スキー場の運営は、NPOあわすのに常勤スタッフがいないため、立山開発鉄道とその従業員で作る立山開発スキークラブに委託している。立山開発鉄道は、以前のスキー場の経営主体である粟巣野観光開発へ人員を派遣し、スキー場運営を行っていたので、人材は十分にいる。派遣人員は、オフシーズンに索道のメインテナンスは必要な時だけ、スキーシーズンにおいてはスキーの索道関連で8名、事務所に1名、リフト券売り場に1名、スキー場のパトロール1名、合計11名を最低限度の人数とし、その対価をNPOあわすのは2002年〜2003年のシーズンで立山開発鉄道へ650万円を支払っている。立山開発鉄道は冬場の立山アルペンルートに関わる従業員の仕事がないことと、粟巣野観光開発へ出資していることもあって、格安で運営受託している。リフト券の改札も、費用対効果の視点から廃止され、利用客が自主的に回数券を箱に入れる形にしている。平日は10名の人員配置で足りるが、土日祝日は駐車場の誘導要員やパトロールの増員はボランティアが手伝っている。また、オフシーズンの用地の草刈りは、2002年〜2003年のシーズンに関して、NPOあわすのの会員である地元の業者に依頼したが、2003年〜2004年のシーズンはボランティアで行うことになっている。
NPOの組織運営で欠くことができないのは、ボランティアの力である。NPOあわすのもスキー場を存続させるという使命に共鳴した会員が、積極的に参加している。ボランティアとして参加した人たちへは、提供した労力に応じて、人夫賃の概ね半分から1/3程度に相当するリフト券と引き替えできる権利を供与している。例えば、3,000円と設定されている労働をボランティアで行った人は、3,000円のリフト券と引き替える権利を得る。家族や友人とゲレンデへ行ったときにその権利を行使して、リフト券を無料で購入できる。また、営業中のボランティアには、索道やゲレンデの安全確保上も参加を義務づける必要があることから、ガソリン代相当の交通費と、近隣の飲食店で飲食できるチケットを供与している。すなわち、実質的にキャッシュアウトを伴うボランティアの費用は、交通費、食事費、保険料ということになる。また、地元金融機関から運転資金の確保のため、短期の借り入れを行っているが、理事全員の個人保証で借り入れている。NPOああすのの使命に共鳴した多くの会員の献身的な努力がNPOあわすのの運営に注がれており、NPOが求心力の場として十分に機能しているようである。
NPOあわすのは行政からの補助をほとんど受けておらず、地域住民と企業との連携から経営されている。前項で説明したように、スキー場が地域経済へ大きな影響を与えるため、スキー場に関わる利害関係者が少しずつ負担を担い、厳しい経営状況をなんとか維持している。その結果、スキー場の損益分岐点売上高は、粟巣野観光開発が経営していたときより1割程度下がっている。2002年度は当初の予算に対して、400万円少ない費用ですんだ。地域住民との連携の強固さは、入会金や会費が当初の予算に比べて220万円増加していることにも現われている。また、売上を増やすため、NPOの会員が積極的に集客を図っている。NPOあわすのと富山地方鉄道は協力して、スキー場のリフト料金と交通料金をセットにした格安な商品を販売し、自家用車を持たない人たちの集客に努めた。その結果、入場者数は前年度比微増と健闘しており、NPOへ経営が移転された効果が多少なりとも出ている。しかしながら、リフト料金の値下げ、営業期間の短縮、ボランティアへの対価として無料のリフト券を供与したことから、索道収入は予算に対して650万円少なかった。そのため、今後も地域住民がNPOあわすのの経営へ積極的に関わることで、スキー場の入り込みを増やす努力が必要となる。一方で、地域社会から支援されるNPOゆえに、事業で制約が生まれることもある。もっとも大きな制約は、NPOあわすのは収益事業として、飲食業やレンタルスキー業を手がけられない。それは地元住民の中にそうした事業で生計を立てている人もおり、競合するからである。
今後の経営戦略は集客を増やすことを中心に行われる。2003年〜2004年のシーズンは地元の人たちによるイベントを増やし、富山地方鉄道と立山開発鉄道の協力を得て、近隣にある立山自然少年の家へバスを出して集客することや、スキー場シーズン券と鉄道定期券をセットにした新しい割安なセットを出すことが企画されている。NPOの支援者である富山地方鉄道にとってはマイナスになるものの、地元地主から遊休地を無料で借り受けてスキー場の駐車場を増設し、土日祝日の混雑に対応する。一方、スキー場そのものの魅力を増やすための施策も行われている。2003〜2004年のシーズンを前にしてスキー場のコース改修が行われており、コースの斜度修正によってより滑りやすいコースになるはずである。スノーボーダーなどのニーズに対応してキッカーと呼ばれるジャンプ台の造成もボランティアによって行われている。また、スキー場の管理区域外の町営のクロスカントリーコースの管理を自主的に行っており、同コースの遊歩道化と関連施設の整備を大山町に要請している。
(2003年10月8日野崎あわすの事務局長よりヒヤリング)
|