〜変革のリーダーシップ〜

第10話          10 11
1.価値観共有による経営

(1) あらすじ

しずかの料理で人気を盛り返すベルエキップだが、残されるデザートの多さに自分がベルエキップの料理の足を引っ張っているのではないかと稲毛は悩む。そんな時、雑誌「SPA」にベルエキップが取り上げられ、しずかの料理は絶賛される。やはりというべきか、稲毛のデザートは酷評。原田と千石は稲毛の心情を思ってその事実を隠そうとするが、軽率な梶原の行動で稲毛はその記事を読み、ますます落ち込んでしまう。稲毛は千石に自分の評価を尋ねると、稲毛のデザートがしずかの足を引っ張っていると言われる。気の弱い稲毛は思わず「辞めようかな」と口走ってしまい、千石に「辞めるのは自由だがもっと腕を磨け」と千石に励まされる。稲毛は日頃自分に厳しい態度を取っていると感じていたため、千石に辞めろと言われた気がして、ショックで職場放棄してしまう。この件がきっかけで稲毛の処遇をめぐり原田と千石は対立し、とうとう…

(2) ドラマのポイント

a. 雑誌に載って従業員はどんな反応を見せたか?

梶原は以前別れた妻に見栄を張って総支配人と嘘をついたことがあったが、今回は雑誌に人気フレンチレストランの総支配人として紹介されておりご機嫌。きっと梶原のことだから、雑誌記者に自分が総支配人だ、なんて嘘をついたのかもしれない。そして、梶原の軽率な、自己中心的な喜びから来る他人への配慮のなさが、大きな問題を引き起こした。誤解とはいえ、梶原に総支配人の座を奪われた水原はご機嫌斜め。酷評された稲毛は、自分である程度自覚していた自分の腕の悪さが多くの人が読む雑誌ではっきりと指摘され落ち込んでいる。他の従業員は、自分が働いている店が雑誌で高く評価されたので、尊厳欲求や自己実現欲求が満たされている。

b. 成長する他の従業員に置いていかれて足を引っ張る立場に君がなったらどう思うか?

多分、あせり、劣等感、うらやみ、疎外感などを感じる。そうした心情から早く仲間のレベルに追いつくため努力をするか、あきらめて自棄になったり、逃避行動に走る、などその人の人間性や性格で変わってくるが、いずれにしても精神的にかなり辛いのではないか。稲毛は努力をしたものの実績を出せず、多少あきらめ気味で、「俺、しずかと違って才能ないから」と逃避している。こうした従業員が部下や後輩にいたら、頑張れとか大丈夫といった精神論や楽観主義だけではなく、具体的な目標を設定し、指導、実行させることで、少しでも仲間との差を縮める手助けをしなくてはならない。

c. ワインセラーで落ち込んで仕事をしていない三人に対して大庭が怒って言った言葉の意味をよく考えよう!

大庭はソムリエとしてのプロ意識とプライドを持った男である。大庭だって、駆け出しの頃は仕事で失敗したり、能力がないと落ち込んだこともあろう。そうしたことを乗り越えて、一流のソムリエになった。そして、プロとして陰で絶え間ない努力をして、いつもお客様に対して最高のサービスを提供している自負がある。そんな大庭からすれば、雑誌に酷評されたり「辞めてもかまわない」と言われたくらいで職場放棄したり、女性に失恋したくらいでオーナーの責務を投げ出す意識の低さは信じられないのであろう。プロ意識を求める千石の価値観と似ていると言えよう。落ち込んでいる2人にそういう厳しい言葉を投げかけた大庭の真意は、同情するのではなく、プロとしての姿勢を思い出して、仕事に戻って欲しいという気持ちがあったのだ。

d. なぜ、原田と稲毛は職場復帰をしたのか?

原田は大庭の話を聞き、従業員である大庭が仕事へ高い意識を持っているのに対して、オーナーである自分のプロ意識のなさを反省した。そして、稲毛は原田が強く「店に残ってもらう」と言ってくれたのを良いきっかけにして、職場へ戻った。

e. なぜ原田は一流のフランス料理店になるという目的を捨てても、今の従業員で店をやっていくことにこだわったのだろうか?

原田の経営理念は、顧客満足の追求以外に従業員、いや仲間の満足の追求を掲げているのかも知れない。一緒に一流のレストランを目指す仲間の働きがいや達成感を満たしたいのだ。従業員ではなく仲間だから、実力がないからと言ってくびにするのはおかしい。仲間が満足して働いているから、マニュアルに沿った愛想笑いではない、最良のサービスを心からの笑顔と共に顧客へ提供できる。そして、仲間と一緒に目指す目標だからこそ、オーナーとして一生懸命にやってこられた。一流になれないからと言って稲毛を辞めさせ新しい人間を入れるというやり方は、こうした原田の根元的価値観に反するのだ。

f. 働いている人の団結が一流だというしずかの言い分からどのような真実を君は見出すか?

