第9話            10 最終話前半 最終話後半
1.組織の変革

(1) あらすじ

工場は操業を停止したが、最後にみんなの力で作った「サバ入りカレー」は、健康ブームに乗って注文が殺到しはじめた。あまりのヒットに長峰監査室長は工場の再開を決定し、岩佐を通じて久保田に「サバカレー」の生産を命じる。逆転ホームランだ。従業員達も工場に戻ってくる。ところが三国への想いがかなわず、父親に縁談をさせられたしじみ(鈴木)が町を出てしまった。久保田は三国にしじみを探すため東京へ行けと命ずる。サバとカレーの調合を担当する重要な役割を担う三国抜きで、「サバカレー」の生産を再開したが…

(2)ドラマのポイント

a. 大切な仲間との別れより自分の生き方を選んだ久保田の心情は?

久保田は、従業員と一緒に仕事が出来るのならばあの町に残ったかもしれない。みんなもバラバラになり、仕事もなければ、バリバリのキャリアウーマンだった彼女は東京へ戻るしか選択肢がなかったのだろう。


b. 「最後に自分の缶詰作れて幸せでした」三国のこの言葉はどういう想いが込められているか?

三国は新製品の開発に働き甲斐を見出しており、自分の開発した製品を売り出すのは夢だったのだろう。それを実現できたので幸せであるのと、そうした彼の夢を支援してくれた久保田に感謝の気持ちを伝えたくて、この言葉をいったと考えられる。


c. なぜ従業員達は喜んで仕事へ戻ってきたのか?

仲間が再結集し、仕事が出来るうれしさがある。特に一度解雇されてどん底に突き落とされた後だけにうれしさは倍加する。そして、「サバカレー」をみんなで作る過程で自己実現の達成感を味わっているので、再び仕事でやりがいを感じられる喜びもある。そして、地元でこれまで通り働ける安心感からくる喜び。そうした感情が混ざり合って、工場へ戻ってきたと考えられる。ところで、研修生のケントは戻ってきてメリットがあるのか?それだけ、仲間と一緒に働けることに価値を見出しているんだろうな。


d. 「この工場は、工場があって人が集まってきたんじゃないはずよ。人がいて、みんながいての工場でしょ。」どういう意味かな?

文字どおり解釈するとおかしい。伍代物産が工場を設立するに当たって、従業員を募集したので組織がまずあって、人を集めたのだ。ただ、ここでの久保田の真意は、組織よりもまず組織メンバーを大切にしよう、ということである。それがチームワークにむすびつき、「サバカレー」というヒットを生んだわけで、中核的な価値観だからである。


e. なぜ三国や久保田は従業員みんなで工場を再開することにこだわっているのか?

チームワークや仲間を大切にするという価値観を大切にしたかったからである。組織のメンバーは取り替えのきく部品ではなく、かけがえのない仲間である。その仲間が一人でも欠けたら異なる組織になってしまう、という家族主義的な価値観も読み取れる。経済的合理性だけで意思決定をしてきた久保田が、価値観のような合理的でないものを重視するようになったのは感慨深い。

2.組織の変革

(1) 変革とは何か

組織が陳腐化しないよう絶えず大小の変化を起こすこと。前回勉強した革新よりは概念が広く、組織に生じる大小様々な能動的変化を総称して変革という。

(2) 変革の次元

a. 漸次的変革(少しずつ小さな範囲で変わる)とブレイクスルー的変革(一気に大幅に変わる

久保田と従業員の間での様々な出来事から、久保田と従業員の意識が少しずつ変化した。これは漸次的変革である。一方、サバカレーという製品革新によって、工場が再開し、再び従業員が結集することはブレイクスルー的変革である。

b. 部分的変革と全体的変革

変革の生じた対象と影響の範囲で部分的と、全体的というように次元が分かれる。

(4) 変革の3ステップ

新しい環境 → 組織改革への起爆剤 → Step1 メンバーの改革への認識

↑                         ↓

Step3 組織変革の制度化 ← Step2 新しいビジョンの創造

缶詰が売れない、原材料の上昇といった新しい環境に九十九里浜水産缶詰工場は適応できなかった。そこで、久保田が工場へ派遣され、様々な改革をしようとする。これが起爆剤となり、久保田が工場の経営情報を開示することで従業員も改革しなくてはならないと気づき始める。久保田は意識しなかったが、彼女の価値観の変化から生じた工場の組織文化を尊重した新しいビジョン、仲間を大切にしながら仕事でもチームワークを活かすが従業員に受け入れられた。その成果が「サバカレー」であるが、時は既に遅く工場は清算される。しかし、伍代物産が工場再開を決定したことで、再び従業員たちは全員でサバカレーを生産する。そして、最終的に工場を独立することで、今回の組織変革は制度化される。しかし、「コーチ特別編」で工場は再び・・・

