〜変革のリーダーシップ〜

第7話          10 11
1.状況適応型リーダーシップ

(1) あらすじ

ベルエキップが日本とEU(ヨーロッパ連合)の経済会議の後で行われる政府高官とEU代表の会食の場として選ばれた。ベルエキップが選ばれた理由は知名度がなく、マスコミの注目を集めない、ということなので、素直には喜べないが。フランス人のEU大使は日本の仏料理には期待しておらず、会議もうまくいかなかったせいか食事を楽しむ雰囲気ではない。せっかく作った料理も残されてしまい、ベルエキップの従業員も腹を立てる。そして、三条が…

(2) ドラマのポイント

a. 政府高官の会食であるから力を入れろという水原の考えと、いつも通りに頑張ろうという千石の考え、どこが違うのか?

水原は特別な顧客には特別待遇せよと考え、千石は「人は料理の前では平等です」と言うように顧客はみんな特別扱いにしない。水原は社会的に影響力のある顧客を大切にすることで、店の評判を上げようとする戦略的意図が見られる。千石は常に顧客を王様として最高の食事とサービスを提供していると考え、加えて従業員にプレッシャーを与えないようにしようとして、いつも通りにと言ったのだろう。水原はマーケティングという外部志向で、千石は経営管理という内部志向で考えていると言えよう。ただ、従業員の行動を見ていると、全員で顧客を迎えたりして、結構特別扱いをしているようだ。

b. 飾り付けをする梶原と和田は以前とどう変わったのか?

和田は以前から仕事に対する積極的取り組んでいたが、梶原は自分の嘘をみんなに助けてもらったせいか、自分から店内の飾りづけを提案し、やる気まんまんの姿勢が見られるようになった。飾り付けのような遊び心をもったものに関して千石はあまり得意でなく、そんなこともあって手品など人を楽しませることが好きな梶原の独壇場だ。

c. なぜ、三条はカクテル作りに熱心なのか?

「私だけ何も役に立たない」と言って悲観している三条は、しずかからアドバイスを受けた新しいカクテルに自分の店における存在意義を見出そうとしている。強弱があるにせよ、誰でも他人や自分の属している組織へ貢献したいという気持ちがある。特に水原との仲がだめになり、私生活では楽しくないので、余計仕事に打ち込みたくなるのだ。バーマンとしてプロとは言えない三条は、美味しいカクテルができず、ますます自己嫌悪に陥っていく。

d. なぜ、水原は借金の肩代わりをしてくれた原田に腹を立てているのか?

やはり兄としてのプライドから、弟に助けられるのは抵抗感がある。また、水原にとって原田は、自分をオーナーの座から追い落とし、店の中で居心地を悪くした男であり、三条を争う恋敵でもある。そんな弟から同情されれば、嫌な気がするのであろう。それでも受け入れてしまわざるを得ないのは、水原が経済的にかなり追い込まれていることを表している。

e. 手を抜く、と言っていたしずかがなぜやる気を出したのか?

しずかは千石の前で悪ぶって、「いつも通り手を抜く」と言ったのかも知れない。わざと千石が困るようなことを言うことで、千石の気を引くという女心もあるかも。しずかはシェフとしての自信を得て、ブライドも持っている。そんなしずかは意識的に料理で手を抜いて、客の期待を裏切るようなことはしないであろう。いつものように一生懸命料理を作ったのに、その料理を残され、彼女のプライドが傷つけられた。そこで、むきになって、美味しい料理を作ろうという気になったのだ。

f. 梶原を始め、なぜベルエキップの従業員たちは代わる代わる雰囲気を変えようとしたのか?

梶原の手品、大庭のパーティージョーク、水原の世間話、原田の落ちのない小話など、失敗に終わったものの、それぞれが店のために、顧客のために雰囲気を変えようと努力をした。人間は、誰しも他人や組織のために貢献し、他人から認められたい欲求を持っている。そうした欲求が彼らを行動に移させたのだ。

g. なぜ、護衛の馬場も思わず手伝ってしまったのか?

