〜変革のリーダーシップ〜
第3話 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
1.リストラの心理学 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
(1) あらすじ オーナーの仕事で失敗続きの原田は自分がオーナーに向いているか悩むが、そんな彼が重要な決断(経営学では意思決定と言う)をしなくてはならなくなった。それはベルエキップの赤字減らしである。商社の経理マンだった原田は経費の削減を考えるが、兄の水原に経費の切りつめはこれ以上困難と反論される。一方、千石は人員削減を示唆する。心優しい原田は人員削減に抵抗するが、千石に「従業員全員と面接して話し合ってみては?」と提案される。新しく入ってきた二人を快く思っていない水原は、原田は厳しいオーナーで赤字減らしのために人員削減をするとみんなに言い、従業員達の不安感を煽る。しずかを除く従業員たちは誰がくびになるか、びくびくしている。面接を行い、原田は考える。そして、ある意思決定をするが…(2) ドラマのポイント a. 従業員へ3つのWとか、5つのPを提示することはどんな意味があるのか? 企業では経営理念や行動基準を同じ頭文字で始まる言葉で表して、覚えやすくする。それを朝礼などの場で繰り返すことで、組織文化を変えようとするが、人間の気持ちはそんなもので変わることがないため、単なる自己満足に終わることもある。ちなみに3つのWは「わっしょい」だけしか示されていない。これはみんなで経営者である自分を担いで頑張ってくれという暗喩か。5つのPはPower、Passion、Push、Professional、Popeye。きっとポパイのようにパワフルで、情熱を持って、押しまくって、プロの仕事をせよ、ということだろう。 b. 原田がオーナーとして務まるか自信を失っているのに対して、千石は「パンの大きさはパンを焼くための器の大きさで決まる」と言った。どういう意味? 「人間は小さな目標に甘んじていると、大きな成長はしにくい。一流のフレンチレストランのオーナーという大きな目標を掲げ、それに向かって努力をして成長して欲しい。そうでなければ、あなたに誘われた私はどうなるんですか。」と千石は言いたいのであろう。 b. 梶原が「しずかの尻を見て見ろ」と和田に言っていたが、セクハラでは? その通り、身体的特徴を性と結びつけた表現はセクシャルハラスメントである。しずかは梶原を民事裁判で訴えれば慰謝料を取れるであろうし、店がこのような状況を放置しておくと店も訴えられかねない。 c. 人員削減を示唆した千石の真意は? 人員削減を念頭にした従業員の面接では、三条、大庭、稲毛以外の従業員に関して、水原がくびにしよう、と言うたびにフォローしていた。そして、最後の場面で千石が「誰かを辞めさせるのなら、私が辞めました」と原田に告白しているため、千石は人員削減を当初から意図していなかったのである。千石は原田に対して、まず店の経営状況がかなり厳しいことを認識してもらいたかった。その厳しい経営状況に対して人員削減がいやならば、思い切った経費削減をしなくてはならないことを悟らせ、原田が経営者として経費削減策を考案するようにし向けたのである。それは原田に対する経営者としての試練であり、千石はフォローするものの原田が人員削減を決断するかも知れず一種のかけであった。千石の真意は、みんなで経費削減の痛みを分かち合い、店の再建の第一歩としたかったのだ。そして、原田の経営者としての自覚をうながし、従業員の反発を抑えながら店の思い切った経費削減を実行させ、原田を経営者として成長させ、自信を付けさせようとしたのである。加えて、原田に従業員とコミュニケーションをする場を与え、また、人員削減でなく経費削減ですますことで、従業員の原田に対する評価を高めることも意図していた。そのために、千石は要所要所で原田の行動を意図した方向へ誘導していた。「千石のやろー」と怒っていた水原は千石の深謀策略を後から気づいたようであるが、原田は千石にうまく乗せられたことに気づいていないようだ。 d. 原田は人員削減になぜ抵抗したのか? 心優しい原田は「僕がこの店に来たことで、誰かが不幸になるのは嫌だ」と言っていた。一緒に働いている仲間のくびを切るのは、相手に怨まれるため誰でも嫌だ。経営者としてあまりやりたくない意思決定の一つであろう。 e. 人員削減の経営上のメリットとデメリットを考えよう。 