(5) 九十九里水産缶詰工場の変革を分析すると…

a. 新しい環境…缶詰が売れなくなり赤字が増加

b. 起爆剤…久保田の工場長就任とリストラ

c. 改革への認識…このままでは工場が倒産する

d. 新ビジョン…チームワークで仕事を頑張る

e. 組織変革の制度化…親会社からの独立し自立する

3.学習する組織

(1) 組織学習とは?=組織の持っている行動プログラム(routine)の変化プロセス

九十九里浜水産缶詰工場の従業員たちはすべてを野球に結びつけて行動していたが、久保田との相互作用の中で学習し、仕事においてもチームワークを活かすように行動プログラムが変化していった。

(2) 行動プログラム=組織のシステム・組織文化・個人の知識がもたらす環境からの刺激に対する一定の行動パターンの選択。

(3) 行動プログラムは組織の環境適応能力を決める重要な能力。ただし、行動プログラムは一定の反応しかしないため、プログラム化されていない行動が生じるような余地を残しておく必要がある。

(4) 学習の種類

a. 積極的問題解決学習と不安除去学習

大学入学のための受験勉強は問題解決学習で、試験前の不安な心理状態で確認のために学習することは不安除去学習である。

b. 低次元学習と高次元学習

既存のパラダイム(概念枠組み)内で学習するのが低次元学習で、パラダイム自体を刷新する学習は難易度の高い、高次元学習である。前者をシングルループ学習、後者をダブルループ学習という。

(5) 学習サイクル

環境の変化→個人の価値観の変化→個人の行動の変化→組織の行動の変化

(6) 学習を阻害する要因

a. 埋没原価…今まで知識を獲得するために費やした投資が無駄になってしまうので、新しいことを学びたがらない。むしろ今まで学習してきたものにこだわる。例えば、工場の今までの仕事のやり方を変えるとなると、今までの努力して獲得した技能がむだになるので抵抗する。


b. 前提…変革にはそれ相応の理由付けがいる。現在組織が置かれている状況や前提が変革を必要とする認識がなければ、変革は起きにくい。例えば、工場の経営に問題があったが、親会社が工場の赤字を補填していた前提が、より合理的な経営を学習する機会を奪っていたのだろう。


c. 防御的姿勢…新しいものを学ぶことに不安を感じる人もいる。そういう人は学習に対して保守的態度になる。そういう人が多数派の組織だと組織学習は進みにくい

4.人材主義から人財主義、そして….

(1) 組織メンバーを材料として扱う=人材主義

(2) 組織メンバーを財産として扱う=人財主義

(3) 組織メンバーをかけがえのない仲間として扱う=人在主義(ちょっと苦しい語呂合わせ、何か良い言葉はないかな?)・・・現在の久保田の価値観

(4) 「人は城、人は石垣…」優秀なメンバーなくしては組織の生存はない

(5) 人を大切にする経営=短期的なコスト高vs人を材料として扱う経営=短期的なコスト安→どちらの経営が有効なのか?

Stanford Business SchoolのJ. Pfeffer教授は、組織メンバーを大切にして彼らの能力を育成する企業が競争に勝ち残ると明言している。長期的には組織メンバーを大切にして、学習意欲を高め、能力を向上させる経営が、短期的なコスト高であっても組織の成果を高めると考えられる。

5.チーム・マネジメント

(1) 大きな組織を小人数のチームに分割し、チームに自律性を与えて組織目標を達成させる経営手法。

(2) 小人数チームのメリット・デメリット

a. メリット…スピードのある経営+柔軟性に富んだ有機的組織+権限委譲による動機づけ

b. デメリット…組織全体としての統合が困難

(3) チームメンバーの編成原理…心理的傾向による組み合わせ

a. 補完的組み合わせ…もっとも早くまとまりやすい→久保田と三国

b. 同質的組み合わせ…まとまりやすいが衝突することもあり→小松川伸郎と早川直人

c. 無関係な組み合わせ…まとまりにくい

〜価値観の共有による経営〜「コーチ」を事例に〜