〜地域を変えるコミュニティビジネス〜

第1話          10 11
1.日本酒の業界

(1) あらすじ

佐伯夏子は広告代理店でコピーライターをするOLだが、いやらしい中年のクライアントからセクハラを受けたり、雑務をする毎日である。実家は新潟の小さな造り酒屋で、同窓会のために戻ってきて、草壁という青年と出会う。兄の康男は幻の米「龍錦」で日本一の酒を造る夢を追い求め、山形でやっと龍錦を手に入れたが病に倒れる。夢を追い求める兄の姿を見て心を動かされた夏子は、大手日本酒メーカー長谷酒造の「灘の酒 金寿」のコピー、「美酒、なないろに輝いて。」を書き、上司から無理だと言われたにもかかわらず採用される。

(2) 主な登場人物

役名(出演者) 個人データ
佐伯夏子(和久井映見) 東京の短大を卒業して広告代理店でコピーライターをする22歳。実家は新潟の佐伯酒造で、酒は非常に強いし、利き酒の能力も高い。
草壁渡(萩原聖人) 佐伯酒造の下働き。実家が造り酒屋であったが潰れてしまい、大手日本酒メーカーで働いていた。
荒木誠司(石黒賢) 日本酒問屋の荒木酒販の若き後継者で、夏子の良き理解者。兄康男の大学の後輩でもある。
佐伯康男(中井貴一) 夏子の兄で、佐伯酒造の専務取締役。幻の酒米、「龍錦」を使って、日本一の酒を造る夢を追い続けている。
佐伯浩男(高松英郎) 佐伯酒造の社長で、頑固だが本当は優しい夏子の父親。日本酒問屋の営業マン。佐伯康男の大学時代の後輩で、夏子の良き理解者。
佐伯和子(若村麻由美) 兄嫁。東京が実家で、康男が行きつけていた店の娘だった。
橋本冴子(松下由樹) 夏子の同級生。東京で不倫に破れ、河島村へ連れ戻された。
山田信助(下条正巳) 佐伯酒造で30年間働いている杜氏。
宮川源平(山谷初男) かって龍錦を栽培したことがあるが、今は稲作をしていない。息子夫婦は新潟で公務員。

(3)物語の背景

a. ビールに押されて消費が減少する日本酒市場

b. 佐伯酒造は新潟県宇佐郡河島村で年間500klの日本酒を生産する、小さな造り酒屋。

c. 稲作農家が米価の値下がりで、経済的に苦境に追い込まれている。

d. 日本の稲作は生産性と労働条件を改善するために、農薬に頼った農業をしている。

e. 三和郡和島村でロケを行い、原作は尾瀬あきら、脚本は水橋美江。実話を基にしている。

(4) 用語解説

a. コピー…広告の中の文

b. 杜氏…日本酒造りの現場監督。

c. コンペ…Competitionのこと。複数の広告案を競わせる形式。

(5) ドラマのポイント

a. なぜ、夏子は日本酒メーカーのコピーを書かせて貰えないのだろうか?

日本の企業では年功や勤務歴によって、できる仕事の範囲がある程度決められている。そのため、若輩者の夏子は予算規模の大きな仕事をなかなかさせてもらえない。

b. 「お日様の光を浴びて、七色の虹が輝く酒」、どんな酒だろう?

この言葉は兄康男が目指していた酒を表現したものであるが、きっと妹の夏子のように天性の明るさ、周囲の状況でいろいろな輝きを見せる少女をイメージした酒ではないかと思う。重々しい酒ではなく、料理によっていろいろな味を感じさせてくれる、酒米の味を十分活かした、楽しいときに飲みたくなる酒、康男は夏子を見ていて、夏子のような酒を、このような表現をしたのではないかと思う。

c. 夏子は兄の夢をどう考えたか?

日本一の酒を目指す兄の夢に共感を覚え、勇気づけられている。夏子の言動から、兄への深い愛情と尊敬が読み取れよう。

2.業界の分析

(1) 業界とは・・・類似した製品やサービスを提供する会社の集合。業界に属する会社は互いにライバルであり、時には協力しあうこともある。

(2) 業界の構造を知ろう

a. 業界に属する企業の市場シェアを知る

市場シェア(%)=自社の売上(金額・数量)÷市場の売上合計×100

1社が市場シェアを100%押さえていることを「独占」、少数の複数の会社が市場を100%押さえていることを「寡占」、圧倒的な市場シェアを持つ企業がいる「ガリバー型寡占」など、特殊な市場構造も存在する。

b. どのような規模の企業が業界に存在しているか

企業規模の違う会社が、どのように存在しているかによって、業界の競争構造が変わってくる。小規模の企業が多数存在すると、個々の企業の価格に対する影響力は小さくなり、完全競争に近くなりやすい。

c. 業界内の競争状況

競争が激しく、業界に属する会社間の関係が敵対的であると、業界各社の利益は低下しやすい。

d. その業界の製品やサービスを代替する他の製品やサービス

日本酒に対する焼酎、ワイン、ビール、ウィスキー、酎ハイ

e. 新規に業界へ参入する企業があるか

日本酒を生産するためには、特殊な酒造りの施設や技術ノウハウが必要である。市場も冷え込んでいるので、新たな投資をして新規参入しようという企業は少ない。

f. 業界の取引先業界の状況

日本酒の場合、取引先として、原料を供給する川上の米作農家と川下の酒問屋がある。酒造りに適した米は限られているが、農業そのものが低迷しているため、酒造メーカーの力が強い。販売側に当たる川下は、酒問屋を通じて小売店や飲食業へ販売されるチャネルがもっとも大きい。日本酒の市場が冷え込んでいるので、一部のブランド酒造メーカーを除いては酒問屋の力が強い。

g. 業界の顧客の状況

日本酒の主要顧客層である中年以上の男性は不景気で財布の紐が堅い。また、若い人たちはビールを好む嗜好が高まっている。そこで、日本酒メーカーは新たな顧客層、例えば、若い女性の需要喚起を試みている。

