〜成功する独立〜

第6話          10 11
1.仕事の権限と責任

(1) あらすじ

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?木村は香織との恋の悩みから、仕事でミスが多くなってしまう。そんな様子を見て、吉武は木村が転職活動をしているのではないか、と疑う。籐子が木村に直接尋ねると、恋に悩んでいるせいということで誤解は解ける。
広小路製薬の仕事も大詰めを迎えるが、セレモニーで配るフェンネル(ハーブの一種)の種が届かず、木村は自分の考えた企画ということと、邪魔をしたくないということから、春菜とデートしている貫井には知らせず、籐子と2人でフェンネルを用意しようとする。フェンネルが届いていないことを貫井が知り、フェンネルにこだわる木村と木村を応援する籐子、代替品を用意しようとする貫井が対立する。セレモニーの時間が迫り・・・

(2) ドラマのポイント

?a 恋で悩み、仕事が手につかない木村をどう思うか?
満足できる私生活は仕事の動機づけ要因になりえるが、反面、不満足な私生活が仕事への集中を妨げ、モラルダウンを招くことがある。優秀なビジネスマンは、私生活のストレスを仕事へあまり影響させない、自律能力がある。しかし、木村は若く、純粋ゆえにそうした自律能力がまだ低いのであろう。こうした部下を持った上司は、部下の私生活の問題を解決するのは難しいであろうから、籐子のように部下の話に耳を傾けることが大切である。不満というのは口にするだけで、軽減されるからである。

?b 最高のセレモニーのためリスクが高いフェンネルにこだわる木村、仕事の成功を優先するため代替品でいくことを決めた貫井。どちらの考えを正しいと思うか?
仕事へのこだわりや理想を大切にすべきであるが、フェンネルを使用することがクライアントの満足へどの程度貢献するかということと、ビジネス上の費用やリスクとの比較で判断すべきである。cに詳細に記述したが、経営者としては代用品の使用を含めた対応策を取っていくことを選択すべきであり、木村には貫井企画の経営の視点で再考してもらえるよう、促す必要があろう。

?c 木村を信じ、最高の仕事にこだわり、失敗した責任を貫井企画が全責任を負うと言い切った貫井を経営者としてどう思うか?

 貫井の経営者としての役割から、仕事の質、リスク管理、クライアントとの関係管理、部下との関係という4つの視点で考えてみたい。
 貫井が独立した理由として、自分が楽しめる仕事がしたい、ということをあげていた。今回、籐子が代用品を探すと言った貫井へ反論したとき、貫井の考えを根拠にしていたがそれは適切でないと考える。広告制作が趣味ではなく、顧客から対価を得るビジネスであるのならば、まず、顧客を満足させる仕事が優先され、その過程や結果を働いている人間が楽しめる状態にすべきである。貫井は当初、そうした考えから代用品を探し始めたが、最後は籐子の言葉に洗脳されたかのように、クライアントへ逆切れした。クライアントにしてみれば、セレモニーがナチュラルアップの宣伝効果があれば良いので、風船につけるノベルティ(景品)がフェンネルであろうと油取り紙であろうとあまり関係ない。セレモニーに参加している人たちも、風船につけられているノベルティにこだわる人はいないであろう。フェンネルが貫井企画の仕事の質を大きく左右しない状況である。それを貫井たちの価値観と自己満足を押し付けるような形で、強引にフェンネルを使うようにさせ、セレモニーの失敗のリスクを高めさせ、クライアントを不安にさせた。仕事の質を評価し、対価を支払うのはクライアントなのであるから、自己満足と木村への信頼をフェンネルへこだわることで示そうとした貫井の判断は適切とはいえない。
 リスク管理に関しては、フェンネルという珍しい種を使うことに決めた時点で、入手できなかったときの代用品を木村と打ち合わせておくべきであろう。もし、木村がフェンネルにこだわるのであれば、複数の業者から種を調達するなど、リスクの分散を図っておく。木村たちがフェンネルの種を入手できるかどうかがわからないのに、木村たちを信じ、会社の命運を賭けるという、経営上のリスクを増大させる経営姿勢は社長として失格である。例えば、木村たちを信じて貫井がフェンネルで行くと意思決定しても、届かない可能性は否定できないわけだから、広小路製薬の社員には油取り紙を風船に取り付けることを依頼しておいても良かった。
 クライアントの管理に関しては、クライアントの意向に逆らい、しかも逆切れしたことは社会人として失格。貫井企画のミスで、広小路製薬宣伝部を混乱させ、余計な仕事までさせた責任をまったく反省していない。もし、フェンネルで行きたいのであれば、風船を飛ばせないという最悪のケースを防ぐ手立てをして、フェンネルの種が間に合えば、そちらを使うという説得をすべきである。
 木村の個人的思い入れを受け入れてフェンネルを待ったことで、木村の貫井に対する信頼は増した。また、木村や籐子はこの一件の対応で成長しただろう。しかし、会社が存続してこそ、社員との関係である。木村たちにはフェンネルを探させ、種を入手できて時間的に間に合えばファンネルを使う。ダメなら油取り紙を代用する、という妥協案を示し、指示するほうがよかった。

