〜変革のリーダーシップ〜

第2話          10 11
1.組織変革へ向けて

(1) あらすじ

原田はオーナーとして、千石はギャルソンとして、ベルエキップを素晴らしいフレンチ・レストランへ再建しようと力を合わせることになった。原田の異母兄弟である水原は亡き父のパートナーだった千石を煙たがる。原田にしろ千石にしろ、従業員からあまり歓迎はされていないようだ。飲食店経営に関しては素人のオーナー原田はミスをするし、千石はシェフのしずかが作れない料理のオーダーを取ったことでみんなは混乱へ…

(2) ドラマのポイント

a. 水原が千石に「僕は千石さんが来てくれるのは大歓迎なんだが…」というが本当?

口先だけで言っている。今までは店の最高権力者だったのが、新参者2人にその座を奪われて自分の存在意義が薄くなる懸念と、自分の経営が否定される懸念から、2人を歓迎などしていない。


b. オーナーを弟原田に譲った水原の気持ちは?

異母兄弟ではあるが、突然現れた若い弟にその地位を追われた水原としてはおもしろくない。でも、血を分けた弟なので、親近感もあるという複雑な心境である。しかし、あとで三条にカラーひよこの事業が軌道に乗ったら、赤字のレストランを弟に押しつけるという発言をしていたことから考えると、水原は赤字のレストランに興味を持っていないし、重荷になっているため責任を転嫁したい気持ちがあったとみられる。


c. 水原の朝礼の訓示から彼のリーダーとしての性格が分かるが、どんな男?

自分の権力を権力を受容しなくてはならない従業員に誇示することで、権力欲を満たし、自分の地位を保全する小心者の権力志向の男。

d. 千石は梶原を「かじわら」と間違った呼び方をしているが、梶原の気持ちは?

自分の名前を間違って呼ばれれば良い気はしない。しかも自分の部下にあたる男に間違われれば不快に思うだろう。千石は一流のギャルソンならば百も承知のはず。それができないのは、千石が梶原を軽視しているのか、意図的にしているのか、歳で記憶力が衰えているのか。多分、梶原のことを店のスタッフとして重要に思わず、軽視している気持ちが名前の間違いに表れているのであろう。

e. なぜ千石は下っ端のギャルソンでいいと言ったのか?これは適切なのか?

新参者ゆえに変なことに気を使っているが、組織を変革する場合は組織の中でそれなりの権限を持つ地位につかないと、いくら一流の職務能力を持つとは言えいろいろ仕事上の指図する際に、先輩従業員の反発を買ってしまう。千石は従業員のコーチ役としてやるならば、それなりの地位についた方が無用の摩擦を招かずにすんだかもしれない。千石としてはトップからの変革を原田に、ボトムからの変革を自分が分担して行う意図があったかもしれないが、千石のリーダーとしての能力が従業員に受け入れられていない状況では、裏目に出ることもある。また、千石はベルエキップという法人組織に雇用されているのではなく、原田に個人的に雇用されている形態も、千石が店の一員とみなされにくい(後でその弊害が出てくる)原因になっていたのかもしれない。

f. ベルエキップのメニューの問題は?

高級フレンチレストランがコース料理だけであると、顧客の多様なニーズに適応できないし、シェフの料理レパートリーの狭さが疑われてしまうので、メニューにシェフの作れない料理を入れて見栄えを良くしたいという店の思惑はよく分かる。常連客が少なければ、「シェフのおまかせコース」とするのも、シェフのレパートリーの狭さをカバーする一つの手であろう。

g. 千石のギャルソンとしての実力は?

