決定は、例外ゆえにその種の意思決定の経験が少なく、より難しい。そのため、日常的意思決定と例外的意思決定の両方を行うことが求められると、より困難な例外的意思決定が後回しになり易い。これを意思決定の「グレシャムの法則」と呼ぶ。

b 非プログラム的意思決定・・・例外的意思決定はあまり経験したことがないため、0ベースでの意思決定が求められ、1+1=2のように自動的に回答がでない。こうした種類の意思決定を非プログラム的意思決定と呼ぶ。非プログラム的意思決定の方が時間がかかり、そして難しい。

c 経営者のすべき意思決定・・・経営者はより困難な意思決定をする責務を負う。そのため、例外的意思決定を非プログラム的に意思決定しなくてはならない。そのため、経営者が難しい意思決定に専念できるように、部下を持ち、簡単な意思決定は部下へ権限を委譲して、負担を軽くする。企業の階層組織の中で、より困難な意思決定は階層の上位の人間が、より簡単な意思決定は下位の階層組織の人間が行う。

(3) 意思決定のプロセス

意思決定は下記のプロセスを経て、行われるとされる。



a 情報活動・・・情報を収集するプロセス。人間には世界に存在する全ての情報を収集できず、限られた情報だけで意思決定する。

b 分析立案活動・・・収集した情報を分析し、意思決定の案を立案するプロセス。

c 選択活動・・・意思決定の代替案を立案したら、それを選択するかどうかを意思決定する。その際に客観的な情報、例えば100円で販売すれば10円の利益、120円で販売すれば30円の利益という情報と、意思決定者の価値観、例えば利益は大きければ大きい方が良い、が意思決定に影響を与える。前者を事実前提、後者を価値前提と呼ぶ。

d 検討活動・・・自分の下した意思決定が満足できるものか、振り返るプロセス。満足できたらそれでおしまい。十分満足できなかったら、再度、意思決定をし直す。こうした意思決定基準を満足化意思決定と呼ぶ。

4. 人をまとめる
(1)経営使命、経営目標、経営理念、企業文化でまとめる

a 経営使命と経営目標・・・進みべき到達点を示し、それの達成を共有することで人をまとめる

b 経営理念と企業文化でまとめる・・・企業が活動していく哲学が経営理念であり、それを社員に共有させることで人をまとめていく

(2)組織の構造や制度

a 組織という枠組みが人をまとめる機能を果たす

b 指揮命令の権限関係のルールは、経営者が部下をまとめていくことができる根拠になる。

c 企業の中の規則が人をまとめる役割を果たす

d 企業が社員に対して誘因(経済的報酬と非経済的報酬)を与えることで、人をまとめていく。

(3) 経営者の個人的資質


a 人が情熱を持って何かに取り組んでいるとそれを手助けしたくなることは多い。それと同様に経営者が情熱を持って取り組んでいることを見た社員も、それに参画し、協力したくなる。

b 経営者の人柄がよいと、何か頼まれると断れなかったり、組織の和が生まれたりし、それらが企業をまとめていく。

c 経営者の能力が高いと、社員は信頼し、自らの命運を託そうとする。

(4)経営者のリーダーシップ

a 経営者は社員の行動へ影響力を行使し、人がまとまるように促す。

b 社員を動機づけし、自らまとまるようにし向ける。