(図表4)
「ルスツリゾートスキー場のコース図」
ルスツリゾートスキー場は、札幌や新千歳空港から車で90分程度の距離である。交通手段は鉄道がないため、車かバスしかない。札幌から来るとなると降雪量が多い中山峠を通らなくてはならず、天気が悪い時はやっかいである。スキー場としての評価に関して、ルスツリゾートスキー場は規模やコースの多様性で高い評価を与えられる(図表5)。雪の量と質はニセコ国際ひらふスキー場やキロロスノーワールドと比較すれば劣るものの、北海道の中でも水準以上と評価する。ゲレンデの整備もしっかりなされている一方、圧雪が入らないコースもいくつかあり、利用客のニーズの多様化に対応している。策道施設はゴンドラやフード付きの高速4人乗りリフトも多く、寒い時期には快適である。ゲレンデ内の休憩と飲食の施設は要所にあり、利用客の利便性を確保している。問題があるとすれば、WEST.
MtサイドとEAST. Mt・Mt.
Isolaサイドが国道で分断されているため、ゴンドラがあるにせよつながりが悪く、そして、自称しているほど大きなスキー場という印象があまりない、ということである。これは、WEST.
Mtサイドを拡張できない立地上の問題でしかたないとはいえる。それ以外の策道やコースのつながりはよく、気持ちよく滑走できる。策道1席あたりの索道利用客数は年間10万2000人(1997年度)と、効率性と待ち時間のバランスはまずまずと思われる。しかしながら、一部の策道施設、特にEast
Mt.やMt.
Isolaの入り口となるイーストゴンドラ2号線の混雑が激しく、ゴンドラ待ちが長く、不満に思っている利用客は多いのではないであろうか。また、短期間で規模を拡張して減価償却が大きいせいか、マーケティング上の価格戦略なのか、リフト料金が高いのは利用者から不満を招くかもしれない。一方、従業員の接客サービスも良く、ホテルをも経営する加森観光だけのことはある。食事に関しては、比較的高目のレストランから安価なスナックレストランまで取り揃え、若者からスキー場での食事は高い、と不満が出ないようになっている。トイレやロッカー施設もスキー場としては高いレベルにある。その他の付加サービスとして有料の託児所がある。このあたりはスキー場をサービス産業として捉えており、高く評価できる。また、人手の多い時期には独自のDJプログラムを行っており、利用客を楽しませようとする姿勢は、レジャー産業を多くてがける加森観光らしいと思う。
(図表5)
「ルスツリゾートスキー場とニセコ地域3スキー場の索道利用客数の推移」
ルスツリゾートスキー場の索道利用者数は、経営主体が大和観光から加森観光へ変わった直後に減少しているものの、それ以外の時期は増加傾向にある(図表5)。特にバブル経済時期に、策道利用者数を大幅に増加させている。これは好景気の恩恵もあるが、加森観光がルスツリゾートスキー場へ積極的に投資をし、スキー場の魅力を高めたからであろう。毎シーズン新しいコースなどを造成することで、利用客のリピート来場を促してきたのである。積極的な投資によるスキー場拡張は、北海道NO.1のスキー場というブランドを確立し、本州方面からの観光客集客の武器となっている一面もある。本州からの観光客は、何度も来道してスキーやスノーボードを楽しめるわけではない。そうなると、北海道に来たら北海道一のスキー場で滑りたいと考えるのが人情であり、旅行会社の企画するツアーでルスツリゾートスキー場がはずせなくなるのである。積極的投資によるスキー場およびリゾートの拡大戦略はリスクが大きく、失敗事例も多い。それではなぜルスツリゾートはリスキーな成長戦略を取り、しかもバブル経済崩壊という外部環境の急激な悪化を生き残ってきたのであろうか。まず、加森観光がオーナー企業であり、加森公人という優秀な経営者の強力なリーダーシップによって、的確な経営戦略の下に経営を行ってきたことがあげられる。次に、ルスツリゾートを経営する加森観光のリスクを低減する経営である。ルスツリゾートスキー場はもともと経営破綻した大和観光から安く買収したスキー場で、0からスタートした他のスキー場のような多額の投資をせずにスキー場事業を始められた。また、キャッシュフローを重視した投資を行い、スキー場への投資も段階を踏んで行ってきた。こうしたことで、加森観光はスキーリゾート事業への投資を抑制し、投資に対するリスクを低減してきたのである。第三に、バブル経済崩壊やスキー離れなどでスキー場業界不況の時期もスキー場への投資を継続して行い、スキー場の魅力を高めてきた、逆張りの戦略が成功の理由としてあげられる。他のスキー場が投資を控えていたのに対して、スキー場の魅力を更新し続けたルスツリゾートスキー場は相対的な競争優位を向上したのである。 第四に、競争ターゲットを明確にし、的確な競争戦略を実行してきたことであろう。ルスツリゾートが競争ターゲットにしていたのは、北海道の老舗で全国に認知されるブランドをいち早く確立したニセコアンヌプリの3スキー場、中でもニセコひらふ国際スキー場であったと思われる。1983年度のルスツリゾートスキー場の索道利用客はニセコアンヌプリの3スキー場の約1割にすぎなかった。