〜業界再編とM&A戦略〜

PART5     
1.企業統治と権力
(1) あらすじ
宮田横浜支店長から杉本頭取の不正の証拠を示された長谷部は、合併反対の決意を固める。そんな中、原沢扶桑銀行頭取宅に暴力団から銃弾を撃ち込まれるスキャンダルが起こり、杉本頭取もあせり始める。石倉は杉本の腹心として合併を実現しようと努め、杉本頭取は合併反対派リーダーの成瀬副頭取の失脚を狙い、臨時取締役会で副頭取解任を提案しようとする。一方、成瀬と手を組んだ長谷部は、支店長クラスに合併反対を働きかけることにする。そして、臨時取締役会が開催され、成瀬副頭取の解任決議が議案として提案されるが、意外な結果がそこには待っていた…

(2) ドラマのポイント
a. 神谷はなぜ長谷部を信用したのか?
「長谷部さんは私を女としてでなく、一人の人間として扱ってくれた。」「石倉部長は私に女としての希少価値以上のものを求めていない。」長谷部は真摯に神谷へ向かい合ったことが、神谷の信用を得ることにつながった。ただ、長谷部がそうした姿勢で神谷と接することができたのは、上司と部下という関係でなく、利害関係のない立場でつきあえたからかもしれない。なお、神谷の言葉に、男性と同等に働きたい女性の心情が出ている。彼女たちは女として特別視されたり、軽視されたりするのを嫌う。

b. バンカーは流れに逆らえない、という石倉の言葉の意味は?
銀行員だけでなく、サラリーマンは上司から命令されたらイヤとは言えない。一度乗った流れには、例えそれが誤った流れであっても逆らえない。

c. 原沢宅へ銃弾を撃ち込まれたことで何が変化したか?
三洋銀行員にとって、激しく争っている富桑銀行への印象は良くない。そんな状況で、原沢富桑銀行頭取のスキャンダルが発覚し、富桑への拒否反応がいっそう強まり、合併反対運動を勢いづかせることになる。

d. 臨時取締役会ではなぜあのような結果になったのか?
最大の誤算は大森専務が成瀬副頭取に寝返ったこと。これで合併反対へ流れが決した。なぜ、大森専務が寝返ったかは、多分、杉本は大森を取るに足らない男と軽視をして、しっかり掌握しなかったのだろう。銀行頭取という巨大な権力を握った杉本は、自分が何でもできる、誰もが自分に従う、と過信をしたつけが回ったと言えよう。

e. 長谷部、石倉、松岡の処遇をどう考えるか?
合併反対派に回った長谷部は取締役総合企画部長で栄転、成瀬の腹心の部下の松岡は業務推進部長から福岡支店長へスライド(栄転でもなく左遷でもない)、杉本元頭取の腹心の部下である石倉は三洋銀行の取引先の一つであるメーカーへ出向で左遷、三者三様だった。長谷部は支店レベルの合併反対運動も盛り上げた功労と、成瀬新頭取が銀行行員をいち早く掌握するため現場から信頼されている長谷部を取り込んだ意味合いもある。一方、役員への登用をちらつかせて合併反対運動に走らせた松岡に対しては、杉本派行員への懲罰人事(左遷)にバランスを取るため、成瀬新頭取は自分の腹心の部下である松岡を露骨に出世させなかった。また、現場からの信頼感の薄い松岡に、現場の苦労を再び知って貰おうという親心もあったかも知れない。敵の石倉の左遷は当然か。

f. 企業の論理と銀行の本質の違いは?
企業は利益を追求する存在であるが、社会の金融システムを担い、公益性のより高い銀行は、そうした企業の論理だけで活動してはならない。

g. 合併は組織に何をもたらすのか?
合併によって利益を得るもの、不利益を被るものが出てくる。いずれにせよ、今までと同じと言うことはない。そのため、合併に対して、組織メンバーがバラバラになる可能性を否定できない。しかしながら、外部の経営資源を迅速に獲得する有効な戦略ではあるが、戦略の基盤になる組織のことも考えて合併計画を立案しなくてはならない。

h. 最後のシーンで成瀬が長谷部に言った言葉をどう考えるか?
頭取のような最高権力を握ると、それに満足せず、さらに大きな権力を欲してしまうものであることを教えてくれる。

