〜業界再編とM&A戦略〜

PART4     
1.組織間関係
(1) あらすじ
休日に長谷部の部屋へ松岡がやって来る。成瀬副頭取が合併反対をするので、長谷部にも協力してくれと言う。一方、聖友会病院から長谷部に対して文句が入り、宮田横浜支店長と訪問する。そこで、杉本頭取が福山聖友会病院長との個人的関係から無理な融資を行って、不良債権を増やした。しかも、杉本はリベートを福山から受け取っていたらしい。杉本は長谷部に聖友会病院へ融資をするよう求めるが、長谷部は承知せず、合併に関しても反対を表明する一方で、長谷部は成瀬副頭取から合併反対に協力して欲しいと依頼される。成瀬はさらに合併潰しの行動に出る。それに対して杉本は成瀬を解任することに決める。副支店長クラスの中からも反対が続出する。はたして、三洋銀行の合併はどうなるのか…

(2) ドラマのポイント
a. 成瀬副頭取が杉本頭取に合併案に反対したが、それは成瀬の銀行における立場にどのように影響すると思うか?
成瀬は最高権力者である杉本頭取の意思に反逆するわけであるから、杉本は成瀬潰しにかかる。例えば、子会社への出向などで、次期頭取の芽を摘んでしまうなどの策である。そのとばっちりを受けては大変というわけで、行員たちは成瀬から離れて、成瀬と共に潰されないようにするであろう。

b. 松岡はなぜ長谷部を合併反対派に引き込もうとするのか?
銀行の最前線である支店から合併反対の意見が続出すれば、頭取が合併を強行しにくくなるため、支店レベルでの反対運動を盛り上る必要がある。しかし、松岡は業務推進部長として支店にノルマを課し、ノルマを達成できなければ叱責する立場であるので、支店の人間から信望がない。そこで、支店長経験の長い長谷部ならば、支店レベルでの反対運動を盛り上げられると考えたのだ。また、長谷部は石倉と共に杉本頭取の合併構想を推進する役割を負っているので、その一角を崩す意味もある。

c. 松岡は「俺には妙な野心はない」と、合併潰しに私心がないと言っているが本当か?
松岡は合併を潰さないと自分の出世の芽がなくなるため、必死なのだ。成瀬副頭取と長谷部を会わせる会食の場で、乾杯の音頭をとった松岡は「我々3人の将来に対して」と、図らずも自らの本心をさらけ出してしまっている。しかし、それを長谷部に言えば、一本気な長谷部にあきれられ、合併運動に荷担してくれないかも知れないので、私心がないと、あくまでも三洋銀行従業員全体にとって合併はまずいと言っている。

d. 杉本はなぜ聖友会病院へ融資するよう長谷部へ強いたのか?
杉本頭取は聖友会病院から賄賂を受け取っており、融資が行わなければその事実を公表するなどと脅かされているのかも知れない。

e. 三洋と富桑の合併に関して大蔵省はどう関与しているか?
大蔵省は三洋銀行と富桑銀行の合併を認可する立場であるため、その情報を集めている。そして、大蔵省は銀行業界にとって合併が望ましいのか、大蔵省の影響力を保持できるのか、などの視点から合併を認可するかどうかを決める。

f. 成瀬副頭取の合併潰しの工作はどのようなものか?
自分で合併潰しに動くのが難しいので、実行部隊として腹心の松岡を、合併を白紙に戻した後の出世をちらつかせて反対派に引き込んだ。そして、杉本に銀行から追い出された三洋銀行元頭取の岸本と通じ、参謀として引き入れた。支店レベルの反対運動を盛り上げ、銀行全体で合併反対を打ち出すため、松岡を通じて長谷部を合併反対派に引き込もうとした。こうした銀行内部への働きかけと同時に、合併の認可をする大蔵省の小田島銀行局長と会談して合併を認可しないように伝えた。そして、銀行の主要株主や主要取引先などにも合併反対への協力を要請して合併潰しを図った。

g. 長谷部は成瀬副頭取の話に共感したのか?
個人的には合併に反対で、成瀬の話に共感したが、自分が合併潰しに加わることが三洋銀行にとって良いことなのか、確信がまだ持てなかったので、考えさせて欲しいと言った。重要な話に関しては、長谷部のような慎重な対応が重要である。

