〜成功する独立〜

第1話          10 11
1.独立し、起業する

(1) あらすじ

大手広告代理店のユニバーサル広告社庶務課に勤める30歳の本宮籐子。かってはクリエイターを志していたが、庶務課の異動になり、仕事にやる気を出せない、恋人もいない。
そんな本宮が憧れるのが、同じ社内の気鋭のクリエイター貫井功太郎。その貫井が上司と衝突し、会社を辞めるという。しかも、ABCアドの若手No.1クリエイター木村壮吾と組んで、広告企画会社を起業するという。貫井の間違いで貫井の新会社へ籐子にも誘いが来るが、実は間違いだった。貫井企画も見込んでいたクライアントから断られ、出だしから障害続き…

(2) ドラマのポイント

a なぜ、籐子は仕事にやる気がでないのか?

クリエイター志望で大手広告代理店に入社したが、毎日の仕事は雑用ばかり。給料は良く、女友達と美味しい食事もできるが、30歳になって以前のように楽しい恋愛の機会も少なくなってきている。仕事もプライベイトも充実せず、仕事へのやる気が薄れているのである。

b 貫井がなぜ会社を辞め、独立することになったのか?

組織の制約の中で、自分のやりたい仕事や納得のできない仕事もやらなくてはならず、楽しく仕事ができなくなっていたという不満が貫井の心の中でくすぶっていた。それが上司との衝突で一気に吹き出し、売り言葉に買い言葉で辞めると言ってしまい、辞めてしまった。

c 籐子はなぜユニバーサル広告を辞め、貫井の会社へ転職する気持ちになったのか?

ユニバーサルの給料は良いものの、会社の中で自分の存在意義を感じられなかった。そこに、以前から憧れていた貫井から一緒に仕事をやろうと言われ、自分の存在意義を認めてくれた貫井と共に頑張っていきたいと思ったのであろう。

d 籐子が辞表を出したときなぜ慰留されなかったのか?

籐子は一般職で重要でない仕事をやっている会社の歯車。彼女が辞めても会社の仕事に支障がなく、むしろ、給与が高い籐子に辞めてもらった方がありがたいとも課長は思ったのであろう。

e 独立するメリットとデメリットを考えてみよう。

メリットとしては自分の意思で経営をやれるやりがい、成功したときの報酬が大きい、などがある。デメリットとしては今までは会社の看板(ブランド)と肩書き、他の社員との協力や会社の取引関係といった組織の力で仕事をサポートして貰えたが、独立すればそれもない。成功したときの報酬も大きいが、失敗したときのリスクの多くは自分で負わなくてはならない。

f 独立するとき、気をつけるポイントは?

独立し、起業をした直後は、とにかく売上をあげて費用を少しでもカバーしなくてはならない。そのため、独立した後も前の会社が仕事を回してくれるよう、円満退職をする必要がある。貫井のように喧嘩別れは避けるべきだ。また、今までのクライアントが、独立した後も自分の顧客になってもらえるよう、事前の根回しが必要。独立して、1〜2年は赤字でもやっていけるだけの資金も持っている必要がある。独立する場合、独立後の経営シミュレーションを充分し、倒産せずにやっていけるというある程度の確証を得てからでないとダメであろう。貫井の場合、クライアント(顧客)は自分についてきてくれるという甘い過信で、計画を十分考え、事前の準備を怠ったのがまずかった。

g 「俺が楽しくなかったら意味がない。それってやっぱり我がままなのかね。俺はさ、ただ、自分の作ったものに愛情を持っていたいだけなんだよ。」(貫井の言葉)

専門職の人間は自分の仕事へのコミットメントが強く、こうした想いを持つことが多くなる。しかし、会社はビジネスとして仕事をしなくてはならず、個人のやりがいも重要だが、それ以上に利益などが優先される。

h 「まだ、始まってもいないじゃない。」(籐子の言葉)

独立してまだ間もないのに、倒産するなど見切りをつけるのは早すぎる。貫井にとっては仕事とは言えない、つまらない仕事かも知れないが、楠木文具の仕事もあることなので、これから商売を開拓し手羽良いのである。

i 貫井の経営者としての資質をどう考えるか?

専門家としての能力は高いが、経営者としては資質に欠ける。例えば、独立の仕方、籐子の採用に関わる問題への対応、都合の悪いことは避けようとする態度、諦めが早すぎること。

2.業界の分析

(1) 広告業界
日本の広告業界は年間売上高6兆円(2001年)で、昨今の不景気からクライアントが広告の費用対効果に厳しくなっており、広告市場は低迷している。上位5社が約5割の売上を上げる寡占市場である。その中でも電通の競争力は高く、電通に対抗するため、1999年には旭通信と第一企画が合併しアサツーDKになり、博報堂は東急エージェンシーと経営統合する予定である。


(2) 広告の役割

a 経済的効果・・・広告をすることで、大量生産の受け皿として大量販売が可能になる。その結果、規模の経済性に裏付けられた商品の価格の低下や、より良い商品サービスを世に知らしめることができる。