メリットとしては、日本企業の場合人件費の占める割合が大きいため、人員削減は即効的な赤字減らしの特効薬である。しかしながら、従業員は経済的安定を失いたくないため、リストラの噂が流れた途端わが身可愛さに自己保身に走り、仕事どころではなくなる。互いに誰がくびになるか疑心暗鬼になり、足を引っ張り合い、仕事でのチームワークもがたがた。心に大きなストレスを抱え、さらに仕事へ力が入らなくなる。リストラから逃れ、職場に残れても、いつ自分がリストラされるかという不安と、辞めていった人への罪悪感からいっそうストレスをためる。その結果、経営的にはコストを下げられても、売上が低下することもありうる。人員削減をする場合は、ある程度辞めてもらいたい人を決めておき実施しないと、辞めてもらいたくない人材が辞め、辞めて欲しい人材が残る結果になりやすい。原田が三条に、水原が従業員に人員削減があるかもしれないと非公式に漏らしたことは、禁じ手。従業員が不安から仕事が手につかなくなる。 f. なぜ千石は原田にみんなと面接するよう提案したのか? 組織においてはコミュニケーションが必要だ。スムーズなコミュニケーションの前提となるのが相手への理解。新参者の原田は従業員のことをあまり知らないため、面接を進めたのである。もちろん、誰を辞めさせるかを決めるために、千石は面接を勧めたわけではない。 g. 面接での従業員、千石、原田、水原の反応は? ベルエキップ内での立場の違いによって、反応がかなり異なる。大庭はソムリエとしての実力があるので、人員削減はまったく関係ないという様子。三条としずかは、ベルエキップでの仕事に未練がないのか、辞めても良いとまで言っているが、経営者からすれば絶対残って欲しい人材。一方、高給取りで人員削減になりやすい中年の梶原は、他の従業員の前では虚勢をはるものの、内心はびくびく。人員削減されたくなければ、いつでも転職できる能力を身につけておこう。逆説的だが、そういう実力のある人材ほど組織は必要なので、手放さない。ところで原田と水原が「三条さんは良いんだ」と彼女を初めから人員削減の例外としていたのは、えこひいきで良くない。経営者がえこひいきするからしずかは三条をいっそう嫌うのだ。
h.水原は第三者的な立場から、人員削減の候補を評価しているが、それで良いのか? 新参者の千石と原田、古株の梶原を除いた他の従業員は経営者の水原が採用したのだろう。そのため、水原には彼らを雇用した責任がある。そうした責任感が欠如しているところにも、経営者としての自覚が足りないし、経営者としての資質に欠ける。水原は最高経営責任者であるオーナーの座から降り、原田が経営再建のため人員削減しなくてはならない状況を楽しんでみているようだ。「俺だって店を苦労して経営してきたんだ。パッと出のおまえに何ができるんだ。少しは厳しさを知れ。」なんて思っているのであろう。「おまえたち、今度のオーナーは情け容赦ないぞ」と原田への反発を高めるところも策略家。イヤな性格。 i. 「料理の基本は素材を活かす」と思わせぶりなことをいう千石。この言葉は何を意味したのか? 組織は個人の特性を活かす。個人の持つ能力や性格を活かすことが、仕事では大切。原田は経営者として自信を失っていたが、経理の仕事で得た能力を活かせ、と千石は暗示したのだ。 「禄郎には現実の厳しさを知ってもらう」という水原の言葉から分かるように、人員削減を発表し、従業員から猛反発を受ける原田の姿を思い浮かべている。うまくいけば、原田が失脚し、再び水原が実権を握れるかもしれないと期待し、うきうきしている。ところで、営業前の食事のシーンで水原だけが別テーブルで食事をしている。これは現在の彼のベルエキップにおける孤立した権力志向の強い男の姿を表している。水原は総支配人の俺が従業員と一緒に飯を食えるか、という意識があるだろうし、従業員も水原が同じテーブルで食事をしていると気詰まりなのだろう。 k. 原田が店の経営状態を率直に伝える意味 多分、これまで水原は従業員を経営に関与させないため、または自分の経営者としての無能ぶりを明らかにしたくないため、店の経営状況をはっきり従業員へ伝えていなかったのであろう。給与はしっかり支払われていたので、従業員は危機意識を持たず、売上増加などの経営努力に対して身が入らなかった。原田が経営状況を明確に示したことで、従業員の危機意識も高まり、次に示される経費削減策への抵抗感を薄れさせることになる。情報を共有することで、組織への帰属意識も多少は変化するであろう。 l. 負担が増える従業員は納得がいかないようだが、気分はいいという。それはなぜ? 