@ スキー場の概要
不忘アザレアが経営する「みやぎ蔵王白石スキー場」は蔵王連峰南麓の不忘山(標高1,705m)の東斜面に位置するスキー場である。みやぎ蔵王白石スキー場はクワッドリフト1基とペアリフト3基、コースは6コース、という中規模のスキー場である。最長滑走距離は1.6km。最上部は1,146mでコースの標高差は300m。最大斜度38°のコースがあるものの、比較的初級、中級者向けと言えるかも知れない。300席のレストラン、ロッカールームなどを有するセンターハウスが主な施設で、1,300台を収容できるスキー場がある。標高がさほど高くないため、スキー場の営業期間は12月中旬から3月下旬までである。車で20分程度の距離には、ゴンドラ1基、リフト10基を持つ規模の大きなみやぎ蔵王えぼしスキー場がある。そのため、県外から来る顧客はみやぎ蔵王えぼしスキー場を選択し、みやぎ蔵王白石スキー場の利用者の多くは県内の近郊地域からの客のようである。
みやぎ蔵王白石スキー場は、宮城県白石市の中心部や東北自動車道白石インターチェンジから自動車で30分弱の距離にあり、多少道の狭い場所はあるものの便利であると言える。スキーブームの頃は、みやぎ蔵王えぼしスキー場の混雑を嫌った顧客を集客できたが、利用客が減少した今ではそれも厳しい。そのため、みやぎ蔵王白石スキー場は、地元の家族客にターゲットを絞ったマーケティングを行っていると考えられる。18%〜33%の値引きとなる親子パックのリフト券を用意し、子供の対象を中学生までに拡げ、少年と子供が利用しやすい料金体系になっている。また、シーズン券も早期割引を利用すれば、27,000円と安くしている。
A NPOによる経営のメリットとデメリット
NPOによるスキー場経営へ移行したことで、白石市としてはスキー場を支援しやすくなった。また、NPOということで、利害や立場を超えて市民がスキー場の存続を身近に感じ、スキー場の経営活動に加わりやすくなった。こうした2つのメリットが享受できたことが、NPOを受け皿にした最大のメリットであろう。その一方で、白石市は一NPOへの肩入れ、不忘アザレアは自然保護活動を定款に入れながら、環境保護と対立するスキー場経営を行うことに、地域から批判もあったようである。
みやぎ蔵王白石スキー場の各種施設は白石市が所有し、スキー場の施設管理と運営といった経営はNPO法人不忘アザレアが行っている。白石市から事業委託を受けているが、管理運営の委託料を受け取らない変わりに、設備投資や修繕費の大きな部分は市が行った。こうした所有と経営を分ける上下分離方式によって、スキー場の市営化で500万円の固定資産税支払い義務がなくなり、470万円の国有林使用料は白石市が支払うことになり、スキー場を経営する不忘アザレアの費用節減につながっている。また、設備投資もスキー場を所有する白石市が中心的に行い、不忘アザレアは投資する必要がなく、設備投資の資金負担が少なくてすむし、税金の支払いも少なくてすむ。今後、新たな設備投資が必要になった場合、白石市がこうした経済的負担を負っても、スキー場を存続でき、経営に関するその他の運営費用を負担しなくてすむためメリットがある。また、市民の自主的活動を行政が支援することで、公共サービスの官民協働による提供と市民活動の支援を実現できる。反面、白石市が過疎債で資金調達し、リフトの更新、センターハウスの建設、圧雪車の購入などしたことに対して批判もあり、また、不忘アザレアは第三セクターNPOと揶揄されてしまう原因を作っている。
NPOの経営ではボランティアの存在もコスト低減に寄与するが、不忘アザレアの場合、ボランティアは労働提供者の5%にすぎず、経済的メリットより市民がスキー場を守るという使命の象徴としての意味合いが強いかもしれない。しかしながら、民間企業からNPOへ運営主体が移行したことで、スキー場の施設整備など技術的な仕事をするフルタイム・スタッフの人件費を下げられたことが人件費圧縮へ寄与している。こうしたコスト面でのメリットにより、損益分岐の利用者数は5万人へ引き下げられ、スキー客減少の時代により適合できる収益構造になった。一方で、NPOにしたことで、NPOの会員がスキー場を自らの財産と考え、スキー客集客の営業を自発的に行って売り上げ確保に協力している。地元の小中学校も体育事業で積極的に使用してくれている。NPOになったことで、サッカーくじの助成金や行政からの補助金も得ている。
NPOの本来事業としては、スキー場の整備、リフト運行、各種の自然教育の事業があり、それに入会金・会費が加わり、非収益事業を構成するが赤字になっている。それをレストラン・売店事業、レンタルスキー事業といった収益事業から生じる黒字で、本来事業へ補填している。スキー場が比較的低い山ゆえに人工降雪機を使用しているのもコストアップ要因であるが、使用日数を最小限にし、リース料を節減するなど経営努力をしている。
インタビューの中で、スキー場の存続に対して、市営、第三セクター、民間企業など受け皿組織が検討されたが、NPO以外では事業は存続できなかった、という声が聞かれた。NPOにすることで理事会システムや情報公開で面倒な仕事が増えたが、それもスキー場存続のための必要なコストと割り切れるものであったようである。
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