File NO.107 (有)キューベット
1.会社の概要

代表取締役:横井朋幸 住所:札幌市豊平区112-1-12札幌市デジタル創造プラザ
設立:20024月 営業種目:雑誌出版、人材派遣
資本金:
300万円  出資構成:横井朋幸(100%) 従業員:1
売上高:1,200万円(20033月期)、3,000万円(20043月期)利益:情報なし(東京商工リサーチ)

2.会社の沿革
@ 起業の経緯

横井朋幸氏は1979年に鹿児島で生まれ、その後、人口4,000人の愛知県八開村で育った。父親はサラリーマンをしており、小さな村の中学校では優秀な成績で卒業した。高校は都市部の進学校に進むが、高校時代はバンド活動に熱中し、将来はプロになることを目標とした。しかしながら、高校3年になるとプロを一緒に目指していたバンド仲間たちは受験勉強へ駆り立てられ、横井氏は人生、夢、目標とは一体なんなのか、考えさせられることになった。横井氏は周囲の同級生が受験勉強に没頭する中、割り切れないものを感じ、受験勉強をしなかった。

自分なりの答えを見つけるために、ロックの本場であるイギリスへ行くことを決意し、バイトで30万円を貯める。高校卒業後、6ヶ月のオープン航空券を持って単身で渡英するが、渡英した後に自分の所持金が10万円と少なすぎたと気がつき、現地でバイトをすることにした。就労ビザを持たないため、不安定なバイトしかなかったが、ロックフェスティバルに屋台を出店し、焼きそばを売るバイトに採用された。雇用主のロンは以前、社会学を教える大学教授であったが、はおもしろ半分にロックフェスティバルで焼きそばを販売したところ、大学教員としての給与より儲かったので転業した、日本人と結婚している英国人起業家であった。

変わった経歴のボスだったが、起業家精神とその実践を目の当たりにし、横井氏の意識は変化していった。イギリスのロックフェスティバルは夏季のみに毎週末開催され、ボスはそこへ焼そばの屋台を出店し、1年間の収入を稼いでいた。また、ボスは元大学教授ということで、絶えず本質を問いかける質問を横井氏に投げかけ、そのやり取りが横井氏の起業家としての能力を開発することになった。横井氏はボスのような生き方に憧れる一方、アーサーアンダーセンで国際的に活躍しているボスの息子の会計士、ダニエルから影響も受け、将来は経営コンサルタントになりたいと考えるようになった。ロックフェスティバルの季節が終わり、横井氏はバイトで稼いだ資金を使って、ヨーロッパを旅行した後に、1999年、日本へ帰国した。ヨーロッパでの生活で自己達成感を得、それが大きな自信に繋がった。

横井氏は帰国後、会計士になるべく大原簿記専門学校へ入学する。簿記に関しての知識はなかったが、短期間で会計士の勉強を終えたかったので、専門学校に無理を言って簿記1級の勉強をし、その年に合格した。簿記1級の勉強の過程で、なぜそのような業績数字が生み出されたかという経営へ関心を持つようになった。そこで、経営の勉強をするため、20001月に大原簿記専門学校を退学し、大学の編入試験を受けることにした。短期間で集中的に編入受験の勉強をし、2001年秋に北海道大学経済学部編入試験を受験。見事合格し、20024月に北海道大学経済学部の3年生になった。

北海道大学の編入が決った後は、学費稼ぎのために時給の高いバイトを探し、教材販売と家庭教師派遣の会社でバイトとして働くことになった。その会社の26歳の社長が良い人で、「半年間頑張ればいい」と言われ、感激した。横井氏は社長宅に住み込み、マニュアル化されていた同社の営業手法を習得し、働いた。持ち前の熱心さもあって、営業成績はトップになった。この時のバイトでの営業経験から得たスキルが、起業後に大いに役立ったそうである。

A起業とフリーペーパーの発行

北大へ入学し、起業家を目指すサークルを探したところ、存在せず、自らサークル「北大アントレプレヌール研究会」を立ち上げ、学内外と積極的に活動するようになった。2001年に、IT分野における若い起業家を育てるための「三浦・青木賞」へ「地域通貨及び効果的なデータベースの提案」というビジネスプランで応募し、学生の部でファイナリストまでに残った。また、札幌Biz Cafeへよく顔を出し、経営者の人たちと話し合う中で、多くの企業が大学生市場へ参入したいが、その手だてをもたないという悩みがあることを知った。そこで、企業と大学生を結びつけるビジネスでの起業を考えるようになる。実際にサークルの友人と共に大学生向けの商品の販売を手伝いしながら、そのニーズの確かな存在を確認し、大学生市場へアプローチするノウハウを確立していった。

