File NO.308 富良野市社会福祉協議会
1.団体概要
法人の種類:社会福祉協議会  代表者:黒田耕男  代表者の属性:会長
専従スタッフ:?名 事業規模:?万円 設立年月日 ?
2.「見守りネット」事業の沿革

富良野市福祉協議会の濱本氏は、リース上がりのパソコンを無償で独居の高齢者へ提供し、電子メールで地域の人たちと交流を図るアイディアを持っていた。2001年、濱本氏は株式会社シナジーが行っていたITを利用した東京足立区のボランティアのシステムの実験をTVニュースで見た。独居の高齢者がボランティアを必要とするとき、電子メールで連絡し、コンピューターのプログラムがボランティアを選択し、ボランティアへ電子メールで連絡するというシステムである。濱本氏はこのシステムを富良野市でも活用できないかとシナジー社へ電話したことから話が始まる。シナジー社は通産省の補助金7,000万円を得て、携帯電話のiモードによるボランティア活用システムを開発し、足立区で実用化に向けた実験を行っていたのである。

 濱本氏から連絡を受けたシナジー社は、富良野市でも実験をすることに決定し、富良野市福祉協議会との間で準備が進められた。NTT東日本からLモード付き電話機を50台借り入れられることになった。また、富良野福祉協議会側は当初、地元高校のサーバーの活用を考えたが、OSの違いからシナジー社のソフトが動かないため、システムのソフトだけでなくサーバーも借用することになった。富良野市ではもともと無償ボランティアが盛んに行われていた。こうした地域文化の中で、ITを活用した安否確認などのボランティアが、市の広報、福祉協議会だより、コンビニでの広告、高校、企業、自衛隊での直接案内を通じて集められた。そして、2003年1月からシステムが稼働し、28名の高齢者に対するボランティア活動が始まった。半年間経過し、サービスを受けている高齢者は33名になり、登録しているボランティアも富良野市内を中心として104名になっている。
3.システムの概要

このボランティアシステムは、受益者である独居の高齢者が使うNTTのLモード付き電話機、シナジー社のサーバーとその上で動くソフト、そしてボランティアのインターネット接続機能付き携帯電話、そしてシステムを運営する富良野市福祉協議会のパソコンから構成される。足立区の実験では携帯電話はiモード付きに限定されていたが、auやJフォンの携帯電話でも使えるように修正された。このサービスを利用する高齢者は富良野市福祉協議会へ、利用者登録を行う。利用する高齢者は毎月利用料として1,000円支払い、代わりにNTTのLモード付き電話機を富良野市福祉協議会から借りる。また、ボランティアを行いたい人も、富良野市福祉協議会へ登録をし、メールアドレスを開示しておく。ボランティアが使用する携帯電話は自己所有のものである。

富良野市福祉協議会は、毎朝、サービス登録している高齢者に対して本人の名前入りの電子メールを高齢者のLモード付き電話機へ送る。文面はちょっとしたニュースや地域の出来事と共に、メールには簡単なアンケートが記載されている。文面は富良野市福祉協議会の濱本課長が毎日、書き換えている。高齢者の状況を尋ねたアンケートで、回答は「良い」、「普通」、「寂しい」、「悪い」の4段階で、高齢者が選択し、メールを返信する。「良い」と「普通」の回答をした高齢者に対しての対応はなされないが、「悪い」を答えた高齢者に対しては病気の心配があるため、富良野市福祉協議会が対応する。「寂しい」と回答した高齢者に対しては、シナジー社のソフトプログラムが自動対応し、がNTTのLモードを通じてボランティアを必要としているというメッセージを送ると、サーバーが当日、ボランティアをできると登録している人に自動でボランティア依頼のメールを送信する。ボランティアが受託するメールを送り返し、ボランティアを実行する。もし、受託しないか、回答をしないと、自動的に次の候補者へサーバーから依頼メールを送る。

