〜成功する独立〜

第4話          10 11
1.小さな会社の営業

(1) あらすじ

?広小路製薬の仕事が決まり、貫井と木村は精力的に活動をし始める。ところが、籐子が手がけた楠木文具から求人広告の反応がない、と苦情を入れられ、顧客(クライアント)を管理できる営業マンが必要ということになった。一方、ユニバーサル広告の吉武は広小路製薬の仕事を貫井企画に取られたため、会社での立場が厳しくなった。
?貫井企画の営業担当はなかなか決まらないが、籐子は吉武(西村雅彦)を推薦する。吉武は貫井を嫌っているため、貫井も木村も大反対。籐子は責任を持って吉武を誘うことになったが、吉武は一蹴する。ところが・・・

(2) ドラマのポイント

a 楠木文具のクレームをあなただったらどう対処するか?

不満を聞くだけで顧客の不満はある程度解消する。時間がもったいないが、籐子あたりが不満を聞いてあげる。楠木社長は誰かに不満を言いたかっただけかもしれない。それをいい加減な対応をすれば、逆恨みされかねない。ただし、楠木社長が具体的に言及した損害賠償に関しては、契約書を持ち出して貫井企画が応じる必要がないことを説明し、それでも納得してもらえなければ、弁護士から言ってもらう。

?b 貫井企画を潰そうとする吉武の本心は?
?
自分がユニバーサル広告にいてできなかったこと、家庭への責任があって思い切れなかったこと、やりたい仕事をやる、ということをいとも簡単に独立して達成した貫井に対して、うらやましさや悔しさを感じ、それが可愛さ余ってにくさ100倍になったのであろう。須田真季が籐子に「あの娘(なぎさ)は私たちが失ったものを全部持っている。それもごく当たり前のように思って。」と言い、それでなぎさを叩こうと籐子へ持ちかけていたが、吉武も真季と似たような感情を貫井に持っていたのであろう。加えて、ユニバーサル広告が会社として貫井企画を潰そうとしているため、吉武個人の問題としてだけでなく、会社人としても貫井企画を叩くことがメリットになった。

c なぜ、籐子は吉武を貫井企画の営業マンへ推薦したのか?
?
ユニバーサル在職時代に貫井は吉武をもっとも信頼していた営業マンだったということを貫井から聞いていた。吉武が貫井の才能をもっともよく知り、貫井をうまく売り込める優秀な営業マンであると、籐子が思っている。吉武が貫井企画へ転職するための問題、吉武が貫井を潰そうとしていること、経済的裏づけ、に関しては、吉武は貫井と一緒にやりたい仕事を思う存分やりたがっている本心があるため、説得次第で解決できると、籐子は考えていたのであろう。

d 転職するまでの吉武の心情を分析してみよう?
?
ユニバーサル広告では、吉武にとって貫井は金の稼げるクリエイターとして、頼れる存在で、互いに尊敬し合っていた。しかし、貫井が自分への相談はおろか、まもとな挨拶もなしにユニバーサル広告を飛び出したことで、自分が裏切られたような気がした。独立の際に何も言ってくれなかった貫井に対して寂しくもあった。何のしがらみもなく、自分の実力を信じて独立した貫井を羨ましく思い、嫉妬心すらあった。加えて上司から、会社の方針で貫井企画に仕事をさせないようにしろ、と命令され、貫井に対する思いは憎しみに近いものになった。そんな状況で、一度元の職場へ復帰に関して裏切られた籐子から、倒産の可能性もある貫井企画への転職を打診された。ふざけるな、という気持ちと、なんで俺に、という疑問があったであろう。しかし、吉武の気持ちに、貫井企画への転職が心にひっかかった。貫井企画へ転職すれば、貫井のように自分の思うような仕事ができるかもしれない。広小路製薬の仕事を見れば、貫井の実力は一流で、そんな男と組んで再び仕事をしてみたい。一方、収入は下がるし、倒産するかもしれない。今まで自分が貫井に行ってきた仕打ちを手のひらを返したように転職するなんて、プライドが許さない。吉武も悩んだろう。吉武はうじうじと悩み、貫井に嫉妬する自分に踏ん切りをつけ、転職した。

