〜競争の戦略〜

PART2     
1.勝てる組織への変革

(1) あらすじ

顧客である主婦の目で、顧客志向の店作りを提案する花子に、スーパー業界のベテランである店長、職人気質の強い生鮮売り場のチーフ達は猛反発、正直屋の改革は中々うまくいかない。しかしながら、徐々に心ある従業員達の支持を得ながら、「正直屋」の改革を進めていく。顧客重視を「正直屋」に根づかせようとする副店長花子(出世した)の姿勢は他の従業員の気持ちを変え、「正直屋」の組織に活気をもたらし、「正直屋」は徐々に顧客の支持を集める。

(2) ドラマのポイント

a. なぜ正論で改革を進める花子に対して反発する人がいるのか?

新参者である花子に、プロを自認する自分たちのやり方を素人に否定されてプライドが傷つき、むかついているのと、売る側の事情をベースにした今までのやり方を変えることを求められかったるいと感じ、反発している。ところが、花子は顧客の主婦としての視点で業界の常識を疑い、顧客志向のサービスに徹しようとしているため彼女の適切な指摘といえる。業界の常識の外にビジネスの機会が眠っていることが多い。

b. 花子の変革に抵抗する従業員をどうやって変えたら良いか?

変革をどのような形でも実行させ、それを成功させることで変革への弾みとする。どんな小さな成功でも良いから、変革初期に成功体験をさせることは変革の動きを促進する上で重要。正直屋では、青果部門が小さな成功を経験し、それが大変革の火種となった。花子が白菜の値段を午前中から値引きするという仮説を検証したが、セブンイレブンに見られるように、仕事で仮説を持ち検証するという姿勢を持たなければならない。

c. 花子に共感する従業員は何によって動機づけられたのか?

まず、自分の価値観に合った仕事をしたいと思うが、花子がそうした環境を作ってくれた。そして、従業員がみずから考えた戦略が成功することで、特に顧客が喜んでいるのを見て、充実感を覚えたに違いない。

d. 花子が、ちらし広告に誤って記載された値段で、しかも追加発注してまでも卵を販売することにしたのはなぜか?

誤りとはいえ、店の広告で価格を表記した以上、その価格に対して店が責任を負うという考えを持っているからである。また、安売り大魔王のように、数量の少ない目玉商品で集客する商法に対して、花子は消費者の立場から反発を感じていたからではないか。

e. なぜ花子は、売れ残りそうな白菜を午前中から値引きして販売する提案をしたのか?

スーパーにとって、商品が良く回転する(売れて在庫を補充する頻度)方が、鮮度の高い商品が売場に並び、顧客の印象が良くなる。正直屋では顧客が山積みの野菜を奥から引き出してくるのに見られるように、鮮度に関して顧客の印象が良くない。そうした悪印象を払拭する意味でも、売れ足を早くして回転を良くし、売れ残りのリスクを減らすため、198円の白菜を午前中から129円へ値下げしたのである。

f. 鶴亀食品の社長を試食会の場に立ち会わせた理由は?

顧客が食べるおにぎりは鶴亀食品が製造しているが、鶴亀食品の社長は商品を卸しているスーパーのみを顧客と認識し、最終的に消費をする顧客への意識が薄い。そのため、利益を確保するためとはいえ、消費者を欺くような商売をしていてもあまり気にならなかったのだ。そこで、花子は社長に消費者と直接ふれあう場を設けて、消費者と向き合うことで社長の意識を変えようとしたのである。消費者の「おいしい」という声を聞き、鶴亀食品の社長は消費者に喜んで貰える食品を作るよういっそう励むであろう。

g. なぜ花子と五郎は自転車で正直屋のちらしを配りに行ったのか?

自店の商圏内を自分の目で観察し、顧客を知る効果がある。加えて商圏内の顧客にちらしを直接渡すときの会話が商売のヒントになったり、顧客に来店の動機付けを行えるからである。

h. 花子は正直屋をどんなスーパーにしたいのか?その理由は何か?

「日本一お客様の立場に立つ店」という顧客志向の店作りを、花子は新しい経営理念にし、従業員と共に努力しようと考えた。これは主婦の目から、既存のスーパーは顧客志向に関して不十分だという認識を持っているからであろう。特に安売り大魔王のように、うその多い、悪いスーパーを彼女は嫌っている。また、顧客の期待や信頼を裏切ったときの顧客の怒りを店側の立場から感じたからである。そこで、正直な商売をし、主婦が買い物を楽しめ、満足させられるようなスーパーを作ってみたいという気持ちがある。顧客からの声を聞くことは、顧客のニーズを知ることで品揃えやサービスを見直すことに結びつき、一方で顧客は店側の姿勢に信頼感と親近感を持つ。また、顧客が喜ぶような店ならば、その店で働く従業員のやりがいも生まれる。顧客が自分の売場の商品を喜んでいる姿や、自分たちの売っているおにぎりをおいしいと言ってくれれば、うれしくないはずがない。従業員の貢献意欲の向上は、人材が重要なサービス業にとってプラスになる。取引業者に対して顧客のニーズに合わせた提案をすることで商品力を向上させ、取引業者も顧客ニーズを知ることができ、お互いにメリットのある関係を構築できる。顧客志向に基づく競争戦略は、具体的に商品の品質向上と顧客のニーズへの的確な対応である。そのため、顧客の声を聞き、それを経営に反映するようになった。こうした新しい競争戦略は、安売り大魔王の低コスト優位の競争戦略と異なる道であり、しかも安売り大魔王の弱点を突くことになり、正直屋が勝ち残れるという判断もあったのであろう。

i. なぜ花子は全品10%値引きのセールを提案したのか?