(3) 用語解説
a. 金融界の再編:合従連衡が生じ、業界の競争構造が変化すること。

b. 臨時取締会:企業の最高意思決定機関を、特定議題のために臨時に行うこと。

c. 取締役解任…取締役の解任は取締役会の賛成を受け、株主総会の承認を得て行われる。

d. 緊急動議…取締役会での議題は通常事前に届けるのだが、例外があり、それが緊急動議によって提案できる。

e. 議長・・・取締役会議長のこと。通常は代表取締役社長や頭取が行う。

f. 左遷…現在の職位や職務より、劣った職位や職務へ異動になること。

g. 出向…他の会社へ出されること。元の会社に戻れる場合と戻れない場合がある。
2.企業統治
(1)企業統治
企業を支配し、治めること→取締役会の役割

(2)取締役会とは?
a 企業を所有する株主から委託され、経営を行う集団。日本企業の場合、社内の人間が兼ね、取締役議長は社長が務める。そのため、企業統治の面では、執行者が自らチェックをするので、機能しているとはいえない。

b 経営に関する権限を株主から委譲され、執行する。

c 株主の利益に反する行動はしてはならない。

(3)日本的企業統治の問題
a 取締役のメンバーが企業内の人間であり、企業内の政治力学によって意思決定が行われる

b 株主の利益よりも社内の人間の利益が優先される

c 結果として外部からのチェックが効かずに企業が暴走することもある
3.権力と派閥

(1) 組織の中の権力
組織の中の権力で強いのは、人事権と資金の分配権である。

(2) なぜ権力を欲しがるのか
自分の意志で人を動かせ、経営を思うがままにするため、権力を欲しがる。

(3) 権力がないと会社の中でどうなるのか?
権力がないと、自分の意志を経営に反映できない。

(4) 組織の中での権力闘争の弊害
a. 組織目的が共有されにくくなる

b. 組織全体の利害よりも個人の利害が優先されるようになる

c. コミュニケーションが取り難くなる

d. 権力闘争によってメンバー間の対立が生じ、組織統合が図れなくなる

(5) 権力闘争の結末→対立する相手が権力を失うまで続く

(6) 組織内の政治力学を利用する
a. 誰が組織の権力者かを知り、権力構造を理解する

b. 権力の源泉(人、金、仕事の内容等)を知る

c. 権力の源泉にアクセスし、獲得する方法を知る

d. 権力を利用するメリットとデメリットを知る

(7) 派閥
組織の中の権力を追求する目的で集まった利害集団

(8) 派閥の形成
権力を欲しがる人とそれを利用しようとする人々の利害が一致し派閥が形成される

(9) 派閥の功罪
a. 組織より派閥の利害が優先されることもある

b. 権力闘争を助長する

c. 組織の活性化
派閥間の競争は、協働システムである組織の中に競争原理を持ち込むことになる。それが組織目標の効率的達成につながることもあるし、反対に組織の分化を助長する危険性もある。

(10) 派閥に入るメリットとデメリット
(メリット)
a. 派閥のリーダーが出世すれば自分も出世できる

b. 問題が起きたときに派閥のリーダーや仲間が助けてくれる

c. 派閥の力を使って自分のやりたいことを可能に出来る

(デメリット)
a. 派閥のリーダーの失脚は自分の失脚につながる

b. 他の派閥から攻撃対象にされることもある

c. 派閥の論理により自分の意志や目的を阻害されることもある

d. 一度入ったら抜けにくい