こうした状況を見て、横井氏は学生向けのフリーペーパーを事業にし、起業する決意をした。フリーペーパーは無料の印刷媒体で、広告収入により発行する。リクルートの「ホットペッパー」が代表的なフリーペーパーである。横井氏が考えたフリーペーパーのターゲット読者は札幌市内の大学生、専門学校生、高校生。10万人程度の読者が見込める。大学生の生活に関する情報を読み物にし、大学生を顧客にしたい企業から広告を出稿してもらい、広告収入で事業を展開していく事業計画を立案した。札幌圏では地域別、20OL向け、ファッション志向、音楽ファン向け、ボランティア向け、などのフリーペーパーが発行されていたが、大学生や高校生にターゲットを絞ったフリーペーパーは存在していなかった。

20023月、フリーペーパー「CUBET」のトライアル版を創刊する。CUBETという雑誌名は語感がよいからと言うことで決めたそうである。横井氏の事業計画に賛同したサークル仲間の白木努氏、登内信太郎氏と共同で300万円出資し、有限会社キューベットを20024月に設立した。社名は雑誌名をそのまま使っている。横井氏、白木氏、登内氏3名の取締役以外のスタッフとして、北大や他の大学のボランティアスタッフが10名程度参加した。事務所は北海道NPOサポートセンターが安く間貸しをしてくれる、北大近くにあった炭労会館に置いた。

北海道で初めての学生向けに絞ったフリーペーパーであるということと、広告料金を高めに設定したため、事業開始前の計画に反して、起業後は広告獲得で苦労することが多かった。企業からすれば、効果がどれだけあるかわからないフリーペーパーへ高い広告料金を支払って、出稿できないというのが本音であったようだ。横井氏たちは半年間無給で営業を行った。そうした営業努力により少しずつ広告出稿企業も増え、加えてボランティアの編集スタッフのがんばりで、なんとか赤字にならずフリーペーパーを発行していた。この時に大学生のビジネスに対する潜在能力を身を持って知った。

3人の仲間が出資し、始めたキューベットであったが、事業を展開していく過程で次第に出資者同士の考えのすれ違いが拡大していった。そこで、横井氏は白木氏と登内氏の出資分を引き取り、横井氏のオーナー会社へ転換した。白木氏と登内氏はキューベットの取締役からも離れ、社内体制はシンプルになり、人件費も軽減された。

Bインターンシップ事業への展開

 大学生起業家ということで、マスコミにも取り上げられ、横井氏は注目を集めるようになっていった。横井氏の大学生に対する影響力に目をつけた日清製粉から依頼を受け、焼きそばの商品開発を手伝ったりもした。注目度が上がると共に北海道内、全国と横井氏の人脈が広がっていった。その人脈を通じて、インターンシップを手がけていた東京にあるNPO法人ETICから、経済産業省所管の財団法人ベンチャーエンタープライズセンターがインターンシップ事業に関して事業計画を募集し、良い提案には700万円を限度に補助金を与え、インターンシップを2年以内に事業化させるモデル事業の情報がもたらされた。インターンシップはキューベットのターゲット顧客とシナジーがあり、また、横井氏が大学生のボランティアスタッフを抱えて事業を行っていたのでこのモデル事業に強い関心を持った。

インターンシップは大学生が就職後、スムーズに職場で活躍できるためのシステムとして、大学生、企業、大学にとってメリットがあるという評価が定着し、米国の大学生の間では浸透していた。インターンシップの仕組みは、以前から一部の企業が先行して個別に行っていたが、大学生と企業を仲介し、インターンシップを行うビジネスモデルは、ETIC1990年代後半から手がけていた。日本でも昨今のフリーターの増加などから、インターンシップをここ数年、行政の旗振りで積極的に推進している。

横井氏はETICなどからインターンシップに関する情報を提供してもらいながら、単なる就業体験にとどまらない独自のインターンシップを開発した。それはプロジェクト型インターンシップに分類されるもので、ベンチャー企業が行う事業プロジェクトを、インターンシップ学生が経営者と共に実現していくものである。企業にとっては、人手不足などで実現していない新規事業を、学生の手を借りて挑戦することができるメリットがある。インターンシップ学生にとっては、新規事業開発など、チャレンジしがいのあるビジネスへ参加でき、仕事のやりがいを感じ、それが学生の起業家能力の開発と成長に繋がるメリットがある。横井氏がベンチャー経営者と学生から話を聞くことで、ニーズを見出し、ビジネスモデルを考案した。モデル事業ゆえに、当初の費用は補助金で賄われるが、将来的には企業から人材を紹介した時の紹介手数料だけでビジネス化していくことを計画した。

2004年、キューベットが提案したプロジェクト型インターンシップは、ベンチャーエンタープライズセンターの5モデル事業の1つに選定された。横井氏の人脈でこの事業の趣旨を理解し、学生の受け入れを引き受けてくれた20もの企業や団体に対して、インターンシップを希望する学生のマッチングとフォローをキューベットが行っている。このモデル事業は順調に1年目を終え、現在、2年目に入っている。企業へ紹介した人材が企業の抱える課題を解決した実績から、インターンシップ学生の紹介手数料と支援料、合わせて半年間50万円のフィーを支払ってくれる企業も増えており、補助金がなくなった後の事業継続の目途も立っている。


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