File NO.306 特定非営利活動法人 
              夢未来くんま
1.団体概要
団体の種類:NPO法人  代表者:大石顕氏  代表者の属性:理事長
常勤職員:625名 設立年月2000年 事業規模:1億2,300万円(2002年3月決算)

2.沿革
 1953年に生活改善運動が天竜市熊地区で始まる。熊地区では地域住民が話し合って、地域を考えることが昔から盛んであった。1981年に熊婦人会が地域の食についての本を作成する。その本を作成する過程で、改善運動をしていた女性の間から食による地域起こしのアイディアが生まれた。熊の人がそれぞれのできることで地域を活性化するためのアイディアをだす「明日の熊を語る会」で、自分たちで自家製造し、消費していた味噌を販売することで地域を活性化したいということを、改善運動のグループが表明した。その結果、1983年に、調理台3機と味噌の発酵施設を持った生活改善センターを補助金によって建設し、この改善センターで改善運動グループのメンバーが味噌作りを行い始めた。
 「明日の熊を語る会」での話し合いを受けて、熊地区の活性化事業案を立案する熊地区活性化推進委員会が1986年に生まれる。推進委員会ではふるさと活性化対策事業で生産施設と飲食施設を作ろうということになり、総事業費1億6,000万円の計画が立てられた。その事業費のうち、4200万円を熊地区活性化推進委員会が自前で資金調達する必要があった。推進委員会はの事業案を受けて、事業を実行するために、1987年に熊地区全戸が加入する活性化推進協議会が設立された。活性化推進協議会は集落の共有林の木を売却し、4,200万円の資金調達をすることにした。1億6,000万円をかけて「水車の里」が建設され、くんま水車の里グループ(31名、うち30名が女性)が設立され、蕎麦の商品開発を始める。自家消費ならばいいものの、商品として販売できる完成度を得るために苦労した。そこで、グループのリーダーである金田氏を始めとして、各地の蕎麦を食べ歩き、地域の老人の知恵を借りて、商品化を研究した。
 熊地区の中には、素人のおかみさんたちに何ができるという冷たい視線もあった。しかしながら、こうした冷たい視線を、金田氏を始めとしてグループの女性達が結果を出すことで納得してもらおうと頑張った。活性化推進協議会の事務局を天竜市から出向してきた職員が担当していたため、補助金等の行政情報が集まり、それが経営に活かされた。一方で、天竜市から水車の里グループの活動情報を発信でき、全国的に話題となった。水車の里で作られた味噌は、物産展などのイベントで販売された。建物と大型機械は補助金で賄えたが、小さな機械の購入資金や運転資金は、水車の里グループの31名が月々3,000円を積み立てし、人件費なしで働いて捻出した。農家の主婦がビジネス活動を無報酬でやっていることに対して白い目で見られが、彼女たちは自分たちの夢と、熊の未来のために耐えた。
 イベントで販売するだけでなく、自分たちの商品を売る店がほしいという声があがり、1988年に水車の里で作った商品を中心に飲食させる「かあさんの店」を補助金等で建設した。施設のための補助金ゆえに、運転資金が不足した。そこで、活性化推進協議会の理事13名が1人あたり5万円、合計65万円を出資し、それを従業員のパート代などの運転資金に当てることでスタートした。「かあさんの店」では非農家の女性7名をパートで雇用し、スタートする。こうした活動が注目され、NHKのTV番組で取り上げられた。その結果、客が大勢店を訪れてくれた。
 1989年には、こうした村おこしの活動が評価され、農林水産祭「豊かな村づくり」部門で農林水産大臣賞や天皇杯を獲得し、売上も増加した。そこで、無報酬で頑張ってきた「水車の里」グループへも「かあさんの店」で働く人達と同程度の報酬を与えることができた。報酬を与えたことで、活動に対する家族の理解が高まり、「水車の里」グループの参加者の意欲が高まった。1992年頃には「水車の里」で1200万円、「かあさんの店」では800万円の定期預金が内部留保として残るほどであった。十分な売上によって製粉機や製麺機を買い換えることもできた。「かあさんの店」、「水車の里」は独立採算で行っていったが、それぞれの売上の中から賃借料と償却費を活性化推進協議会へ支払い、協議会の行った設備投資の償却と運転資金を賄った。税に対する知識が十分なく、利益は内部留保していたが、1993年に税務署が入り、税金をとられた。各事業が成功していった反面、各事業の活動が十分統合されておらず、当初の地域活性化という使命も共有されにくくなり、地域がバラバラになりそうだった。また、任意団体であったためリーダーの金田氏への負担が大きく、参加者の高齢化が進行し、若い人が入れるようにしたい、ということから、1996年頃から法人化を検討した。
