第8話            10 最終話前半 最終話後半
1.組織の革新

(1) あらすじ

工場はいよいよ清算(任意整理)されることになった。久保田は工場閉鎖の責任を取らされて辞職した。従業員達は久保田を本社に戻そうと、伍代物産監査室を訪ねる。そこで、「缶詰の時代は終わった」という長峰監査室長の言葉を聞き、憤る。その言葉を聞いた三国は、新開発の「サバカレー」を最後の夜に従業員全員と協力して作り、出荷する。久保田と従業員は仕事を通じて一体化したが、工場は倒産し、小湊銀行の管理下におかれ、従業員は解雇、ゲームセットとなった…

(2)ドラマのポイント

a. 久保田の価値観はどう変わったのか?

以前は一緒に働く従業員を仕事をするための部品として扱っていたが、工場従業員を「仲間」と呼んでいるように意識が変わった。「仲間ができたの。何でも言い合って、思い合って、許し合える・・・・。単純でいい加減だけれど、生きることを楽しんでいる。」 久保田は人生における仕事の位置づけも、微妙に変化し、仕事中心だけでない人生を好ましいと考えている。

b. 岩佐の言った「君がうらやましいよ」という言葉の真意は?

久保田の恋人だった岩佐は、彼女の精神的な変化が彼女をより素敵な人間に変え、良い仲間に囲まれた工場での生活が充実していたことにに気がついたのだろう。仲間を持たず出世と手を組む価値観は変わっていないが、久保田のような考え方も理解できるので「うらやましい」と言った。二人の会話を聞いていると、互いに異なった道を歩むことになった、かっての恋人を尊重する大人の関係を感じることができる。しかし、強い女である久保田にとって岩佐の存在は非常に大きかったことは、彼女の涙から理解できる。口では岩佐にクールなことを言っていたが、久保田は彼を心から愛していたのだ。

c. 「サバカレー」を協力して作る従業員は仕事に対する考え方を変えたのか?

以前の従業員にとって、仕事は経済的報酬を稼ぐための手段で、上から押し付けられたものであった。そのため、仕事よりも野球が大切であった。しかし、久保田が工場へやってきて、当初は反発していたものの、久保田との関係が良好になるにつれて、彼女の仕事に対する姿勢を少しずつ吸収して仕事への考え方も徐々に変わっていたと思われる。

しかしながら、時既に遅く、工場は私的整理される。久保田を本社へ戻したい三国、剣、塩谷、石井は長峰監査室長へ直談判に行くが、自分たちが足を引っ張って工場再建を阻害していたため、久保田は責任を取らされ、辞職させられると指摘される。しかも、自分たちの作っていた缶詰は時代遅れで売れないと屈辱的なことまで言われ、特に三国は憤る。工場が閉鎖されることになり、従業員はこの工場で、仲間と働けたことの幸せを思いつつ、退職金を受け取る。もっとみんなで働きたかった。工場を再建するために、工場長ともっと仕事をしておきたかった。丸さんが久保田にこの町に残ったらどうかと勧め、しじみは退職金を受け取るとき、思わず泣いてしまう。

工場で最後の日を過ごした夜、三国が開発していたサバカレーを久保田は食べてくれる。三国は自分の開発した缶詰を作りたいという自己実現欲求の追求と、長峰を見返すため、久保田にサバカレーの缶詰を生産したいと告げる。このまま、敗戦を迎えたくない負けず嫌いの久保田も三国の考えに賛成する。真夜中の工場、三国が缶詰を作り始める。三国を理解する久保田も自然に手伝い始める。すると、最後の夜を飲んで騒いでいた剣と石井が工場の光を見て、工場へやってくる。夜中の工場で缶詰を作る2人を見つける。三国の目を見た、野球で女房役をしている剣は全てを理解した。工場最後の夜だから誰に強制されるわけではなく、自分たちの手で、自分たちの缶詰を、自分たちの想いのために缶詰を作る。誰かが連絡したのか、みんなが続々とやってきて、仕事の輪に加わる。これがみんなで働ける最後の時間になるから、悔しい気持ちを振り切りたいから、心おきなく別れたいから。野球の時と同じように抜群のチームワークで自分たちの最後の缶詰が作られていく。缶詰作りは野球と同じように、自分たちの「自己実現」の目的となり、自らの意思で働くという強い動機づけが行われ、従業員たちは朝まで一睡もせず働き続けた。

朝を迎え、自分たちの様々な想いがこもった最後の缶詰が出荷される。売れるかどうか、そんなことは関係がない。自分たちの意志で、自分たちのために、自分たちの缶詰を、みんなで作った達成感と満足感が全員に満ちあふれていた。工場が倒産してしまった悲しさや悔しさは薄らぎ、すがすがしさすら感じていた。そして、名残惜しいが工場を後にする。また、いつかみんなで仕事をして、野球をしたい気持ちを胸に。

工場の最後の夜、従業員たちは缶詰を作りながら高揚感と充実感を感じたであろう。自らの意志で、協働して作業をする。最後の缶詰を作ることは自己実現の目的になった。仕事でこうした自己実現欲求を持つと、仕事への動機づけは高まる。しかも、それが高く評価されれば、自分たちの努力が評価され、報酬を得る。それが次に仕事をやるときの期待へつながる。従業員たちの仕事への取り組みは、仕事で自己実現を見いだせなかった以前と大きく変わっていくであろう。しかし、工場にはもう明日はない。

d. 久保田の「コーチはあなたたちよ」というのはどういう意味か?

