〜ハイテクベンチャーの戦略〜

後編 前編 後編
1.ソフトベンチャーの戦略
(1) あらすじ
ゲイツはアップルとの競争に賭けるIBMに、まだ開発していないOSを売り込み、ライセンス契約を結ぶ。シアトル・コンピュータからたった5万ドルでOS(パソコンを動かす基本ソフト)を購入し、MS-DOSとしてIBMへ売り込み大成功を収める。ハイテクベンチャーとして大成功をしたアップルはペプシコーラからスカリーを社長としてヘッドハンティングする。そして、ゼロックスパロアルト研究所で埋もれているマウスやGUI(Graphical User Interface)の技術を盗み、自社のパソコンに使用し、競争優位に立った。ゲイツはアップルから技術を盗みにアップルへ行き、マッキントッシュの試作版を借り受け、ウィンドウズを開発する。その結果は…

(2) ドラマのポイント
a. IBMはOSを重視せず、パソコンのハードで利益を稼ぐ、という戦略をどう考えるか?
OSがなければ、パソコンは動かず、ただの箱である。パソコンを構成するそのもっとも重要な部品の一つであるOSを収益源として考えることができたのがマイクロソフトであり、コンピューターメーカーとしてのドメインにとらわれ、想像力が及ばなかったのがIBMである。

b. スーツ姿のIBMとラフな格好のアップルやマイクロソフト、この違いは?
組織としての規律を重視するIBMと、自由な組織文化のアップルとマイクロソフトの違いが、服装に現れている。アップルやマイクロソフトは、どんな服装をしているかではなく、会社のために何をできるのか、という点がより重視されている。創造性を重視する組織文化を持つ組織は、労働条件や規律等に関して自由なところが多い。その代わり、成果で厳しく評価される。アップルの場合は、会社や製品(加えてジョブスか)への忠誠心を求めている。

c. 芸術、技術、宗教を一体化したジョブスの経営理念は?
ジョブスは、普通の経営者とは異なり、技術だけでなく、芸術の持つ創造性や宗教の持つ忠誠心を融合した独特の経営理念を持っている。それが製品の素晴らしさが加わり、アップルへの熱狂的な顧客(信者)と、会社の中でジョブスのカリスマ性を生んでいる。こうした経営理念を持つ企業は、強力なファンを顧客や社員から生むものの、経営システム自体がしっかりしていないと、ビジネスとして儲からないこともある。社員の仕事に関して、芸術家のような創造性を求めていた。そして、「偉大な芸術家は模倣せず、盗む」とも言い、他社が開発した技術で優れたものは、盗むことも良い、と考えている。XEROXから盗んだ技術で、MAC OSを作り上げ、今度はゲイツにMAC OSを盗まれたのは因果応報か。

d. どうしてジョブスはマッキントッシュの試作品をゲイツに渡したのか?
アップルはOSをオープン化せず、業界の中で孤高の存在であった。そのアップルがIBMに勝つためには、強力な援護者を必要としていた。IBMを裏切って、アップルと手を組みたいと言ってきたゲイツに対して、うまくゲイツを使って自社の援護をさせ、IBMに勝とうと考えたのである。また、ジョブスはマイクロソフトを過小評価し、マイクロソフトならば裏切ったりせず、自分のコントロール下に置けるとにらんでいたのだろう。

e. マックチームを特別視した結果は?
ジョブスのリーダーシップ・スタイルの一つに、競争心を煽って製品開発や会社への忠誠を競わせるものがある。こうした手法はほとんどの企業で経営システムとしても採用されているが、組織の目的を阻害するような対立や分化を生んでしまったのでは、本末転倒である。ジョブスは期待の大きさと自分の権力を弄ぶようにマック開発チームを優遇したため、リサやアップルUチームのモラルダウンを招き、マックチームには過大なプレッシャーを与え、最終的には組織が分裂してしまったのでは、アップル社の競争力は削がれてしまう。

f. ウォズニアックはなぜアップルを去ったのか?
ジョブスがリーダーとして富を分け合う姿勢もなく、人間として誠実さが足りず、ついていけなくなったから。また、アップルが発展していく過程で、生粋の技術者であるウォズニアックは技術開発が細分化され、リーダーシップを取るタイプではないウォズニアックの社内での居場所がなくなり、辛くなったのかもしれない。

g. 敵はIBMじゃない、という意味は?
独自のOSを採用して、使い勝手を差別化の武器にしているアップルの敵は、IBMのようなハードメーカーでなく、使い勝手をよくできるOSを開発するマイクロソフトのようなソフト会社が本当の敵なのである。

h. ゲイツはアップルやジョブスをどう見ていたのか?
「理想を追いすぎて足下を見ていない」と評価している。確かにアップルの製品は優れているが、あまりにも自信を持ちすぎており、ジョブスのリーダーシップも危ういものとゲイツの目に写ったのであろう。

