〜スモール・ビジネスの経営〜

PART1   
1.内容

(1) あらすじ

清水直美(飯島直子)はDCブランド店「エンリコダンドロ・ジャパン」のプレス(広報担当)だったが、イタリア本社の倒産によって職を失ってしまった。直美の財産は輸入元の安宅物産繊維事業部に債務の肩代わりとして差し押さえられ、無一文になってしまう。愛車のアルファロメオと共に逃げ出す途中で自転車便の横田(矢部裕之)はねてしまう。
横田が入院したことで、鈴木(草薙剛)と二人で経営しているTOKYO EXPRESSは行き詰まってしまう。大学の友人同士で始めたTOKYO EXPRESSを始めたものの、経営不振から仲間が1人、また1人と抜け、とうとう解散の危機に見舞われる。そこで、横田は清水に仕事を手伝うことを条件に事故の示談に応じるとし、清水も渋々鈴木の仕事を手伝うことにする。

(2) 主な登場人物

役名(出演者)
個人データ
清水直美(飯島直子) ファッション業界でキャリアを積み、安宅物産の岡野の恋人になる。その岡野のひきでエンリダンドロ・ジャパンの広報に抜擢された、高ビーな三十路前の独身。
鈴木(草薙剛) 根っからの自転車好きで、好きな自転車で飯を食うために就職せず、大学卒業後は友人とともにTOKYO EXPRESSを設立し、自転車便を始めた24歳。
横田(矢部裕之) 鈴木の大学時代からの友人で、就職内定をもらっていたが、鈴木に誘われ、TOKYO EXPRESSの創業へ参加した。
由美子(京野ことみ) 横田の恋人で、田舎から上京し、写真専門学校を卒業した。
岡野(別所徹也) 安宅物産繊維部勤務。清水の恋人。

(3)物語の背景

a. TOKYO EXPRESS
本店所在地:東京都港区、法人形態:有限会社(多分)、社員:2名 年商600〜700万円程度(推定)

b. 安宅物産
準大手の総合商社で芝浦周辺に本社がある。

c. セルート
バイク便業界の大手で、実在する会社。

(4) 用語解説

a. 審査部…商社の中にある1部門で、取引先の信用状況をチェックする。

b. 路面店…1階で独立店舗になった店。

c. 差し押さえ・・・債務者(借金している人)が負債(借金)を返済できない場合、債務者の担保を押さえること。担保は売却され、負債返済へ充当される。

(5) ドラマのポイント

a. 物流業としての自転車便サービスの優位性、劣位性を考えよう。

企業側から見た自転車便の優位性は、設備投資が少なくてすむ、事業経費(ランニング・コスト)が低い、熟練的技能やノウハウが少なくてすむ、参入障壁の低さであろう。そのため、少額資本で、人手さえあれば始められる。顧客からの視点での優位性は、料金が安い、配達地域によってはもっとも短時間で運んでもらえる、環境への負荷が少ないことであろう。一方、企業側からの劣位性は、自転車便ゆえに天候変化に弱い、コストの中に占める人件費の割合が高くなりコスト低減努力が限られる、配達区域をある程度集中しないと配達時間も長くなるし効率も悪くなる、料金を高くしにくい、大きな荷物は運びにくい、参入障壁の低さゆえに競争が激化しやすいなどが考えられる。顧客側から見た劣位性は離れた地域への配達は時間がかかる、大きな荷物は頼めない、などである。

b. 清水と鈴木はなぜ互いに反発しているのか。

清水は人身事故を起こし示談の条件として自転車便を手伝わざるを得なくなった。本来ならば自分は華やかなアパレルのプレスの仕事をしていたはずなのに、と思っているため、いやいや自転車便をやっている。それなのに、若い鈴木に慣れない仕事であれこれ命令されているのでむかついている。鈴木は大切なパートナーである横田をケガさせたのに、清水はあまり反省している様子もなく、わがままで高飛車な態度にカチンときた。しかも、清水が仕事で使えないとなればむかついて当然。

c. TOKYO EXPRESSを儲かるようにするにはどうしたら良いか。

(一例)
経営戦略・・・倒産寸前なので、新たな費用支出をかけないで現在の体制で再建を図る。新規顧客を獲得するよりも、まず、既存顧客を重視する。既存顧客を相手にするため、配達ルートも慣れているし、効果的な営業も可能になるため、効率化と有効化を図れる。ただし、メッセンジャーが常に稼働しているわけではないので、稼働していないときは現在の顧客から他の顧客を紹介してもらい、営業を行う。直接的なバイク便に対して、低コスト優位を武器にする。また、近距離なら早いという差別化を活かす。金のかからない方法かつ本業の邪魔にならない方法で、金が稼げる方法を見つける。例えば、自転車を広告塔にし、広告料収入を得る。

