〜生活産業ベンチャー論〜

「浪速の夫婦サクセスストーリー」


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第9回 会社の優位性
第9話 「大変だ!!お客が盗まれた」
(1) あらすじ

引越し専門で業績好調なアーム引越しセンターを真似して、同じようなライバル会社が増え始めていた。しかし真喜は引越しから1年間家具の移動を無料で行うサービスや、引越し道中にトラックの中で殺虫剤を焚いてゴキブリ・害虫を駆除するサービスなど独自のサービスを考えだす。この殺虫サービスを気に入ったお客さんのお陰で新聞に取り上げられ、アーム引越しセンターは一気に全国にその名を知られるようになった。更にその記事を見たラジオ局から真喜に番組出演の依頼があり、真喜は初めてマスコミでアーム引越しセンターの宣伝をする。その効果は絶大で……。

一方、愛子の不審な動きに勇介は不安を募らせる。顧客名簿を持ち出したかと思えば、新しい社員たちに真喜や賢太郎の人事に対する不満を話す愛子。勇介が愛子を問いただすと、愛子はある計画を勇介に持ちかけた。


(2) ドラマのポイント

a アーム引越センターの競争優位の源泉は何か?

他社で行っていない、顧客の立場に立った独自のサービスを提供している。そうしたサービスを創造し、積極的に導入し、実行していく真喜のリーダーシップと、真喜の考え方を理解し、実行できる従業員の能力が他社に対して優位に立つ源泉である。

b パブリシティの効果を考えよう。

広告は企業が資金を提供して行う情報提供ゆえに、顧客もその内容を割り引いて受け取る。ニュース番組や新聞記事で取り上げられるパブリシティは企業の都合の良い時期に、意向通りの内容で行われるわけではないが、第三者であるマスメディア等の信頼性と相まって影響度が大きい。反面、マイナスの情報が出てしまうと、大きなダメージを受ける。

c 愛子は何が不満なのだろうか? 愛子のような部下をどう使いこなすべきか?

愛子はアーム引越センターは自分のキャリアの踏み台と考えている。そのため、仕事は与えられた以上にやっているものの、仕事と会社への忠誠心の薄さが真喜にはなんとなく感じられたのかもしれない。真喜の気持ちは愛子も感じ取り、自分の貢献に対して、正当な扱われ方をしていないと思っていたのではないか。こうした部下に対しては、上司と部下の間で密接なコミュニケーションを取り、、仕事以上の人間としての関係を形成する。しかし、人情に訴えかけても難しいことがわかれば、仕事をきっちりやってもらえる経済的報酬を与え、ビジネスライクな関係の中で仕事をやっていくような方法が良いかもしれない。

d 愛子の独立、起業の仕方をどう考えるか?

これまで世話になった勤め先に、後ろ足で砂をかけるような退職の仕方は悪い。退職の仕方が悪ければ、そうした悪評が業界内に流れて仕事をしにくくなるかもしれないし、勤務先で作った取引先との人脈などを利用できないデメリットがある。

2. 競争優位の方向

(1) 業界の競争構造

a 業界の競争構造が業界の収益性へ大きく影響する。



新規参入
の脅威
供給業者
との力関係
業界内の
敵対関係
顧客との
力関係
代替業態
の脅威


b 業界内の敵対関係・・・業界内が協調しにくく、差別化しにくく、激しい競争をしているのであれば、価格競争に陥りやすく、業界の収益性はあまり良くない。

c 供給業者との力関係・・・原材料、部品、商品を提供してくれる取引先の業界の供給力が当該業界の需要に十分応えなくても良い状況であると、供給業者の業界の力が相対的に強くなり、業界の収益性は低くなりやすい。

d 顧客との力関係・・・需要が供給より少なかったりして顧客の力が強いと、価格を低めにしなくては売れず、業界の収益性は低くなりやすい。

e 代替業界の脅威・・・顧客が代替的な購入先の業界を持ち、その業界が顧客にとって魅力的であるならば、当該業界の力が相対的に代替業界に比べ弱くなり、収益性が低くなりやすい。

f 新規参入の脅威・・・新規参入業者がいると、業界内の競争が激しくなり、収益性が低下する。新規参入したがる業者が潜在的にどの程度いるかは、業界の将来の収益性へ影響を及ぼす。

(2) 競争戦略の定石

4つの定石から1つの戦略を集中して追求することで、収益性を高める。「二兎追うものは一兎も得ず」ということわざのいうように、競争戦略は1つ選択し、それを追求する。だからといって、低コストと差別化はどちらか一方を軽視すると、他社に対して優位に立てない。低コストに関しては他社並みを達成しておく。それに加えて差別化で競争優位を達成する。差別化を軽視して低コスト優位構築だけを追求していると、製品・サービスの陳腐化によって優位性を持続できないこともある。



a 低コスト優位の戦略
経営資源の効率の良い使用、ビジネスプロセスの効率化などによって業界において他社に比較して低コストで生産できる企業。低コスト優位の源泉は規模の経済性、経験効果、範囲の経済性、ネットワークの経済性といった全社的なものから、製品・サービスの標準化や事業活動の効率化まで多様にある。低コストを達成すると他社と比較して低価格で販売したり、同程度の価格で販売することにより収益性を高められる
例:トヨタ自動車、ダイエー(価格破壊)、マクドナルド、松下電器

b 差別化優位の戦略
製品やサービス上の価値ある特徴によって、業界他社と比較して高い付加価値からプレミアムを獲得できる企業。差別化優位の源泉は製品仕様、イメージ、技術、付加的サービス、チャネルなどがあるが、模倣されにくい差別化はいくつかの差別化要因を組み合わせることで達成する。差別化を達成することで、事実上の顧客囲い込みを成功させ、高い販売価格を可能にする。
例:本田技研、サティー(高級スーパー)、モスバーガー、ソニー

c 低コスト集中優位の戦略
特定の分野(製品種類・地域・業務・チャネル等)に絞り込んで、低コストを達成している企業。
例:スズキ(軽・小型自動車限定で低コスト)、ラルズ(道央中心に出店して低コスト)、アイワ(低価格AV機器に限定して低コスト)

d 差別化集中優位の戦略
特定の分野(製品種類・地域・業務・チャネル等)に絞り込んで、他社と比較して価値ある特徴を達成する。
例:AVEX(ダンスミュージックに特化)、CHANEL(高級品に特化)、東京の紀伊国屋(高級日用品に特化)、フレッシュネスバーガー、富士重工


3. 競争優位の作り方
(1) 価値連鎖で競争優位を考える



a 価値連鎖とは、企業の経済活動を細分化し、価値がどこで生じるかを分析するツールである。

b 細分化された経済活動で、それぞれ低コスト優位、差別化優位を検討していく。

(2) 競争優位の戦略



a 価値連鎖を経済活動のプロセスで示し、競争優位を構築する戦略を立案するツール。

b 各経済活動のプロセスにおける成功の鍵と自社の強みを考案し、競争戦略を考えていく。

c 各経済活動だけでなく、各経済活動の連携、全体の編成、価値連鎖総体としての競争優位にも考慮する。