〜業界再編とM&A戦略〜

PART3     
1.M&A戦略

(1) あらすじ
MOF担神谷は新山大蔵省銀行局課長補から三洋と扶桑の合併話を聞き、驚く。期は熟したと考えた杉本頭取が、他の経営陣に富桑銀行との合併計画を打ち明ける。しかしながら、成瀬副頭取から異論を出される。成瀬副頭取は手下の松岡業務推進部長と共に、富桑銀行との合併を潰そうと画策する。長谷部は石倉から合併計画に協力するように依頼されるが、長谷部は支店時代の競争相手である扶桑銀行との合併は釈然としない気分である。長谷部は西巻の日記を読み、西巻も富桑銀行との戦いの中で、頭取から紹介された顧客への融資にのめり込まざるを得ず、不良債権を増加させ苦しんでいたことを知る。そして、杉本頭取と聖友会病院とのただならぬ関係を知ることになる。

(2) ドラマのポイント
a. 大蔵省の主導でない合併なので、MOF対策が重要とは?
大蔵省は早い時期から合併による銀行業界再編を狙っており、大蔵省独自で合併のシミュレーションを考え、当該行に働きかけを行ってきた。以前、原沢富桑銀行頭取と小田島銀行局長が会談した時の反応を見る限り、三洋と富桑の合併には三洋の不良債権を問題にし、否定的な反応であった。大蔵省が合併を認めなければ、規制される側の銀行が自由に合併できないため、大蔵省対策が重要になる。

b. 杉本頭取の合併構想を聞いた3人、成瀬副頭取、勝田副頭取、大森専務の反応は?
三者とも初耳であったようで、一様に驚いていた。成瀬は杉本と権力争いをしているようで、明確に富桑銀行との合併に対して懸念を示す。勝田はどうやら杉本から取り立てられて副頭取の地位に就いたようで、富桑銀行に吸収合併される懸念を示すものの、杉本に一喝されると従った。大森は杉本に従うのが得策と考えたのか、何も言わず、杉本の合併構想に賛意を示した。成瀬や勝田は、富桑銀行とでは規模で釣り合いが取れず吸収される懸念、合併後の処遇の不安、組織文化の不適合などを考えたのであろう。また、成瀬は杉本主導による合併によって、自分が頭取になる目がなくなることを恐れたのかも知れない。

c. 成瀬副頭取から相談を受けた松岡は何を考えていたか?
「富桑か・・・。あそこは東大閥が強いからな」というのが松岡の反応。松岡の頭の中には、合併によって自分の出世がどうなるかどうか、ということがもっとも重要なのである。長谷部のように支店で富桑銀行と激しく争っているわけではないので、競争相手との合併に対する拒否反応は薄い。どんな合併相手でも、松岡にとっては自分が出世できない合併は反対なのだ(ほとんどのサラリーマンは松岡と同様に考えるだろう)。成瀬からその事実を強く指摘され弱気になったときに、杉本の合併計画を潰した暁には専務の道まで開けると誘因を与えられれば、否応なしに合併潰しに走ることになる。

d. なぜ富桑銀行との合併に対して拒否反応が起こるのか?
三洋銀行は都市銀行8位で、合併相手の富桑銀行は6位行ゆえに、対等は建前で事実上は吸収合併される懸念がある。吸収合併されれば、出世は厳しくなる。富桑銀行は関西の財閥系で歴史があり、組織文化もかなり攻撃的であることから、三洋銀行との組織文化はずいぶん異なり、組織の融合が難しいと考えられる。また、業界における地位が近いので、三洋と富桑はかなり激しく争っているようで、支店レベルでは血みどろの争いをしており、感情的に富桑との合併には反対なのだ。

e. 合併後の新銀行では、杉本が頭取になるとは?
合併後の新銀行の行名、本店所在地、頭取が、合併する両行の力関係、すなわち実質的に吸収する側と吸収される側を表す。そのため、対等合併を強調するため、行名は「富桑三洋銀行」で、本店所在地を旧富桑銀行本店所在地にする代わり、新銀行のトップを三洋銀行の杉本にするという配慮をしたのかもしれない。ここまで決まっていれば、合併構想はかなり煮詰まっている。

f. 西巻の日記を読み、長谷部は何を考えたか?
西巻は自分の身を削りながら、三洋を代表して富桑と戦い、その結果、危ない橋を渡り支店の業績も自らの命も落としてしまった。西巻の辛さは、同じ支店長である長谷部にも良く理解できたであろう。

g. 富桑銀行の高川企画部長は合併に関してどう考えているのか?
ライバル行である三洋との合併は和平であり、両行の競争を防ぐ意味がある。そして、合併では頭取の命令で動くコマとしてではなく主体性を持ち、合併後の新銀行では大きな力をふるいたいと思っている。

