〜地域を変えるコミュニティビジネス〜

第3話          10 11
1.封建的組織と起業家精神

(1) あらすじ

亡き兄の夢を実現するために夏子は実家へ戻ったが、周囲は困惑する。夏子は源さんに龍錦の栽培方法を相談するが、無理だと一蹴される。社長の父親は、現在佐伯酒造が造っている「月の露」に満足しているので、龍錦を使った新しい酒を造る必要がないと言い切る。夏子は兄の龍錦に対する想いを訴え、自分に兄の夢を継がせて欲しいと頭を下げる。その想いを受け止めた父親は夏子の願いを聞き入れるが、周囲は冷ややかだ。そんなことを気にせず、龍錦の栽培を始める夏子。隣の農家の吉田さんから龍錦の栽培を止めて欲しいと言われ、周囲との軋轢が出始めるが…

(2) ドラマのポイント

a. 夏子が実家に戻って家族を初めとして周囲は困惑しているが、なぜなのか?

東京の広告代理店で頑張って働いていると聞いていたのに、突然会社を辞めて戻ってきたため、家族は驚いている。専務として会社を仕切っていた兄が死んだ後なので、会社の後継者含みとして夏子が戻ってきたのかと、佐伯酒造の現場では困惑している。しかも、皆で龍錦による新酒造りを行わないと決定していたにもかかわらず、夏子はやると言っていることで、「何を今更」という気持ちもある。

b. 夏子の願いを聞き入れた父親の気持ちは?

かわいい娘が兄の意志を継ぎたい、と言っているのにむげにダメとも言えなかった。農業をやったことのない娘だから、困難さにめげてそのうちあきらめるだろう、という読みもあろう。

c. なぜ、草壁は、夏子が龍錦を作ることに対して不愉快だ、と感じているのか?

草壁は専務の夢である「七色の酒」という表現を、あまり美味しくもない酒のコピーとして使った夏子に対して反発している。その夏子が龍錦を作ると言っているので不愉快に感じている。

d. 荒木は夏子にとってどんな存在なのか?

兄が亡くなった後、彼女の頼りになる相談相手で、また、夏子は荒木に対して恋愛感情を持っているようだ。

e. なぜ、冴子は夏子に対していじわるな態度を取るのか?

どちらかというと不良っぽい冴子に対して優等生で明るい夏子は、高校時代から人気があったのだろう。多分、冴子は高校時代から夏子に対して反発していたと思われる。加えて東京である程度成功して故郷に戻った夏子に対して、都会で夢破れて戻った冴子はさらにコンプレックスを持ったにちっがいない。そして、現在は佐伯酒造で事務員として雇われている冴子は、社長の娘に対していっそうの反発を持った。

f. 吉田さんはなぜ、夏子に栽培を止めろというのか?それに対してどう思うか?

無農薬で栽培する龍錦は害虫の被害を受ける可能性が高い。そうなると同じ田の吉田さんの稲にも被害が広まるであろう。それを吉田さんは恐れている。一方、吉田さんの妻は都会から帰ってきた若くて可愛い女が、遊び半分に幻の米を作ると言っていることに、専業農家の中年女性として嫉妬混じりの反感を感じている。こうした事に対しては、龍錦に害虫を発生させない具体的方法、万が一害虫が発生したときに吉田さんの稲に被害を広げない具体的方法を示し、不安を取り除く説得をしなくてはならない。不合理な感情で反発している吉田さんの妻には、感情をさかなでないように、ひたすら下手にでるしかないであろう。

g. 父親が夏子に「よくやった」と言った言葉の中に、どんな感情があっただろうか?

大変な農作業をやって、ここまで龍錦を良く育てたがことに対して賞賛する一方、その苦労が隣家の反対で報われないことの不憫さを感じている。父親の言葉は素っ気ないが、その裏には夏子への深い愛情が感じられる。

2.老舗と起業家精神

(1) 起業家精神とは?

自分の夢を実現するために事業を興し、リスクを取って挑戦していく精神。

(2) 起業家精神の重要性

a. 起業家精神を持った人が新しい事業を企業、地方自治体、各種団体で起こす。それが組織に革新を起こし、新たな成長に導く。

b. 起業家精神を持った人が革新を起こす結果、人を変え、企業を変え、地域を変え、社会を変えていく。その結果、社会が発展していく。

(3) 起業家精神が求められている時代

a. 非連続な環境変化

非連続な環境変化が不確実な将来をもたらし、その不確実性に挑戦していかないと成果(リターン)を得られない。

b. 社会と経済の停滞

社会と経済の停滞が弊害となるのであれば、停滞をうち破るための変革が望まれる。変革にはリスクを取って挑戦する意欲がなければ成功しない。

(4) 保守的な老舗の会社…変化や新しいことを好まない雰囲気→起業家精神を抑圧する

(5) なぜ父の社長は龍錦を使った新しい酒造りをしないといったのか?