最初に「6つの料理を同時に暖かいまま出す」という最終的な目標を提示し、そのためには「調理に時間がかかる料理から手がけましょう」と手始めの業務を教え、各従業員の役割分担を決めたのは一流のリーダー。しかも、店がパニックに陥いっていても、調理と顧客サービスという店全体への気配りができており、店の責任者としての実力も見せている。ギャルソンとしても、料理の知識と接客のスキルを持たなければならないが、両方とも兼ね備えた高額ギャラに見合うだけの実力の持ち主。原田が顧客の女性の髪をカフスボタンに引っかけてしまったときのユーモアがあふれた対応は、他の従業員が「申し訳ありません」としか言えなかったのとは対照的。プライドの高い大庭に、「こういうときこそソムリエの腕の見せ所」と言って顧客の相手をさせるようにし向けたり、梶原に手品をやって貰うために「あなたしか頼る人がいない」と言って、自分の考えを受け入れさせてその気にさせる人使いは非常にうまい。しかし、役に立ちたいと思っているオーナーの原田に適当な仕事しか割り当てなかったのは、課業重視のリーダーシップで、もっと原田の心情と店に置ける彼の地位に配慮すべきである。加えて、しずかと三条の争いをその場限りでも収めなかったのは、問題がある。

h. 仕事をさせてもらえない原田の気持ちは?「手伝いますよ」と申し出た彼の価値観はどう考えるか。

みんなが危機に直面して頑張っているときに、自分が何も危機打開に貢献できずもどかしい気持ちである。そんな気持ちを持つ原田はティームワークや連帯感を重視する価値観を持っていると言える。そうした価値観は、ベルエキップに欠けているものである。

i. なぜ千石はシェフのできないアラカルト料理を客にわざわざ勧めたのか?

組織変革の第一歩として、従業員に危機を与え、危機を一致団結して乗り切る中で従業員に一体感を持たせ、従業員の意識変革を行い、新しい効率の良い業務方法を導入しようとした。組織の変革は定型的な業務の中で組織を変革することは、人間の価値観が変化しにくいために時間がかかる。一時的な危機は業務の非定型性を生み出し、非定型性は人間の価値観の変革を起こしやすくし、潜在的な力を引き出す。パニック状態ならば従業員は千石のやり方に反発している暇はなく、危機を乗り切るために千石のシナリオで動いてくれる。また、千石は先代のオーナーシェフのスペシャリティーをどれだけ再現できるかをしずかに試しつつも、しずかならば今まで作ったことのない料理もできると確信しており、しずかと従業員の潜在的能力を引き出す意図もあった。危機を共有し、克服した人間の間では、連帯感が生まれるが、ベルエキップでも厨房を中心として従業員間の一体感も生まれ、組織の基盤である協働意識が生成されたのだ。そしてパニック状態で、しっかりコンダクターとしての役割を示した千石の実力は一部の従業員に評価され、しずかにはシェフのやるべき役割を身をもって教えることに成功した。しずかも先代オーナーと得意料理をマスターすることで、店の料理のバラエティーが増え、顧客の好評価を得ることになろう。難しく言えば、千石の行動は十分管理されたカオスの創出による組織変革の起爆剤と言えよう。

h. しずかを説得する原田の「とにかくやってみよう」彼はどういう意図をもっていたのか?

向こう見ずともいえるし、ベンチャー精神の持ち主とも言える。考えることよりも行動を重視する行動特性(Competency)の男。オーナーである原田が千石の判断を支持することで、千石の変革者としての立場は正当化され、また、変革に対して前向きな姿勢を従業員に見せることで、新しい経営理念を示した。ただし、その後のミスで帳消しになってしまったのはご愛敬。

j. なぜしずかは三条を嫌っているのか?

嫉妬、水原の愛人だから雇用されている、プロ意識持っていないなどから、しずかは政子を嫌っている。政子もそうした自覚を持ち、引け目があるから、しずかには反発しにくい。しずかは調理場を「命をかけている場所だから出ていってくれ」と三条に言ったが、しずか自身も命をかけて料理に取り組んでいるのか?とつっこみを入れたくなる。


k. パティシエ稲毛がついに手伝うようになった心境の変化は?

自己中心的な男というだけでなく、店全体に自分の与えられた持ち場だけをやれば良いという官僚的組織文化が存在したのであろう。しかし、店全体がチームワークで仕事をやっている中で、その流れに乗り遅れたくないのと、自分も危機打開に貢献したいという気持ちが醸成されたこと。また、あまりにも原田の手つきが危なっかしいというのもある。

l. 盛り付けが終わった後のしずかの「持ってけー」といった時の表情から彼女のどんな感情を想像するか?