b 社会的影響・・・広告によって余剰消費意欲を与える。また、広告費用をかければ、その分、商品の価格を高め、消費者に費用を転嫁するという批判もある。

(3) 広告代理店の仕事

広告代理店はクライアント(企業、各種団体)の代理人となって、広告を中心にマーケティング活動を行う。

a 広告主の開拓・・・広告を出稿するクライアントを開拓する。

b 広告の企画・・・クライアントの売上を伸ばす、広告を企画し、提案する。

c 広告の制作・・・広告の企画に従って、広告を制作する。

d メディア(広告媒体)の開拓・・・テレビ、新聞、雑誌、ラジオ、インターネット、看板など、広告を出稿できるメディアを開拓し、押さえる。

e 市場調査・・・効果的な販売を行うために、市場(顧客)を調査する。

f マーケティング・コンサルティング・・・売上を増加させる助言サービスを行う。

(4) 広告代理店、クライアント、メディアの関係

力関係は クライアント>広告代理店>メディア ただし中小の広告代理店は一番下になる。

広告業界では 大手広告代理店>広告企画会社・広告制作会社

(5) 業界の構造を知ろう

a. 業界に属する企業の市場シェアを知る

市場シェア(%)=自社の売上(金額・数量)÷市場の売上合計×100

1社が市場シェアを100%押さえていることを「独占」、少数の複数の会社が市場を100%押さえていることを「寡占」、圧倒的な市場シェアを持つ企業がいる「ガリバー型寡占」など、特殊な市場構造も存在する。

b. どのような規模の企業が業界に存在しているか

企業規模の違う会社が、どのように存在しているかによって、業界の競争構造が変わってくる。小規模の企業が多数存在すると、個々の企業の価格に対する影響力は小さくなり、完全競争に近くなりやすい。

c. 業界内の競争状況

競争が激しく、業界に属する会社間の関係が敵対的であると、業界各社の利益は低下しやすい。

d. その業界の製品やサービスを代替する他の製品やサービス

ウィスキーに対するビールの存在だが、広告に代わるサービスは口コミなど。しかし、広告代理店は口コミもコントロールしようとしている。

e. 新規に業界へ参入する企業があるか

貫井企画のように、広告代理店から独立する人もおり、新規参入するチャンスはある。最近ではインターネット広告を扱う企業が多く参入している。

f. 業界の取引先業界の状況

広告代理店にとっては、外部の広告制作会社やメディア(TV会社、新聞社、雑誌社)などが取引先になる。こうした業界は広告収入に依存しているので、広告を出稿する会社を引っ張ってきてくれる広告代理店には頭が上がらない。

g. 業界の顧客の状況

昨今の不況で、広告費を減らす会社も多い。一方で、不況でも売上を増やしたい企業は、積極的に広告をしている。

(6) 業界の成長性と企業の将来性

a. 業界に属する企業の売上、利益の上昇率

b. 製品売上やサービスの需要の上昇率

c. 時流に乗っているか

d. 製品と業界のライフサイクルにおける位置づけ

・ライフサイクルとは寿命のこと。製品にも寿命があり、新発売から販売の停止を人間の人生になぞらえる。
・ライフサイクルは通常、誕生期、成長期、成熟期、衰退期の4段階に分けられるが、成熟期が長期間続くタイプの製品が多い。また、成熟期の後、第二の成長期に進む製品もある。
・各期の区分は10%を境にすることが多い。10%以上の販売伸び率の場合は成長、10%〜-10%の間であれば成熟。-10%より悪化すると衰退と見る。

3.独立、機業を考えたら

step1 本当に起業したいのか?

漠然と会社を辞めたいと考える人も多いが、本人の意欲と能力、置かれた状況で、本当に起業したいのかを問いかけよう。

step2 起業する事業を決める

ニーズ志向・・・顧客が必要としているが提供されない商品やサービスを提供することで起業する。

シーズ志向・・・起業する人が持っている技術、知識、趣味を活用して起業する。

ミッション志向・・・社会的使命感を基に起業するケースで、ニーズよりも深刻な課題を解決するための起業である。NPO(非営利団体)の創業者に多い。

step3 ビジネスのアイディア創造と事業モデルの構築

a アイディア→b 事業モデル化→c 事業の工夫

単純なビジネスのアイディアだけでは競争に負ける。そこで、ビジネスのアイディアから利益をどこで稼ぐかを明確にする事業モデルを設計する。そして、事業モデル自体の独自性だけでなく、事業細部の品質確保と独自性を考える。

step4 起業の戦略

起業の大まかな戦略を考える。

a 革新型=新規の技術、方法論、市場のビジネスを行う、ハイリスク、ハイリターンのビジネス。

b 隙間型=既にあるビジネスだが誰も参入していない分野。市場が十分開拓できないリスクもあり、ミドルリス、クミドルリターン。

c 改善型=既存のビジネスをもっと効率よく行う。ローリスク、ローリターンだが、競争が厳しいとリスクは高くなる。

step5 業界や先行者の徹底した研究

a 業界のベンチマーキング・・・業界他社の優れた経営を学び、取り入れる。

b 他業態のベンチマーキング・・・他業界や他業態の優れた経営を学び、取り入れる。

step6 ビジネスプランを書いてみる

ビジネスプランという書類を書き、自分のやろうとするビジネスをより具体的にしていく。

a ビジネス・モデルの設計・・・ビジネスのやり方を設計する。

b 経営資源の調達・・・人、モノ(工場、土地など)、金、情報をどこから獲得し、経営にどう活用するかを考える。

c 経営システムの設計・・・経営を行っていくための、統治のシステム、意思決定のシステム、経営資源の管理のシステムを構築する。

d 戦略の立案・・・起業に活用する経営資源をどこから獲得し、どう活用して、ライバルに対して競争優位を得て、成果をあげるかのシナリオを考える。

e 資金繰りの予測・・・起業してから3年間くらいの、収入と支出といった資金の流れのスケジュール、決算書を作成して、途中で資金がなくなって倒産しないかを検証する。

step7 市場調査・仮説の検証

自分の事業計画で果たして顧客を獲得できるか、顧客のニーズを探ったり、確認したりする。

step8 実現可能性の検討

ここまで検討し、最終的な結論 やるの?やらないの?