千石の目指す「一流」というのは、味、サービス、雰囲気であろう。しかしながら、しずかが「団結することでは一流」というように、異なった価値観による「一流」というのもある。例えば、従業員のアットホームな接客で一流、激安で一流、メニューの種類で一流など、異なった一流を目指すことが差別化であり、経営戦略の本質である。もちろん、千石の目指す一流はレストランの王道であるが、しずかはもっと視野を広く持って店の経営を考えたら、という一流のシェフらしい含蓄のある言葉である。以前、リストラ騒ぎで、「くびにするなら稲毛を」と言っていた畠山も、稲毛をくびにすることに対して畠山も怒っているくらい、チーム意識が浸透している。

g. なぜ千石は店を去ったのか?

千石は「一流のフレンチレストランを目指す」という目標に自縛され、視野が狭くなり、先代オーナーと同じ轍を踏んでいたことに気がついた。しかも、「稲毛さんがパティシエでは一流の店にはならない」と千石が主張したのに対して、「稲毛さんに辞めてもらって店を一流にしても意味がないし、一流にならなくても良い」とオーナーから、千石の行動の基本になっていた価値観を否定された。この口論やしずかとの会話によって、自分の価値観と組織が共有している価値観にずれが生じていることに気づいていた。そうした自分に、伝説のギャルソンのプライドが許さず、嫌気がさしたのである。加えて、ベルエキップは自分の考えている理想の店ではないが、従業員の成長によって、しずかの言うように既に一流と言える店になっているので、自分がいなくても十分大丈夫と考えたと思われる。既に自分の予想以上に良い店になったベルエキップに気がついて、自分の役目が終わったと思ったかも知れない。千石は新しいベルエキップのスタートのはなむけとして、調理器具を磨きながら回想と共にそんなことを思っていたのであろう。

h. 千石が去ったショックの中でリーダーシップを取ったのは誰?

オーナーである原田は、自分とのコンフリクトがきっかけで、もっとも信頼していたパートナーを失って、経営者として的確な意思決定ができなくなっていた。そして、水原が千石を無責任とか批判していたが、店の金に手を付けようとしていた水原がよくそんな事が言える。それはさておき、水原は店の運営の中心人物である千石がいなければ店を開けられないと発言した。リーダーシップを取るべき経営陣がネガティブな意見しか持てないのに対して、梶原は「店は開けましょう。千石がいなくても、この梶原がいます。」と啖呵を切った。梶原が千石並に仕事ができるかどうかは分からないが、少なくとも梶原の意識が、客室でリーダーシップを取る立場の人間として大きく成長したことを見て取れる。また、梶原は店の従業員全員の意識の変化と実力の向上を身をもって知っており、千石がいなくてもある程度できるという自信もあったと見られる。店の経営にあまり関わっていない水原は従業員の成長を認識していなかったが、梶原は自分も含めて従業員の実力向上を良く理解していたのだ。加えて、千石に対するライバル意識が、こうした発言のきっかけになったことも否定できない。梶原のイニシアチブによるリーダーシップは、大庭やしずかプロ意識の高い人間から支持を受け、梶原が千石に代わる新たなリーダーの一人になった。組織が発展していく過程で、一人のリーダーだけでは組織内外の環境変化に適応できないことがある。そのようなときに複数のリーダーシップを取れる人間を拝しておくことが重要である。これまで千石と原田の行ってきた組織変革の過程で、リーダーシップを取れる複数の人間を生み出したことは、ベルエキップの実力が高まった証拠である。

2.価値観による組織統合

(1) 価値観に関する学説はバーナード、セルズニックらを経て、「エクセレント・カンパニー」や「ジャパニーズ・マネジメント」で組織文化(共有された価値観)として再び注目されることになった。その後、組織文化の研究は、シャインのようなリーダーシップとの関わりで研究する学派や競争優位の源泉となる固有の組織能力と解釈する学派によって受け継がれている。

(2) 価値観共有の意味=価値観はメンバーの多様な意思を統一する核となる

個人は多様な価値観を持っているため、個人の集合である組織において価値観が分化しすぎて組織としての能率が低下するかも知れない。そこで、個人の価値観とは別に、個人を惹きつける組織の価値観(組織文化)や経営理念によって個人を統合し、一つの組織として機能させることが必要になる。組織統合の手段としては、他に経営のシステム、組織構造、組織目的から生み出された戦略がある。これらは組織のハードな要素であるが、価値観は組織のソフトの要素に着目した統合手法である。

