〜変革のリーダーシップ〜

第9話          10 11
1.同族経営

(1) あらすじ

総支配人の水原は家庭の不和から店で寝泊まりをしているので、ベルエキップの定休日である月曜日の朝も店にいた。そんな彼がもっとも力を入れているカラーヒヨコの卵が雛に返ったものの、ごく普通の黄色いヒヨコだった。友人にだまされたのだ。カラーヒヨコのために借金までしている水原は思い余って店の金に手をつけ、店の権利書と実印までも懐にしまう。定休日にもかかわらず親睦のコーラス練習に来た従業員が、水原の上着に入っていた123万円の金と店の権利書等を発見してしまう。従業員の間には重苦しい雰囲気が流れ、千石は原田に水原をクビにするよう要求する。大好きな兄をかばう原田だが…

(2) ドラマのポイント

a. 週一日の定休日なのにコーラスの練習に来た従業員達の心情は?

以前は気の合った同僚と酒を飲む程度だであったが、仕事を通じて互いに信頼関係や親近感が深まり、もっと店の仲間で何かをやってみたくなったのだろう。店の定休日は月曜日で、友人と休日も合わないだろうし、家族サービスをしなくてはならない人もいないようだし(水原は別居中、梶原は×1、千石は独身?)。

b. 厳しい指導の和田に対して不満が集まった時、原田はなぜ和田を支持したのか?

原田がコーラス大会で優勝したいという希望を持ち、その希望をかなえるため合唱団出身の和田がリーダーシップを取っている。和田はリーダーとしてコーラス大会で優勝するため、みなを厳しく指導しているので、原田は支持をした。千石に当初非難が集まったときに、原田が支持をしたのと同様の考えである。

d. 水原をクビにしない原田の意思決定をどう考えるか? それともあなたは千石のように水原を辞めさせるべきと考えるか?

現実社会では、未遂とはいえ、店の金を着服したり、店を勝手に担保にすることは横領で犯罪行為である。そうした犯罪行為をまったく処分しないと言うのは組織の規律維持の視点から問題がある。千石の意見は、経営者としてはまっとうだ。また、みなで努力して得た収入を盗むことは、仲間を裏切る行為である。一方、水原を辞めさせないで更正するチャンスを与えるという原田の考えは、優しさに溢れた考えだ。しかし、原田が兄である水原を好きだから、という理由で処分をしないというのは、経営における公私混同と取られかねない。更正のチャンスを与えるにしろ、総支配人の地位からギャルソンへ降格するなどの処分をして、水原の行為に関してはけじめをつける必要はあろう。

e. なぜ従業員達も梶原以外は水原をかばわなかったのか?

水原は梶原以外の従業員とは経営者と従業員というビジネス上の関係で、しかも従業員にとっては嫌な上司だったのでかばう従業員がいなかった。

f. 原田に引き止められたにもかかわらず水原は辞めるといったのか?

「俺にだってプライドがある」という水原の言葉が物語っている。弟の下で働くのは、弟に見下されているようで、兄にとって非常に惨めな気持ちになる。しかも、悪事がばれてしまい、店に残れば針のむしろである。水原にとって店を辞めるのが、一番気が楽なのだろう。

g. 兄弟の和解の場で真っ先に練習を再開しようといったしずかと大庭の真意は?

原田の意図を汲み取り、場を和ませ、水原をみんなの中に溶け込ませるため、練習の再開を促した。

h. 店をこっそり去ろうとする水原を引き止めた千石の真意は?

千石は水原は辞めさせるべきと考えていたが、原田が水原を思う気持ちを汲み取った。その時点で、千石の仕事は水原を店に復帰させることになったので、店を去ろうとする水原を励まし、動機付けを行った。水原はそんな千石を「あんたと話していると親父と話しているようだ」と評し、初めて千石に対して心を開くことになった。

i. 今回の水原の件は実はベルエキップの最大の危機につながるのだが、その理由は?

原田と千石の経営に対する考え方がはっきり分かれた。原田は人間関係志向を強め、ベルエキップを一流にすることよりも、店のチームワークを第一に考えている。一方、千石は課業志向を強め、一流の店にふさわしくない人間は店を辞めてもらうことまで視野に入れている。経営に対する考えの大きな相違は、経営に関する一貫性を失わせかねない

