〜スモール・ビジネスの経営〜

PART2   
1.ニュービジネスの起業戦略

(1) あらすじ

自分の届けた携帯電話で、横田と恋人の由美子(京野ことみ)の別れを阻止した直美は、由美子に感謝され自転車便の仕事に魅力を感じ始める。そして、直美の機転によりTOKYO EXPRESSは安宅物産の仕事を引き受けることになって直美はやる気満々。しかし、人手が足りない。
そこに横田とよりを戻した由美子、鈴木に負けてバイク便をクビになった服部、警察を定年退職した島野(加山雄三)が加わり、新体制でTOKYO EXPRESSは事業拡大に励む。直美もやる気を出してくるが、横田が退院し、直美には新しいブランドTIM GRAYのプレスの仕事がオファーされる。

(2) ドラマのポイント

a なぜ、直美は辞めようと思っていた自転車便を続けたのか?

日焼けを嫌がりジャケットを着ていた直美は、由美子へ携帯電話を届けるときに初めてジャケットを脱ぎ捨てた。このシーンは彼女の気持ち、顧客の荷物を迅速に届けるという自転車便ビジネスの使命に共鳴した、ことを象徴している。彼女は自転車で思いっきり走ることに爽快感を感じ、由美子から荷物を届けてくれたことに初めて感謝され、自転車便の喜びを知った。さらに経営者である鈴木が持つ自転車便ビジネスへの理念を直美に話し、彼女が自転車便の理念を理解したことも大きかった。また、真剣に自転車便のビジョンを話す、鈴木に好意をもったことも多い。さらに、安宅物産をめぐるセルートとの競合関係も彼女の負けず嫌いの性格に火をつけた。もっとも、セルートの部長から「若作りのレースクイーンのおばさん(飯島直子はレースクイーン出身タレント)」と言われ、むかついたこともあるが。こうした理由で、嫌々やっていた自転車便ビジネスに生き甲斐を感じるようになった。

b 3人がTOKYO EXPRESSへ参加した理由、会社にとっての彼らの必要性を考えて見よう。

由美子は横田を助けたい、島野は定年退職したので何か次の生き甲斐が欲しかった、セルートをクビになった服部は金が欲しい、からTOKYO EXPRESSへ参加した。仕事が増えるのに人手が不足していたTOKYO EXPRESSにとっては理由は何であれ、3人の参加は売上の増加につながる。島野は高齢ゆえにメッセンジャーとしては使い物にはならなかったが、ルート設定と指示という非常に重要な役割と、その貫禄から営業面で力を発揮し、会社へ貢献した。小さな会社で鈴木みたいな無愛想な男が社長として営業するより、島野のような貫禄のある人間が営業をした方が信用をされるのは確か。また、多様な能力や考え方を持った人たちが参加したことで、互いに触発しあい、新しいビジネス・システムが創造されることになった。例えば、こうした互いの暗黙知を引き出すことで、受け持ち地域を決めて、リレー方式で配達する、効率の良いビジネス・システムが生まれる、プロセスイノベーションが起こった。

c 直美と鈴木の関係の変化を分析せよ。

直美の高飛車な態度と腰掛け意識、鈴木の無愛想な態度、それぞれ互いに反発していたが、直美が仕事を楽しむようになって、コミュニケーションも取れるようになり、2人の関係は良き仕事仲間、プラス、ちょっと気になる異性という関係になった。お互いの価値観が少しずつ近づいていくのを、直美が鈴木の愛飲するビールを頼む、鈴木が直美の愛飲するシャンパンを頼むという行為に象徴させている。

d 小さな会社の楽しさややりがいは何だろう?

緊密な人間関係がまず楽しい。そして、個々のメンバーが相互依存し合って、互いに重要な役割を負っていること。3番目に自分たちのやった仕事が会社の業績に直結するやりがい。こうしたことが小さな会社の楽しさややりがいである。

e 直美は新しい仕事がオファーされたのになぜ、躊躇しているのか?

TOKYO EXPRESSで自転車便ビジネスをみんあでやっていることに満足していたから。確かにアパレルのプレスは彼女の求めていた仕事ではあるが、それとは全く別個のやりがいをTOKYO EXPRESSでの仕事に感じている。また、鈴木に対して好意を持ち始めているのも、TOKYO EXPRESSを辞めたくない原因。それなに鈴木が「逝けばいいだろ」とあっさり言ってしまったので、直美は鈴木が自分を必要としてくれていたわけではなかったことと、好意を持ってくれていなかったことでがっくりきて、プレスの仕事へ戻った。