業務運営・・・最小限の人を入れ、携帯電話を活用して、集中処理方式(会社に待機し、注文があったら動く)から分散処理方式(遊軍を顧客先に配置しておく)へ転換する。注文の電話を鈴木の携帯電話へ転送し、鈴木が指示する。

組織体制・・・新たな出資者を探し、資金の手当が必要だが、こうした経営状況であれば、出資も融資も難しく、新たな雇用などは難しい。そこで、費用が後から発生する形で、歩合制を取り入れた方式で人手を獲得する。歩合制のアルバイトを雇用するのが定石だ。歩合制のバイトであるならば、営業も同時に行ってもらう。外注方式、例えば、都内各地にある大学の自転車部に依頼し、後払い方式で営業地域をカバーするメッセンジャーをやってもらう、方式も考慮すべきであろう。

2.事業主体の種類

(1)行政組織

公益的事業を行う法律によって規定され、税金で運営される組織。中央官庁、地方自治体など。

(2)特殊法人

行政組織の事業を企業的に行うようにするための組織。公益性が高く、法律などによって行政組織の監督下で運営される。○×公社、○×事業団、○×公団、○×基金といった名前がついているが、経営効率の悪さから行政改革の対象となっている。

(3)公益法人

慈善や学術のように公益を目的とする法人で、基本財産の運用益で運営される財団法人(日本相撲協会など)、人の集まりを中心とした社団法人(日本医師会)がある。その他の公益法人として、医療法人、社会福祉法人、学校法人、宗教法人などがある。法人税の免除などの優遇措置があり、所轄官庁への事業報告が義務づけられている。

(4)特定非営利活動(NPO)法人

公益性のある事業を民間組織形態で行う法人で、税の優遇措置がある。収益事業を行っても良いが、配当や役員賞与などで分配してはならず、事業へ再投資しなくてはならない。10人以上の発起人が必要だが、資金は0で設立できる。21世紀はNPOの時代とも言われている。

(5)商法法人

収益事業を行う、もっとも一般的な形態で、商法によって規定される法人。

a 株式会社

資本金1000万円以上、株主1名以上、取締役(社員)3人以上で設立できる。取締役の任期は2年で出資の範囲内で責任を負う有限責任の出資者だけで構成される。会社の設立登記はもっとも複雑で金もかかるが、ある程度の資産を持った会社と言うことで社会の信用度は高い。取締役改選のため、2年ごとに届出をしなくてはならないのが面倒。

b 有限会社

出資金300万円以上、出資者1〜50人、取締役1人以上で設立でき、取締役は任期の制限はなく、出資の範囲内で責任を負う有限責任の出資者だけで構成される。株式会社よりも資本のハードルが低く、会社の構造もシンプル。ただ、有限会社は社会的に零細企業のイメージがついてしまっている。

c 合資会社

出資金の定めなし、無限責任社員1名以上と有限責任社員1人以上。出資者は出資額とは関係なく責任を負う無限責任社員と出資の範囲内で責任を負う有限責任の出資者から構成される。株式会社や有限会社と比べて、設立のハードルは低く、資金も少額ですむ利点がある。合資会社は数が少ないが、最近、SOHO(自分の住まいをオフィスにしている個人事業的、零細企業)はこの合資会社で設立されることが多い。

d 合名会社:出資金の定めなし、無限責任社員2名以上。出資者は出資額とは関係なく責任を負う無限責任の出資者だけで構成される。株式会社や有限会社と比べて、設立のハードルは低く、資金も少額ですむ利点がある。あまり例を見ない事業形態であるが、個人事業の延長で事業を営んでいる老舗の会社には合名会社はある。

(6)個人事業

法人を設立せずに、個人的に事業を営む形態で、事業収益は個人の所得税で支払うことになる。税務署にだけ届出すればよいので、事業をすぐに、簡単に始めたい人にとっては良い形態。法人税や所得税の税率によって変わってくるが、個人事業で事業収益が800万円以上になった場合、税率の関係から法人化したほうが良いと言われている。また、個人事業より商法法人による事業の方が信用度は高い。

3.会社をつくろう!