危機を打開できた安心感、困難を乗り越えた達成感と満足感、そして少しばかりの自信と誇らしさを感じ取れる。

m. 客が食事をしている時に原田が「調理場で何があったかを知らずに客は楽しそうに食事をしている」と言い、千石が「それでいいんです」と答えた。千石のこの言葉にサービス業の本質をどう考える?

あくまでも顧客は食事や食事をする時間を楽しむために来店している。そのため、顧客が楽しめる時間を提供する店側の事情を、顧客に押しつけてはならない。

n. 出番がなかった梶原の心情は?

チームワークが醸成されつつある組織の流れに乗れない焦りと、自分の店での存在意義が千石に無視されたようで悔しさを覚えている。自慢の手品を見せられなかった悔しさもあるかも?

o. 閉店後、千石がしずかの料理をほめ、盛りつけを批判し、「あなたにはいろいろ学んでもらう」と言ったがその真意は?

千石はしずかの才能を見抜き、彼女を一流のシェフに育てようという意志を持っている。そのため、彼女に「先代オーナーの得意料理を見事に再現している」と最大級のほめ言葉で自信を与えて仕事への意欲を高める一方、「料理に愛情がない」とか「コンダクターの役割をやらなくてはいけない」と直すべきこと、学ぶべきことを指摘したのだ。しずかはシェフとして自信がなく、千石から誉められたことはちょっぴりうれしかったようだ。ただし、負けん気が強い彼女は千石の強引なやり方やに反発しており、千石はコミュニケーションを十分取って何のために、何を学ぶかをしずかに理解して貰う努力をしなくてはならない。二人だけで会話を交わす機会を持ったことは、千石のリーダーとしてのビジョンや価値観をベルエキップ再建の鍵を握るしずかへ伝える良い機会だった。

2.ベルエキップの問題点

(1) 場当たり的仕事のやり方場当たり的に仕事を行っていると、習熟効果が得られないし、最適な業務体制を再現しにくい。そこで、もっと効率の良いやり方を考えて採用し、その方法で継続的に行う。千石の知識では、各人が自分の職務を持ちながらも、職場のリーダー(厨房ならばシェフ)がコンダクターとなって、全体の業務状況に応じて職務割り当てから料理の品質管理まで責任を持って行うことが、今後、客数が増えたときにも対応できる最適な体制と考えている。

(2) 従業員の低い勤労意欲勤労意欲を高める、経済的および精神的報酬の引き上げや仕事における自己実現欲求の充足というポジティブな誘因、と危機の創出やペナルティーといったネガティブな誘因を与える。

(3) メンバーの低い職務能力優れた指導者の指導を受けながら仕事を通じて成長してもらう

(4) 流行っていない店なのでみんな自信がない成功体験を与えて自信をつけさせる。特に顧客からの感謝の言葉が大きな自信につながる。

(5) 組織の目的を阻害するメンバーの価値観強力なリーダーシップの下、健全な価値観に変えること。

(6) 前オーナー水原の経営者としての能力不足新しいリーダーである原田(ヴィジョンと価値観)と千石(職務能力)によるリーダーシップ確立

(7) 経営資源の有効活用と組織能力の開発優れたリーダーシップによる従業員の育成。特に個人の潜在的能力の活用とチームワークによる組織能力の向上が必要。

(8)各人の職務分担が明確なのはいいが、職務の境界が固定的(機械的組織)すぎて助け合うという体制ではない→状況に応じて他人の仕事を手伝う有機的組織への改革。機械的組織では業務のプロセスにおいて部分的に過重がかかりすぎ、それがボトルネックとなって全体の効率低下を招く。大規模の組織ならば余剰があるのでそうした過重を吸収できるが小さな組織は余剰が少ないためそれを吸収できないかも知れないので、互いに助け合う体制を作っておくことが重要。

3.業務の改革(Business Process Reengineering)