e 吉武が貫井企画へ来たことに関する貫井、木村、籐子
3人の気持ちを想像してみよう。
?
貫井は吉武には厳しい仕打ちを受けたものの、吉武の能力を知っているだけに、経営が厳しい貫井企画へ来てくれたことに感謝している。籐子は吉武の転職を進めていたので、やっぱり転職してくれたと喜んでいる。木村は吉武と面識がなく、貫井から吉武の営業妨害などを聞いていただけに、なんでこんな奴がうちに来るんだ?という疑問と裏があるんじゃないか?という不信。そして、俺たちを潰そうとした奴と一緒に働きたくない、という感情を持っている。

f 吉武が貫井企画へ入社したことで、貫井企画にどのような影響がでるか?
?
ポジティブな面に関しては、弱かった営業面の強化が図れ、顧客の獲得と売り上げの増加を期待できる。貫井と木村は顧客管理といった面倒な仕事から開放され、自分のやりたい広告制作にだけ集中でき、より良い仕事ができるであろう。ネガティブな面として、貫井企画のチームワークの乱れ、ユニバーサル広告からのいっそうの妨害、人件費の増加などが予想される。やっと貫井と木村が籐子を仕事仲間として認め、貫井企画の組織としてのまとまりができた。また、年齢や感性が比較的近いこともあって、仕事以外でも仲が良い。3人は創業時からの仲間である。そこに木村が嫌っている、年齢も40代と離れ、営業という広告制作とは違う仕事の価値観を持つ吉武が入ってきて、会社のチームワークが乱れる懸念がある。また、吉武が貫井企画の中で浮いたり、クリエイターたちと対立するかもしれない。吉武も貫井と同様に短期間でユニバーサル辞めているようなので、円満退職とは考えにくい。今まで以上にユニバーサル広告が貫井企画の営業妨害をする可能性は高い。吉武の雇用条件はわからないが、少なくとも木村よりは高い給与であろう。そのため、広小路製薬の仕事で一息ついたとはいえ、貫井企画の経営状況は悪い。そこへ、高給取りの吉武が入社すれば、人件費の増加による資金繰りが心配である。
2.転職

?(1) 転職

仕事を変えることを転職という。天職、神に与えられたような使命感があり、自分にぴったりあった、やりがいのある仕事に就職できることは難しい。そこで、より自分のやりたい仕事を探し、転職することが、かっては終身雇用が普通と考えられていた日本の社会でも当たり前になってきている。例えば、新卒で入社する若者の1/3は3年以内に転職する、という厚生労働省のデータがある。

(2) 給与体系と転職

a かって日本の給与体系は、新卒で入社し、定年まで勤める終身雇用を前提とし、社歴(勤務歴)が長くなるほど経済的に有利になっていた。それが日本の労働市場で、転職を妨げる理由の1つになっていた。

b 日本の労働者も会社に対する帰属意識より、自己実現のために仕事をする人が多くなり、転職する人が増加傾向にある。加えて日本企業もバブル崩壊以降は余裕がなくなり、終身雇用を維持できなくなってきた。そのため、社歴の長さが経済的有利さをもたらさない、能力給や実績給が導入された。企業の中には社歴によって決まる退職金を廃止し、月給を上積みするところも出現している。

(3) 大企業の中での仕事

?a専門分化した仕事

大企業は仕事の量が多く、その結果、働いている人員が多くなる。その結果、各人の職務分担を決め、その職務に専門化することで効率を上げる。
?b大企業を看板にした仕事

中小企業と大企業では、信用度が違う。大きいから潰れる心配がない、優秀で豊富な人材が良い仕事をしてくれる。幻想かもしれないが、そうした思い込みを持つ人も多い。そうした思い込みは大企業での仕事で大きな武器になる。
?cフリーライダーと働き蜂の存在
?
多くの人が働く大企業では、一部の生産性が悪い従業員がいても、組織全体でカバーできる。その結果、生産性の悪い人も組織に所属できる一方、生産性の良い働き蜂がその生産性の悪さをカバーする。