i. ジョブスはなぜ、アップルの方がウインドウズより優れていると言ったのか。それに対するゲイツの反応は?
ジョブスはマックの優位性に対して自信を持っており、ゲイツもマックの優秀さを認めていた。しかしながら、ゲイツは売れるかどうかは、単に製品の優秀さだけではなく、競争戦略も重要な要素であることを認識していた。少なくとも、マイクロソフトのMS-DOSを採用しているハード・メーカーとの協調体制がある。そうした企業が新しいOSであるウィンドウズを採用するであろうから、市場シェアは簡単にマックOSを上回るという目論見がゲイツにあったと思われる。実際にアップルはウィンドウズ発売以後、市場シェアを落とし、1999年、マイクロソフト社からの出資によって救済された。アップルの失敗は、マックOSを採用する企業の連合を組まず、1社のみ(一時期日本のパイオニアやakiaが生産していた)がマックOSの優位性を享受しようとした結果、規格の関わる製品で成功の鍵であるデファクト・スタンダードにはなれなかったのである。
2.ベンチャー企業の起業戦略
(1) 何をドメイン(事業領域)とするのか?
a ニーズ志向・・・消費者の満たされていないニーズを満たすか、そうしたニーズを満たす既存の会社以上にうまく商品やサービスを提供することで起業する。
例:Yahoo←インターネットの情報を楽して手に入れたい
例:北海道国際航空←東京-千歳間をもっと安い航空運賃で利用したい

b シーズ志向・・・新奇性のある技術やコンセプトで新市場を創造するため起業をする
例:Burton・・・スノーボードを生み出し、スノーボード市場を創造
例:e-bay・・・ネットオークション市場を創造

c 収益性志向・・・収益性や成長性のある分野で起業
例:インターQ・・・成長が期待されるインターネット・プロバイダー事業で起業

d 夢志向・・・経営者の夢や使命感で起業する
例:avex・・・音楽と関わって生活していきたい松浦専務が起業。

(2) ビジネス・モデル(ビジネスの仕組み)の構築
a ターゲット顧客は誰か?ニーズは?
その事業の顧客が誰か、商品やサービスを購入してくれるのか、これを軽視して起業しても、起業生存に必要な売上はあがらない。

b 何を売るのか?どこで売るのか?
具体的な製品やサービスを考える。そして、販売経路(直売、問屋を介した小売り、通信販売等)を考える。

c どのように利益と競争優位を獲得するのか?
製品やサービスそのもので利益をあげるのが通常であるが、携帯電話販売店は携帯電話販売ではなく、顧客の通話料の一部を通信会社から受け取ることで利益をあげている。このように、業界の常識を一度疑って、現実性のある利益獲得方法を考える。これがしっかり考えられて、実現できないと事業は立ちゆかなくなる。

(3) 資金調達
a 自己資金

b ベンチャーキャピタル・・・投資を専門とする金融機関から投資を仰ぐ

c 公的支援制度・・・国民金融公庫から融資を受けたり、地方自治体の創業支援制度を利用する。

d 金融機関から融資を受ける・・・信用がなければ、難しい
3.ソフト業界における成功の鍵
(1)市場シェアの早期獲得
なるべく早く自社ソフトを普及させることで、需要の誘発効果を生む。また、一度ソフトを購入してくれた顧客を囲い込むことでLTV(長期にわたる顧客価値)を高める。

(具体的戦略)
a プレインストール・・・パソコン製品に初めから組み込んでもらう

b 多様なディスカウント・・・学生向け、法人向け、ライバル製品からの乗り換えなどのディスカウントで需要を刺激する

c 無料配布・・・最初は無料で使用してもらい、バージョンアップなどで料金をとっていく。無料なので普及は非常に早い。

(2)デファクト・スタンダードの追求
市場の競争の中で、事実上の標準の規格や製品になり、他社が参入する余地をなくす
例:PCのOSであるウィンドウズ

(3)バージョンアップによる陳腐化
早期に発売するため製品にバグがあり、バージョンアップで修正する必要もあるが、バージョンアップで一定周期で買い換えを即し、安定した利益をあげていく。

(4)協調戦略
a 対ハードメーカー・・・プレインストールをしてもらう

b 対ソフトメーカー・・・自社にない他のソフトとパッケージ製品化し、需要を喚起する(ホームページ作成ソフトと画像ソフトなど)

c 出版社・・・解説本を出版してもらう

(5)技術開発のスピード
Dog Yearと呼ばれるくらい環境変化が激しい業界なので、技術開発のスピードがもっとも大切

(6)サポート
機能が増えた結果、ソフトの操作が難しくなっており、顧客の不満を招くことになっている。また、ソフトメーカーの新たな収益源にするため、優良サポートにしている会社もある。