ベルエキップとは関係のない、護衛の馬場も、従業員たちが一生懸命頑張っている姿を見て、思わず手を貸してしまった。流行っている店は従業員が一生懸命働いている。そうした店は、顧客から共感を得、顧客をまた来店したい気にする。

h. なぜ、三条は客を叱ってしまったのか?この結果、彼女はどう変わるか?

仲間が一生懸命に料理し、サービスをし、会食の雰囲気を変えようとしているのに、食事には手をつけず、会食を楽しもうとしない。三条は純粋に、そうした顧客に怒り、仲間に成り代わり顧客の意識を変えようとしたのである。千石が言うように料理に手をつけようがつけまいが顧客の自由であり、しずかのように顧客に料理を食すよう強要することは、サービス業のルールに反する。ところが、それをあえて三条が行ったのは、彼女自身アマチュアだからと開き直り、サービス業の掟を破って、店の仲間の声を代弁したのだ。今まで店や仲間のために何もできなかった三条が、自分でできることを精一杯やって貢献しようとしたのだ。結果は見事に雰囲気を変え、会食は成功に終わった。これは今まで店にとって役立たずである、と思いこんでいた三条の意識を変革し、しずかを始めとする仲間から尊敬され、彼女の尊厳欲求を満たすことになった。三条はこれをきっかけに、自分もベルエキップに欠かさざるを得ない仲間だと思えるようになったのだ。彼女は店の中で自分の存在意義を確認し、仕事への動機づけが今までのように私生活の代償行為などの消極的なものではなく、積極的な自己実現へ転換することになろう。

i. 今回の政府高官の会食を成功させたのに、なぜ水原は不満げな表情だったのか?

彼は政府高官の会食を特別に頑張ろうといったのに、千石からいつも通りと否定され、三条の行動の後、千石が店を代表して発言し、締めくくった。そうした千石の行動を見て、気に入らない千石が店を仕切って成功させたので、ますます不愉快になっているのだ。確かにあの場をうまくまとめることができるのは千石だけだろうが、オーナーの原田にも花を持たせておけば、水原の気持ちも少しは収まっただろう。また、三条が思い切った行動にでたことが予想外であったので、腑に落ちないという感情もあったようである。

j. なぜ、政府高官は来店の予約を取る心境になったのか?

料理が美味しいのも一因であろうが、会食の場を全員で成功させようと努力する従業員たちを見て、ベルエキップが気に入ったのであろう。

2.リーダーシップと人間観

(1) マグレガーのX理論とY理論

a. X理論=人間性悪説に基づく厳しい管理

b. Y理論=人間性善説に基づく自主性の尊重

(2)W・オオウチのZ理論

米国経営はX理論による管理、日本はY理論による管理。最適なのはX理論とY理論の中間であるZ理論の人間観による管理である。

(3)「王様のレストラン」に見るY理論的人間の管理

a 人間は誰かのために役立ちたいという前向きな欲求を持っている

例:EU大使と日本の政府高官による会食の場の雰囲気を変えようと、梶原、大庭、水原、原田と顧客の前に出る。

b 人間は誰かに認められたい

例:他の仲間に認められたいと思って、三条は新しいカクテルを開発している。

c 人間は仕事での自己実現欲求を持ち、自己管理ができる。

例:しずかはシェフとして自己実現欲求を持ち始めたので、名物料理開発の時は千石が付きっきりで監督せず、しずかに料理を任せて、自分は「メリー・ジェーン」(つのだ☆ひろ)を聴いていた。