(4) 小さな企業での仕事
?
a マルチタスク
?
少ない人数で会社の幅広い仕事をこなすため、従業員は多能化を求められる。

b
大きな権限と責任
?
人が少ないため、仕事を従業員にどんどん振り、その仕事の権限と責任を委譲することが多い。ただし、ワンマン経営者のいる中小企業では、社長がなんでもやりたがって、部下へ権限委譲をしないこともある。

c 報酬と貢献が一致しにくい
?
平均収入が大企業と比較して低い。その割には仕事量は多い。

(5) あなたは大企業タイプか中小企業タイプか?
?
a
専門だけの仕事をしたい
?
b安定した環境で仕事をしたい
?
c会社との一体感を感じたい
?
dそれなりの給与が欲しい
?
3.転職を成功させるには
(1) 転職の動機
?
a 労働条件への不満
?
給料が安い、休みが少ない、職場の人間関係が悪い等。

b 仕事への不満
?
やりがいを感じられない、自分のやりたい仕事ではない等。

c 自己実現欲求
?
この仕事をしていても自分が成長しない、もっと挑戦的な仕事をしたい等。

(2) 会社が転職者へ要求するもの
?
a専門的職務能力
?
特定の専門能力を必要とする業務に関して、社内で人材がいない場合、即戦力を期待できる中途採用を行う。例えば、経理、労務、法務、マーケティング、生産管理、そして管理職などである。

b潜在能力
?
比較的年齢が若い人を中途採用する場合、潜在能力を求める。例えば、語学ができる人であれば、海外業務の要員候補や、理系の人材を生産部門要員として中途採用するなどである。

c一般的ビジネス能力
?
転職にあたって、最低限必要なのは、コミュニケーション能力やビジネスマナーなど。

(3) 成功する転職へ向けて

?
a 情報収集
?
自分が転職したい職種、業界、会社の情報を収集する。仕事内容、労働条件、転職に当たって要求される要件などを、転職誌、業界誌、インターネットで情報収集する。

b
コンピテンシー(competency)の確立

コンピテンシーとは雇用される能力と訳される。転職したい仕事が決まっている場合、その職種で必要とされる能力や資格を身につける準備をする。

?c 戦略的キャリア形成

一生のキャリアにおける目標を明確にし、年齢に応じてどんな仕事をしたいのか、そのためにはどのような努力が必要なのか、を考える。
4.日本の転職事情
(1) 転職方法
?
a
求人広告
?
転職に当たって企業の求人を知るのには、求人広告が手っ取りはやい。新聞、転職誌、インターネットで求人を探そう。

b 人材紹介会社
?
最近では、転職希望者が人材紹介会社へ登録し、人材紹介会社が転職先を探すケースもある。また、企業が特殊なキャリアの人材獲得を依頼して、引抜を行うヘッドハンター会社もある。

c コネ
?
いつの時代にもあるのがコネ。人脈を大切にしておこう。

(2) 転職のタイミング
?
a 20
代前半=第二新卒市場

大学を卒業して就職し、3年未満で辞めた若者の転職市場が第二新卒市場。高度な専門能力を期待されているわけではなく、ビジネスマナーやコミュニケーション能力を持ち、潜在的能力が期待できる人材が求められる。

?b 20代後半から30代前半→ステップアップ市場

この年齢は転職市場でもっとも大きなボリュームを占める。専門能力と実績が企業から期待される。そのため、未経験の業界や職種での転職が厳しくなる。

?c 30代後半以降→エキスパート市場

高度な専門能力や管理者としての能力、きわめて優れた実績が求められる。この市場に関してはヘッドハンティングも多くなる。

?(3) 転職後の注意
?
転職した後は、未知の環境で働くわけであるから、チャンスもあれば、リスクもある。そこで、いくつかの注意しべきポイントがある。

a
組織内部の事情を把握

自分が社内で期待される役割、配属セクションの人間関係、社内の力関係など、十分知っておいたほうが良い。

?b コミュニケーション

aを行うためには、社内の人とのコミュニケーションを十分にとろう。ビジネスランチや仕事後の飲みニケーションには積極的に顔をだして、社内人脈を作ろう。中途採用は新卒採用とは異なり、同期入社社員という横のつながりがない。そのため、横(他部署)の人脈も十分持っておくこと。

?c 迅速に成果を上げる

社内の人間は転職者をシビアに見ている。特に高給で転職した人間に対してはやっかみもあって、厳しい目で見ている。そのため、自分の実力を転職後なるべく早くアピールをして、あいつはできる奴だと思わせる必要がある。