〜ハイテクベンチャーの戦略〜

前編 前編 後編
1.地域と産業
(1) あらすじ
ベトナム反戦運動が高まるキャンパスで、ジョブスとウォズニックはコンピュータを作り始めた。一方、アルバカーキーで最初のパーソナルコンピュータが生まれ、ゲイツは手に入れる。1976年、ウォズニアックは最初のパソコンを開発。ジョブスとウォズニアックはアップルを設立、ジョブス家のガレージで生産し始めた。そして、インテルなどから投資を受ける。ゲイツは最初のコンピュータであるアルテアの言語を作成するビジネスを1977年にアルバカーキの安モーテルの一室で開始する。ビジネスショーでアップルのパソコンは脚光を浴び、その中にゲイツもいた。アップルUは大ヒットし、会社は急成長した。

(2) 主な登場人物
スティーブ・ジョブス:アップルコンピュータ創業者
ステーブ・ウォズニアック:アップルコンピュータ開発者
ビル・ゲイツ:マイクロソフト創業者
ポール・アレン:マイクロソフト創業メンバーのプログラマー。
スティーブ・バルマー:ゲイツの友人で1980年にマイクロソフト入社。現在のマイクロソフト社CEO。

(3) ドラマのポイント
a. なにがゲイツ、アレン、ジョブス、ウォズニックをコンピュータに向かわせたのか?
彼らは今で言うオタク。コンピュータが最新の技術であり、それを自分の手で解明したり、製品を作ることが、一人の技術者として非常に喜びであったのであろう。その後の人生は、その人の性格で大きく変わる。ゲイツやジョブスは技術者として成功するよりも、もっと大きな野心を持っており、ビジネスを中心に考え、成功する。

b. ジョブスが社長で、ウォズニアックが社員という組み合わせをどう思うか?
ビジネスの強い関心を持つジョブスと、ビジネスよりも純粋に技術へ関心を持つウォズニックの役割分担としては、ジョブスが社長というのは良いと思う。似たようなパーソナリティーの経営者であると、「両雄並び立たず」となることが多い。そのため、能力及びパーソナリティーに関して、補完関係にある経営パートナー同士かどうかは、その企業の成長を考える上で重要なポイントとなる。

c. ジョブスに無視されたゲイツの気持ちは?
プライドが高いゲイツにとっては、技術的に大きな後れをとったこととも加わって、そうとう悔しかったし、皆から賞賛されるアップルへの羨望もあったと思われる。

d. ジョブスのリーダーとしての特徴は?
カリスマ的な魅力を持った、専制的リーダーシップの持ち主。ただし、少し性格がエキセントリックかも知れない。経営者は冷静さがないといけない。こうしたリーダーの補佐役として、抑えの効く人間がいた方がよい。

e. 面接で、なぜ「うちには向かない」と言ったのか?
面接者の服装や話の内容が、まじめ、堅すぎて、自由度が高いが厳しい成果が求められるアップルの組織文化には適合できないとジョブスは判断したのである。優れた組織文化を形成するためには、入社試験などで組織の持つ価値観への適合は、選抜の際の重要な着眼点となる。
2.産業集積の理論
(1) 産業集積とは何か?
一定地域に類似したドメインの企業が集まった場所・地域
例:シリコンバレー(IT関連)、東京都大田区(加工業)、東京都原宿(ファッション関連)、札幌市薄野(水商売・風俗業)、小樽(寿司屋)、豊田市(自動車産業)、サッポロバレー(IT関連)