しかしながら、それが現在では7割を超えて、ルスツリゾートスキー場の相対的競争優位は格段に高まっている。立地的に見て、スキーヤーやスノーボーダーが車で札幌や新千歳空港からニセコへ行こうとすれば、ルスツスキー場の前の国道か、その近辺を通過していくことになる。ルスツスキー場がニセコアンヌプリの3スキー場より魅力的ならば、ニセコへ行こうとする道内スキーヤーやスノーボーダーの何割かはルスツを選ぶであろう。また、観光ツアーも距離的に近いルスツリゾートの方がスケジュールにも余裕ができる。ルスツリゾートスキー場はニセコをターゲットにして、ニセコの顧客を奪えば確実に成長できるのである。加森観光はスキー場への投資だけではなく、ホテルを中心とした他の施設への投資を行うことでルスツリゾート全体の総合的な魅力を高め、多数の民間企業や自営業者で構成されリゾート地域全体として競争優位構築の戦略を実行できないリゾート集積であるニセコに対して、加森公人社長の強力なリーダーシップによって競争地位を向上させてきたのである。 順調に成功してきたルスツリゾートスキー場の今後に、不安がないわけではない。まず、地形上の制約から、これ以上のスキー場拡張が困難であること。そのため、リピート来場を促すことが可能となる、新しいコースの造成などができないかもしれないのである。次にルスツリゾートスキー場を経営する加森観光の問題である。加森観光はルスツリゾートスキー場以外に、アルファリゾート・トマムスキー場とサホロ・リゾートを事業受託の形で経営を行っていくことになっている。事業を受託するのあたり経営幹部を派遣したり、受託とはいっても加森観光が施設への投資を行うこともある。アルファリゾート・トマムスキー場とサホロ・リゾート共にてこ入れが早急に必要であり、ルスツリゾート場への経営資源の集中が難しくなる。また、加森観光はシティー・ホテル事業も行っており、昨年新しいホテルを激性といわれる札幌でオープンした。もし、こうした事業の経営が安定しなかったら、ルスツリゾートで稼いだ利益をルスツリゾートへ再投資せず、他の事業へ投資することになるかもしれない。それがこれまでのルスツリゾート成功の戦略を崩すことになるかもしれないのである。
3章
ルスツリゾートと地域社会との関係
ルスツリゾートの成長は、地域社会に大きな貢献を果たしている。まず、リゾートでの直接雇用は、大和ルスツスキー場時代は冬期150名、夏期30名の体制で営業していた。加森観光が経営することになった以降リゾートは拡大し、冬期754名、夏期517名(いずれも1997年)の従業員を抱えるまでになっている。そのうち、約65%が地元留寿都村民で、残りは近隣市町村からの従業員である。留寿都村に雇用の場が出来ても、人口は1980年の2,079人から1997年の2,279人(いずれも住民基本台帳の数値)と1割弱しか増加していない。しかしながら、村民税が1980年の3,200万円から1997年には8,100万円と2.5倍へ増加している。これは、以前から留寿都村に住む住民を臨時雇用し、農業従事者を主とする住民の所得が増加しているからと推測できる。人口面ではルスツリゾートの成長は留寿都村へ大きな恩恵をもたらさなかったが、経済面での効果が非常に大きかった。留寿都村の税収は、1980年度の8,400万円から1997年には4億7,500万円と5.6倍にまで増加している。特に大きいのが固定資産税で、ルスツリゾートを中心にホテル、ペンション、マンションが新築された結果、1980年度の3,200万円から1997年度の3億5,300万円と10倍以上にまで拡大した。こうした目に見える恩恵もあれば、目にみえない恩恵も指摘できよう。例えば、ルスツという知名度が全国的に広がりイメージアップとなった、観光客の入り込みによる交流人口の増加が地域産業の振興につながった、若者の新住民が増えたことによる村の活性化、などがあげられる。
(図表6)
「留寿都村冬季観光客入り込みの推移」
ルスツリゾートは、リゾート開発のもっともうまくいった成功事例の一つであろう。ルスツリゾート以外に観光資源があまりない留寿都村の観光客の入り込み数を見てみると(図表6)、1988年度からのデータしかないので限定的なことしか分からないものの、1998年度の日帰り客は1988年度の50%増加、1998年度の宿泊客は1988年度の126%の増加となっている。北方圏センターによる1989年の住民アンケート調査によれば、留寿都村の調査回答者207人のうち、知名度の向上、経済振興、雇用機会の拡大、税収の増大、人口流出に関して6〜7割程度の人がルスツリゾートを積極的に評価した。地域社会にも受け入れられていると考えられる。反面、自然環境の破壊や地域住民不在の開発などへの不満も聞かれ、加森観光と地域社会の調和は完全といえず、まだまだ努力する必要があろう。加森観光の優秀な経営能力と共に、コミュニケーションはしっかり取りながらも地方自治体が過度にリゾート経営へ干渉しなかったことも成功した理由の一つではないかと考える。(1998年10月調査)
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