〜組織再生の戦略〜

後編 前編 後編
1.後編

(1) あらすじ

新たに導入した設備で生産された「サバカレー」が返品されてきた。三国は「サバカレー」の味を忘れ、チェックを怠り、製品の品質が落ちていたのだ。経営コンサルタントの佐伯は手を引き、三国はみんなから批判され、辛い立場に追い込まれる。製品の返品、利益の出ない新製品、財テクの失敗、工場は再び倒産の瀬戸際まで追い込まれる。久保田は古い工場で再建を図ろうとし、三国は落ち込み寝込んでしまい、他の従業員は職探しに走り、みんなの気持ちはバラバラになる。久保田と三国の感情もすれ違い、久保田は町を出ようとする。そんな中、市会議員になった大森は三国をグラウンドへ連れて行き、原点に戻るよう説得する。久保田は町を出る決意を固める中、三国は再び一人でサバカレーを作り始める。そんな姿を見た久保田と従業員は、再結集してサバカレーを生産し、野球をする、1年前のあの夏と同じように…

(2) 用語解説

a. カリスマ…他人から熱狂的な信奉を受ける人

b. 財テク…財務技術(financial technology)を使って収益をあげること

(3) ドラマのポイント

a. 三国は経営者としてどこが悪かったのか?

どのような動機にせよ、企業を経営するには経営者としての能力と経営者になる正当性も必要。残念ながら三国はこれまで製品開発と品質管理しか経験してきておらず、工場全体の経営管理の能力が不十分であった。経営コンサルタントを雇って支援を受けるのは良いが、冴木の言いなりで三国が最終的な意思決定できず、経営者としての能力は身に付いていない。経営者の仕事は部下を使い、組織目標を達成することで、三国が自ら新規開拓のために営業へ行くのも良いが、剣ちゃんの財テクや生産品質の管理など会社全体の目配りもおこなわなければならない。また、三国が経営者になる正当性も野球チームのキャプテンであるだけの理由だと弱い。

b. 新製品は利益が出ていないのに出荷していた

新製品はいきなり売れることは少なく、また、マーケティング投資のような先行投資が必要なので、当初新製品単品だけでの利益がでないのは無理もない。利益がでない状態でどこまで新製品を我慢して売り続けられるかが、工場の主力製品に育てられるかがポイント。ただ、製品コンセプトが間違っていたり、品質に問題があれば、どうやっても売れないであろう。工場の中に新製品の在庫がかなりあったのを見ると、製品コンセプト自体に誤りがあったと考えられ、こうした場合は製品コンセプトやマーケティングの再考が必要である。

c. 今回の工場改革はなぜ失敗したのか?

まず、経営者の能力不足。能力不足の経営者を支援する経営コンサルタントも工場の強みである組織文化、個々の従業員の能力、缶詰市場の現状を軽視した改革案を出し、倫理観もなく悪い奴だった。その結果、工場のcore competenceを失ってしまった。また、金の流れをチェックし、コントロールする人間(大森げんようが以前していた仕事)がいないため、経営がどんぶり勘定となり、リスクへの対応が不十分だったのではないか。その結果、新製品の失敗と財テクによる損害がキャッシュフロー不足を生じさせ、倒産の危機に瀕するまでに工場を追いつめた。

d. 新工場を売却し借金を返済し、古い工場とグラウンドを残す久保田の戦略は?

従業員が輝くことができる場所である古い工場とグランドを残すというのは、成功した基盤、すなわちチームワークを重視する組織文化に戻るためといえる。また、新工場でなく古い工場を残したのは、生産規模の縮小を図るためと、減価償却済みゆえに固定費の削減によって損益分岐点を引き下げることが可能だ。新工場ならば売却可能で長期借入金の返済による金利支払い削減もできる。工場再建の定石的手法。また、久保田がみんなに、金はなかったけれど充実していた去年の夏へ戻って欲しいことと、この組織の原点を残したいというのも大きな理由である。

e. 久保田と三国の感情はなぜすれ違ったのか?

三国は久保田と結婚したいという気持ちが先行し、彼女の気持ちがわからなくなっていたのではないか。彼女は工場の経営が安定し、後継者(しじみか?)が育った時点で引退して、三国と結婚する考えだったと思われる。また、久保田は三国の気持ちはうれしいものの、好きだった三国が変わってしまい、そして、経営者として否定されて失意呆然としているだけの三国を見て失望した。三国が久保田に「東京へ帰ったらいい。どうせ、あなたは東京から来たひとだから。」と言ったことで、久保田の三国、工場のメンバー、この土地に対する想いを否定され、東京へ戻ろうと決心した。久保田も東京へ行くのかと小松沢に尋ねられ、「どこにも行かないわ、戻るだけ。」と答えたことを考えると、彼女もこの土地をまだ仮の場所と思う部分があるのかもしれない。

f. なぜみんなは戻ってきたのか?

