〜業界再編とM&A戦略〜

PART2     
1.環境変化とキャリア
(1) あらすじ
長谷部のが支店長を務める名古屋栄町支店では、ライバルの富桑銀行が支店閉鎖の噂を流し、行員は動揺する。そんな中、業績不振に悩む横浜支店長の西巻がくも膜下出血で死亡する。同期だった長谷部、石倉、松岡の3人は西巻の死を悼みながら、銀行員としてのキャリアを語り合う。石倉は長谷部に合併の話をし、本部で合併の準備の手伝いを頼む。長谷部は人事異動で本部融資部長に栄転した。
長谷部は杉本頭取にも呼ばれ、合併への協力を求められるが…

(2) ドラマのポイント
a. デマを流してまでもライバル店を蹴落とす富桑銀行の吉岡支店長の行動は、何によってもたらされているか。
小売業やサービス業では、各支店ごと、部署ごと、従業員ごとに売上ノルマが与えられることが多い。ノルマ達成はその店、部署、従業員の評価基準になる。吉岡の話では支店が月間の預金獲得モデル店とされ、ノルマが厳しくなっているようであり、ノルマが達成できなければ吉岡の評価は下がる。そのため、預金獲得のノルマを達成するため、デマを飛ばすことまでしてしまった。ただ、デマを飛ばすのはビジネス倫理が欠如した行為であり、許されることではない。吉岡の人間性が問題である。

b. 銀行支店長の仕事とは?
銀行の支店長は、銀行の代表として、地域社会や取引先と関係を構築していかなければならない。だからこそ、「土地に惚れろ、店に惚れろ」と言われるのだ。そうした店の外部との良好な関係を構築する役割がある。一方、支店の内部の経営資源、特に部下を動機づけ、店の目標を達成できるように働いて貰わなくてはならない。店のリーダーとしての役割もある。長谷部は栄町支店の部下に配慮した言葉を良くかけているが、ちょっとした気遣いも支店長にとって重要。

c. 同期4人の人間関係を考えよう。
長谷部は他の3人から信頼されているが、石倉は長谷部のバンカーとしての能力を高く評価している。西巻は高校時代からの友人で公私ともに仲が良く、死ぬ前に電話をかけたくらい信頼をしている。松岡は長谷部を信頼しつつも、ライバル意識を強く持っているようだ。西巻は、石倉とは同じ東大卒だが関係は希薄かも知れない。西巻と松岡はそれぞれの業務の役割上、対立することが多く、二人の関係は良くない。石倉は東大出身の杉本頭取派、松岡は私大出身の成瀬副頭取派と利害関係が対立している。加えて、石倉が同期で出世頭ということから、松岡は石倉に対して嫉妬を感じているようだ。同期は同じ年度に入社したということで仲間意識を持つが、仕事をしていく中で利害関係が対立したり、感情のもつれが出てくる。出世競争の厳しい会社では、同期仲間は単なる仲良しではいられないのが現実だ。

d. 西巻の告別式の夜、松岡は長谷部と石倉に絡んでいたが、何を言いたかったのか?
単に西巻が死んだことで出世競争が楽になった、という趣旨の話をしていたが、松岡の野心ぶりがうかがえる発言だ。しかしながら、同期の仲間の告別式でこうした非礼な発言を友人の前とはいえ発言すべきでないことは、松岡も理解していたであろう。それにもかかわらず、吐いてしまった彼の本音は、厳しい出世競争に勝ち抜かなければ、バンカーとして満足できる仕事ができない、状況に対して愚痴を言っているような気がする。また、厳しい出世競争で一歩先に行っている石倉への嫉妬と反発があったからのように思われる。

e. 石倉はなぜ合併に自分のキャリアを賭けようとしているのか?
出世競争において重要なのは、ライバルに対して上司に認められる優れた仕事をし、成果をあげることである。合併はめったにない大仕事で、その仕事を石倉は任された。合併を成功させれば、エリートコースを進む石倉の評価は絶対的なものになり、平取締役はもちろんのこと、将来の頭取の可能性も出てくる。このチャンスを逃す手はないのだ。