(3) 用語の解説
a. 代表権:取締役の中で会社を代表して意思決定できる経営者。

b. カルチャー:組織文化のこと。富桑銀行は関西財閥出身ってことは住友銀行をモデルにしているのか?

c. 東大閥:都市銀行の頭取には東大出身者が多く、東大出身者が学閥を作ることが多い。

d. 粉飾:決算を改竄して見かけを良くしてごまかす。

e. メインバンク:企業の主な取引銀行で、最終的な面倒を見る取引銀行。

2.M&A戦略
(1) M&A(Merger & Acquisition)戦略の種類
a. 合併(Merger)
複数の会社が株式交換によって統合され、1つになる。
例:三井銀行と住友銀行の合併(2000年4月)
b. 買収(Acquisition)
買収する側の会社が被買収企業の株式を買い取り、吸収する。
例:パソナが長銀総研を買収
c. 営業譲渡
営業権(人材・店・資産・取引契約等)のみを部分的に買収する。
例:拓銀が北洋銀行へ営業譲渡
d. 持株方式統合
統合しようとする企業が共同出資で、子会社を管理する持株会社の性格を持つ親会社を設立する。合併とは異なり、統合される企業の自律性は維持され、統合は容易だが、反面、合併のメリットは薄れる。
例:みずほフィナンシャルグループ、UFJグループ

(2) 経営資源と統合戦略

a. M&Aの戦略的位置づけ
M&Aは全社的な幅広い競争優位を構築するために、外部の経営資源と自社の経営資源を統合する戦略である。
b. 戦略的提携
M&Aと比較して、容易に行える戦略的提携は、組織間戦略の中でも良く使用される。

(3) 合併の種類
a. 対等合併
互いの株式を等価交換して合併する。

b. 吸収合併
互いの株式を不等価交換し、吸収する側の会社が存続会社となって合併する。

(4) 合併の目的
a. 2つの企業を統合することで迅速に競争優位を構築する
b. 収益性の悪い業界における競争の緩和
c. 経営破綻すると社会的に影響が大きい場合の救済

(5) 合併の方向性
a. 垂直統合・・・原材料を供給する取引先や自社の製品・サービス需要家を合併する
b. 水平統合・・・同業他社を合併する

(6) 買収のやり方
a. 全面買収
b. 部分買収
必要事業のみ買収したり、全面買収した後に不必要な事業を他社へ売却する。

(7) 買収の性質
a. 友好的買収・・・両者の合意によって買収する
b. 敵対的買収・・・被買収企業が合意していなくても市場や株主から株式を買い集め買収する

(8) 特殊な買収方法
a. LBO(Leveraged Buy Out)・・・被買収企業を担保にして資金調達して買収し、買収後に被買収企業の資産などを売却して返済する。
b. MBO(Management Buy Out)・・・経営陣が自社を株主から買収する。従業員が買収するEmployee Buy Outという方式もある。
3.after mergerの経営

(1) M&A戦略のメリット
a 即時性・・・経営資源や組織能力を内部蓄積する時間を短縮できる。

b 競争緩和・・・業界の競争緩和になることもあり、収益性改善になることもある。

c 経営資源の獲得・・・市場で流通せず、手に入れにくいブランド、人材、顧客、情報、システムなどを獲得できる。

(2) M&A戦略のデメリット
a 合併先選定の困難さ

b 買収先の買収金額算定の難しさ

c. 合併前と後の主導権争い

d. 合併後の組織統合の困難さ

(3) 合併後の組織統合
a リストラ・・・重複する部門経営資源、余剰人員を除去して無駄のない経営体質を作り上げる。

b 経営システムの統合・・・情報システム、意思決定システム、給与昇進システムを統合し、一本化する。

c 人の統合・・・合併によって割を食った社員からの反発を押さえる。出身組織による差別をせず、異なる組織出身の人の交流を進める。

d. 組織文化の統合・・・異文化の統合と新しい組織文化を創造する。

(4) 合併を成功させるために
a 理念とビジョンを持った合併
合併が何のために、何を目指しているのかを明確にし、人心の不安を抑え、一体化する。

b 統合の象徴的リーダーシップ
たすきがけ人事を行わず、出身組織を問わずに実力本位で経営陣を選択する。

c 規模の成長だけでなく、付加価値の成長を目指せ
合併の目的を付加価値の向上におき、コストや効率偏重を避ける。

d リストラ以外で初期成果を早期に示せ

e 合併組織同士の良い企業文化を複合させよ
一方の組織の企業文化を相手組織へ強要すると反発され、失敗する可能性がある。

f コミュニケーションの徹底
合併後のビジョンと実現手段を確信させるためのコミュニケーションを徹底する。

g 合併による規模の拡大から生じるリスクを管理せよ