(3) 価値観共有による経営のメリット

a. メンバーが意思決定や行動の際の基準を共有する価値観から得られる

組織の持つ価値観は組織メンバーへ大きな影響を与えるからである。反対に、メンバーへほとんど影響を与えない組織の価値観では組織統合の経営手法として意味が薄い。

b. 価値観という同じ土俵でコミュニケーションを取るので、コミュニケーションが容易になる

ベルエキップは仲間を大切にするとか、チームワークといった価値観が浸透しているから、日常業務の中で互いに手助けしながら仕事をするようになっている。

c. 組織の価値観に促した組織の目的に対してもメンバーから共感を得られ、貢献を引き出せる。

仲間を大切にするとか、団結といった価値観を持っているベルエキップは、今の仲間で店を一流にするという目的にも従業員は共感し、それに向かって努力をする。しずかが「マール・オ・ビュペール」へ転職をしなかったのは、そうした価値観を共有し、ベルエキップの目的達成へ貢献したかったから。

d. 組織の価値観そのものに惹かれたメンバーは仕事からよりも組織に貢献することに対して強く動機づけられる

カルト宗教団体では価値観の浸透によって、信者は仕事の中身を検討せずに、組織のために非合法なことを行ってしまう。

e. 独自で魅力のある価値観はメンバーを鼓舞する。

(4) 価値観共有による経営のデメリット

a. 意思決定、行動、発想の多様性が低下し、多様化した環境への適応を妨げる

拓銀の持つ北海道のリーディング・バンクという価値観は、バブル経済崩壊以降は経営戦略を自縛し、傷を深くすることになった。

b. メンバーの組織に対する一体化が強くなりすぎ、個人の自律的意思決定や行動が制約される。

一種のマインド・コントロール状態で、過度のものであると倫理的に良くないこと。

c. 組織内外の価値観を共有しない人や、共有の程度が小さい人に対して、排他的になりやすい。

(5) 価値観共有による経営の留意点

a. 価値の決定=組織の使命や価値を明確にする

組織のメンバーに価値を共有の対象として明確にすることが、価値観共有による経営の第一歩。ただし、価値観は組織の対外的・対内的の経営理念に結びつくものであるため、組織にとって内向きな価値観だけではダメ。

b. 価値観のコミュニケーション

価値観をベースにして、メンバー間でコミュニケーションを取り合う。それが価値観を組織に浸透させることになる。

c. 価値観の連携

組織の使命や価値観を日常業務の実践と一致させる。日常業務と密接に関連させることで、メンバーが頻繁に価値観を意識することになって価値観の浸透を促進する。

d. 価値観による報酬

組織の価値観に合致して組織へ貢献した行動に対して報酬を与え、その価値観をベースにした行動を強化する。組織の価値観に反した行動をした場合はペナルティーを与え、抑制する。

e. 価値観による選抜

価値観に基づき経営陣を選抜したり、価値観を共有できる人材を組織のメンバーとして迎える。それにより価値観の共有を容易にする。

3.コンフリクト(葛藤)・マネジメント

(1) コンフリクト対立する目的、態度、行動から合理的な意思決定ができない状況

一般的には組織の活動に対してネガティブだが、発展的なコンフリクトの解決がなされると組織成果の向上につながる。例えば、今回の原田と千石のコンフリクトも、千石が店を去るというのではなく、もっとベルエキップのビジョンに関して徹底的に討論したら、ベルエキップは今の仲間で味も一流の良い店になったかもしれない。

(2) コンフリクトのレベル

a. 個人のコンフリクト…個人の抱える葛藤

b. 組織のコンフリクト…組織の中の部門間や経営陣と従業員といった階層間の葛藤

c. 組織間コンフリクト…組織と組織の間で生じる葛藤

(3) コンフリクトの解決コンフリクトの根元の原因を除去するものだが、解決が困難

a. 分析過程…目的の共有がなされた状況では討議により説得や問題解決を図る

例:一流のレストランになる目的を共有しながらも、水原の横領未遂の処理を巡って議論して、処分しないことに納得する

b. 交渉過程…目的の共有が否定された状況では取引や政治的工作で葛藤の解消を図る

例:しずかの引き抜きに対して水原が給与を上げるという取引によってしずかを引き止めた行為

(4) コンフリクトの準解決抜本的に解決するのではなく、少しずつ解決を図る工夫

a. 特定の下位目標から解決していく

例:一流のレストランにするためまず厨房のスタッフのやり方を改めさせて生産性を改善する。次に客室のサービス改善を図っていく。

b. 局部的合理性の追求・・・部分部分での最適な解決を同時に図っていき、総合的な最適な解決を目指す

例:ベルエキップの料理を良くするために仕事の段取り、味の注意、盛り付けの注意、名物料理の開発というように部分ごとの改善の積み重ねを同時並行的に行って当初の目的を達成

c. 満足化原理による決定ルールの採用・・・妥協

例:「デザートは酷評されていても、しずかの料理が褒められているから良しとしよう」(水原)

