〜組織再生の戦略〜

前編 前編 後編
1.日本企業の国際戦略
(1) あらすじ
下着工場が2年前に閉鎖され、9ヶ月前に唯一の大型産業であった自動車工場も閉鎖された米国の田舎町Hadleyvilleにハントが、日本のアッサン自動車を誘致した。ハントはその功績が買われて、労使調整担当部長へ就任した。しかしながら、米国現地工場へ派遣された日本人社員と現地工場の従業員との間で、誤解に基づく様々な摩擦が生じる。果たして日米の共同事業はうまく行くのか?

(2) 主な登場人物
Hunt Stevenson(Michael Keaton)…多分閉鎖された自動車工場の労働組合委員長でアッサン自動車を誘致した功労者。アッサン自動車工場では労務担当部長を勤める。
高原かずひろ(Geode Watanabe)…アッサン自動車現地工場の取締役工場長
斉藤…現地工場次長で常務の甥で嫌な男。
坂本常務(山村総)…国際事業担当常務取締役

(3) 物語の背景

a. 1970年代日本の自動車会社は、高い生産性とドル高を背景にした低コスト優位と、品質の良さから米国への輸出を増大させた。

b. 1970年代末、米国自動車会社の業績が悪化、レイオフ等を行ったために政治問題になる。米国内では日本車のover emergenceを防ぐため、保護主義的な考えが台頭してきた。

c. 1980年に米国大統領に就任したレーガンは保護主義の動きには反対するものの、米国経済に対して理解を日本側に求める。そこで、通産省が中心になって日本の自動車業界は米国輸出自主規制をまとめ、1982年から開始する。

d. 一方、米国政府は同時に米国内での現地生産を日本の自動車会社へ強く要求した。 1970年代に既に米国進出を決定した本田技研に続き、トヨタ、三菱、日産などが1980年代中盤から現地生産工場を立ち上げることになった。

(4) ドラマのポイント
a. 映画に出てくるアッサン自動車のシーンや、日本人の描かれ方から、米国人の日本観を考えよう。
日本人は会社人間で、会社の厳しい規律に従い、集団的に行動し、会社のためにすべてを捧げると米国人に思われている。確かに1960年代、70年代、Economic Animalと揶揄されてた頃の日本人ビジネスマンはそうかも知れないが、今はずいぶん違う。ただ、朝の体操は多くの日本の海外工場で行われているらしい。映画に描かれていた川に入って精神統一するとか、アッサン自動車の重役会議室の東洋的なインテリアは明らかに誤りだが、こういうのを真実だと思っている欧米人は多いんだろうな。欧米人にとって、こうした日本人のサラリーマンは異様に思えるらしい。一方、生産管理の厳しさや勤勉さは今もあまり変わらず、こちらはkaizenやQCなど欧米が学んでおり、賞賛されている。

b. なぜ、アッサン自動車は米国Hadleyvilleへ進出することを決定したのか?
貿易摩擦による通産省からの圧力によって、米国生産を考えていた時に、既にある設備を使えるHuntからの話があって意思決定したと思われる。

c. 米国労働者と自動車労組の関係は?
全米自動車労組(UAW)は産業別労組の中でも力が強い。UAWが中心になって、産業の統一賃金を定めているが、かなり高い。そのため、日本の自動車会社が進出したとき、人件費の高止まりを懸念した会社側が労組に加入させないような労務管理を行っていた。失業した米国人労働者も、賃金が下がっても良いから仕事が欲しいので、労組に加入せず日本の自動車会社に雇用されていた。

d. 朝の体操がなぜ米国従業員に嫌われたのか?
朝の体操は何のためにやるか意図が不明だから、米国人は体操をやりたがらなかった。また、集団で体操をやるのはダサイ、と思っているのであろう。労働災害を防ぐためのwarm upであることを最初に説明してからやれば、米国人はもっと協力的であったであろう。

e. 米国人工場従業員と、アッサン自動車日本人社員の仕事と会社への意識の違いを比較しよう。
映画の中では、日本人社員にとっては会社と仕事は生活の中心であり、自己を犠牲にしてまでも尽くすべきものであると考えている。会社の中での行動は規律を守った集団主義的である。一方、米国人労働者は自分の生活やライフスタイルをもっとも優先している。会社の中での規律は本人の考えによって修正され、個人主義的行動が中心になる。

f. 地元労働者と日本人経営者の板挟みにあった労使調整担当部長のハントの立場を考えてみよう。
日本人社員対アメリカ人労働者の対立構図にあって、ハントは米国人で、他の工場労働者とは友人である。日本に対して進出してくれたことや採用してくれたことに対する好意を持っているものの、日本人の仕事のやり方に、違和感を覚えている。しかし、ハントは労使調整担当部長と役員待遇の管理職である。そのため、高原工場長の命令に従って、米国人労働者を日本人労働者並に働かせなくてはならない。経営陣と現場の板挟みに合う中間管理職のつらさと、日本人と米国人の板挟みに合うつらさがある。
2.企業の海外進出
(1)海外進出の段階
第1段階:海外からの引き合い(間接輸出)
第2段階:直接輸出の開始
第3段階:海外の販売支店や子会社の設置
第4段階:海外生産
第5段階:グローバル・ネットワークの構築

(2)海外進出の方法
a 間接投資による進出(取引契約・提携)
b 完全子会社による進出
c 合弁事業による進出
d 現地企業への資本参加や買収

(3)企業の海外戦略
マルチ・ドメスティック戦略orグローバル戦略

(4)マルチ・ドメスティック戦略
a 参入した地域における競争優位構築が目標
b 現地のニーズに合わせた製品を開発し、現地に合ったマーケティングで販売する。
c 企業の機能を各国の子会社が有する
d 子会社への権限委譲が大きい

(5)グローバル戦略
a 参入した地域だけではなく、世界での競争優位構築が目標
b 標準化された共通の中核製品を、最低限の現地ニーズ適合への改良で世界各国で販売する。
c 企業の機能を最適な立地によって世界に分散配置する
d 本社の中央管理が強く、子会社への権限委譲は少ない

(6)グローバル戦略を実行する要件
a. 市場条件
顧客ニーズが世界的に同質化、グローバル顧客の出現、統一されたマーケティングが可能
例:ストリート系の若者のニーズは、アメリカで生み出され、世界中に瞬く間に伝わって、世界中のストリート系の若者に関するニーズは同質化する。
b. コスト条件
規模の経済性や範囲の経済性の実現、国ごとのコストと能力の差異
例:スポーツシューズやウェアは東南アジアで生産コストは、アメリカで生産するよりも1/2〜1/10程度ですむので、全面的に東南アジアへ生産委託している。
c. 政府の政策
国際企業への規制が緩やか
d. 競争条件
競争相手がグローバル戦略を追求するか、自社が国際展開が競争優位構築に必要な場合