(2) 産業集積の意味合い
a 類似ドメイン企業間の競争
競争によって企業同士が切磋琢磨することで、互いに成長していく→他地域の類似ドメインの企業に対して競争優位を構築

b 複数企業による分業と協調
中小企業が競争の中で生き残るためには、ニッチ(隙間)市場へ特化し、そこへ経営資源を集中的に投入する。そうなると、事業分野が狭く、深くなり、注文が来ても部分的にしか応じられなくなるかもしれない。そうしたときに、自社で行えない仕事を近隣の企業に頼んで分業することになる。いわば、隣近所の企業で価値システム(後述)を形成し、協調戦略を採るのである。

c 進化と突然変異
類似ドメインの企業が集まった産業集積内では類似ドメイン企業間で激しい競争を行い、個別の企業は進化していく。産業集積内では企業間の相互作用と外部環境からの圧力により、まったく新しい、突然変異的に技術、製品、サービスが生まれてそれが新しい企業の誕生につながることもある。

d 集合戦略パースペクティブ
産業集積全体で環境適応して、他の地域に対して競争優位を構築して、顧客をとる。

e 地域の競争優位
強力な産業集積を持つ地域は、関連産業が誕生したりして、地域の競争優位を高めることもある。

(3) 産業集積の競争優位の源泉
a 事業ノウハウや技術の蓄積の深さ
専門特化した企業が多数あり、集積内にはその知識や技術を多く持った中小企業がたくさんある。そうした知識や技術などが地域の中の人的ネットワークなどを通じて波及していく。

b 分業間調整費用の低さ
互いに良く知った会社同士で分業を行うため、意志疎通もうまくいくため、コンフリクトが起こるリスクが少ない。

c 創業の容易さ
地域にその産業のインフラが整っているので、起業しやすい。

(4) 産業集積内の分業と協調
a 専門性の高さ
似たような企業がひしめく産業集積の中では、他企業がまったくやっていないことをやる、専門性を深める、低価格で勝負するといった、売りがないと生き残れない。

b 分業の幅広さ
専門化し、事業が細分化した結果、それを補う意味で分業が幅広くなっている

c 濃密な情報共有
同じような仕事をしている経営者や技術者が身近にいるので、情報共有は緊密に行われる。

(5) 集積=価値システム
集積自体が価値を生み出すシステムとして機能する。

E 価値システム
価値創造・産出のための協働ネットワークで、企業の集合が一つのバーチャル・コーポレーションのようになる。集積もネットワークの方が発展するという」研究もある。
3.地域の競争優位
(1)地域の競争優位を生み出す源泉
a 要素条件

b 関連・支援産業

c 要素条件

d 企業創出メカニズム、戦略、競争

(2)要素条件
a 人的資源
労働力の供給源としてある程度の人口は多い方が良く、知識が重要な社会ゆえに大学などの教育機関があると良い。

b 物的資源
産業集積で使用される物的経営資源へアクセスしやすい。例えば、旭川は木材が手に入りやすいため、家具製造の産業集積ができた。

c 知識資源
教育機関や研究機関のような知識を蓄える機能があると望ましい。

d 資本資源
地域の金融機関が積極的に融資や投資をしてくれる。以前、拓銀は北海道企業を積極的に育てる路線を採った。

e インフラストラクチャー
水道、電気、道路など。これらがなければ、産業は育たないであろう。

(3)需要条件
a 地域の需要の構成=需要者のニーズの性質
顧客が会社や店を育てる。技術にうるさい防衛産業が、シリコンバレーへ厳しい注文をしていたので、シリコンバレーの技術水準が高まった。

b 地域の需要の規模、成長性、パターン
地域に需要があるのは、営業しやすい、市場への密着からニーズを探る、物流コストを低下させる、などいろいろな意味でメリットである。

c 地域需要の全国化のメカニズム
その地域限定の需要が全国や世界に広まれば、自動的に恩恵が被られる。

(4)関連支援産業
a 供給産業の競争優位

b 関連産業の競争優位
供給業者とも関連業者とも価値システムを組むため、これらの業者の競争優位性は自らのアウトプットへメリットが現れる。これらの業者が低コスト優位ならば、自社の作る製品コストは抑えられる。

(5)地域の企業創出メカニズム、戦略、競争
a 企業創出の制度や地域特性
地方自治体の起業支援策が充実しているところは、産業が興りやすい。

b 企業の戦略
積極的に成長しようという企業が複数あるだけで、随分地域経済に貢献が異なるであろう。

c 競争
競争があるから、進化、淘汰などが生じ、強い企業だけ生き残る。