顧客にとって普段値引きされない商品が値引きされると、購買意欲がそそられる。こうした全品の値引きをすることで、回転率の悪い商品も売れ、長期在庫の処分にもなり、長期在庫によるロスを防げる。1998年から99年にかけて、大手スーパーは現実に全品消費税還元セールや全品10%オフセールをやって売上を伸ばした。

j. リパックに対する五郎の態度は適切?

当初、五郎はリパックを廃止したくはないようだった。それは利益のためと、従業員の発案だったので配慮した結果であるが、顧客志向がまったく感じられない態度である。経営者としては失格。経営者は組織内部と外部環境の両方を考慮して意思決定をしないといけないし、また、経営者としての確固たる理念と倫理観を持たなくてはならない。リパックのような商売は彼の倫理観に適合したものなのか?

2.新しい経営理念とビジョンの創造
(1)変革へのfirst step

@青果部門のチーフキヨちゃん(三宅裕二)を味方に引き込む

a 青果部門の問題の指摘→仮説の設定→検証→成功

b 花子の価格戦略の試みが成功したことで、キヨちゃんは花子を信頼する

c キヨちゃんは花子と仲の良いレジの女性従業員(松本明子)の夫という関係なので、味方に引き込むのにはもっとも落としやすい相手。

A変革は抵抗勢力との戦い

a 好意を持ってくれる人(2割)は味方である

b 中間派、無関心勢力(6割)を味方に引き入れろ

c 敵意を持つ抵抗勢力(2割)を無力化する

B正直屋の問題人物は誰?

a スーパーに合わない、職人中心の商売のやり方に固執(精肉部門・鮮魚部門のチーフ)

b 不誠実な商売を行う(店長、精肉部門のチーフ)

c 経営悪化の現状を知りつつも何もしない、できない(中間派の従業員)→まず、この人たちに働きかけて、」花子の改革を支持する人たちを多数派にする→花子はリパック反対を進言して中間派を取り込んだ

(2) 現状に対する危機意識を高める

a 何が経営上の問題なのかを認知し、危機の元凶かを見つける→正直屋の商売が顧客志向でないことを花子は五郎に進言する

b 危機意識を組織へ浸透させる→売れていない商品(高級和牛肉)の情報を伝える

c 問題の解決の方向性を考える→リパックの廃止を提案

(3) 経営理念の変革

a 経営理念は理想の経営のやり方に関する価値観や哲学→顧客志向

b 問題の解決の方向性と経営理念に整合性があるか分析する→リパックの廃止が花子の経営理念と適合しているか?

c 経営理念に問題があれば修正し、組織メンバーへ明示する。問題の解決の方向性が誤りであれば修正する。

(4) ビジョンの変革

a ビジョン=スーパーの将来像→顧客の期待に応える日本一のスーパー

b 経営理念と整合性のあるビジョンを創る・・・顧客志向の経営理念と顧客の期待に応える日本一のスーパーというビジョンは整合性がある。

c わかりやすく、やる気の出るビジョンの必要性
3.価値システムの構築と管理
(1)自社の内側だけではなく価値システムから再構築する

価値システムを自社に望ましいように構築、コントロールして利益を増やす

(2)価値システム・・・価値が産出され、消費されるまでの一連のプロセス

メーカー→物流業者→卸売業者→物流業者→小売業者→顧客

(3)顧客とのコミュニケーション・・・アンケート、試食会、店頭での会話によるコミュニケーション

a 顧客のニーズを探る

b 顧客に好意や信頼感を持ってもらう

(4)供給業者との協働

a 顧客の声を伝えて商品開発へ協力する→本当のたらこを使ったおにぎりの市場性を指摘

b 自分たちだけの利益を要求するだけでなく、相手の利益も考えて共存共栄を図る。→「正直屋を鶴亀食品さんの売場と思ってください」

c 競争原理を用い、取引先を強制的に自社(スーパー)にとって好ましい協働相手にする→「社長、商売は競争よ」(あなたのところでたらこ100%のおにぎりを作らないのであれば、他社に頼むわよ。)
4.優れた経営のスーパー
(1)CSの追求

a CS=Customer Satisfaction=顧客満足

b 顧客が満足できるスーパーの条件(商品の価格と品質、サービス、店の利便性、欲しいモノが手に入る品揃え)

c CSが高くなれば、顧客が固定客になってくれ売上が増える

(2)ESの追求

a ES=Employee Satisfaction=従業員満足

b 働く人間が満足していれば、組織目標達成のための貢献、顧客への高いサービスが期待できる

c ESが高くなれば、売上や収益性(売上に対する費用の割合)が上昇する

(3)優れた経営のスーパーとは

a 成長性、収益性、安定性が高い

b 全てのステークホルダー(株主、経営者、従業員、顧客、地域社会)を満足させる

c 交差主義比率=売上総利益率×商品回転率・・・小売業界における経営の優劣を図る尺度の一種

d 売上総利益率を不当に高くする(店長)→価格が割高になる+サービス等で手抜きになる

e 商品回転率を高くする(花子)→鮮度の高い商品を提供できる+価格を安くして薄利でも経営を成り立たせる