三国が初心に戻って努力する姿勢を見て、従業員たちも自分たちが失っていたものに気づき、初めからやり直そうと思ったのではないか。それに仲間と一緒に働き、楽しむことが幸せだ、ということを強く感じだからであろう。ところで、ケントはいつタイに帰るのだろうか? もしかして、不法滞在?

g. 九十九里浜水産缶詰工場は今後どうなるか

久保田が結婚し、だれが工場長になるのか? 多分、子供が生まれるまでは久保田が工場を経営するだろう。経営戦略としては、現状の工場規模を前提とした、高級手作りサバカレーの生産というニッチ戦略を採用するのではないか。久保田が産休に入ったら、しじみが経営の代行をする。それでうまくいけば、しじみは筆頭株主でもあるので、しじみが久保田や三国の支援を受けながら経営をしていくと予想される。

2.組織のライフサイクル
(1) 組織の発展段階モデル

組織が成長していく過程で、環境変化と組織自体の変容により成長の踊り場と危機が訪れるという理論。組織の内部環境と外部環境の相違により、発展段階における危機の内容は異なると考えられ、この理論をそのまま鵜呑みにするのは危険。だが、一般論としては妥当と考える。


a. 企業者的段階から共同体的段階

数人の人間が会社で働いていた段階から数十人程度の組織へ成長する段階で、リーダーのリーダーシップ力がいっそう問われる。その場合、組織のビジョン、価値観、目標の再定義が必要となる。

b. 共同体的段階から公式化段階

経験則で言えば、組織が100人を超えたり、事業が複数になったり、事業地域が分散すると、経営者一人では組織を動かすことができなくなる。その場合、経営者は権限委譲し、組織全体でシステマティックに経営していくことが求められる。そのため、規則や手続きが組織内に作られていく。

c. 公式化段階から精巧化段階

組織の公式化が過度に進められると、手続きが煩雑で、実行が遅いという官僚制の弊害が生じる。そこで、組織変革による活性化が必要である。具体的には組織を小組織に再編したり、横断的組織を作り、コミュニケーションを増やす。

(2) 組織文化のダイナミックス

組織誕生時のベンチャー精神を基盤にした組織文化は、組織の成長と共に官僚的文化へ変容することで、組織は硬直化し、環境不適応を起こすこともある。そのため、組織文化の変革が必要となる。

(3) 九十九里浜水産缶詰工場はなぜ再び危機に陥ったのか?

a. 組織のライフサイクルにおける成長の踊り場にさしかかっている。

工場の事業が成長し、経営をシステマティックに行っていく段階にさしかかっている。そのため、久保田が中心に行ってきた経営職能を従業員へ一部委譲し、経営を組織全体で行っていく必要がある。しかし、工場長の仕事を三国に、財務管理の仕事を剣に委譲した結果、彼らは経営コンサルタントの言いなりで、十分な能力がなく、失敗した。

b. 起業家精神の衰退…驕り+ハングリー精神の欠如

c. コア・コンピタンスだった価値観の希薄化

精神的や物理的に満たされたことで価値観が多様化し、基盤になっていたチームワークの価値観が薄れた

d. 成功体験からの制約…新製品で2匹目のどじょうを狙う

e. 誤った組織変革と成長の方向性と手法…売上規模の急激な拡大は適正な経営戦略とはいえない+他力本願的な変革

f. ひどい経営コンサルタントを起用した
3.革新を起こす主体
(1)組織内部の経営者→トップダウン型による組織変革

優れたビジョンや洞察力を持つ経営者が強力なリーダーシップで組織を変革していく。大きな変革や短時間の変革に効果がある。

(2)組織内部のミドルマネジメント→ボトムアップ&ダウン

現場の情報に接しているミドルマネジメントが危機意識を持ち、経営陣に変革を働きかけ、経営陣を動かす。そして、経営陣がトップダウンで組織全体を変えていく。時間がかかるが、組織変革の実効力は高い。

(3)組織外部からの変革

a 新しいリーダーを外部から入れる・・・例:日産自動車のカルロス・ゴーン社長

b 経営コンサルタントなどの外部者を活用する・・・例:「コーチ スペシャル」の冴木

c 他社の力を借りる・・・例:そうご電器がドン・キホーテの経営支援を仰ぐ。

(4)組織を変える方法

a 危機意識の共有と変革への動機づけ

b コミュニケーションによる意識改革

c 変革活動の布教
4.Back to Basic(機軸に戻れ)
(1) 失敗によって組織が衰退し始めたら、新たな変革を行う。それは全く新しいことに挑戦するか、もしくはかって成功をもたらした基盤となる使命・ビジョン・価値観への回帰することである。九十九里浜水産缶詰工場ではチームワーク重視の経営へ戻る道を久保田は選択した。

(2) 本業重視・コア製品重視

儲からない財テクや新製品を止め、味の良い手作りサバカレーを重視する。ただ、経営が再び軌道に乗った時点で、新製品開発を行う。新製品はさばにこだわったもので、工場のサバカレーのラインを共有できるものが望ましい。

(3) コアとなる強みを重視

チームワークという価値観の共有を基盤にした経営を行う。また、サバカレーは美味しいから売れたのだから、三国は営業を行わず、品質管理の役目に徹する。

(4) 組織のスリム化

規模的拡大を狙わず、今までのように従業員が工場ラインに立って少量生産をする。