2.組織の成長と同族経営

(1) 同族経営=家族+親族で経営を行っていく組織

(2) 1〜2人の組織=自営業ならば夫と妻という2人で事業を行う

(3) 3〜5人の組織=経営陣は家族や同族でも従業員は他人。法人化を視野に入れる。

(4) 10人程度=血のつながらない従業員が多数派になる。節税のために法人化(有限会社や株式会社)する。

(5) 同族や家族経営は組織の規模(特に従業員数)が大きくなるに連れて薄らぐ…経験則では20人が一つのボーダー

(6) 組織が大きくなると経営の近代化・システム化の必要→経営と所有の分離→同族による会社の所有と経営の色が薄まる

a. 個人財産と法人資産の区別の必要性・・・公私混同を避けることと事業の責任が個人の財産に及ばないようにする

b. 専門経営者の登用を可能にする

(7) 同族経営と社長の世襲制の関連性

同族経営であると、当然、後継者も同族から選ばれ、社長職が世襲になる

(8) 同族経営が好まれる理由

a. 同族の方が裏切られる心配が少なく信頼できる

b. 同族経営の方が外部のうるさい批判などが入らない

c. 経営上の意思統一を行いやすくワンマン経営をしやすい→スピード重視の経営が可能

d. 会社の所有権や経営権を経営者一族で継承したい

e. 組織の成果をなるべく同族で分け合いたい

f. 同族以外の人は少ない誘因で大きな貢献を組織にしてくれない

g. 同族を中心に経営の求心力を持たせられる

(9) 同族経営の短所

a. 同族以外の従業員が経営参加への制限から貢献意欲を阻害される

b. 血のつながりという努力ではどうにもできない要因で処遇が決まることによる同族以外の人のモラルダウン

c. 経営的に無能な人間でも同族であるというだけで重用される不条理

ベルエキップの水原はその典型

d. 同族間ゆえに相手に対してわがままになったり、プライベートの問題が経営に持ち込まれる

水原と原田の兄弟問題

e. 相続などの問題で一度同族間の関係が悪くなると組織の崩壊を招く危険性が高い

f. 外部からの優れた人材が入ってきにくい

g. 経営の意思決定が閉鎖的になりやすく環境適応を誤る可能性もある

h. 組織が大きくなると同族間の結束が壊れ成長が阻害されやすい

i. 上場企業で同族経営を行うと経営の私物化という悪いイメージをもたれる

I 同族経営のポイント

a. 社長は世襲であっても経営陣には同族以外の人間を登用してモラル向上を図る

b. 一族の中で優秀な人材だけを経営陣に加える

c. 兄弟間の争いを避けるため子息を入社させる場合は1人だけにしておく→他の子息は他業態の事業をやらせる

d. 社長職を世襲させる場合、社長候補の子息には他業態の事業で経験をつませたり自ら小さな事業を行わせて教育する

e. 社長候補の子息には信頼できる教育役(社長が最適)や補佐役をつける

f. 私利を自制し、公私混同を避ける

g. 経営の情報をガラス張りにして同族以外の従業員の信頼を得る

3.水原と原田の兄弟による共同経営

(1) 水原の心情分析

a. 兄としてのプライド

b. 元オーナーとしてのプライド

c. 従業員の人気が原田に集まる嫉妬

d. ベルエキップにおける自分の存在意義の薄さからくる疎外感

e. 三条をめぐる弟へのライバル心

(2) 原田の心情分析

a. 唯一の肉親である兄への愛情

b. 兄を立てる気持ち

c. 兄と協力し合って父の店を盛り返したい

(3) 経営者として優秀な兄と兄をサポートする弟ならばあまり問題はおきにくいが、その反対だと…

(4) 兄弟で会社経営をする

a. カシオ…兄弟で役割分担をしつつ協力し合ってうまくやっている

b. ダイエー…長兄の中内功が弟達をダイエーから追い出す

c. ハドソン…兄が技術開発、弟が営業と役割分担をしている

d. キミシマ…父親の死後腹違いの兄弟で骨肉の争いをし没落

(5) 兄弟で共同経営のメリット

a. 血でつながった信頼感

b. 同じ家庭に育ったことによる価値観の類似性

c. 組織の求心力が取り易い

d. 経営への無償の貢献が期待できる

(6) 兄弟で共同経営の問題

a. 家族の問題が経営に持ち込まれる危険性あり

b. 経営能力とは別に兄弟の序列が権力の源泉になりやすい

c. 感情的になりやすい(甘え・ねたみ・卑屈)

d. 財産分与などで問題がおきやすい

e. 兄弟を取り巻く人間(特に嫁)が経営の撹乱要素になりやすい

4.水原と原田のXY理論

(1) なぜ原田と水原、同じ兄弟でもこのような差が付いたのか?

a. リーダーとしての適性・・・原田の方が優れている

原田=Y理論の人間観・お人好し・人を信じる・思いやりがある・前向き・誠実・明るい

 vs

水原=X理論の人間観・こずるい・人を信じない・思いやりに欠ける・後ろ向き・不誠実・暗い

b. 優れた後見役や味方がいるか?…原田には千石vs水原には?

c. 部下にとって思いやりがあり信じてくれるリーダーの方が好かれる

(2) 水原に対する原田と他の従業員の言い分から

(原田の言い分)

a. 自分がオーナーになったことで誰かが不幸になるのは嫌だ

b. 水原はきっと立ち直ってくれるはず

c. 水原はたった一人の肉親

d. 悪い人間じゃない、小動物を愛するいい人だ

e. 水原は総支配人としてりっぱに役目を果たしている

f. 誰がなんと思っていようとも僕は兄さんが好きだ

(他の人達の言い分)

a. 今回見逃しても水原はまた同じ事を繰り返す(三条)

b. 我々の努力の結晶を売ろうとしたから辞めてもらうしかない(千石)

c. 水原は友達じゃない、いなくてもいい(しずか)

d. 水原を切らないと周りが不幸になる、彼は同じ事を繰り返す(千石)

e. 水原は自分に似てこずるいところがあり好きだった(梶原)

f. 辞めた方がいい、残っても誰もあなたについてこない(三条)

(3) マグレガーのX理論Y理論

a. X理論…労働に対して怠惰である、向上心がない、責任をとりたがらない、命令されることを好む←権威主義的管理

b. Y理論…本質的には仕事を好む、納得のいく目標を持てば進んで努力し責任を取る←権限委譲・自主管理・職務を通じての成長促進

(4) 人間は他人から信頼されればしっかり目的に向かって努力する人が多い→Y理論の人間観による経営の有効性

(5) Y理論が有効に機能する条件

a. 部下が成熟した人間である

b. リーダーと部下の間にコミュニケーションがしっかりとれる

c. 時間をかけて管理を行える

d. 組織と個人の間で、目的や価値観が類似している

(6) Y理論の経営の留意点

a. 権限・責任・義務は等しく与える必要がある=三面等価の原則

b. 自主性を重んじ、部下を信じる

(7) Y理論で信頼の和を広げる原田

(8) 現実の組織では利害関係などから(7)のようなことにはなりにくい…千石のような考えが主流である「仲間意識だけではダメ。一流になるには切り捨てるべきものは切り捨てるべきだ」