 ボランティア登録の多くは土日に偏っているため、月曜から金曜日までの平日のボランティアを確保するため、平日が休みであるサービス業や自衛隊を中心にボランティア集めをした。2003年7月時点でのボランティアは104名で、その中の2割がよく参加してくれるメンバーである。また、高校生30名が参加し、主に「元気コール」で活躍している。一方、サービスを受ける高齢者は28名でスタートし、現在、33名がサービスを受けている。しかしながら、機械の使い方がわからないため、まったく利用していない人も2名いる。来年度以降のシステム運営費を確保するために、利用料収入を増やさなくてはならず、サービス利用者を2003年9月までに100名にする計画で、緊急通報システムの待機者や民生委員からの情報で利用者を勧誘している。
4.事業の課題と可能性

現状ではボランティア希望者が多く、高齢者からの依頼が少なく、マッチングできないのも課題である。結果としてやる気のあったボランティアも、ボランティアの仕事が回ってこないのでモチベーションが下がってしまう。利用者33名ではボランティアの適正数は現状の利用率であれば50名程度で大丈夫である。結果として登録ボランティア104名が生かし切れていないようである。しかし、一方でサービス利用の依頼が高齢者から出されてきたときに、それを引き受けられるボランティアがいないこともあった。こうした需給のマッチング問題も解決しなければ、利用者の満足度を維持できない。そこで、サービス利用の高齢者に対して、ホームサービスの依頼は、ボランティア登録が多い土日にしてほしいと高齢者へ頼んでいる。また、サービス利用者は冬が多く、夏は少ないという季節変動も解決すべき課題である。また、Lモードをツールに使用しているが、使いこなせない利用者がいるのも事実である。また、利用者を増やそうとすると、Lモードの操作性が利用者拡大へのハードルになる懸念もある。ITによる効率性や利便性と、利用の容易さを両立するためのいっそうの工夫が必要であろう。

この制度に関わる経済的な課題は多くある。高齢者がこのシステムによるサービスを受けようとすると、毎月1,000円のサービス料を支払う必要がある。また、このサービスを利用するための通信料は月280円程度である。年金暮らしの高齢者にとって、少額の負担でも嫌う人がおり、こちらから働きかけないと利用者は増えてこなかった。現在、サービス料の1,000円はシナジー社へのサーバーとソフト使用料に補填されている。シナジー社への支払いは、コスト計算に基づく料金を試算すれば、月60万円程度になってもおかしくないくらいコストがかかっているとのことである。これも現段階では実験ということもあり、シナジー社へはこの程度の使用料の支払いですんでいるが、こうした料金システムも今年度で終了する。その後の費用負担増加に関して社会福祉協議会では負担できないので、事業継続の見込みはたっていない。とりあえず利用者を100名に増やし、サービス料収入を10万円にし、シナジー社へ支払える金額を増やしたい意向を持っている。事業スタート時にはNTT東日本からLモード付き電話機50台を借りていたが、平成16年の3月にはこれらの機器を富良野市社会福祉協議会が買い取る予定である。そうした予算の手当ても必要である。

高齢者にとっても、ボランティア希望者にとっても、今のITを使ったシステムはとても良くできているが、高コストが最大の課題。もっと低コストのシステムへ変更する、周辺市町村と組んで利用者を増加させ損益分岐点をクリアする、企業へ顧客紹介やボランティアだけでなくビジネス利用の解放などのメリットを与えて資金を提供する事業モデルの変革などの戦略修正が、経済的課題の解決には必要と考える。また、ボランティアを受ける側とする側のニーズを探り、ニーズマッチングをする必要があろう。様々なサービスを有料でも受けたいという高齢者もいると考えられ、見守りネットというプラットフォームを活かすためにも、互助という理念を崩さない程度に有償ボランティアサービスのメニュー開発も行っても良い。

システムの運営費を捻出するためにビジネスを伴ったサービス提供を行う場合、社会福祉事業法で制約された社会福祉協議会という組織がビジネス的要素を持った事業モデルの経営を行うことに対して、問題が生じる懸念もある。また、社会福祉協議会が行える事業は、社会福祉という分野に限定される。見守りネットのプラットフォームは福祉だけでなく、より広範な公共サービス提供や、場合によってはeビジネスのプラットフォームに活用できる。地域課題の解決に関する見守りネットの潜在能力を考えれば、公益と私益、非営利と営利を両立できるNPO法人などへ運営組織を変える選択もあろう。


(2003年7月調査)