〜組織再生の戦略〜

後編 前編 後編
1.日本的経営
(1) あらすじ
米国人従業員と日本社員の親睦をはかったソフトボールも気まずい結果になった。それ以来、日本人と米国人との間の対立は激しくなり、Huntは高原工場長に日本的経営が米国では通用しないと言ってしまう。Huntの言葉に対して高原は反発し、労使調停係の解任を言い渡される。それを挽回しようとHuntは米国人従業員を説得して日本的経営を受け入れさせると約束するが…

(2) ドラマのポイント

a. ソフトボールの試合で見る日本人と米国人の相違を考えよう。
仕事を離れた遊びでも、日本人は統一されたユニフォームを着て、規律のある練習をする。そして、あくまでも勝負にこだわって、せこいバントをしてまで出塁しようとする。

b. なぜ、ソフトボールで親善する目的が逆効果になったのか?
太った米国労働者シャハイザーが、斉藤に体当たりをして勝ちに行ったため、親善が反対に遺恨を残す結果になってしまった。

c. 日本人管理者と米国人従業員の仕事に対する意識の差はどこにあるのか?
米国人労働者の場合、仕事を金銭的報酬を獲得する場として捉えている。そのため、仕事で自己実現欲求を満たそうという気は持っていない。自己実現はプライベートで追求するのである。一方、日本人社員は終身雇用などから生じる会社本位主義から、仕事で自己実現しようとする。そのため、仕事でミスをするなどもってのほかなのである。

d. Huntは日本的経営のどこが悪くて、米国人労働者に受け入れられないのか、と思っているのか?
アメリカの文化やアメリカ人の個人主義を無視した、一方的な日本人の価値観の押しつけによる経営のやり方であり、労働意欲向上のプログラムではない。そのため、米国人には受け入れられないとHuntは思っている。

e. 中間管理職である高原の心情を考えよう。
高原はアッサン自動車の落ちこぼれ管理職で、自分の管理手法が仕事の楽しさを奪っているかもしれないと疑っている。Huntの主張も理解できるが、坂本常務のチェックがあり、今度失敗したらくびになるため、Huntの主張を認めるわけにはいかず、板挟みになっている。

f. 高原の主張する日本的価値観による経営、Huntの米国的価値観による経営、どちらを支持するのか?
個人の価値観はどうあれ、日本の企業の多くや役所などの団体組織では日本的経営の特徴がいろいろと見受けられる。
2.企業の海外進出
(1) 終身雇用
入社してから定年まで(60歳が一般的)、大きな失敗がなければ雇用が継続されるという人事政策で、日本以外の企業でもこうした政策を採用している企業はあるが、日本で顕著と言われる。高度成長期に人材不足に悩んだ企業が、終身雇用政策を採用した。その会社に慣れ親しんだ従業員に長く勤めてもらいたいというのは経営者の希望と合致するものの、年功賃金と組み合わされ、従業員の勤続年数が長くなる傾向によって人件費が高くなるため、明文化していない企業が多い。中小企業は労働条件の低さから転職する労働者が多く、結果として終身雇用になっていない。労働条件の良い大手企業は従業員の定着率良いため、結果的に終身雇用になっている。終身雇用は従業員の人生の半生にわたる経済基盤を提供することから、従業員が企業に依存する関係を生み出し、いわゆる会社人間を作る主要な要因になっていると言えよう。近年、経営の悪化から早期退職勧奨などによって40歳以上の従業員の人員削減を進めている企業も多く、また、若い人の転職志向と相まって終身雇用が以前ほど一般的になってはいない。

(2) 年功賃金
年齢や働いている企業での勤続年数の長さによって、給与が上昇する。一般的に年功賃金では賃金と組織への貢献が一致しないと言われ、20歳代と50歳代では働き以上の給与が支払われ、30歳代と40歳代では働き以下の給与しか支払われないようだ。年功賃金は、組織への貢献と給与の適合性、実績の高い社員と低い社員との間の不公平感から、最近は見直されてきている。いわゆる能力給や成果給を採用する企業が増加している。

(3) 新卒採用重視
社内で従業員を研修して、自社に適した人材に育てるという方式を採用しているため、給与の安く、柔軟性のある新卒を採用することを好む企業が多い。最近では、学生の能力や意欲が低いこと、企業が人材育成にかってほど金と暇をかけられなくなってきたので、中途採用を増やしている企業も多い。

(4) マルチ・タスク…職務記述書の曖昧性
一人の従業員がいくつかの仕事ができるような研修を受け、仕事の状況に応じて多様な仕事を行う。

(5) ジョブ・ローテーション
社内の異なる部署へ異動して、多様な職務能力を身につけていく。2〜4年程度の周期で、配置換えがある。そのため、欧米企業のようにずっと同じ仕事をしてスペシャリストになるのではなく、日本企業はゼネラリストを育てる傾向にある。

(6) 組織内学習によるキャリアアップ
会社内で様々な職務をこなして出世するというキャリアパスがあるため、職務を通じて自己研鑽に励んでいく。

(7) 経営陣の内部昇進
会社のトップの多くは、その会社における出世頭で、他社から社長をスカウトすることは少ない。欧米企業でも内部昇進の社長は結構いる。

(8) 集団成果主義
個人で評価される一方、部署などの下位組織単位でも評価される。そのため、自己中心的になって自分の成績を上げるだけではダメで、部署の成績をあげるためにチーム・プレーも行わなければならない。

3.日本的経営〜組織の制度と構造〜
(1) 集団的意思決定
稟議制度(書類を回覧し意思決定の根回しや是非を問う方法)などで多くの人間を意思決定に関与させるが、最終的な決断は社長が行う。意思決定されるまでは遅いが、一度決まると合意を得ているので実行が速い。

(2) ボトムアップ的意思決定
経営上の意思決定案の多くは、ミドル・マネジメント(中間管理職)がたたき台を策定し、経営者がそれをベースに最終的な意思決定案を立案する。そのため、現場の意見が取り入れられやすい。

(3) 企業内労働組合
米国が産業別労働組合で、全米自動車労組ならば、GM、フォード、ダイムラー-クライスラー等会社に関係なく自動車会社に勤務する工場労働者が加盟する。一方、日本は会社別労働組合で、トヨタ自動車労働組合には管理職を除くトヨタに勤務する従業員によって構成される。そのため、日本の労働組合は経営陣との対決姿勢は厳しくなく、むしろ会社と協調しながらWIN-WINの関係を築こうとしている。

(4) 株主軽視の企業統治
日本企業は株の持ち合いなどをしているため、ものを言わない株主が多い。また、社長は株主によって選ばれるのではなく、前社長の指名によって決められる。そのため、株主の利益を軽視して、社内の論理で経営が決められていくことが多い。

(5)小集団活動による品質管理
日本企業では職場の小集団単位で品質管理の研究に励み、それを仕事へ活かすシステム、例えばQC(品質統制)、ZD(欠陥ゼロ)、などの運動を導入している。そのため、製品品質は1980年代は非常に良かったが、最近たるんできており、雪印の集団食中毒事件のようなケースが多く見られる。

(6) 有機的組織
各個人の仕事が緩やかに決められているので、仕事の量と質に対して柔軟に対応できる。欧米企業は職務記述書がしっかりと書かれており、仕事の内容が固定的である。