〜生活産業ベンチャー論〜

「浪速の夫婦サクセスストーリー」


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第1回 生活産業の時代
第1話 「バニーガールの逆襲」
(1) あらすじ

日高真喜は町の青年達の憧れで、上原賢太郎も真喜を彼女にしたいと思っていた。ある日、賢太郎は会社に遅刻しそうになった真喜をバイクに乗せ、白バイに追いかけられる羽目になった。そんな状況の中、賢太郎は突然、真喜にプロポーズする。驚く真喜だが、賢太郎の熱意に負け、結婚してしまう。

真喜と賢太郎は結婚式と同時にトラック1台で運送業を開業するが、第一次石油ショックが起こり、上原運輸は開店休業状態。そんな中、マッキーは、雨の中引越しをしているある一家に出逢い…


(2) ドラマのポイント

a 起業と結婚、新しいスタートははたしてうまくいくのか?

結婚生活と起業。どちらも新しいスタートで、人生のターニングポイントであるが、どちらも大変なことなので同時にやるよりは結婚し、生活基盤を安定させてから起業するか、起業をし、経営が安定してから結婚した方が良いかもしれない。スモール・ビジネスでの起業は家族も重要な労働力になるので、結婚してからのほうが良いかもしれない。ただ、起業の覚悟がない配偶者だと、仕事がきつく、離婚につながる懸念もある。

b オイルショックは運送会社の経営にどのような影響を与えるか?

運送会社は運転手、トラック、トラックを動かすガソリン、電話があれば始められる。オイルショックによって、ガソリン価格が高くなったり、手に入らなくなったら、トラックを動かせなくなり、仕事ができない。燃料費がかさみ、燃料費上昇分を価格転嫁できなければ、収益性は悪化する。また、オイルショックによって不況になれば、下請けで、競争相手も多い運送業は荷主からの値引き要請が強くなり、収益性はさらに悪化する懸念がある。

c 真喜はなぜ雨の中で運送業者に怒ったのであろうか?

顧客が困っているのに、何もしない運送業者はプロ意識がないし、人としての優しさもないと感じて怒った。真喜の性格がよくわかる。

d なぜ真喜は引越業を行おうという考えに達したか?その過程を整理せよ。

・高度成長期によって家電製品が家庭に増えた。そのため、引越が大がかりになり、家庭や友人達の手助けだけで引越を行うのは難しくなり、そこにビジネス・チャンスが生まれる。特に引越は家庭内の物を運ぶため、非力な主婦が中心になるため、重い荷物が増えれば、女性が大変になるので、引越業へのニーズは高い。

・高度成長期によって都市への人口流入が起こり、都市にはアパートなどの高層階を持つ建物が増えた。そのため、引越の手間がかかるようになり、家庭や友人達の手助けだけで引越を行うのは難しくなり、そこにビジネス・チャンスが生まれる。また、都市化は従来のような濃密なコミュニティの中の人間関係を希薄化し、引越を隣近所に手伝ってもらいにくくするかもしれない。

・オイルショックにより、賢太郎が始めた運送業が経営的にピンチになり、他の収益源を早急に探すことを迫られた。今、所有している事務所、トラック、そして人手を利用してできる他の事業として引越業は追加投資の必要なく行えるので相乗効果がある。

・オイルショックのような時期でも引越はその家族や個人の事情で行われるために、運送業と同様に確実な需要がある。しかも、逼迫した事情であれば、高い料金でも、雨の日でも引越をせざるを得ない。すなわち、顧客の価格弾力性(料金が安くなったら引っ越しする人が増え、料金が高くなったら引っ越しする人が増える)は低く、利益を得やすい。雨の日であっても引越を行わなくてはならないので、仕事が当日キャンセルされるということも少なく、安定している。

・雨の日に行われていた引越の作業を見て、引越を行っている運送業者のサービスが、顧客の視点に立ったものではなく、顧客の不満足を生じさせている。その不満足を解消することは、新たなビジネスと付加価値を創造することが可能になる。雨の中、家財道具をぬらさない工夫、家族が思い家財道具を部屋へ運び込まなくてなならない苦労の解消、こうしたことが引越サービスへ革新を起こし、新たな付加価値を生むことに真喜は気がついた。

・引越の専業者がいないため、競争があまりないニッチ(隙間)市場である。ただ、競争がないのには、市場が小さすぎる、収益性が低い、技術的な問題がある、気がついていない、などの理由があり、その理由が明らかにする必要がある。

・困っている人を助け、人に喜ばれることを好む真喜の性格が、経済合理性だけで取引が行われる運送業より、「人生を運ぶ」引越業を好んだ側面も日的できない。

2. 生活産業とはなにか
(1) 生活産業の定義

医療・健康産業、観光産業、福祉産業、食料産業、住宅産業など、生活者のニーズに対応する高品質なサービス、生産業。従来の1次、2次、3次といった産業区分ではなく、生活者という視点で産業を区分している。

(2) 産業構造の変化と生活産業の伸長

a 1969年代、経済が高度成長し、国民所得が増加する過程で、家電、住宅、自動車などの耐久消費財への消費を増やした。

b 米国並みの耐久消費財を保有した1970年代以降、日本国民は生活を高品質化するような消費を行うようになった。

c 1970年代に生まれた新産業としては、このドラマの主人公が行う引越産業、ファミリーレストラン、ファストフード、コンビニなどがある。

d 1980年代、大幅な貿易黒字から内需拡大を国際的に迫られ、円高による海外観光と国内のリゾート開発による国内観光の伸長により、観光業が成長した。

e 2000年、介護保険制度の施行により、家庭内で行われていた介護福祉がビジネス化され、大きく伸びている。

(3)生活産業が現代の経済政策の中から生まれた背景

a 小泉内閣は、国民の生活的ニーズに応える高品質の製品・サービス(生活産業)を提供することで明るい構造改革を行う戦略を打ち出した。キーワードはユニバーサルデザイン、QOL(生活の品質)。

b バブル経済の崩壊以降、日本企業は人件費削減でリストラを行い、失業率が高止まりしている。生活産業を雇用の受け皿にしようと言う意図がある。

c 大企業が生活産業へ進出しようという戦略を持ち、一方、消費者に密着したサービスを行うと言うことから中小企業にもチャンスがあり、注目している企業も多い。

d ITなどを活用した、複合的ビジネスモデルを持つ生活産業が提案されている。

3. 生活産業ベンチャー


4. これから成長する生活産業分野