自分が辞めずに済み、一緒に働いていた仲間がくびになればいい気はしない。佐々木とデュデュビエを救うために、1ヶ月の経済的負担が畠山で62,500円(コーヒー代300円×25日+料理代700円×25日+早出無給残業1000円×25日+クリーニング代500円×25日)とかなり重くなる。納得がいかない従業員も多いが、2人がくびになって嫌な気持ちになるよりはいいか、と思っているのであろう。 m. 原田の赤字削減策をどう評価するか? 千石のシナリオ通りであるが、原田が千石に助けられながらも自分で考え出した。ベルエキップは水原の下で、経費の使い方もいい加減で月に50万円の赤字を出す悪い経営を行っていた。売上を伸ばすのは景気低迷下では厳しく、コスト削減が経営再建策の第一の特効薬になる。しかしながら、既得権を侵されるような経費削減は従業員の反発を受けるため、まず、店の経営の実態を従業員に知らせ、人員削減と言うもっとも厳しい選択をほのめかす。これによって店の従業員に危機感が生じる。危機感はみんなで一緒にもっとがんばらなくては、という前向きな姿勢を生み出すかもしれないが、一方で誰がくびになるのかということから仕事に身が入らなくなるデメリットもある。ベルエキップは後者が強く出ていた。そして、経営者が自ら従業員に赤字の状況を知らせ、経費削減はやむをえなしという認識を共有してもらう。その上で、人員削減をまず提示し、それを避けるためには従業員の負担による経費削減の具体的実行策を打ち出す。これまでは従業員の無駄な支出を認めていた甘いコスト管理であったが、それが従業員にとっては既得権になっており、稲毛や梶原あたりが反発してもおかしくはないものの(実際嫌がっていた)、人員削減よりは負担の増加になるものの経費削減のほうがまだましで、受け入れられた。机上の計算ではあるが、50万円のうち30万円の赤字を削減することに成功した。人員削減があると思っていた従業員は、原田の経営者としての能力、特にコスト管理能力を見直し、仲間を大切にしてくれたということから信頼感を少しだけ持った。従業員と経営者の信頼なくして、経営は良くならない。厳しい経営状況でも人員削減をしなかった店へ従業員の貢献意欲が高まると思われる。オーナーが務まるか、と弱気になっていた原田もこれで経営者として少しは自信を持った。千石も「あなたはりっぱなオーナです」と安易な人員削減でなく、他の工夫でコスト削減を達成した原田を誉めていた。しかし、ベルエキップは赤字幅が減ったに過ぎず、いまだ赤字である。売上が伸びなければ、人員削減もありうるかもしれない。次は売上を伸ばすリストラクチャリングが必要。また、人員削減を行わなかったという感激が薄れたときに、労働条件が厳しくなったことに対して不満が生じるリスクがあるため、利益が出た段階で従業員にも利益の還元をすべきであろう。 |
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2.組織のリストラ | ||||||||||||||||||||||||||||||||
(1) リストラ? 儲かるようにするため組織の事業を再編成する。すなわち、儲かっている事業はより儲かるように、儲からない事業は儲かるようにするか切り捨てる。→日本では人員削減の意味が強くネガティブな意味を持つ (2) 赤字? 売上よりもレストラン運営費が多く資本を取り崩している状況→長期間赤字が続くとレストランは廃業しなくてはならない 売上高(客単価×客数)−原材料費−人件費−家賃−設備費−光熱費−清掃・クリーニング費=営業利益 (3) 赤字を減らし黒字にする方法 a. 売上高を費用が増える以上に増やす b. 売上高が低下しないようにして費用を減らす c. aとbを同時に行う d. 不景気時は売上を増やすのは困難なので費用削減で確実に赤字を減らすのが定石 (4) バブル経済の崩壊以降日本企業の人件費削減方法 a. 退職した人の補充はしない…人員の自然減 b. 定年を早める…早期退職優遇措置・肩たたき c. 出向…他の関係会社に出ていってもらう d. 給与体系の変更 e. 業務のアウトソーシング、正社員から契約社員への切り替え (5) 人件費削減は組織にどんな影響を与えるか? a. 「辞めてくれ」と言われた本人は 組織に裏切られた怒り、自分への自信喪失、将来への不安が生じる。仕事に対しては当然貢献意欲は起きず、ストレスを感じ心は荒廃する。 b. 辞めさせられた仲間を見た同僚は? 次は誰が人員削減対象になるのか、ということで疑心暗鬼に駆られ、わが身かわいさから保身を図り、協働ができなくなって組織の有効性が失われる。こういった状況ではストレスから心が荒廃し、業務の生産性が低下する。ベルエキップの従業員たちが、誰が辞めさせられるか、とか佐々木とデュデュビエが辞めてくれれば助かる、なんて無責任にうわさ話しているところから、精神的荒廃は理解できるであろう。 |
