〜成功する独立〜

第2話          10 11
1.独立の準備

(1) あらすじ

ユニバーサル広告時代の同僚だった吉武の妨害で、かってのクライアントは貫井から離れていった。一方、籐子は楠木文具を始めとする小さな仕事を手がけることを主張するが、貫井は一流クリエイターのプライドからか、聞く耳を持たない。
木村はコネで仕事を取ろうという魂胆で、ヒロコウジ製薬の宣伝部長の娘との合コンをセッティングするが、一本気の貫井は拒否する。しかし、木村が金沢から帰れず、籐子の説得で貫井が合コンへ出る。そこで、貫井はヒロウコウジ製薬の宣伝部長の娘である倉持春菜と仲良くなる。春菜は籐子の同居人であり、貫井は春菜と偶然再会する…

(2) ドラマのポイント

a なぜ、貫井は楠木文具の仕事をやろうとしないのか?

貫井は大手広告代理店で、大手企業と一緒にふんだんに資金を使って創造的な広告を製作してきたのだろう。そうした男が、10万円程度の求人広告という創造性があまり活かせない仕事をやりたいと思わないのであろう。

b 吉武が貫井たちを邪魔する理由をどう考えるか?

「我々は我々の利益を守る。同じ目的を共有しているから信頼できた。やりたいことだけやって生きていくなんて、この社会では許されない。」by吉武

組織人としての吉武は、ユニバーサル広告とライバル関係になりそうな貫井企画の商売の邪魔をして、自社の売上を取られないようにするという考えから貫井企画の邪魔をしている。個人としての吉武は、組織人として会社から様々な制約を受けながら働いているので、独立して自分の好きな仕事を自由にしようとしている貫井にある種の嫉妬を感じているのであろう。

c なぜ、貫井は籐子の説得を聞き入れ、合コンへ出席したのか?

「楽な方を選んでいるのはお互い様。貫井さんは前の会社のコネで仕事をしようとしている。」by籐子

籐子も木村も事務所のために懸命に営業をしているのに対して、経営者として新規顧客を開拓して、小さな仕事でも取ってくるということをしない、貫井の経営者としての問題点を籐子から指摘され、自分でも納得したから。

d 経営者として貫井の態度や考え方をどう思うか?

「俺にあいつらの前で媚びへつらえって言うのか?」by貫井(サントリオンの新ワイン発表会へ出席して欲しいと言われ)

広告制作会社とはいえ、経営者としての仕事は広告の企画と製作だけではない。社長による営業は非常に重要な仕事である。ユニバーサル広告時代の人脈以外へは、貫井は営業をしていない。小さな会社なんだから、生き残りのために必死に営業し、仕事を取ってくる積極性が必要。可能性があれば、どんどん営業へ行くべきであろう。小さな仕事でも、仕事をやらず売上がないよりはましである。貫井も事務所でぼーっとしている時間があったら、戦略を考え、行動しなくてはならない。また、社員の使い方も、籐子に対する態度をみているとあまりうまいとはいえない。

e なぜ、貫井企画の開業が予想通りに進まなかったのか、その理由と対策は?

まず、突発的に会社を辞め、事前の計画や準備がないまま独立したことが最大の問題。会社を円満退社をし、独立した後の売上確保を考え、取引先への根回しは必要。また、ユニバーサル広告の妨害に会う、という障害も予想し、それへの対策も想定していなかった。ユニバーサル広告との競争に打ち勝つ戦術、例えば、事業分野を絞り込む、ユニバーサル広告が手がけていない顧客への営業を行う、独自性を打ち出す、価値(価格と効果のバランス)で競争する、などを、事前に考えておく。さらに、事務所の経営、すなわち、スタッフの採用や資金繰りの問題も、事前に手を打っておくべきであろう。

f あなたが貫井だったら、この時点で貫井企画の経営をどうするか?

開業から3年くらいは経営が安定せず、赤字に甘んじることは多い。その間、耐えられるかどうかが大切。貫井企画の資本金はあまり多くないようなので、事務所の経費削減、小さな仕事でもなるべく多く手がけて売上を増やすことをやらなくてはいけない。

2.会社の辞め方

(1) 独立のパターン
a 前職と同じ仕事:貫井の例

前職のノウハウ、人脈などをそのまま活用できるが、元の会社と競合関係になるため、辞め方が難しい。

b 前職とは異なる仕事だが顧客は同じ

例えば、ビール会社を辞めて、酒のつまみを売る会社を作る。前職のノウハウや人脈を全部使えるわけではないが、顧客が分かっているので、商売をしやすい。また、前職とは直接競合しないので、独立しやすい。前職の会社から応援を受けられるかも知れない。

c 前職と異なる仕事と顧客

例えば、コンピューターメーカーを辞め、ラーメン店で独立する。前職のノウハウや人脈があまり活きないが、自分のやりたい仕事を自由に選べる。独立しても前職の会社とは競合しないため、辞めやすい。

(2) 会社の辞め方
a 喧嘩し飛び出す?