父は現状に満足している。そして、龍錦によって大切な息子を失ったという気持ちもあるため、これ以上龍錦には関わりたくないという感情もあると思われる。

(6) 老舗を変えるには?

起業家精神を持った人間が、何か新しいことを始めることで、革新を起こし、周囲の意識を変えていくしかない。やり方としては下っ端社員が革新を起こす方法と、老舗の後継者が革新を起こす方法が考えられる。後者の方が、経営者の後ろ盾を得やすいので、革新を起こしやすい。

3.起業家と革新

(1) 資本主義の発展

a. 人口増大と生産手段の変化

人口の増大は労働力の増加,生産手段の変化は生産性の向上につながり、経済成長につながる。

b. 自然現象や社会現象

自然現象で生産量が左右される農産物は好ましい自然現象で生産量が増加する。また、女性の社会進出などによる労働力の増加も経済成長につながる。

c. 起業家の遂行する革新

起業家の発明や新規事業が、経済に新しい流れや産業を生み出す。

(2) 革新の定義=資本と労働力を結合する新しい可能性を認識し、実行することで新たな利益の源泉を獲得する起業者の活動

a. 新製品の開発

例:自動車、パソコン、携帯電話

b. 新しい生産方法の導入

例:フォード式大量生産方式、トヨタのカンバン・システム

c. 新しい生産組織の創成

例:事業部制組織、ネットワーク型のビジネス組織

d. 新しい販売経路の開拓

例:コンビニエンスストアー、通信販売

e. 新しい資源の開発

例:燃料電池、クーロン

(3) 革新の機能

a. 技術革新…新製品の開発+新生産工程の開発+原材料の開発

例:龍錦を使用して新しい酒を造る

b. 経営革新…販売革新(新しい販売方法・店舗の大型化・チェーンストア理論)+組織革新(組織構造・管理システム)+人材革新(人的管理手法・人材養成)+コスト革新

(4) 革新を創造する起業家とは?

a. 古い制度やパラダイムに囚われない

例:女性が酒造りの現場に入ってはならないという因習を無視する。

b. チャレンジ精神が旺盛

例:栽培が困難な幻の米の栽培に挑戦する。

c. 簡単に諦めない

例:隣家から栽培を止めろと言われても、台風に見舞われても、龍錦を育て上げる。

d. 周囲を変えていけるビジョンとリーダーシップ

例:幻の米を作るという夏子の夢が次第に周りを変え、地区全体で龍錦に取り組む。

4.コミュニティビジネスと革新
(1) コミュニティビジネスにおける革新

a 市場における革新

既存のビジネスではカバーされていないニッチ市場を創造する革新。例えば、環境教育という分野は、従来の学校教育や学習塾などでカバーされていなかったが、それを地域の課題と結びつけ新しい市場を生み出している。

b ビジネスモデルの革新

事業のやり方や仕組みで新奇性を出している。例えば、NPO法人ボラナビ倶楽部は、企業の社会貢献活動の一環として広告をだしてもらい、ボランティアの人材募集紙を発行している。ボランティア団体の求人からは費用を得ない。また、北海道NPOバンクのように、出資組合が資金を調達し、出資組合から北海道NPOバンクへ無利子で貸し出しし、それを北海道NPOバンクがNPOへ融資するという、金融の仕組みを持つ。

c 経営の革新

コミュニティビジネスをNPOが経営する場合、従来の企業経営とは異なった、民主的経営やボランティアの活用といった経営手法が使われる。非営利組織においては当たり前のやり方であっても、民間企業からすれば経営革新になる。

(2) 地域を革新する

コミュニティビジネスが成功すると、地域の課題を直接的に解決し、それが地域を変え、新しい創造を生み出す、革新へつながる。

(3) コミュニティビジネスで革新を起こすためには?

事業のミッションをぶれないようにすることと、地域貢献を意識すること以外は、様々な知恵を使って、柔軟に現実へ対応していくことが重要である。

(4) 「夏子の酒」における革新

a 龍錦という幻の米で酒を造る、技術革新があった。

b 龍錦を地域の農業者に耕作してもらう過程で、人々の意識が変化し、農業へ前向きに関わるようになった地域革新があった。