 非営利事業の活性化推進協議会、営利事業の「水車の里」と「かあさんの店」を1つの法人に統合するために、企業組合、農事組合、商法法人などの法人が検討されたが、有限会社の設立に意見がかたまりつつあった。しかし、東京で勉強してきた大平氏がNPO法人という新しい法人形態を聞いてきた。NPOを研究し、非営利事業と営利事業を両立できること、集落みんなのための組織として存在できるという優位点から、大平氏がNPO法人化を提案した。そして、1999年11月に活性化推進協議会を解散し、全戸を引き継いでNPO法人にしたいと、活性化推進協議会で表明し、了解を得た。2000年7月に特定非営利活動(NPO)法人「夢未来くんま」として法人登記を行う。その際に、活性化推進協議会、「水車の里」、「かあさんの店」がそれぞれ所有する固定資産と流動資産合わせて4000万円を全部、「夢未来くんま」へ寄付した。NPO法人になったことで、各事業が単なる経済主体としてだけではなく理解されるようになり、地域活性化の理念を共有できる若い人も参加するようになった。
 その後の「夢未来くんま」は「水車の里」、「かあさんの店」を中心にして収益事業を行い、平成2002年には「物産館ぶらっと」(林野庁の補助金あり)が建設された。物産館事業費4,900万円のうち地元負担金の700万円は、「夢未来くんま」が拠出した。物産館の維持費のため、「夢未来くんま」の流動資産を使いきってしまい、現在は固定資産しか残っていない状況で、経営的には厳しくなっている。

3.事業概要
 熊地区の活性化の活動は過疎化に対する対策として始められたが、残念ながら定住人口は増えていない。しかしながら、新しい事業が集落の中で起業され、そこで働く人たちが元気になった。また、活性化の活動と事業を通じて、熊地区が有名になり、交流人口が増加している。その結果、熊地区の住民が自立意識や郷土愛をいっそう感じてくれるようになった。現在、「夢未来くんま」の会費会員は550名で、集落の290戸、全戸が加入している。入会金1戸1000円(実質的に無料)、年会費100円と、全戸が加入しやすい設定になっている。「水車の里」と「かあさんの店」を経営する水車部の7600万円の売上から、NPO法人としての運営費を出している。NPO法人には理事が12名おり、そのうち、大学教員が2名、熊出身の会社社長と旅行作家が各1名、熊地区の男性4名(自治会長・公民館館長)と女性4名の構成になっている。理事会の下に「ゆめまちづくり委員会」が設置され、42名のNPO地区協力員が住民とのパイプ役になっている。
 製造、物販、飲食サービスを行う水車部は、法人税法上では収益事業だが、NPOの定款では本来(非収益)事業である。水車部の収益はしあわせ部、いきがい部、ふるさと部といった非営利事業で地域へ還元するビジネスモデルである。しあわせ部は高齢者福祉だけでなく、集落の少子化対策のため育児支援も行う。デイサービス施設の出張施設が熊地区にもできたが、介護保険に当てはまらない自立した住民が利用できない。そこで、そうした元気のある老人を、地域の集会所に火曜日と水曜日にしあわせ部が設置する「いきがいハウスどっこいしょ」(2001年度10ヶ所、2002年度8ヶ所)へ来てもらう。「いきがいハウスどっこいしょ」へしあわせ部がヘルパーを派遣し、水車部が弁当を配達する。また、社会福祉協議会からの材料費の補助をもらい、毎月1回独居老人へ弁当を配食する。その際に独居老人の話し相手になってあげ、生活の状況を尋ねるといったボランティア活動も行う。いきがい部は地域産業の振興、まちづくり、祭り、都市部の子供のホームステイ(グリーンツーリズム)のコーディネートを行う。ふるさと部は環境教育や環境教育のリーダー育成受託事業を行う。熊の小中学校の総合学習ではボランティア活動へ積極的に参加してくれており、そのうちがっこう部が新たに生まれるかもしれない。