リーダーは部下を教え、育てるだけでなく、部下からも多くを学び、成長していく。それはリーダーの能力を高め、優れた部下を育てていく。今回の件で、久保田はリーダーとして、人間として、工場従業員から、仲間を思いやる、何でも許し合える、生きることを楽しむ、など多くのことを学び、今後彼女がリーダーシップを取るとき、それが活かされていくことであろう。

e. 九十九里浜水産缶詰工場株式会社の私的整理の顛末を説明せよ。

工場は地元の業者へ小口の債務(手形など)があったため、債務支払いのために債権者の債権を小湊銀行へ一本化した。すなわち、小湊銀行が債権者の債務を買い取ったのである。この債務が7,000万円、当初岩佐は1億円と見積もっていたので、3割カットで債務返済をすることにしたのだ。私的整理による会社清算だから、債務カットが3割程度と低い。剣の借金を肩代わりした債務は、本来は工場業務と関係する債務ではないため、再び剣が負うことになった。小湊銀行に一本化した債権を返済するため、工場の土地を小湊銀行へ7,000万円で売却した。これで工場の債務がなくなったが、まだ、従業員の退職金という債務がある。工場には1銭の資産もないため、親会社の伍代物産が債務保証をして工場が退職金支払いの原資として900万円の融資を受ける。当然ながら清算される工場には返済能力がないため、伍代物産が代わりに返済することになる。よって、伍代物産の損害は900万円となる。

2.革新とは何か?

@ 革新(innovation)

a. シュンペーター…「生産要素の新結合によって実現される、新製品の開発、新生産方法の採用、新市場の開拓、新資源の獲得、新制度や新組織の採用である。」

b. ドラッカー…「限られた資源からより大きな利益を獲得するための変革のプロセス」

c. 野中…「新しい知識の創造が組織の変革をもたらす」

A 革新の必要性…組織が変化する環境の中で生存していくには、組織も変化し、新しい価値を生み出さねばならない。組織が変わるためには、何らかの革新が必要となる。革新が起こせない組織は、成長するのが困難であったり、衰退する可能性もある。

B 革新の種類

a. 技術革新…プロセス革新+プロダクト(製品)革新

b. 経営革新…組織システムの革新+経営資源の革新+戦略の革新

C プロセス革新…製品やサービスを産出する過程における生産性や産出価値を高める新しい変革(例:トヨタの「かんばん方式」やセブンイレブンの「POSによる店舗管理」)

D プロダクト(製品)革新…製品やサービス自体に新しい価値を産む変革(例:携帯電話やヴァーチャルモール)

E 組織システムの革新…生産性や産出価値を高める組織構造や組織システムの変革(例:分社制や実力主義の人事制度)

F 経営資源の革新…組織の価値産出にかかわる経営資源の変革(例:従業員の意識や組織文化)

G 戦略の革新…組織の戦略の変革(例:リストラクチャリングや組織使命の変更)

3.組織の革新のために

@ 何が革新を起こすのか?

a. 多様な経営資源の結合によるカオス(混乱状態)・・・ユニークな結合を生み出す可能性を高める

b. 学習及び学習棄却・・・学ぶことも大切だが、常識を忘れることも時には大切。常識の囚われていたら画期的な革新は生まれにくい。

c. 情熱・・・サバカレーは三国の個人的情熱で生み出された

A 何が革新を阻害するのか?

a. 古い評価基準(例:短期志向の評価+売上重視+保守的な人材評価基準)

b. 慣習や組織文化からの制約(例:経路依存からの制約+自己満足+リスク回避)

c. 組織内政治(例:セクショナリズム+経営トップの権力争い)

d. 組織の保守化(例:メンバーの保守的意識+過信+官僚制化)

B 知識創造のメカニズム

個人的暗黙知→組織的暗黙知→組織的形式知→個人的形式知→個人的暗黙知

C 組織革新のプロセス

環境の変化+ 組織内の変化
      ↓

問題の認識と共有

      ↓

ゆらぎやカオスの創出+強力なリーダーシップ

      ↓

偶然や必然による資源結合における協働→革新の創出
                             ↑   ↓
                     革新への反動  革新の成果確認
                                ↓
                            革新の制度化

D 組織革新を促進するための経営

a. 組織を変革する強いリーダーシップ

組織を変えるというのは、小さな力の個人では困難。そこで強いリーダーがトップダウン方式で変えていくか、変革を志す集団が組織全体に働きかけるやり方が取られる。

b. 組織への変化という刺激を与える

組織が安定して保守化しないように、絶えず変化を与え続ける。それが革新創始の刺激となる。

c. メンバーの意識改革

組織の保守化は組織メンバーの意識の保守化である。そこで組織メンバーの意識を絶えず見直していく必要があろう。

d. メンバー間の情報共有

情報共有はメンバー間の学習であり、そこでの相互作用は革新をもたらす新結合の可能性を高める。

e. カオスを創出する仕組み

刺激により組織内にカオスを意識的に作り出すことで、革新の創始の可能性を高める

E 革新のジレンマ

大きな革新がおき、それが制度化すると、次の革新がおきにくくなる

〜価値観の共有による経営〜「コーチ」を事例に〜