第7話            10 最終話前半 最終話後半
1.企業統治

(1) あらすじ

伍代物産監査室から岩佐(石田)が会社清算のために工場へ乗り込んで来た。久保田と岩佐がかって恋人の関係であったことが露呈し、従業員達は久保田にも不信の目を向ける。岩佐は久保田に計画倒産を持ちかけ、伍代物産の損害を最小限にしようとする。一人苦しんでいた久保田は三国(玉置)の言葉に従い、従業員に真実を話す。


(2)用語解説

a. 手形の割引…手形現金化の期日以前に金融機関へ手形を売却すること。その際に、手形に記載されている金額より割り引かれて少なくなる。

b. 計画倒産…受動的に倒産するのではなく、倒産させる計画を事前に立てて実行する。

岩佐の計画:手形で機械や原料を購入する。手形の決済は30日後とか90日後といった支払いサイトなので、当座は購入代金を支払わなくてすむ。手形で購入した機械や原料をすぐさま売却して、現金化する。現金化し終わった時点で、伍代物産(多分九十九里浜水産缶詰工場の株主だけでなく債権者でもあると思われる)は九十九里浜水産缶詰工場の資産を債務不履行で差し押さえる。こうして伍代物産は、出資した資本や再建分を回収する。その後、工場は裁判所に破産を申請し、それを知った機械や原料を売った業者が手形を持って取り立てに来たときは、工場の中に債権回収できそうなめぼしい資産はなくなっているという構図である。

c. 営業利益=売上高−製造原価−販売費及び一般管理費

(3)ドラマのポイント

a. 「君にはがっかりした。戦略家としては優秀だが、経営者としては失格だ。」という岩佐の言葉の意味は?

久保田はビジネスのプランを立てるのは得意で、伍代物産では活躍してきた。しかし、それは会社が久保田のプランをしっかりサポートしていたからだったとも言える。、不十分な経営資源、やる気のない従業員、赤字を垂れ流す利益構造、といった悪条件の中で、久保田は赤字解消を実現できず、むしろ赤字を拡大してしまった。1ヶ月という短期間で経営を再建しろと言うのは所詮無理難題ではあるが、赤字を減らすどころか、拡大させたことに関して、岩佐は経営者としてのリーダーシップ力が不足しているのではないか、と指摘したのである。戦略家は計画を練るまでが仕事で、実行はある程度他人へ任せてしまう。経営者は計画はもちろん、実行して成果を出すまでが仕事である。

b. 岩佐と久保田の価値観はどこが違うのか、久保田はどう変わったのか?

本社にいた頃の久保田は、岩佐と同じように他人を犠牲にしてまでも自分の出世をもっとも重視し、情けよりも利益を考えたビジネスライクな人間関係を形成していた。しかしながら、久保田が工場の従業員たち、特に三国の「仲間を大切にする」価値観に影響され、彼女も仕事以外のこと、特に仲間を大切にするようになった。岩佐がかっての恋人を窮地に追い込むようなことを平然とするのも、久保田にとっては信じられなくなっている。岩佐が計画倒産を持ちかけたときも、久保田は伍代物産の利益保護のために地元業者に被害を与えるようなことをしないで欲しいと頼み、工場の従業員の雇用確保を気にしていた。久保田の過度の経済合理性や出世欲が除かれ、人間的にバランスの取れた人間になったと思う。また、以前の久保田は人を肩書きや職務能力だけで、物事を都会的価値観で評価していたが、従業員たちと一緒に仕事をし、野球をすることで、評価の基準を外見や学歴で判断せずに、「汚れていたっていいじゃない。かっこだけで生きていない人もいる」という価値観に変化した。久保田が従業員に接するときの表情が柔らかく、温和になったところに内面の変化が読み取れよう。岩佐が竹中と浮気したこともあるかもしれないが、1ヶ月で久保田と岩佐の価値観は大きく異なってしまった。

c. 「世の中で仕事より重要なもの」とは何だろうか?

人間を大切にすることかな?人間を大切にするから仲間がミスをしたときフォローをするし、大変な状況では助け合う。まず、仕事が先にありきではなく、人がまずあって仕事が生まれる。でも、そんな「いいひと」は往々にして会社や役所の中では冷や飯を食わされることが多い。もしくは、仕事と私生活という対比で考えることもできるであろう。ただし、工場の従業員のように仕事を疎かにして、野球に打ち込むのは明らかにおかしい。

d. なぜ工場はここまで衰退したのか?

外部環境要因としては缶詰市場の成熟化に適応できていないこと。内部環境要因としては、人材の余剰による多い固定費、高い仕入れコストや礼金などコストアップ要因が多いこと、人材が陳腐化し仕事への意欲を失っていること、旧式な設備、製品の陳腐化、変化する環境に対応した戦略を立案し従業員をやる気にさせるリーダーの不在等が考えられる。

e. リーダーとしての久保田の変化は?