例:失踪した稲毛の穴をカバーするためにオリジナリティーに妥協して他店のケーキに手を加えてベルエキップのデザートとして客に出す

(5) 稲毛をめぐる原田と千石のコンフリクト解決…原田がオーナーの職権を利用して一方的に解決した→千石が悩むのも無理はない

4.千石の失敗・原田の失敗

(1) 千石の誤算

a. オーナーの原田との間で組織の目標、経営理念、価値観に関するずれが生じていた

経営統治上、店の所有者である原田がもっとも偉い。しかも、千石は原田のポケットマネーで雇用されている。その原田に千石が意見できる範囲は限られているのに、千石があそこまで激しく原田に言い寄ったのは、ベルエキップを一流にするという二人の共有していた組織目標がいつのまにか千石の理想とする一流のレストランへすり替わってしまったからと考える。また、経営理念や価値観に関しても千石は課業志向による目標達成なのに対して、原田は人間志向での目標達成へ傾いていた。いくつかの物語で二人の食い違いが生じてきたが、いつも千石が折れる、というか物わかりの良さを見せた結果、徹底的に議論して二人の間のずれを小さいうちに修正しなかった。二人の食い違いが修復困難なほどに大きくなってしまい、稲毛の処遇を機に一気に爆発して千石は店を去る羽目になった。

b. 千石が認識している組織目標達成しか見えなくなっていた

人間は目標に近づけば近づくほど、その目標しか見えなくなってしまう。千石も一流のレストランまであともう少しという時点で、その目標だけしか見えず、視野が狭くなっていた。また、責任感の強さゆえに、多少気が急いてしまったところもあったようだ。

c. 原田を中心とした従業員間の信頼の和を軽視した

組織が人で成り立ち、信頼関係が重要であることをあまり意識しなかった。

d. 潜在能力を考えず育てる人と見切りをつけた人を早めに選別した

千石は伝説のギャルソンとして優秀な人材や潜在能力の高い人材を見出し、育てる力量を持つ。千石に育てられた人材は原田、しずか、畠山、大庭、和田などで、彼らにはきめ細かい支援をしていた。しかしながら、水原や稲毛といったあまり能力がなさそうな人材やプロ意識に徹するという価値観を共有できない人材には早く見切りをつけている嫌いがある。原田の言うとおり、やってみないとわからないし、人間の潜在能力は計り知れない。もう少し、時間をかけて育てることも必要だし、価値観を共有させる労をいとわない方が良い。

e. 従業員も成長してきたので千石の専制的リーダーシップより原田の集団参画型リーダーシップの方が適切になってきた

千石が何でも指示をするのではなく、多少失敗があるかもしれないが、従業員に自主性と自由裁量権を与えてやることも重要である。

f. なぜ水原が店の金に手を付けたときは原田の言葉に従って許したのに、なぜ稲毛の場合は原田の言葉に反論したのか?

これは理由や判断基準が明確ではない。店の金に手を付けることは横領罪であるし、仲間への裏切り行為で罪は重い。稲毛はやる気はあるものの、技術やセンスがそれに追いつかないだけで、職場放棄したのも仕事上の悩みからのもので、その意味では真剣に仕事へ取り組んでいたと言えよう。それなのに、稲毛をくびにし、水原は許すというのは、先代オーナーへの気兼ねなのか?