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3.組織への貢献意欲 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
(1) 組織への所属と成員性 a. 所属する(給与を得て身分を保障されている)組織と準拠している(精神的に帰属している)組織 b. 所属している組織と準拠している組織が一致しているとき貢献意欲が高まる c. 職務の確保と同様に精神的な帰属を感じさせる工夫が必要←組織からの報酬による満足向上(やりがいのある仕事の提供+良い労働環境+周囲からの期待と組織への期待感+リーダーシップ+組織成果の配分法)+組織目標に個人目標を近づける(情報開示) (2) 貢献意欲はどこから生まれるの? a. 組織は共通目的を持ち組織メンバーはそれに貢献する必要がある b. 組織は組織メンバーに誘因、特に組織に所属する満足を与えなくてはならない c. 組織メンバーは与えられた誘因とそれに対する貢献を繰り返しているうちに組織へ所属意識を持つことがある…日本の有名企業に勤める人は所属意識が強い傾向にある d. 貢献意欲は組織全体でなく各部門や上司といった個人のこともある e. 組織および組織のリーダーに対する信頼が組織への貢献意欲につながることが多い 人員削減に対する不安が組織メンバーの不満を招き、志気を低下させる。それをリーダーが払拭することは、組織メンバーの貢献意欲を高める。 f. とても強力な貢献意欲と組織への参加意欲→忠誠心 (3) 忠誠心は組織にとってどんな意味があるのか a. 組織に忠誠心を持つメンバーは誘因以上に組織への貢献をする傾向 b. 忠誠心の誤った方向…会社のために犯罪(贈賄等)をやってしまう c. 組織に強い忠誠心を持つメンバーほど組織に裏切られた時の絶望感が強い→強い不満、自棄、自信喪失、反対にいっそう忠誠心を持つ (4) 原田の人減らしをしないという意思決定は従業員の原田への信頼と組織へのちょっとばかりの忠誠心を生んだ a. リーダー(原田)に対する信頼感の増加 b. 職を失わなくてすむ安心 |
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4.組織メンバーの意識変革 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
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オーダーミスから生じた危機を乗り越える+人減らしを避けて苦労を分かち合う→従業員の意識に変化…仕事とチームワークへの自信(やればできる)+店の経営が悪い(危機意識の徹底と共同運命体的意識の芽生え) (2) 仕事への自信→プロ意識自覚+成長への欲求 (3)
チームワークへの自信→協働システムとしての組織の有効性に対する自覚+組織の中における自分の役割を意識+一緒に働く仲間への理解 (4) 危機意識→変化への欲求(変わらなくっちゃやばい)+店の経営を良くしなくっちゃ! (5) 危機意識はメンバー全員で共有しなくてはならないけれど…危機意識の薄い人は誰? (6) 運命共同体的意識の発芽→みんなでがんばらないとやばいぜ!…そんな思いを共有していない奴は誰? (7) 業務の再構築(リエンジニアリング)や事業の再構築(リストラクチャリング)も大切だけれども… 経営にはハードの要素(組織構造、システム、戦略)とソフトの要素(組織文化、人材、組織能力、経営スタイル)があり、リエンジニアリングやリストラクチャリングの手法はハードの改革の色彩が強い。経営を良くするにはソフトの要素、特に従業員の価値観や意識の集合体である組織文化を同時に行う必要がある。もちろん、リエンジニアリングやリストラをすれば従業員の意識も少しは変化するが。 (8) 従業員の意識が変化する→組織文化も変化する→ベルエキップは良くなる!(はず?) |
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