(3) 業界の成長性と企業の将来性

a. 業界に属する企業の売上、利益の上昇率

b. 製品売上やサービスの需要の上昇率

c. 時流に乗っているか

d. 製品と業界のライフサイクルにおける位置づけ

・ライフサイクルとは寿命のこと。製品にも寿命があり、新発売から販売の停止を人間の人生になぞらえる。
・ライフサイクルは通常、誕生期、成長期、成熟期、衰退期の4段階に分けられるが、成熟期が長期間続くタイプの製品が多い。また、成熟期の後、第二の成長期に進む製品もある。
・各期の区分は10%を境にすることが多い。10%以上の販売伸び率の場合は成長、10%〜-10%の間であれば成熟。-10%より悪化すると衰退と見る。
・日本酒は成熟期にあると考えられる。なくなることは考えにくいが、市場のパイは縮小傾向である。

3.日本酒業界

(1) 日本酒業界の成長性

a. 日本酒の販売量は、酒の販売量の12%にすぎない。(図はN.A)

b. 1998年から99年までにおける国内の酒販売の成長は0.5%、日本酒は同期間で-6%であった。

(2) 日本酒業界の構造

a. 少数の大手日本酒メーカーと多数の中小地酒メーカーの存在

b. ビール(発泡酒を含む)業界にシェアを奪われている

(3) 日本酒メーカーの戦略

a. ブランドを確立

広告で商品名を知ってもらい、店頭で指名買いしてもらう。積極的な広告を行うか、広告費用を負担できない中小メーカーはクチコミで美味しい酒というイメージを形成し、プレミアムブランドを狙う。

b. 飲食店への売り込み

大量に日本酒を消費する飲食店、例えば、居酒屋へ販売して売上を確保する。また、商品名をメニューに載せてくれるような地酒の店で提供してもらえるとブランドを浸透させる。

c. 日本酒自体の消費量を増やす

大手日本酒メーカーならば、女性誌とタイアップして日本酒を紹介する記事、「美味しい日本酒が飲みたい!」みたいなものを書いてもらう。みのもんたに「奥さん、日本酒は健康にいいんだよ」と「おもいっきりテレビ」の中で言って貰う。ファミレスのような顧客が多い飲食店のメニューに入れてもらう。日本酒のカクテルなどの、製品バリエーションを増やし、飲みやすい日本酒を用意する。

4.コミュニティビジネスとは?
(1) コミュニティビジネス=Community + Business

地域社会に存在する課題を解決する社会貢献とビジネスを両立させたスモール・ビジネス。

(2) コミュニティビジネスの定義

a 地域の人々が主導する

b 地域の課題、満たされていないニーズの充足や活用されていない資源の活用、を解決するビジネス。そのため、事業自体が社会性や公益性を持つ場合が多い。ただし、事業の私益を追求した結果、地域の課題を解決するということもある。そのため、前者をソーシャルビジネス=社会的ビジネスとして区別した方が良いと個人的には考えている。コミュニティビジネスは、先に地域課題解決という事業使命ありきではなく、結果として地域を活性化する地域密着ビジネスという定義がいいと思う。

c 地域の資源を活用するビジネス。

d 顧客が同じ地域社会の場合が多く、内発型循環の経済成長が見込める。

e 観光など顧客を外部に求めると、外発型循環の経済成長になり、地域経済へより大きな恩恵が見込める。

f 利益のみを追求するわけではなく、働く人たちの生きがいや地域社会への貢献をも事業使命にする。

(3) コミュニティビジネスが注目される背景

a 地域における地方自治体の機能が低下している。そのため、地域住民のニーズを充足できないこともでてきた。

b 企業が地域社会への貢献をしにくくなっている。企業自体の目標が地域社会への貢献ではなく、利益の獲得や株主価値の向上であるため、地域社会への貢献が希薄である。企業は本質的に、地域住民を雇用し、税金を支払う以上の地域社会貢献をしない傾向にある。昨今の不景気で、その傾向が助長されている。

c 市民が成熟化し、市民活動を通じて地域社会へ関わる人々が増加してきている。1995年の阪神淡路大震災以降、ボランティア活動のような市民活動が盛んになった。1998年に特定非営利活動促進法(通称NPO法)が制定され、NPOが経済活動の事業体としての制度もでき、社会貢献をビジネスと結びつけられる土壌が生まれてきている。また、公共セクターや企業セクターへのアンチテーゼをこうした活動で実現しようとする人々もいる。

(4) コミュニティビジネスと「夏子の酒」

夏子の酒は、幻の米を使った名酒を作るという夢を追った結果、地域の農業を活性化した。地域の米を活用し、それを使って酒という付加価値の高い商品を創造することで、地域の農業を活性化する。こうした、ビジネスモデルはコミュニティビジネスの1つの典型例である。酒だけでなく、第一次産品(農産物・畜産物・海産物)を原料にし、加工、販売し、さらに体験観光などを組み合わせた事例は全国に生まれてきている。