言語同断!喧嘩して辞めて、得をすることはない。同じ業界で仕事をするのであれば、悪口を言われたり、貫井のように商売の邪魔をされたりする。ただ、会社がどうしても退職させてくれない時は、喧嘩して辞めるしかないかも知れない。

b 円満退職が人脈の維持、仕事にプラス

円満退職して、辞めた会社と良い関係を維持しておくと、前職の人脈を使えるかもしれないし、もしかしたら仕事を辞めた会社からもらえるかも知れない。

(3) 前職の顧客との関係マネジメント
a 顧客へ事前に根回しする

信頼できる顧客には、独立前に相談してみよう。顧客の視点で独立が成功するかどうか、そして、独立したときに顧客になってくれるかどうかを探る。

b 顧客にメリットを与える

取引先である会社を辞めた人間と取引をしようとすると、いろいろ摩擦も起きる。それを乗り越え、取り引きして貰えるためには、前の会社以上に顧客へのメリットがないと選んでもらえないだろう。

c 前職の顧客を諦めることも重要

前の会社との良好な関係を維持するには、前職の会社における顧客は奪わないことも重要である。

3.独立の準備

(1) 経営者としての資質や能力は?
a 事業に関するアイディア

事業に関する新たな工夫や独自性が会った方が、競争力が高まり、独立する可能性も高い。事業の良いアイディアを持っているか?

b 能力

経営者としての能力、意思決定、リーダーシップ、行動力、精神力があるかどうか。経営者に必要とされる能力はいろいろあるが、独立する経営者としては、物事を決断し、人を動かし、自ら行動できる能力、成果を必ず出せる精神力が不可欠だと思われる。そうした能力があるかどうか、自己分析し、他人の意見を聞いてみよう。

c ベンチャー精神

リスクを取り、それに挑む精神がなければ、サラリーマンをやっていた方が苦労しなくて良いだろう。

(2) 応援してくれる人がいる?
a 家族

独立したら、当初は収入も不安定だし、休みなく働かなくてはならない。場合によっては家族に仕事を手伝って貰わなくてはならない。そこで、家族が独立を応援してくれるかどうかは結構重要である。

b 専門家

独立し、会社を経営していこうとすると、税務、法務、情報管理など、自分が持たない専門知識を必要とすることも多い。そこで、信頼できる専門家の支援を必要時に受けられる体制にしておくこと。

c 取引先は?

取引先で応援してくれる人がいると、当面の売上確保のめどが立ち、心強い。しかし、このドラマのように、貫井のサポーターを自認していたISFコンピューターの宣伝部長のように、会社の方針で応援できなくなることもあるため、あまり、期待しない方が良いであろう。

(3) タイミング
会社の辞め時、開業のタイミングとしては、市場の動向と独立の準備のバランスである。

(4) 事業形態
a 個人事業

税務署へ開業届を出すだけで、もっと手軽に起業できるが、世間の信用度が低い。事業による売上は個人の所得になり、所得税等を支払う。小規模事業に制約される。

b 会社法人

一般的に商売を継続的に行う形態として、もっとも適しているが、法人登記にかかわる費用や手間がかかる。利益に対して法人税等を支払う。

c NPO法人

最近、注目を集めているのが、特定非営利活動法人(NPO法人)。NPOと聞くと、ボランティア団体を思い浮かべる人もいるが、有料の対価を得る収益事業も行える。ただし、利益を配当や役員報酬のような形で分配してはならず、事業へ再投資しなくてはならない制限がある。設立までに時間がかかり、事業分野の制限や監督官庁への報告といったいろいろと制約も多い。営利性を追求しなくても良いので、公益性の高い分野では有効な事業形態になる。

d 事業組合

数社が集まって協同組合形式を作れるが、うまくいけば新しい協働とそれに付随するビジネスができる。ただし、利害関係調整が難しい。

e 民法法人
財団法人や社団法人は、最近、設立要件が厳しい。

(5) 法人登記
a 商号(社名)はブランド

会社などの法人を設立するとき、他の法人と区別できるように商号をつける。商号は法人登記を変えない限り、使い続けるし、法人でなくても会社の看板であるから、慎重に決めよう。顧客にとって覚えやすく、イメージが湧きやすい、自分たちが気に入る名前をつける。そして、会社の本社を置く地域の法務局で、その名前の法人があるかどうか、チェックをする。例えば、港区で貫井企画という名前の株式会社がないか、調べる。同じ名前の株式会社があれば、その名前で法人登記できない。名前をカタカナにする、本店所在地を貫井企画という法人がない地域にする、有限会社で登記するなど、いくつかの解決策はある。

b 法人組織(会社やNPO法人)は法人登記の必要

法人は法律上の人格を得るため、法務局で登記する必要がある。登記では登記料がかかり、書類の作成は行政書士などに頼める。なお、株式会社ならば、2週間程度、NPOならば3ヶ月ちょっとの時間がかかる。

c 個人事業は税務署と監督官庁に届出

税務署へ開業届(無料)を出すだけで、簡単に始められる。ただし、飲食業やリサイクルショップのように、監督官庁から営業許可や認可を貰わなくてはならない場合、そうした届けも行う。

(6) 使命は営利志向か?非営利志向か?
a 営利志向→個人事業、会社組織(商法法人)

b 非営利志向→NPO、事業組合

(7) 事業の性格
大がかりな設備が必要な装置産業は、資本金を持つ株式会社や有限会社形態がやりやすい。

(8) 初期財産・資産・資本
a 大きい→株式会社

b 小さい→有限会社、合資会社、NPO、事業組合

(9) 経営手法
参加者が民主的に、オープンに経営したい場合、平等に経営へ参加できるNPO法人や事業組合が良いかも知れない。NPO法人は民主主義の学校と呼ばれる運営方法を取り、拠出した資本金の金額で権利の大きさが異なる商法法人とは異なる。


 「主要な法人形態の相違」

(注)2003年に経済産業省から株式会社と有限会社に関する資本金の特例措置ができ、1円から設立できるようになった。ただし、5年以内に株式会社ならば1,000万円、有限会社ならば300万円の最低資本金をクリアしなくてはならず、クリアできないと法人の解散か、合資会社などへの法人形態変更を迫られる。