(3)用語の解説
a. 1〜3月期:会計年度は四半期(3ヶ月)ごとに区切られる。銀行業界では、1〜3月期は第4四半期を指している。

b. 愛社精神:所属している会社への忠誠心。

c. 延滞債権:元本だけでなく、金利払いが滞っている融資。

d. 決算役員会:銀行では経営業績を3月の本決算と9月の中間決算で締める。決算は役員会で承認を得る。

e. 解任:職位や取締役を強制的に辞めさせること。成瀬副頭取は代表取締役なので、取締役会で解任を決める。

f. 債務保証…他企業の借金返済の保証をする

g. カルチャー…組織文化のことで一度形成されると変えにくい
2.組織間関係
(1) 組織間関係とは?…組織と組織の関係で、競争関係と協調関係があるが、この2つはトレードオフではなく、同時的に生じることもある。

(2) 組織間関係はなぜ形成されるのか
a. 組織に不足する経営資源や組織能力を他組織に依存し、依存の質と量によって力関係が生まれる(資源依存パースペクティブ)…三洋銀行は弱い営業地域を合併で扶桑銀行に助けてもらう

b. 組織存続の正当性を他組織から獲得する(制度論パースぺクティブ)…三洋銀行の合併案を大蔵省から支持してもらう

c. 経済的合理性(取引コスト・パースペクティブ)で組織間関係が形成される…自社で部品を内製するか、外部から購入するか

d. 組織間関係の複合体である集団による環境適応(集合戦略パースペクティブ)…銀行を中心とした企業グループで協力しあっていく

e. 契約関係による組織間関係(エージェンシー・パースペクティブ)…フランチャイズ・チェーン本部と加盟店

f. 価値創造のためのネットワーク(価値システム・パースペクティブ)…花王とジャスコの共同物流・在庫システム

(3) 銀行と大蔵省の組織間関係…大蔵省から認可(正当性)を受けて事業を行う銀行が大蔵省の保護と規制を受ける→力関係が非対称的(銀行の方が弱い)

(4) 銀行の大蔵省との組織間関係管理…MOF担を通じての情報収集+大蔵省OBの天下りを受け入れる

(5) 日本銀行と銀行の組織間関係・・・日銀は日本の金融政策の一端を担い、銀行は日銀から融資を受けたりする協調関係であるが、銀行側の資源依存が大きいため、銀行の立場が弱い。

(6) 銀行間の組織間関係・・・銀行協会や提携などの協調関係もあるが、競争関係の性格が強い。

(7) 銀行と取引先の組織間関係・・・取引先が事業に重要な資金を銀行に依存するため、銀行の立場が強いのは三洋銀行と平信工業の関係をみれば分かるとおり。
3.after mergerの経営

(1)経営資源と組織間関係

a M&A
中核的経営資源と組織能力を全社的に獲得していこうとすれば、M&Aが効率よい。

b 戦略的提携
中核的経営資源と組織能力を獲得するのは難しいが、企業の価値連鎖の部分で獲得するのであれば、戦略提携によって対価を支払って獲得できることもある。また、全社的に必要な周辺的経営資源と組織能力は自ら蓄積するよりも戦略的定型で安定して獲得する。

c アウトソーシング
周辺的経営資源と組織能力を、企業の価値連鎖の部分で獲得するのであれば、思い切ってアウトソーシングして他社へ任せた方が経済効率が良いことも多い。

(2)どんな経営資源と組織能力を自前で獲得し、どんな経営資源と組織能力を他社へ依存するのか、どの組織とどのような関係を形成するのかを決定するのが組織間戦略

(3)コアコンピタンス(Core Competence)・・・組織のもっとも重要な中核的経営資源と組織能力で、コアコンピタンスは組織内部に蓄積して自前で獲得しなければならない。

(4)緩やかと強固な組織間関係
緩やかな組織間関係である短期取引から、長期取引、戦略的提携、持株会社方式の統合、合併へなるに従って強固な組織間関係になっていく。

(5)戦略的提携・・・経営戦略に基づく提携
a. 特定目的志向・・・特定目的に特化した形で提携する。目的を達成したら提携を解消することも多い。

b. 複数提携・・・複数の組織と同時に提携することも可能である

c. 競争優位構築への効率よい提携相手の選択