(2) なぜ千石はリーダーとして失敗したのか?
a. 組織のシステムや機能といったハードの側面を重視しすぎて組織の変革を進めた

マッキンゼーの7Sモデル(「ガンホー」2回で説明)では、経営のハードの側面(戦略、システム、構造)とソフトの側面(ビジョン、チームワーク、部下の心)の両方を重視しないといけないと指摘している。

b. 従業員の成長を求めながら自分はあまり成長せずに初めの頃と同じような手法で組織の変革を進めた

従業員はみな成長したが、千石自体は完成されたリーダーゆえにあまり成長していない。そのため、従業員と千石の差が縮まったにもかかわらず同じようなリーダーシップスタイルを採ったところにも間違いがある。

c. 従業員の変化に対して認識が低かった

人間はみな変われるし、潜在能力もある。そのため、チャンスを与えることも重要である。

d. 従業員の心に対してのリーダーシップを発揮しなかった

e. 原田から頼まれたベルエキップを一流のレストランにするという目的に対して視野が狭くなった

f. 組織のキーパーソン以外の従業員に対するリーダーシップが不十分

g. チームワークの力を軽視し従業員を個別の経営資源として評価をしていた

組織の人的資源管理においては各従業員の力と、従業員間のチームワークの力、両方を評価しなくてはならない。

(3) 原田の行動もリーダーとしてすべて適切だったか?

a. 信頼することは甘やかすことではなく厳しさも人間を成長させる

稲毛をそのまま仕事をさせるにしろ、どうしたら稲毛の実力を高めるのか、それを考えるのもリーダーの仕事。やる気を出させるのは人間関係でも良いが、実力アップには厳しく仕事させることも重要。

b. リーダーとしてのビジョンを明確に打ち出し伝えていない

原田なりの一流の店のビジョンを、千石を始めとして従業員へ明確に示す必要があった。千石は原田に対して明確に示していた。原田は個別に仲間を大切にする施策を採っているが、ビジョンや経営理念としては示しておらず、それも千石と大きなコンフリクトになった原因の一つである。

c. 千石とのコンフリクト解決の仕方がまずいため、大切な仲間である千石を失った

原田のコンフリクト解決の問題点は、組織変革の担い手であった千石に対して一方的に稲毛処遇を決めてしまった。最終的な意思決定はオーナーがすべきであるが、千石がしっかり納得のいくように説明すべきである。「ベルエキップを一流の店にする」という目標が共有されている時点では、稲毛に職場放棄させない具体案とか、パティシエとしての実力アップの修行計画を千石に提示するか、もしくは千石に立案してもらうのである。しかし、二人が感情的になって、「一流のレストランにならなくて良い」と原田が言った後は、目標の共有が否定された。そのような状態では、原田は稲毛を残す代わりに、しずかが稲毛と共同で菓子作りを行うなどの取引によって解決を図ることができよう。もしくは、コンフリクトの準解決になってしまうが、胃稲毛に対して一流のパティシエになるための、下位目標、例えば、ムースで一流の味を出す、とかミルフィーユで独創的な菓子にするを設定し、逐次的達成させていく。局部合理性による準解決では、パティシエの仕事を細分化して、菓子の開発は千石、しずか、稲毛が共同で、菓子の下地作りは畠山と稲毛が共同で、味付けはしずかと稲毛の共同で、デコレーションは稲毛単独で行うなど、細分化した仕事で最高を目指すのである。最後に満足化原理による準解決もありうる。これは水原がいみじくも言っていたように、「料理で褒められているので良しとする」。ただし、千石のような厳しい男には満足化原理は受け入れられないであろう。

(4) 千石と原田の組織に対する認識の相違

千石…目的や価値観を共有しその目的に十分貢献できる人間をメンバーとして扱う→能力主義・実績重視

原田・・・目的や価値観を共有しその目的に貢献意欲のある人間をメンバーとして扱う→温情主義・意欲重視

(5) 優秀なリーダーとしての資質…楽観主義者と心身のタフさ

(6) 優秀なリーダーに必要とされる能力

a. 起業家精神に関連する能力(野心・洞察力・決断力・構想力)…非連続的な変化を作り出し成長させていく能力

b. 管理者として能力(知識・人間尊重・分析力)…変化に適応していく能力

c. リーダーシップ能力(理念・忍耐力・持続力・対人折衝能力・人間的魅力・品位・倫理観・運・健康)…起業家と管理者の能力をより高い視点から統合する能力

(7) リーダーの心得

a. 絶えず組織のハードの側面(戦略・事業システム・機能)とソフトの側面(ビジョン・部下の心・チームワーク)の両面に関心を持て

b. 部下を育成し成長させる一方、自分も成長しなければならない

c. 組織、従業員、外部環境の変化を見落とすな

d. 変化に応じてリーダーシップの方法、ビジョン、戦略を修正せよ

e. 部下を信頼し権限を委譲せよ

f. 組織の中におけるすべての意思決定の最終責任を取れるようにする

g. リーダーとしての自覚を持ち言動には自制せよ

h. 部下に自由裁量(free)を与え部下に応じた柔軟な管理(flexible)を行い公正な態度で(fare)接する