第3回 顧客満足の経営
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第3話 「お母ちゃんからの贈り物」 |
(1) あらすじ
少しずつ事業が軌道に乗せてきた上原真喜と上原賢太郎は上原運輸の引越事業の受注を増やすためにセールスに廻っていた。大きな団地を廻り始めた真喜は、団地の管理人のに近々引越をするふたつの家庭を教えてもらう。真喜は売り込みに成功、仕事を取ってくるが運悪く二つの引越が同じ日にかちあってしまう。その仕事を1日で行ったとき、トラックの質、作業量の違いから、規定の料金を払いたくないとごねられる。この経験から、上原真喜は事前に見積もりを出す、というアイディアを思いつく。
団地の管理人から紹介され、上原運輸はいくつかの引越しを請け負うが、どの引越し家庭からも貴金属が盗まれたという苦情が寄せられ上原運輸はピンチに陥る。そこで上原真喜は覚悟を決め…
(2) ドラマのポイント
a 引越業がまだ認知されていない時代に、仕事を取るためにはどうしたら良いか?
引越業の認知と上原運輸の認知の両方を行い、仕事を獲得しなくてはならないため、困難が伴う。まずは、引越業というサービスを知ってもらうため、料金を無料にしたり、低料金にし、サービスの良さを知ってもらい、口コミに期待する。そうした情報をマスコミに流し、PRしてもらう。この手法は投資的支出が先行し、短期的には収益につながりにくい。そこで、例えば、人事異動の季節に合わせて、効率の良い法人営業を行うなども同時に行っていく。
b 上原運輸の料金の決め方に何が問題があったのか? また、顧客に値引き要求をされて値引いた真喜の決断はどうだったのか?
料金の設定で重要なのは、事業者側の費用を上回る料金で、顧客が納得してくれる料金である。今回の話では顧客が納得してくれない料金であり、事前に顧客の視点から料金設定を熟慮すべきであった。
現場において顧客から値引きを要求された場合、その場で値引きをすべきではない。安易に料金を値びくことで最初の料金に対して顧客が不信感を持つかもしれない。また、さらなる値引きを要求されかねない。値引きではなく、数字に表れない付加サービスを行う対応で乗り切ることをまず、考える。それでも顧客が納得しない場合、後日、キャッシュバックなど考慮すると言うことでその場は納得してもらう。
c あなたなら料金をどう決めるか?
ある程度の分量で定額制にするか、荷物の大きさと個数で細かく決める積み上げ方式を採る。人手のかけ方も人件費を左右するので、ピアノの引越など、仕事の難しさに対してはオプションで対応する。
d 顧客からいわれなき苦情を言われた時、あなたならどう対応するか?
まず、顧客は敵でない、という前提に話を十分聞き、顧客の苦情の意図を理解する。そして、苦情を言われた業務に係わった従業員を含め、当方に落ち度がないかを確認する。当方に落ち度がない場合、その旨をはっきり顧客へ伝える。それでも顧客が納得しない場合、第三者、例えば、弁護士などを交えて話を進める。顧客の苦情に対して妥協をして対応しても、妥協せずに対応しても、顧客の口を防ぐのは難しい。それならば、商売の信用を考え、言われなき苦情に対しては、妥協せずに対応すべきである。
e なぜ周囲の人たちは上原運輸のために資金を集めようとしたのか?
上原運輸が周囲の人たちを大切にしていたから。
f なぜ、真喜はカモにされるリスクを承知で、団地の仕事を受けたのか?
このまま引き下がったら、上原運輸の信用をなくしたままの幕引きになり、イメージダウンなど長期的なマイナスになる。
ピンチをチャンスに変える。ピンチを乗り越えたところに、儲けあり。
g 運転資金が不足したとき、どこでお金を借りたら良いか?
創業1年目で金融機関から融資を受けるのは、担保などがなければ難しい。そこで、まずは親、兄弟、親戚、友人にあたる。それでダメなら公的な緊急融資を探す。それでもダメなら、金融機関から個人の信用で借り入れる。企業金融専門業者は金利が高いため、最後の手段と考える。
h 上原運輸に対する管理人の気持ちはどう変わったか?