(1)株式会社の設立手順

Step1 会社設立の準備
 商売を決める、資金や仲間集める、資金や仲間を集める

Step2 基本的な事項を決める
 会社名、事業目的、本店所在地、資本金額、営業年度

Step3 類似商号(会社名)の調査
 登記したい法務局内で、既に同じ社名を登記している会社があれば、登記できない。

Step4 発起人議事録(会社設立の趣旨)を作る

Step5 代表取締役印、会社印、銀行印などを作る

Step6 定款(会社の憲法)を作成する
 定款の事業範囲に関しては広めにとっておいた方が良い。定款の書き方に関しては、慣習があるようで、行政書士の人に相談した方が時間の節約になる。

Step7 定款を公証人に認証してもらう

Step8 資本金を払い込む
 銀行に株式払込金保管証明書を発行してもらう

Step9 設立登記申請書を作成し、登記所へ提出
 登録免許税は資本金の0.7%か、その金額が15万円未満ならば15万円。

Step10 補正日に登記所へ行って直す
 慣れていないと誤りが多く、提出した定款が修正印だらけになってしまう。

Step11 補正が終了すれば、会社登記完了

Step12 銀行から資本金を引き出す
 会社の登記簿謄本、法人の印鑑証明を持っていかないとダメ。

Step13 会社設立!

(2)他の準備

a. 事業計画はあるか?

b. 経営資源は必要最低限確保したか?

(3)資金調達

a 起業段階
資本金←自己資金、仲間の出資、親や親戚からの借金
開業資金←a+国民金融公庫+自治体の支援制度

b 急成長期
成長資金←a+ベンチャーキャピタル+エンジェル+融資

c 安定成長期
財務体質強化資金←ベンチャーキャピタル+エンジェル+取引先+上場

(4)資金投資

a 設備投資=事業において価値を産出する物的資産

b 運転資金=人件費、家賃、原材料など物的資産として残らないが、事業における価値を産出する重要な資源への支出。

(5)日々の資金繰りと、決算処理時(納税等)の資金確保

税金の支払いを考えず運転資金などで使用してしまうと、税金を払えず滞納になってしまう。

(6)経営者=代表取締役社長=リーダー

中小企業や、企業のスタートアップ時は、経営システムの未整備などから組織力が弱いため、経営者の力量が企業の生存や成長に大きく影響を与える。また、会社の代表取締役として会社の経営や債務に対して責任を負う必要もある。例えば、会社の資金を金融機関から借りる場合、代表取締役が個人保証しなくてはならないことが多い。また、中小企業のような小さな組織で、労働条件の厳しい職場では、リーダーの魅力で従業員を引っ張っていかなくてはならない。

(7)経営形態

a 単独経営→意思決定が早い+利益を独り占め but 責任も重い

b 共同経営→支援してもらえる+分業による効率 but 意思の統一を図るのが大変

(8)経営者をサポートするパートナー

a 共同経営者=金を出し、一緒に経営をする

b 経営陣=助言や経営機能の分担で経営を手助けする専門家集団

c 一般従業員=経営者の意図に従って仕事を手伝う

d 投資家=資金を供給し、場合によっては経営支援も行う

(9)共同経営者の選び方

a 経営の価値観や目的を共有できる

例:「ぜったいバイク便より自転車便が優れている」

b 自分の能力を補完できる

例:ソニーの井深(技術開発)と盛田(営業)のコンビのように、互いに異なった分野の専門家であると、無用な競争心をいだかず、補完的に仕事をしていける。

c 最終的な序列や責任を明確にしておく

社長=最高責任者・権力者という位置づけを明確にしないと、権力闘争が生じ、社内の混乱を招きやすい。友人同士による企業においても、このあたりを明確にするため、出資比率も社長が多くなるようにした方が良い。

4.経営再建のコンサルティング手順
(1)経営の現状を理解する
a 組織面→従業員の数、従業員の性格と能力、業務態勢、管理体制、社内の組織構造、自社の強みと弱み。

b 財務面→売上、費用、利益、資産、負債、資本、利益率、在庫回転率など計数上の現状を把握する。

c 顧客面→顧客の数、顧客の属性、顧客別の取引の内容、顧客別売上高と費用、顧客からの自社に対する評価、顧客との関係、顧客の将来性を把握する。

c 競争面→直接的競争相手、潜在的競争相手、それぞれの競争相手の強みと弱み

d 取引相手や管轄官庁→取引相手、取引可能性のある相手、各取引の内容、取引先別取引高、取引先別の強みと弱み、管轄官庁からの規制内容、管轄官庁からの保護、管轄官庁の動向

(2)企業が達成すべき使命と目的、描くビジョン、経営を行う際の理念と現状のギャップをしる

(3)経営上の課題(ギャップ)を分類する

a 個別の課題をすぐに解決せず、一度グループ化し、課題の本質は何かを探る。

b 課題の大分類の仕方として、経営戦略、業務運営、組織体制によって、課題を分類する。

c 経営戦略→誰を顧客とするか、独自性のある商品・サービスの内容、営業方法

d 業務運営→業務の流れ、業務の管理方法

e 組織体制→資金、人材の配置、設備状況、情報システム

(4)課題の分類ごとに解決策を考える