d クライアントに対する貫井の言動は適切といえない。あなただったら、どうクライアントを説得しただろうか?
自分たちの意見がクライアントに受け入れられないからといって、怒鳴って言いなりにさせようとするのはビジネスマンとして失格である。さて、こういう状況で、自分たちの意見を通したいのであれば、セレモニーに間に合わないかもしれないというクライアントの不安を解消しながら、自分たちの計画を受け入れさせることが重要である。すなわち、cに記述したように、風船を余分に準備し、油取り紙を風船につける。フェンネルが到着した時点で、時間的に可能であれば、風船にフェンネルをつける。間に合うかどうかわからないフェンネルに賭けるようなリスクを、クライアントにも負わせるやり方は通用しない。ドラマゆえにハッピーエンドとなったが、万が一失敗していたら、広小路製薬の失態としてだけでなく、貫井企画をコンペへ強引に押し込んだ宣伝部長(春菜の父)の社内での立場を悪くし、宣伝課長も責任を取らされる。貫井企画は広小路製薬にイベント費用を支払うことで、資金繰りができず倒産の可能性も出てくる。貫井や木村が今後、広告業界で仕事をしようと思っても、クライアントの意向に沿わずセレモニーを失敗させた男として悪評が立つ。そうした最悪のシナリオを創造できる能力が貫井にあれば、もっと慎重な意思決定をしたであろう。

2.権限と仕事、組織

?(1) 権限とは?

?a 会社における権限の意味
ある仕事に対して行使できる限定された権力を権限という。権限によって意思決定し、周囲の人を動かしたりでき、その仕事の遂行をスムーズにできる。会社で偉くなればなるほど、権限は大きくなる。欧米企業では比較的に権限がしっかり決められており、日本企業は権限が相対的にあいまいといえる。

b 会社における権限行使と命令権
会社において権限を行使できる場合、会社としてその個人へ権限を付与しておかなくてはならない。職務を遂行するためには、時には誰かに依頼をしたり、代わりに行ってもらうことも必要。そこで、権限遂行を支援するため、権限に命令権を付与し、部下に対して命令することで、権限の遂行ならび職務を遂行できるようにする。命令権は通常、組織の上位者が持つ。

c 権限の持つ問題点
権限にあいまいさがあると、組織の規律が守りにくい。権限がしっかり決められていると、他の仕事に関われず、仕事の柔軟性を阻害する危険性もあるが、仕事の責任や義務が明確になる利点もある。

(2) 権限の委譲
?a 権限委譲の意味
個人の持っている権限を他の人に委託することを権限委譲という。例えば、上司に与えられた権限の一部を部下に移譲し、仕事をスムーズに進める、上司の負担を軽くするなどは頻繁に行われている。

b 権限委譲の仕方
権限を職位が同じ人間に与える水平的委譲と、上司が部下に権限を与える垂直的委譲がある。どちらにせよ、権限を委譲したら、委譲した権限に関して、委託者が権限を行使しないこと。

c 権限委譲の際の留意点
権限に関しては権限の範囲と権限で行えることを明確にし、権限の委託者と受託者で共有しておかなくてはならない。また、権限行使の結果に対してどのような義務と責任を負うかも明確にしておく。

(3) 会社における権限の分布
?a 水平的分化
仕事の内容で、権限を分割していくのが水平的分化。

b 垂直的分化
権限を職位で分割していくのが垂直的分化。

(4) 会社の指揮系統と組織




ライン組織は命令の一元性に優れ、トップの意思決定が下位者へ伝わりやすい。反面、組織内部の縦割りが強く、専門性を活かした内部交流が生じにくい、経営資源が有効に活用されないという問題がある。



ライン組織の欠点である専門性の視点に立った経営資源の活用が弱い、という弱点を解消するために考えられた命令指揮系統。部下は複数の上司を持ち、専門的な命令を受ける。命令の一元性が考慮されていないため、部下が命令の優先順位などで混乱する問題があった。



ライン組織とファンクショナル組織の欠点を解消するために生まれた組織。実線が命令関係、破線が助言関係。命令の一元性に優れたライン組織を基本にしつつ、専門性を活かすために助言関係を持ち込んだ。現代の組織構造の基本となっている。