2.ニュービジネスとは何か?
(1) ビジネスの種類

a ベンチャービジネスy→技術(シーズ)志向が強くハイリスク、ハイリターンのビジネス。IT、バイオ、ナノテクノロジーが最近のブーム。

b ニュービジネス→ニーズ志向が強くミドルリスク、ミドルリターン。バイク便や自転車便はその典型。

c コミュニティ・ビジネス→社会性志向が強く、ローリスクローリターン。介護ビジネスが市場としては大きい。

(2) ニュービジネスにおける起業

a 自分が欲しいと思うサービスや商品で、手に入りにくいものを自分で提供する。ただし、自分の欲しいものと社会の多くの人が欲しいモノが異なるかも知れないので、市場性のチェックは欠かさない方がよい。

b 自分ならばもっとうまく経営できると思う事業分野。うまく経営できるとは、経営資源の使い方、最終的な商品やサービスの品質や生産性、利益産出の効率などである。

c 自分の経験した事業分野やビジネスシステムの採用が望ましい。今までのビジネスのノウハウや人脈、場合によっては得意先を確保できる。

d 同業他社にない特徴。これがないと価格競争に巻き込まれたり、より競争力のある企業との競争に負けてしまう。
3.事業の選定
(1) 何を事業領域(ドメイン)とするのか?

a ニーズ志向→自分が不満と思うことや欲しいモノを事業化する

b シーズ志向→自分の能力、技術、経験、趣味を活かした起業

c 収益性志向→儲かることで起業する

d 使命志向→社会性や自分のビジョン実現のために起業する

(2) 経験のある事業

経験、人脈、知識を活かせ!

(3) 未経験の事業

a 資本参加で共同経営

b 同業他社で修行する

c ネットワークを使え!

d フランチャイズチェーン(FC)への加盟

e 成長のスピードを適度にする
4.ビジネスプランの設計
(1) ビジネスプランの設計(6W3H)

a なぜ(Why)、そのビジネスを行うのか?

「自転車便よりバイク便が使われているのは日本だけなんだよ」by鈴木

b 誰(Who)がそのビジネスを行うのか

鈴木と仲間数人。1人、平均25便配達する。

c ターゲット顧客は誰か(Whom)?顧客のニーズは?

主に法人。迅速に荷物が届けば、ある程度費用負担もいとわない。「これだから素人は困るのよ。営業っていうのはね、相手を選んで狙い撃ちするの」by直美

d 何(What)を売るのか?

商品やサービスの名称だけでなく、自社の提供する本質的な価値を考えておく。単にデリバリー・サービスとするのではなく、急ぎの小さな荷物を、安い料金で迅速に届けるデリバリーサービス。

e どこ(Where)で売るのか?

TOKYO EXPRESSの本社は港区か?実際のビジネスは顧客の会社と配達先の会社で行われる。

f いつ(When)売るのか?

企業の営業時間内。

g どのよう(How)に競争し、利益を獲得するのか?

バイク便より、速く、安く荷物を運ぶ。自転車を使用するので、営業コストは低い。

h いくら(How Much)で売るのか?

10kgまで1,200円。

i 業務の具体的なやりかた(How to)

(2) ビジネスシステム(業務の流れ)を書いてみる

寺井印刷(注文)→Tokyo Express(受注)→メッセンジャー(配達指示)→寺井印刷(荷物引取り&料金収納)→小学館oggi編集部(配達)

(3) ビジネスシステムの各プロセスで重要なこと

a 注文=認知+信頼+価格

b 配達指示=メッセンジャーの位置確認+スケジューリング+ルート設定

c 配達=迅速さ・正確さ+分業リレー方式+営業+サービス精神

(4) ビジネス・システムの優位性

a どのプロセスにおける部分的優位性?→受け渡し方式による配達担当エリア制の導入

b ビジネス・プロセス全体での総合的な優位性?→ビジネス・プロセスの部分的優位性の合計やビジネス・プロセスの各機能の連結から生じるシナジー。

(5) ビジネスモデル(ビジネスの仕組み)の競争力

a ビジネスプロセス優位性はコスト優位性?差別化優位性?その可能性を探索する

b ビジネスモデル自体の市場創造力

c ビジネスモデルの効率性

5.事業領域やビジネスプランの検証
(1) 市場調査による検証

a 観察法→店舗を構える候補地で客の流れを見る+起業を考えているのと同様もしくは類似企業や店で顧客の様子をチェックする+販売する商品をどこかのお店において顧客の反応を観察する

b アンケート調査→起業を考えている事業に関するアンケートを取ってみる

c インタビュー調査→対象とする顧客がどのようなニーズ(必要性)やウォンツ(欲求)を持っているか、聞き取る。

(2) データや情報による裏付け

公的白書、業界団体の統計、マスコミの情報、研究機関の情報

(3) 第三者からのアドバイスを受けてみる

a 自分の思いこみを防ぐ

b 他業界や他業態のノウハウを転用し、差別化する

(4) 最終チェック

a プレ開業→テスト・マーケティングをして、ビジネス・プランが正しいかどうか、事業に問題はないか、チェックする。

b 市場(顧客数)を小さくして事業を開始する→事業開始時には何らかの問題点が生じるので、大規模な事業展開を最初からすると、問題処理が大変。