(1) ベルエキップのリエンジニアリング
a. 分業を基本にして効率化する

その分担する仕事で専門化を進めてプロになる。専門化による生産性向上は、顧客の増加による大量処理を可能にする。


b. 従業員同士が助け合い、仕事が忙しい時は他の仕事を手伝うことで全体の生産性を上げる

組織全体の業務を鳥瞰し、自発的かつ有機的に自らの労働力の能率的配分と活用を行う。

c. シェフが厨房のコンダクターとして業務の流れを管理する

組織全体のリーダーが各部署の管理を行うのではなく、厨房とダイニングの各部署にも職務上リーダーシップを取れる人材を育成する。

(2) 旧来の仕事のやり方を変えようとすると従業員は反発することが多い

慣れ親しんだ仕事のやり方で働くことが従業員にとっては新しいことを学ばずにすみ楽であるから。そこで、千石は危機的状況を作り出し、反発する余地のない状況で一挙に変革をしようという、ショック療法を使ったのだ。

(3) 新しい仕事のやり方に成功することで従業員は何を学んだか

a. 今までのやり方の悪い点〜組織の問題分析による見直し

b. 新しいやり方を学習することで組織目的を成功させられること

c. 従業員自身が業務改革を通じプロフェッショナルとして成長できる

d. もっとも重要なのは従業員が職務上の小さな成功体験で自信をもったことかもしれない

(4) 新参者千石はなぜベルエキップを少し変えることに成功したのか?

外部から来た一流のプロなので、既存の価値観と業務のやり方に縛られず、ドラスティックにもっとも良いやり方を導入することが可能であったのだ。組織の中で働いている人が組織を変革することは、組織の中の人間的と心情的しがらみ、視野の狭さから困難なことが多い。そのため、外部コンサルタントを雇ったり、外部から優秀な経営者や管理職者を採用することで組織の変革を可能にしようとする。


(5) リエンジニアリングで業務のやり方だけを変えてベルエキップは再建できるか?

店を再建するためには組織を変革しなくてはならない。そこで、従業員の意識を変え、組織文化自体を変える必要がある。

4.業務の効率化の歴史

(1) 業務改革の歴史

(2) 科学的管理法(by テイラー)

a. 個人の業務内容の特定化

b. ベスト・プラクティスによる課業の設定

c. 各個人の仕事ぶりを測定

d. 課業をクリアしたら報酬、クリアできなかったら罰則。

(3) 改善運動

a. 米国のデミング博士が提唱し、日本で発展させた

b. QCのような小集団活動による各職場ごとでの問題解決や業務品質の工場

c. 会社全体の経営品質を高めるTQCへの発展へ

d. 日本では1960年代から採用され、1990年代にアメリカでも積極的に採用される

e. GEの6マグマ運動

(4) 業務のやり方を再編することでより効率化して収益性をあげる=リエンジニアリング(Business Process Reengineering)byハマー&チャンピー

リエンジニアリングは1993年頃から米国で流行した経営手法だが、改善運動のように既存のパラダイム上で生産性や品質の向上を図るのではなく、業務全体の再構築を行う抜本的な改革。

5.組織文化

(1) 旧来の効率悪い仕事のやり方をそのままにしている経営者と従業員の価値観が問題→その価値観を変えることが実はもっとも重要

組織のメンバーの価値観や意識を変えない限り組織は元どおりの悪い組織に戻るかもしれない

(2) メンバーが共有する価値観=組織文化

組織文化は人を組織への貢献や勤労意欲を決定する重要な要因 だが、変えるのは非常に困難


(3) 組織風土=組織の雰囲気

組織風土は価値観の共有から生まれる表面的な印象


(4) 組織リーダーの持つ価値観 ←→組織メンバーの持つ価値観…組織文化が形成

(5) ベルエキップ再建のため原田と千石は新しい組織文化を作り旧い文化を改革する

組織を変えるためには組織文化の変革から始めなくてはならない

(6) 千石はわざとオーダー・ミスをする→みんなを危機に追い込む

とりあえず組織を変える何らかのきっかけを与える

(7) 何かを変える時

とにかくやってみることだ。行動を起こさない限り、変化に流されるだけ。結果が失敗することもあるかもしれないが、前向きに変えていこう、変わっていこう。やらないで後悔するより、やって後悔する方が学ぶことは多い。

(8) ベルエキップの危機

仕事のやり方を変えねば克服しなければならない…分業+メンバー全員で一致団結によるチームワーク

(9) ベルエキップの危機は従業員の一致団結で克服

従業員は…自信をもつ+新しいやり方を認める

(10) 組織の変革=組織文化の変革+組織および業務構造の変革