今までは何でも背負って一人で頑張る孤高のリーダーであったが、従業員に自分の弱さをさらけ出し、自分の足りない部分は仲間に助けてもらうことを自然に感じるようになってきた。また、今までは自己の利益のためにリーダーシップを取ってきた傾向が強いが、これからは仲間を守るためにリーダーの責務を果たしていくだろう。最後のシーンで久保田は拾ったボールを三国の胸めがけて投げ返していたが、久保田が従業員に真っ正面から向かい合うことを暗示している気がした。
ところで、久保田は従業員を前にして涙や弱さを素直に出していたが、こうした行為はリーダーとして諸刃の剣であると考える。リーダーとメンバーが対等に協働していく場合は良いが、従業員がリーダーシップに不安を感じるケースがあるからだ。

2.経営統治

(1) 企業統治=誰が企業を支配しているのか

a. 日本的経営…従業員を重視した政策が多く、社長も内部昇進で、持ち合いを主とした株主からの要求も少なく、実質的に従業員による支配といってもいい。

b. 米国的経営…株主。株主が経営を厳しくチェックし、社長といえども株主の代表である取締役会には逆らえない。こうした統治形式は、世界的スタンダードになりつつある。

c. ドイツ的経営…大株主であり、資金を供給している銀行の力が強い。

(2) 親会社と子会社間の関係

a. 親会社の株式による支配…株式所有50%以上(子会社)+株式所有20%以上50%未満(関係会社)。

伍代物産は九十九里浜水産缶詰工場の株式95%を支配しており、親子関係が成立している。

子会社の株式を20%以上保有する親会社は、その子会社の決算を親会社の連結決算に含めなくてはならない。

b. 取引依存による支配

発注先と下請け企業の関係のように、資本関係がなくても、取引に関する依存の高い相手企業から、強い影響を行使されることがある。

c. 資金融資による支配

資金を融資している金融機関は、融資先企業に対して強い影響力を持つ。融資先企業が経営破綻しそうになると、金融機関は管理下において、融資の回収に努めようとする。

(3) 子会社の企業統治…資本、取引、人を通じて子会社の企業統治を行っていく。

3.経営再建の戦略

(1) 単年度赤字

景気の変動や取引先からの影響、内部要因などで一時的に単年度赤字になる場合は、通常の売上高を増加させ、費用を減少させる方法で再建できる。

(2) 累積赤字<資本金

頻繁に単年度赤字になって、累積赤字となり欠損金を発生させている場合、通常の事業努力(売上増加と費用の減少)だけでは、なかなか難しい。そこで、資産があれば土地や保有株式などの資産売却による売却益出しが考えられる。それが出来ない場合、欠損分の減資をし資本金を減額する。資本金が減少したことでマイナスがあれば、新たに株式を発行して増資をして資本金を充当する。ただし、こうした方法は会社に将来がありそうな場合で、こうした再建策を採っても会社の存続が難しそうであれば、傷の浅い内に再建型倒産や清算型倒産(後述)を行っても良い。

(3) 累積赤字>資本金

債務超過と呼ばれる状況で、運転資金が途切れた段階で倒産する瀕死の状況。この場合、支援者から運転資金の提供によって生き延びる、減資と増資を行い財務上正常化する、倒産させるしかない。九十九里浜水産缶詰工場は負債総額7,900万円、土地の売却で7,000万円となり、900万円の債務超過であることが分かった。その900万円の損失は親会社伍代物産が補填する。

4.企業の倒産

(1) 組織の寿命…寿命30年説産業や製品のライフサイクルが30年ぐらいで、それが組織の寿命とリンクしてしまうことから寿命が30年になってしまうと考えられる。

(2) なぜ組織は衰退するのか

a. 外部環境要因…市場の成熟化+環境変化への不適応

例:サバの缶詰の需要不振、売上低下や原材料高に対して有効な経営戦略を実行しなかった。

b. 内部環境要因…組織の過大な余剰資源+経営資源の陳腐化+リーダーシップの欠如

例:工場の余剰人員、缶詰商品の陳腐化、これまでの天下り工場がリーダーシップを発揮せず、従業員に任せていた。

(3) 企業倒産の兆候

a. 取引内容の変化…取引先の変化+納入場所の変化+契約を急ぐ

例:今まで原料を供給していた業者が供給を止める→供給業者が資金回収に不安を感じたからかもしれない。

b. 支払方法の変化…支払いサイトの変化+取引金融機関の変化+融通手形の噂

例:手形の支払いサイトが長くなる→資金繰りが苦しいかもしれない。

c. 在庫・生産の変化…在庫急増+過大な設備投資+未納期急増

例:在庫の急増→販売不振、過剰生産による損失発生の懸念

d. 経営陣・従業員の変化…経営者や経理担当者の不在頻発+退職者急増+不正頻発

例:経営者や経理担当者が社内にいない→金策にかけずり回っている懸念あり

e. 財務取引の変化…現金支払いの低下+厳しくなる担保条件+投機失敗

例:現金支払いの低下→キャッシュフローの不足の懸念あり

f. 財務諸表上の変化…決算の遅れ+手形売掛金・在庫の急増+赤字

(4) 企業倒産の種類(再建型)

a.会社更生法の利用:裁判所に会社更生法を申請し、再建の可能性が認められれば経営者が交代し、裁判所が選んだ管財人の下で再建に当たる。再建計画で変わってくるが、債務は通常減らしてもらえる。

b.民事再生法の利用:経営破綻が予想される段階で裁判所へ民事再生法を申請し、再建の可能性が認められれば経営者が引き続き経営に当たって再建を目指す。債権者の過半(金額ベース)で再建計画が認められれば、債務負担が軽くなり、再建しやすくなる。

c.私的整理

債務負担が重く経営破綻しそうな場合、借入先の金融機関等の協力を得て、債権放棄してもらい、経営を再建すること。

(5) 企業倒産の種類(清算型)

a.破産法の利用:裁判所に破産を申請し、会社の資産を債権者に債権金額に応じて分配するが、充当できない債務は免責となる。

b.特別清算:商法に則って、会社の株主総会で会社の清算を決議し、清算人が会社の資産を分配する清算手続きを行う。

c.私的(任意)整理

(4)と(5)は法律に則って倒産の手続きを行うが、私的整理は経営者や株主の意志で清算を決め、資産を債権者へ分配する。九十九里浜水産缶詰工場は、清算型の私的整理である。

〜価値観の共有による経営〜「コーチ」を事例に〜