カモだと思っていたのが、反撃をくらい、しかも、真喜がそのことに関して管理人へ一言も恨みを言わなかったので感心した。
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2. 顧客満足の経営 |
(1) 顧客満足の経営の位置づけ
a 経営学者であるドラッカーは1954年に「企業の目的は利益の追求ではなく、顧客の創造である」と、顧客に視点を当てた経営の重要性を指摘した。
b 1980年代の後半になり、米国の企業業績の低迷から、顧客満足(Customer Satisfaction)に着目した経営を唱える動きが出てきた。顧客満足度が高まると業績が改善する実証結果も示されている。
c 情報技術の進展で、個人の顧客の満足度を高め、顧客を維持していく、顧客関係性管理(Customer
Relationship Management)という手法が注目された。リピーター顧客の方が新規顧客より収益性が良いという実証データがあるためである。
(2) 高度成長経済から成熟化経済での顧客戦略の変化
a 経済の高度成長期では日本人の消費意欲が高く、大衆消費者を顧客とする企業は大量生産し、大量販売するビジネスモデルを取った。そのため、顧客の獲得は、企業が生産性優先の製品作り、安い価格で販売し、マス広告、量販できる販売網の構築、販売網を通じた販売促進を行っていく。
b 経済成熟化と共に顧客の消費意欲は落ち着きを見せ、消費志向は多様化していった。そこで、企業は市場を細分化し、顧客をきめ細かく捉え、適切な製品・サービスを提供し、利益を獲得しようとした。また、顧客の忠誠心を高め、固定化することに力を注いでいる企業も増えた。
c 高額の製品やサービスを少数の顧客(個人も企業も)に提供する企業は、つきあいを重視し、固定的な顧客との関係の中で稼ごうとした。
d 顧客の固定化には、顧客の企業に対する忠誠心を高める必要があり、その根元が顧客満足と言うことになる。
(3) 顧客満足の経営
a 企業の経営を顧客の満足を高めるという視点で行っていく。
b 顧客の満足は顧客が自社の製品・サービスを購入することで得られる価値を高めることから生まれる。
c 顧客の価値は、顧客が自社の製品・サービスから得られる効用によって左右される。そのため、顧客の効用を高めるために、顧客ニーズやウォンツへの的確な対応が重要になる。
(4) 顧客満足の経営の成果
a 顧客の固定化・・・顧客は特定企業の製品・サービスに満足していると、他の製品・サービスに乗り換えるリスクを避け、その企業の製品・サービスにとどまろうとする慣性が働く。
b 顧客が営業マンになる・・・その製品・サービスに非常に満足していると、感謝されようと他の人に勧め、営業マンの代わりをしてくれる。こうした人の口伝えの口コミやインターネットの掲示板を通じてのネット書きコミは信頼性の面で広告より高く、購買に結びつきやすい。
(5) 経営と顧客満足、従業員満足、株主満足、経営者満足
a 企業が追求すべき満足は顧客満足だけでなく、従業員満足、株主満足、経営者満足がある。
b 従業員満足はより良い製品・サービスの提供することで価値を創造する企業にとって欠くことができない。
c 株価を高めることによる株主満足の追求は、会社の所有者を満足させる当然の姿勢であり、資金調達を容易にする。
(6) 企業の利益と顧客満足のバランス
a 企業は利益を追求し、顧客は得することを追求すれば、どこかでゼロサム(どちらかが利益を得れば、他方は損をする関係)ゲームになる。顧客満足の追求は、企業の利益を損なうか?
b 顧客へ満足を与えなければ、企業は顧客を失い、事業活動はできなくなる。そこで、ライバルに対して顧客満足を追求しつつも、企業は利益を取れるような価格や提供する価値を決めていく。
c ある製品、サービス、またある一時点では損をしても、あとで利益を獲得し、長期的に利益を取る方法もある。
(7) 苦情への対応
a 苦情の対応は顧客に対して公平性、透明性、容易性、応答性、低費用を保証する必要がある。
b 苦情の対応に関して、社内の責任体制、手順、文章化などを事前に定めておく必要がある。
c 顧客の怒りからの苦情は真摯に対応するだけで、かなり怒りが収まる。
d いわれなき苦情や嫌がらせの苦情に対しては、厳正に対処することも必要であるが、訴訟を起こす場合は100%勝てる時でなければ止めた方がよい。顧客を敵とせずに対応していくことが重要である。
e 苦情は利益の源泉になる。苦情から製品・サービス開発、経営体制の改善につながる。また、苦情を言ってくれる顧客は、その苦情を企業が真摯に対応すると熱心なファンになることも多い。
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3. 顧客創造型マーケティングとは? |
(1) 新規顧客開拓の必要性
a 事業開始時は顧客0の状態
b 既存顧客が先細りが予想される場合
(2)顧客創造型マーケティングの視点
a 新規顧客の開拓
b 市場内シェアの拡大
c 製品認知度追求
d 効果的情報伝達
e 製品品質志向
(3)顧客の絞り込み戦略
(4)マーケティングミックス
a 製品・・・機能重視、主力品種、選択、バリエーション型
b 価格・・・比較的画一的、エントリー顧客重視
c 販売経路・・・単一チャネル、売れ筋情報の収集、製品の効率的デリバリー
d 販売促進・・・企業が情報発信者、伝統的広告や販売促進
(5)生産
a 最終製品の標準化
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4. 顧客維持型マーケティングとは? |
(1) 既存顧客の維持で収益があがる理由
a 購買残高増利益
b 営業経費削減利益
c 紹介利益
d 価格プレミアム利益
(2)顧客維持型マーケティングの視点
a 顧客の維持と囲い込み
b 顧客内シェアの拡大
c 顧客満足度追求
d 双方向コミュニケーション
e 顧客との協働と相互学習
f ブランド構築
(3)顧客の育成戦略
(4)マーケティングミックス
a 製品・・・顧客の問題解決、多品種、提案型、組み合わせ型
b 価格・・・忠誠心の高い顧客を優遇
c 販売経路・・・顧客に応じた多チャネル、顧客情報の収集、顧客との距離の短縮化
d 販売促進・・・顧客が情報発信者、口コミ効果大
(5)生産
a 中間部品の標準化
b マス・カスタマイズ(PCのような自分の好みに応じて部品を選べるような製品)
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