f. なぜ、松岡は石倉の行動を気にしているのか?
杉本頭取の右腕である石倉の行動を調べれば、杉本頭取の考えていることがある程度理解できる。杉本頭取の後を狙う成瀬副頭取の腹心である松岡は、石倉の情報を収集して成瀬に伝えることで、成瀬の出世競争を有利にし、成瀬が頭取就任の暁には取締役取り立ててもらおうという魂胆がある。

g. 長谷部は合併に乗り気ではなさそうだが、なぜか?
合併相手行が、汚い手を使ってまでも戦いを挑んでくるライバルの富桑銀行だから。その富桑の行員と仲間としてやっていく気にはなれないのであろう。

(3) 用語解説
a. 役員レース:役員(取締役)になれるのはごく一部。競馬のレースに良く例えられる。

b. ポスト:担当職務・職位のこと。

c. 内示:社内で人が職場を移される場合、正式に発表される1週間程度前に示される。転勤する人のためへの配慮。

d. 異動:職場を移されること。栄転、横滑り、左遷がある。

e. 栄転:より好ましい職場や出世する異動のこと。

f. 順送り人事:勤務年数や年齢などで、予想通りの異動が行われる人事。

g. 公定歩合:日銀の短期貸出金利。公定歩合が国内の金利水準へ影響を与える。
2.日本の銀行業界の分析
(1) 5C分析
経営戦略を考える上で、自社の強みと弱み、競争相手の強みと弱み、顧客の機会と脅威、協調相手の機会と脅威、規制者の動向の、5つの要因に関して分析するツールである。


(2) バブル経済時の5Cの動向
a 自社
金融緩和の政策に乗り、資産規模拡大し、投資を拡大していった。

b 競争相手
積極的な海外進出で、競争相手は日本の銀行だけでなく欧米銀行までに拡大した。

c 顧客
金融系列(メインバンク)、不動産業界、財テクを行う法人と顧客へ積極的に融資した。

d 協調相手
証券子会社やノンバンクなど系列子会社を積極的に活用した。

e 規制者
大蔵省の護送船団方式による保護行政で、銀行は守られていた。

(3)バブル経済後の5Cの動向
a 自社
バブル崩壊によって不良債権が増加した。そのため、BIS規制をクリアするため、資産規模の縮小やリストラを行った。

b 競争相手
海外での競争優位を構築できず、再び日本の銀行と国内で競争することが多くなった。

c 顧客
融資する顧客を選別し始め、優良顧客だけに絞りつつある。特にLiving Deadと銀行の支援でかろうじて生き残っている企業の取引をうち切るケースが多くなった。

d 協調相手
国内外の銀行、他の金融機関、事業法人と提携し、競争優位を構築しようとしている。

e 規制者
大蔵省による金融ビッグバンが行われ、規制緩和された。また、一部の権限が2000年に設立された金融庁へ移された。

(4)なぜ合併なのか?
都市銀行は不良債権処理に追われ、競争力をむしばまれてしまった。そのため、合併による規模の拡大と合併相手の競争力を統合し、激しい競争で生き残ろうとしている。しかし、しっかりとした経営戦略がないまま、合併によって規模を拡大しているという批判は多い。
3.銀行員とキャリア

(1)銀行員のVSOP

(2)V=Vareityの20代
多様な仕事を学んで、ビジネス人としての基礎を固める。また、自分の適性を探る。

(3)S=Specialityの30代
自分の専門性を見出し、その専門性を磨いてキャリアの基盤にする。

(4)O=Originalityの40代
今まで学んだことを活かし、誰にも負けない、独自の職務能力を得る。その独自能力で、社内の中で地位を獲得する。

(5)P=Personalityの50代
管理職や役員として部下を使って仕事をすることが中心になるので、人間性も重要。

(6)会社任せにしないで、自分で考えてキャリアを作る。

(7)合併によって飛躍も可能だが、冷や飯を食う可能性もあり。特に自分の属する派閥の長の処遇のされ方に影響を受ける。