(5) 組織設計のポイント

a ?命令の一元性・・・命令系統に関して、部下は一人の上司からしか命令されないという原則。命令の一元性が確保された組織は規律が正しく、上位者の意思決定が迅速な下位者の行動へ移せる。

b統制の範囲・・・1人の上司が担当できる部下の数。仕事の内容や状況によっても異なるが、経験則で15人前後と言われている。組織が大きくなり、メンバーが増えると、組織は上司(管理者)を増やして水平的分化をさせるか、部長、課長、平社員というように、組織を階層化(垂直的分化)して統制の範囲を逸脱しないようにする。

c 階層化・・・社長と平社員ならば2層構造であるが、社長が統制する部下の数が増えると、社長の下に部長という管理者を置き、社長は部長を管理し、部長は平社員を管理するという形にして、階層化することで統制の範囲を狭める。階層化した場合、階層を跳び越してのコミュニケーション、社長が平社員へ直接命令する、ということは命令の一元性を乱すので原則的に行われない。また、階層化すると、伝言ゲームではないが、社長の意思決定が直接平社員へ命令されるのではないので、組織の行動にスピードがかけたり、誤った伝達がなされる、平社員のモチベーションが下がるという欠点もある。


3.義務と責任
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?1)権限・責任・義務の等価



2)義務
a 社員の義務とは?
与えられた仕事の目的を、与えられた権限を行使して目的を達成することが義務になる。

b 義務を怠った時はどうなる?
義務を怠り、組織から与えられた目的を達成できなければ、責任を取らされ、ペナルティを与えられたりする。

3)責任
?a 社員の責任とは?
組織から与えられた目標達成という義務をはたすことが責任になる。

b 責任の取り方
責任の取り方は組織目的を達成することで、それができない場合、ペナルティ、例えば、減俸や降格、停職や解雇などで責任を取らされる。また、部下が責任を取らされる場合、上司も監督責任を追及されることが多い。

4)上司と部下の3面等価の原則
上司が部下へ権限を委譲するときは、それと同等の責任と義務を部下へ負わせる。ただ、部下にとって良い上司は権限と義務を部下に与え、責任を上司が負うという上司。

5)報・連・相(報告・連絡・相談)
?a 仕事の成功
仕事を成功させるために、部下は上司へ報告、連絡、相談し、状況を上司に把握してもらい、仕事で問題があった場合、上司が支援できるようにしておく。

b 部下の責任軽減
もし、仕事で失敗しても、上司へ報告、連絡、相談していれば上司が監督者として責任の一部を負ってくれる。

c 今回のドラマにおける報告・連絡・相談
木村と籐子は春菜とデートしている貫井に気を使って、フェンネルの種が手に入らなくなったことを貫井に連絡しなかった。広小路製薬の仕事の最高責任者である貫井へ、重大な問題を連絡しなかったのであるから、木村や籐子の義務違反であり、ぬくいが激怒するのも無理がない。貫井にしかられたにも関わらず、フェンネルの種を必要なだけ入手できた重要な情報も、木村か籐子は社長である貫井へ連絡しなかった。そのため、フェンネルの種が入手できたかどうかわからないまま、貫井はクライアントへフェンネルの種を使うと通告し、クライアントを怒らせた。木村と籐子が連絡をしていれば、フェンネルの種が間に合うことをクライアントへ伝えられ、冷静に説得させることができたであろう。仕事において、報・連・相の重要性が、このドラマから理解できるだろう。

4.部下の育て方
?1)上司と部下の関係
?a権限行使と受容の関係
会社では上司が権限を行使し、部下がそれを受容する関係が規定されている。

?b上司が部下を評価する
上司は部下が組織の与えた目的を達成したかどうかを考課する。

c
上司が部下を育てる
組織を維持していくため、上司は部下を育てる責任がある。

2)何が人を育てるか
a自己実現欲求と仕事の連動を高める
仕事で自己実現を達成できるように、仕事と自己実現を関連づけてやるか、職務内容を修正する。

?b能力開発の機会を与える
職場の内外で、潜在能力を開発できる機会を提供する。

c
個人の成長を促す制度や組織文化を創る
個人の成長を組織が支援する制度や理念を持つ。

3)上司の心得
a相互コミュニケーション
部下とのコミュニケーションを密に取り、仕事の進捗状況だけでなく、部下のニーズを把握し、動機づけを行う。
?b部下の適性に合った指導を行う
多様な価値観や能力を持った部下に、適した指導をしてあげる。いわば、部下に対するone to one marketingが重要。

?c相互の信頼感形成
信頼されない上司には部下がついてこない。信頼できない部下には上司が育てようという意欲がわかない。信頼をベースに部下と上司の関係を形成する。
?d部下へ権限を与え、責任は上司が取る
こうした上司が理想であろう。