(4)「王様のレストラン」に見るX理論的人間の管理

a 人間は管理が不十分だとしっかりとした仕事ができない

例:千石は細かいところまで仕事の指図をする。

b 人間は利己的であるのでチェックする

例:水原が店を担保に金をひよこ事業のために金を借りてしまった。

c 人間は責任を持ちたがらない

例:梶原は難しい状況で責任回避のために和田に仕事を命じるので、千石が積極的に仕事を引き受ける。

3.状況適応型リーダーシップ

(1) 組織メンバーの状況と組織の置かれている状況によって、リーダーシップの行使の仕方は変わってくる。

(2) 一人のリーダーが状況に応じてリーダーシップの行使を変える

例:しずかに対する千石のリーダーシップの取り方は専制的リーダーシップから民主的リーダーシップへ変えつつある。千石はしずかに対するリーダーシップの取り方を変えても、和田に対しては依然として専制的リーダーシップで対応している。

(3) 複数のリーダーによる役割分担

例:千石は課業志向のリーダーシップを取り、原田は人間関係志向のリーダーシップを取る

(4) 状況に応じたリーダーシップの特性の組み合わせ

a. リーダーシップ類型論

「専制的・独裁的リーダーシップ」、「民主的リーダーシップ」、「放任的リーダーシップ」

b. リーダーシップの方向性

「課業志向のリーダーシップ」と「人間関係志向のリーダーシップ」

(5) ハーシー&ブランチャードのモデル

a. 無能で、意欲のない部下→高課業・高対人関係志向のリーダーシップ

b. 無能だが、意欲がある部下→高課業・低対人関係志向のリーダーシップ

c. 有能で、意欲のない部下→低課業・高対人関係志向のリーダーシップ

d. 有能で、意欲のある部下→低課業・高対人関係志向のリーダーシップ


4.ベルエキップにおける状況適応型リーダーシップ

(1) ベルエキップのリーダー

a. 総支配人の水原=無能だが先代オーナーの息子という権威と総支配人という地位でリーダーシップを取ろうとするが今や主導権はない

b. オーナーの原田=レストラン実務には疎いがオーナーという地位に加え人の良さから従業員の信頼を勝ち得ている

c. ギャルソンの千石=一番下っ端の地位ながらレストラン実務には精通しており反発はあるものの従業員へ的確な指示をして動かす

d. シェフのしずか=姉御肌ゆえに厨房のリーダー

(2) 複数のリーダーによる役割分担…状況に応じてリーダーが変化

a. 原田=組織のソフト(精神)面のリーダー

彼の優しい配慮(Y理論の人間観)と人間関係重視のリーダーシップは従業員の衛生要因(低次元欲求)を中心に満たし、やる気を与える。また、既に高次元の欲求を持っている従業員には、原田が専門的知識がないため、結果として放任型のリーダーシップを取ることになり、うまくいっている。

b. 千石=組織のハード(実務)面のリーダー

彼の厳しいながら妥協しないサービスへの姿勢と豊富な知識と課業中心のリーダーシップは従業員の適切な行動を生み、仕事に自己実現を求める従業員のやる気を引き出す。

(3) 原田と千石のリーダーシップに共感している従業員をどうする?

しずかのような従業員に対しては能力を認めたり仕事を通じての自己実現や成長によってやる気を引き出してやる(高次元欲求である動機付け要因を満たす)。

(4) 原田と千石のリーダーシップに共感していない従業員をどうする?

以前の梶原のような従業員に対しては疎外感を持たせないようにして組織への所属感を高める(低次元欲求である衛生要因を満たし、動機づけ要因への移行を促す)。

(5) 動機付けの定石

a. 人間は誰かの役に立ちたいという前向きな欲求を持っている→その欲求を仕事で通じて実現させてあげる

b. 人間は自分の仕事が重要であると思いたい→責任を持たせる

c. 人間は誰かに認められたいと思っている→誉めてあげる

d. 人間は誰しも成長したいという前向きな欲求を持っている→その欲求を仕事で実現させてあげる

e. リーダーは組織メンバーの持つ欲求の状況に応じて動機づけのやり方を変えていく