 2001年度の水車部への来客数は6万人弱だが、今後の戦略として子供の遊び場を作り、家族客を増やしたい意向を持つ。商品の原料は、熊地区で農業はさほど盛んでないため、地域外から購入する割合が多い。そのため、完全な地産地消とはいえない。味噌は年間5,000kgの生産。水がいいのと温度差が激しいのが、味噌の味に良い影響を与えている。蕎麦は地元で1000kg程度しか原料を調達できず、あとは他地域から購入している。資金がないため、商品のブランド化のために投資をせず、自分たちで考えてきた。地元の人たちが消費してくれるが、多くは地域外の人が消費者である。ふるさと便(ゆうパック)を年2回やっており、1,000セット完売している。1,000セット程度なので、顔の見える関係が消費者と形成されている。販売チャネルとしては、店売りがもっとも多く、イベント販売、ふるさと便によるカタログ販売が続く。
 「夢未来くんま」の経営戦略は森の文化と食の文化で地域起こしをして、いきがいづくり、福祉の充実、環境保護で貢献することを目指していく。村の使われない資源が商売になる。熊の住人がこの地域で住み終えるため、地域を相互扶助の社会にしていく手伝いを「夢未来くんま」が行うのである。そのため、コミュニティビジネスで収益を稼ぎ、エコマネーで交流を促進する戦略を推進する。「夢未来くんま」は十分な収益をあげているわけではなく、就業規則と雇用保険の制度しか取り入れていない。従業員の雇用条件の改善も大きな目標になろう。また、昔から活動してきた人たちと後から入ってきた若い人たちの意識のギャップがあり、若い人たちを使うのは難しかった。しかしながら、NPO法人化されて、若い人たちの意識も変わりつつあり、NPO法人を選んだメリットを感じているようである。

4.分析
 ビジネスモデルは、他地域の農産物を熊地区で、手作り、お袋の味といった付加価値を与え、観光客を中心に販売するものである。そのため、こうしたビジネスモデルの成功の秘訣は、商品の価値と集客になる。商品に関しては、おおよそ意図どおりの仕上がりであろう。しかし、集客に関しては、観光スポットにする必要はないが、体験実習、環境教育以外にももう少し娯楽性のある仕掛けが必要であると考える。似たようなコンセプトのコミュニティビジネスが他地域に登場したときを考えると、競争優位の源泉を何に求めるのかを明確にしたほうが良い。一度、店を訪れた人は、そのホスピタリティでリピーターになる可能性が高いので、通信販売などのチャネルの強化が必要であろう。
 組織に関してはNPOらしい活動を行っている。本来事業がコミュニティビジネスなので、それ以外の事業で地域還元をすることで、組織としての使命を果たしている。組織運営はまだ、未整備のところが多く、今後、規模的成長を目指すのであれば、人材やシステムといった経営面の充実が必要になろう。ただし、経営を高度化すると、熊地区の高齢者の生きがいの場といったアイデンティティが失われる危険性があるかもしれない。
 2002年3月期の決算では、入会金、会費、寄付金は当期収入の2%程度と低い。これは、地域全戸が参加できるNPOを目指すため、年会費が100円と安いことに原因がある。「水車の里」や「かあさんの店」の事業で収入の6割強を占め、補助金が3割強となっている。補助金は物産館建設のためのものであり、経常的に発生する収入ではない。よって、事業規模は8,000万円程度と見られる。繰越金も357万円得ており、経常的事業の収支はバランスが取れていると考えられる。当期収入に占める、事務局運営費を含む管理費の割合は2%弱で、残りは事業費となっており、オーバーヘッドコストが非常に小さい。今後は競争優位を維持するために、夢未来くんまのビジネスの価値をブランド確立へつなげていく戦略が必要と考える。そのためには、ブランドへの投資も重要になろう。
  (2003年3月調査)
5.決算表

項目 2002年3月期
収入合計 141,066
 当期収入 123,153
   会費収入 54
   寄付金 2,826
   自主事業 76,525
   補助金 40,058
   その他 3,690
 前期繰越金 17,913
支出合計 141,066
 当期支出 137,492
   事業費 78,887
   管理費 2,371
   固定資産取得費 56,234
 次期繰越金 3,574
                単位:千円